3階では凄まじい戦いが繰り広げられているのだろう。上の階である4階が大きく揺れていた。
地震が起きたかのような激しい振動だ。クモマがあの巨大ロボットと戦っているのだ。


「たぬ〜ったら大胆に戦ってるわね」


振動を全身で感じ、ブチョウはのん気にそんな発言をしていた。
対してチョコはあたふたしている。


「クモマ大丈夫なの?も〜心配しちゃう〜…」


眉をよせ、目を潤しているチョコ。
今日のチョコはいつもに増して泪もろい。
それはそうだ。自分の大切な仲間が上の階に上がるごとに1人1人欠けていってしまうのだから。
おかげで今4階にはチョコとブチョウの二人しかいない。
1階にはソングが2階にはサコツが3階にはクモマがそれぞれ戦っている。
ちなみに1階にいたソングは早々と戦いを済ませ2階にいたサコツを助けるとまた足を進めてトーフのいる階を目指して二人で歩いていた。
しかし広い建物内であるため、すぐに他のメンバーには追いつかないうえ、今彼らは重傷を負っている。そのため、まだ合流は出来ていない。

元は6人いるメンバーが、今ではたった2人。
なかなか会話も弾まなくなっていた。チョコのテンションが下がっているのが最もの原因なのだが。
さっきまでいつものテンションの戻ってくれていたのに、またテンション下がっているわこの子。とブチョウも表情を苦くしてしまってた。

何を言っても元気のない応答をするチョコと会話をしていても楽しくないブチョウは、それ以来口を開かなくなっていた。
無言でチョコの腕を引き、自分らが目指している5階へと急ぐ。
チョコも黙って引かれていく。


「………」

「…………」


この階は本当に静かだった。
自分らの足音しか鳴っていない。そのほかには音はない。
またここのロボットも隠れているに違いない。ブチョウはすぐにそう思った。
そのため気を緩めず辺りをずっと睨み回している。
凛とした表情をしている逞しいブチョウの横顔をチョコはカッコいいなぁと思いながらも今のブチョウに話しかけるのはちょっと怖いと思い、黙ってた。


硬い地面を蹴って、前へ前へ進んでいく。
階段はどこにあるのか、そしてロボットはどこに隠れているのかと目を凝らすが見当たらなかった。


「トーフちゃん…大丈夫かな…」


別に答えを求めて吐いた言葉ではないがチョコは何よりも一番にこのことが心配だった。
ブチョウも声には出さなかったが、首を傾げて口先をとがらせるだけだった。




+ + +


チョコとブチョウがすぐ下の階にいると知ったその場は先ほどから騒々しくなっていた。
ここは5階。
ロボットたちが取り囲んでいるベッドの上にはトーフが囚われている。
しかし皆して「ナンテコトダ」と混乱状態に陥られていた。
そんな中、1体のロボットだけ行動が違ってた。
トーフの目が一瞬赤くなったように見えたそのロボットはそれが気になって気になって何度もトーフに目を向けているのだ。
だがトーフはいつものトーフと変わらなかった。
ロボットは思った。もしかしたら幻視だったのかもしれない。って、ロボットにもそういうものが見えるものなのか。


「残念やったな、ロボットたち。ワイの仲間が助けてきてくれとるみたいやわ」


慌てているロボットをののしるようにトーフは意地悪く笑みを浮かべてた。
そんなトーフに、さきほどからトーフを眺めているロボットが言う。


『マサカ オ前ノ仲間ガ ココマデ 上ッテコレルナンテ 驚キダ』

「何言うてんや。ワイの仲間は皆強いんやで!甘くみんでほしいわ!」

『ドノ階ニモ ロボット イタ ソレナノニ 4階 上ッテル』

「つまり、1階から3階までのロボット全部を倒したってことになるわな」


そしてトーフは、自分の仲間はこんなにも強いんだ。お前らも奴らの犠牲になりたくなかったらさっさと自分を解放してくれという眼差しを送るのだが、届かなかった。
相手はロボットだ。相手が悪すぎた。


『我々ノ 仲間 強イ』

「それなのにワイの仲間は倒してるで。もう諦めたらどうや?」

『我々 強イ 我々 強イ 我々 …』


突然同じ事を繰り返して言うロボットにトーフは不吉を悟った。
まさか壊れた?


『我々 強イ 強イ 強イ』

「ちょ、待ちや!」

『我々 弱クナイ 弱イノ オ前ノ仲間』

「何を…!」


狂ったような発言をするロボットの言葉は、周りのロボットにも感染したようだ。
不気味なコーラスが響く。


『我々 強イ』

『我々 弱クナイ』

『オ前ノ仲間 倒ス』

「あかん!壊れたか?!」


トーフがそう叫んだとき、近くにいたロボットの1体がボンっと頭から煙を噴出し暴れだした。
思わずトーフは絶叫だ。


「どないしたー?!」

『我々 オ前ノ仲間 倒ス』


そのロボットの声には雑音が混ざっていた。
脳の部分が壊れてしまったのだろうか。ピーガガガと言いながらロボットはどこかに行ってしまった。


「何や…っ…!!!」


バカを見るような目をしてそのロボットを眺めていたトーフであったがあるものの存在に気づいてしまった。

どうしてさっきまで気づかなかったのだろう。
すぐ見える場所にあったのに、

"ハナ"が。


トーフの見る先、先ほど逃亡しだしたロボットの頭に"ハナ"が咲いていた。
機械的な村なのでてっきり"ハナ"も機械かと思っていた。
しかし違った。
現に"ハナ"は絵で書いたかのような可愛らしい花で、しかもロボットの頭に咲いている。

しかし"ハナ"はトーフの元から離れていっていた。
逃亡しだしたロボットに生えているため、どんどんと引き離されていく。
そしてそのロボットが動き出したために他のロボットも動いていた。
もしかしたら"ハナ"がそう命令を出しているのかもしれない。

自分を置いてロボットたちはどこかへ走っていく。
やがてロボットたちの姿は見えなくなっていた。



その場に残されたのはトーフだけ。
しかも身動きできない状態だ。


「…何やねん……」


置いていかれて何だかさびしくなる。
しかし助かった。結局何もされなかった。

眼帯にも触れなかったし、これで一安心だ。



もう、恐れることはない。



 気づかれそうになったけど、無事やったみたいやわ…
 あんなもん、誰にも見せることができん。
 特にラフメーカーの皆には知られたくない事実や。


 せやけど、そろそろ限界かもしれん。
 コントロールできなくなっとるわ。
 まさか、あんなときに視界が赤くなるとは…。



鉄に縛られトーフは動けないため、暫くの間、安静に目を閉じていた。
自分の体のことを気にしながら。



+ + +


「きゃー!これってどういうことー?!」


トーフが黙祷しているころ、下の階では戦争が繰り広げられていた。
5階にいたロボットたちが全員4階に下りてきたのだ。
それと共に元から4階にいたロボットもやってきて、敵が倍に増えてしまった。

頭を狂わせたロボットたちが銃弾を乱射する中、もちろんチョコは悲鳴をあげ逃げ回っていた。


「撃たないで〜!!たすけてー!!」


チョコの場合は魔方陣を書かなければ魔法が出せないうえに魔法発動までに時間が掛かる。
そして戦い向けの魔法は一切使えない。
そのため走る。全力で。

そのころブチョウはコンブが海の中で踊っているかのように華麗に体をくねらせてロボットの攻撃を避けると、腰に手を持っていってハリセンを取り出す。
彼女の強い味方。すでに血で魔方陣が描かれているハリセンはすぐに魔法を発動させることが出来る。
そういうことでブチョウは早速魔法を繰り出していた。
世にも短い魔法呪文を唱えると地面を叩き、そこに召喚獣を呼び出す。

召喚獣「クマさん」を。


「また?!」


思わずツッコミ叫ぶチョコ。
ブチョウは胸を張った。


「当たり前じゃないの。私はクマさん大好きなんだもの」

「クマさん以外に召喚獣持っていないの?」

「持っているけどクマさんが大好きだからクマさんを出すのよ」

『やあチョコさん元気かいベイビー?』

「きゃ!話しかけてきた?!」


口説き上手なクマさんは今回もナンパにゴー。
早速チョコに声を掛けていた。
しかしクマさん大好きなブチョウはそれを許さなかった。


「さっさと敵を倒しなさい!」

「珍しい!姐御がクマさんにマジメに命令してる?!」


あまりにも珍しい発言をするブチョウにチョコは悲鳴に近い歓声を上げていた。
ご主人様の言うことは聞かないといけないため、クマさんは言われたとおりに戦闘に集中したのだった。


銃弾を乱射してくるロボットをクマさんはいとも簡単に仕留める。
お得意の頭の触角(耳)を伸ばして一撃する攻撃だ。
威力の強い攻撃なのでロボットは爆発起こして吹っ飛んでいた。


「すご?!」

「さすがクマさん。クマさんに敵う奴なんていないのよ」

「そりゃいないよね〜」


クマさんがどんどんとロボットを破壊している中、チョコとブチョウはのん気に会話をしていた。
しかし、ロボットはそれを逃さない。こちらに攻撃を向けながら突っ込んできた。


『オ前ラ 倒ス』


手が刃物になっているロボットだ。ぶんぶん振り回しながらやってくる。
悲鳴を上げながら避けるチョコと、簡単に避けるブチョウ。
そしてブチョウがその隙に攻撃を図る。


「私に敵う相手もいるはずないでしょ」


元から持っていたハリセンをロボットの腹部目掛けて振り落とし、ロボットを爆発に変えた。
このハリセン、見るからに紙で作られている。しかし鉛のように硬いロボットを一撃で倒しているブチョウ。
さすがブチョウだ。

次々と耳でロボットを破壊していくクマさんとハリセンで破壊していくブチョウ。
この場は爆発だらけだ。
チョコはポカンと呆気にとられてた。


『オ前 弱ソウ』


そしてそんなチョコをロボットが見逃すはずがなかった。
早速チョコに襲い掛かっている、が、チョコは見た。そのロボットの頭についているものを。


「"ハナ"?!」


そう、そいつは5階にいたあのロボットだったのだ。
しかし狂っているそのロボットから"ハナ"を抜き取るのは困難そう。

"ハナ"を咲かせているロボットは近づいてくる。刃物を振り回しながら。
ブチョウもクマさんも他のロボットを倒すのに集中しているためこちらに目が回らないようだ。

ここは自分がやるしかない、チョコはそう思った。


「って、無理だよー!!」


しかしチョコにはそんなことできるはずなかった。
非力なチョコの得意技は"逃げ"だ。そのため逃げることに結局専念してしまう。

足の速いチョコはそのロボットからの攻撃を何とか避けながら逃げていく。


「やめてよー!無理無理無理〜!!」


ロボットは刃物を振り回しながら銃弾をぶっ放していた。
腹の一部から繰り出されるマシンガンのように連なった銃弾はチョコに恐怖を与える。
それでも何とか逃げ切っていたチョコであったが、ここで不幸が訪れた。
何とマヌケなことに大胆に転んでしまったのだ。


「きゃあ!」


転んだショックで足をくじいてしまった。
しかしロボットは自分を狙ってやってくる。

怖い。
しかし、逃げられない。足が動かない。


ロボットの銃弾がどんどんと自分に近づいてくる。
ついに数センチ前に銃弾の穴が空くようになった。


――――― …!!




「…大丈夫だよ。チョコ」



幻聴が聞こえたかと思った。
幻視まで見えてるのかと思った。
しかしこれは現実だ。

なぜなら、感じるからだ。

クモマの温もりを。


「…クモマぁ…」


銃で撃たれると思ったあの瞬間、チョコを庇ってくれたのはクモマだった。
チョコの代わりに銃弾を食らったクモマであるが彼は平然としていた。
すぐ目の前にいるクモマにチョコは思わず泣きそうになった。しかし堪えた。
いつまでも自分の泣き顔なんて見せたくない。そう思ったから。


「何だ、まだドラ猫を救い出してなかったのか」

「ここにもたくさんロボットがいるぜ?こいつら全員倒さなくちゃいけないのか?」


クモマに続いてその場に現れたのは、ソングとサコツだった。
二人とも服の色が血の色に染まっていたが怪我口は塞がっていた。
きっとクモマが治癒してくれたのだろう。


「…みんな…無事だったのね?」

「当たり前だろ。ロボットごときで死んでたまるか」

「何言ってんだよ。血まみれになっていたくせによー」

「んだよ。お前だって苦しそうだったじゃねえか」

「まあまあ、どっちも同じように重傷だったからここは引き分けでいいじゃないか」


引き分けとかの問題じゃない!とソングに突っ込まれるクモマ。
やはりこの様子から二人はクモマに治癒してもらったようだ。

クモマが3階を歩き回っていたときにたまたま血まみれで倒れ掛かっているサコツとソングの姿を見つけて、急いで回復魔法を使って治癒したのだ。

クモマがいてくれてよかったぜとサコツが大いに感謝している中、ソングはそっけなく話をそらした。


「ここにいるロボット全部倒せばいいんだな?」


そのソングの問いにすぐ言葉を挟んだのはチョコだった。


「いや!そのロボットの頭に生えている"ハナ"さえ消せばいいのよ!」


チョコの声に全員がえっと声を上げて一斉にロボットに目を向けた。


「本当だぜ!可愛く"ハナ"がついてるぜあのロボット」

「マヌケだな…」

「今までにないタイプの"ハナ"だね…」


頭に"ハナ"が咲いているロボットに思わず笑いを堪える男3人。
そしてクモマが


「もう戦いを終わりにしよう」


と言い、銃を乱射するロボットの前を何もないように歩いていくと軽々と"ハナ"を抜き取った。
メンバーはあいつ体大丈夫か?と思ったが本人は痛そうにしていなかったので、何も言わないでおいた。


"ハナ"をとり、とにかく5階に行こうと足を運ぶメンバー。
他のロボットはクマさんに任せておいて、全員で5階へ急ぐ。

トーフを助けるために。



+ + +


ベッドに縛り付けられていたトーフを見て、早く助けなくてはということでクモマの鉄拳を上手く使ってトーフを捉えていた鉄を壊し、無事トーフを救うことに成功した。

何もされなかったか、とか訊ねられたトーフであったが、


「大丈夫やで。何もされとらんわ。…助けてくれてホンマおおきに」


と微笑みながら返された。
よかったよかったと一安心してから、クモマはあのロボットの頭に生えていた"ハナ"をトーフに見せると、トーフが持っているひょうたんで"ハナ"を消した。

やはりこの村の"ハナ"は厄介なものだった。
"ハナ"を封印した途端、この機械化した村が一変したのだ。
鉄色から土色に。


この村は元は普通の村だったのだ。
しかし"ハナ"のせいで機械化されてしまってたようだ。
改めて"ハナ"って恐ろしい、と実感した。

たくさんいたロボットも、消えていた。
しかし人間はやはりいなかった。

この村はきっと人間のいない過疎化した村だったのだ。
その証拠に、あたり一面古びている。

もう恐れるものはないとメンバーは安心すると、旅を続けようと踵を返した。



トーフが戻ってきてくれたことにほっとしてしまっていたため、ソングはあのことを忘れていた。
訊ねようと思っていたが忘れていた。


 "ハナ"の製造者の仲間の匂いがするトーフ、その理由はいったい何なのか。


しかしそれは今訊ねなくとも時期分かるもの。
そう、いつか必ず知るときが来る。
だがそのときメンバーはきっと唖然とするだろう。

トーフの正体も、もうわかる。








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