自分らにも、人間のような心が欲しくて…。


31.ロボの村


「「すっげぁー!!」」


車から降り、真っ先に叫び声をあげたのはいつもテンションの高いサコツとチョコだった。
彼らがいつもより興奮している理由、それは目の前の光景が全てを物語っている。

サコツたちの絶叫を聞いてせかせかと車から全員が降りてきた。
そして最後の1人ブチョウが地面に足をつけたところで、エリザベスと田吾作は車を門の片隅、つまり通行の邪魔にならないようなところに車を止めに歩いていく。
車が遠ざかる姿を背景に、全員はぽかんと口を開けていた。
目の前の光景に、唖然としてしまっていたのだ。

メンバーらが今回訪れた村は、今までの村とは違う雰囲気が漂っていた。
村全体が機械化していたのだ。


「何や?えらいとこ来てしもうたみたいやな」

「そうだね…僕こんな機械見たの初めてだよ…」

「すごい機械ね。思わず突付きたくなるわ」

「やめろ、突付いたら凄い事になりそうだ…ってもう突付いてるのかよ?!やめろ!爆発する!」


機械を見た興奮を体で表すブチョウをいつもおなじみでソングが止め、メンバーは重い足取りで村の奥へと一歩踏み出した。
地面を歩くだけでもカシャカシャと鉄板の上を歩いているかのような音がする。
自然というものはここにはいっさい生えていない。全部が人工的なものだった。
草も土もない。機械的な道を囲んでいる木は何故か鉄の色だ。つまりこの村の木は機械なのだ。
その証拠に、木の一部がときどき赤い光を点滅させている。

見るからに怪しい村に、思わず足どりが重くなる。


「なんか…変な感じがするね…全てが機械だなんて…」

「ホントだよねー!でも何か凄い!こんな村もあるんだね!」

「おい見たか?さっきこの木が光ったぜ!」

「ホントに?きゃー見たかったー!」

「大丈夫よ。あちこちの木が光るようだから。そして私も同じように光るわよ」

「ウソつくなよお前…って本当に光ってる?!」


メンバーが歩くたび、地面から機械的な音を出る。
何だか自分の足音ではないみたいだ。
それが何だか怖くてゆっくりと前へ進んでいく。


やがて大きな広場についた。
すると驚くべき光景を目にした。


「「…!?」」


メンバーの視界の端から端までにある風景の一部、動いたらいけないようなものが当たり前のように動いていたのだ。

クモマの横をイスが歩きながら横切った。


「…!!」

「さ、さっきのって…何?」

「イス…じゃなかったか?」

「え?イスって動くものだった?」


しかしメンバーの前に繰り広げられている光景は、皆生き物のように動いていたのだ。
街灯やベンチ、ホウキなどあらゆる物がまるで人間のように歩いていた。


「あかん、頭がおかしくなりそうや…!こんなのありえへん…!!」

「凄いわね、このイス。勝手に私を乗せて歩いてくれるわ」

「きゃー!姐御がイスにさらわれちゃった〜?!」


先ほどクモマを横切ったイスがブチョウの乗せてどこかへ行こうとしていたので慌ててチョコがとめに入った。
無理矢理イスから外され、ブチョウは不機嫌そうだ。


「何するのよ。私はこのままアマンダスとランデブーするつもりだったのよ」

「誰だよアマンダスって!あのイスの名前か?!」

「クマさんの名前よ」

「クマさんはクマさんだろが!勝手にアマンダスっていうシャレた名前つけんじゃねーよ!」


思わず憤怒するソングをブチョウはまたからかって遊んでいる中、クモマは辺りを大きく見渡していた。


まさか、驚いた。
普段動かないようなイスなどが当たり前のように動いているなんて…。
でも確かにこの村にあるもの全てが機械のようなのだが、しかしあんな風に動いているとは驚きだ。


サコツも面白そうに物を見て、チョコもキャーキャーとはしゃぎ楽しんでいる。
そしてトーフもクモマと同じように辺りを見渡していた。
しかし驚きの色で辺りを見ているクモマとは違ってトーフの場合はとても険しい表情をしていた。


やがてそんなトーフが口を開いた。


「…なあ、ここには村人はおらんのか?」


言われて気づいた。
動いたらいけないものはいるのだが、いなければならないものがいなかった。

人間の姿がないと言うトーフにクモマもあっと目を覚ました。


「そうだよね。何で人がいないんだろうね?」

「皆でどっかに遊びに行ってるんだぜ」

「村人全員で何処に行っているって言いたいんだよてめえはよ?ここに人がいないだけじゃねえか?家の中にでもいるんだろ」

「いや、そうでもなさそうだよ」


マジメに述べたソングであったが意見は軽く覆されてしまった。
思わずしかめっ面を作るソングにクモマは慌てて言葉を補充する。


「だって、こんな機械的なところに人なんか住めないよ?食べ物もまるでないみたいじゃないか」


落ち葉の代わりにネジが落ちている村だ。
見る限り人間が住めるような場所ではない。
もし自分らがここで住んだとしても3日も滞在できなさそうだよ、とクモマは言う。


「確かにそうやな。こんなとこ誰も住みたかないわ」

「それじゃあよーここって機械だけの村ってことか?」

「どうかわからんけどそうかも知れんな」


サコツの問いにトーフが頷き、全員が目を丸くしていた。
人がいないから機械が人間のように発達したのか?
そんなこと、ありえない。


しかし『ありえる』といえる場合もある。
今世界を騒がしている不思議な"ハナ"。こいつの力があればもしかするとそんなこともありえることになるかもしれない。

この村の"ハナ"は結構厄介かもしれない。
そう悟りメンバーは焦りはじめた。


「もし"ハナ"の仕業だとすると結構すごそうな"ハナ"だよね。物をこんなに発達させちゃう力があるんだから」

「だな。これ以上ひどくならねえうちにさっさと"ハナ"を消さねえとな」


相槌を打つソングに続いてトーフも考えを述べた。


「まずは、ここからもっと奥に行ってみて民家があるか調べてみようで。まだワイらの考えが正しいというわけではないからな」


視察も大切だとトーフは言い、彼を先頭にメンバーはまた機械的な音を立てて前へ進んでいった。

…のだが


「…………?」


歩いている途中、後ろを振り向いたのはブチョウ。
何か強い視線を感じたらしいが、自分の後ろにはチョコがいる。
突然顔を向けたブチョウにチョコは驚き、どうしたのか訊ねたが、ブチョウは何でもないといってまた前を向きなおした。
変なの、と小首をかしげながらチョコも歩みを続ける。



ブチョウが振り向いて見た先、チョコがいたため妨げられてしまったが、彼女を除いて奥の方にブチョウが感じた視線を送っている物がいた。

広場にいる全機械、イスや街灯などが、ここから離れていくメンバーをずっと見つめていた。


+ + +


先ほどから視線を感じるのだが、メンバーがどんどんと前へ進んでいってしまうため、振り向いて何の視線なのか確かめることが出来なかった。


「民家…見る限りないよね」


歩いても歩いても機械だけで、何千もの後の未来の姿のようで気味が悪い。
結構歩いたが結局は民家を見つけること出来なかった。


「やっぱりここって機械だけなのかな〜?」

「…それっぽいわな、さっきから会うものといえば木などの機械やったしな」

「それじゃこの村の機械化が進んでいる原因は"ハナ"だというのか?」

「それしか考えられねーことねえか?機械を作るのは人間だぜ?それなのに人がいないのなら、機械をここまで進化させたのはきっと"ハナ"だぜ!」

「チョンマゲの言う通りね。それしか考えられないわ」

「やっぱり"ハナ"の仕業なの〜?ねえトーフちゃん。"笑い"を感じ取ってみてよ」


チョコの促されトーフ、そういえば自分にはそんな力があったなと思い出し、慌てて目を閉じ"笑い"を感じ取り始めた。


しかしその行動が不幸を招くことになってしまった。


完全に無防備なトーフ。目を閉じ、ただじっとしている。
しかも"笑い"に集中しているため誰の声も聞こえないし"殺気"を感じ取ることも出来ない。

そのときに事件が起こってしまった。


「「!!」」


メンバーの前を遮る複数の影。
それらは皆、四角い頭に四角い体の人型の機械…ロボットだった。

ロボットは先端がフックになっている手を伸ばすと、トーフを引っ掛けてまた自分のところへ手を戻す。

トーフが連れ去れてしまいメンバーも思わず絶叫だ。


「きゃー!トーフちゃんがああ!!」

「おいおい!何してんだよ!トーフを返せ!」


突然自分の体が宙を浮いたことにトーフも不審を感じたのだろう。遅いけれど目を開け今の状況に絶叫しているトーフの姿がそこにあった。


「わー!何やこれは!一体どないした?!ってか何やこの物体は?!」

「前に本で見たことがある。ロボット…ってやつだ」


意外にもソングは物知りだ。しかも密かに読書家だった。
初めて聞く単語に全員は間抜けな顔を作っていた。
ソングは情報を付け加える。


「つまり人間型の機械だ。それはいいとして、お前ら、ドラ猫を捕まえてどうする気なんだ」


そしてソングはトーフを捕らえているロボットにそう問いかけていた。
しかし相手はロボットだ。答えてくれない。…と思ったが答えてくれた。
何と言葉を喋れるらしい。


『我々ハ 世界征服 狙ッテイルノダ』

「は?」


何を言い出すのかと思わず表情を顰めるソングであったが、クモマは意外にもロボットと話す気があったらしく身を乗り出して訊ねていた。


「どうしてそんなことする気になったんだい?そしてトーフを捕まえた意味はあるの?」


するとトーフを片手にロボット、答えてくれた。


『我々 今ノ世界 キライ モット "ハナ"ニ 囚ワレテホシイ』


"ハナ"に囚われてほしい?


『マダ "ハナ"ハ 未完成ダ。何故ナラ生産者ガ アマリ世界ヲ 知ラナイカラ』


"ハナ"は未完成?
生産者?

そしてロボットは、腹が鳥かごのようになっているロボットにトーフを渡しトーフを中に閉じ込めた。


「ちょ…?!」

『コノ猫 我々デモ ワカル コイツハ 何カト 関係シテイル』


トーフが何かと関係している?
何のことなのかサッパリ分からなかった。


そして、あっという間の出来事だった。
突然その場から煙が上がったと思うとロボットたち全員が消えていたのだ。
どこにいるかと辺りを見渡していると、いた。ロボットたちは足から火を噴いて空へ飛んでいた。


「「トーフ?!」」


空にいるためメンバーは追う事が出来なかった。
ブチョウも自分は白ハトだということをすっかり忘れているようでメンバーと一緒に眺めていた。


小さくなっていく影たちを追うとそれらはどこかの建物の中に入っていったのだった。










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この話、面白いことになりますので楽しみにしていてください(何

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