3階も2階と同じように最初のうちはロボットの姿はなかった。
そのためこの階にはメンバーしかいない。
たった3人のメンバーしか。


「…あぁーううー…もう…サコツもソングも無事かな〜」


先ほどからうだうだとうなだれているのはチョコ。
サコツもソングもチョコを庇って、身を犠牲に戦っているのだ。
何だか申し訳なく思えて、どうも居た堪れない。
そのためチョコは口を開きっぱなしだ。


「無理しないでもいいのに…。私は皆と一緒にトーフちゃんの元に行きたかったよ〜…」

「まあまあチョコ、落ち着いて。二人ともきっと無事だから」


この建物に入ってからずっと足を動かしていたためさすがに足が疲れてきた。
スピードを緩め、しかし駆け足状態で前へ進む。

チョコを落ち着かせようとクモマが微笑みかけてきたがチョコは口先を尖らし返した。


「だってさっきから下からくる振動が凄いんだよ?今サコツが戦ってるのかな……」


戦いが苦手でいつもへっぴり腰になって汗も滝のように流しているサコツさえも戦っているのだ。チョコを庇って。


「まさかあのサコツが武器を構えるなんて思ってもいなかったよ。無事を祈っておこう」

「うん…」

「心配するんじゃないわよ二人とも。あの二人はきっと無事よ」


下からくる振動を足で捉える度に元気がしょげ返るクモマとチョコをブチョウが慰めた。
先頭を突っ走っていたブチョウだったが、二人を元気付けようと自ら後ろに下がってくる。


「あいつらは強いわ。私が認める」


そして並んでいたクモマとチョコの間にブチョウは割り込むと、ガシっと二人の首に腕を回した。
首に腕を回され、少し息苦しかったが、クモマはブチョウの気遣いに感謝した。


「そうだね。二人とも弱くないよ。現にこうやって僕たちを上の階に導かせてくれたんだから」


顔を上げるとすぐそこにはブチョウの顔があった。
凛としたブチョウの目線は上の階に繋がっている階段が何処にあるかと探しているように見える。


「とにかく私たちは二人の雄心を無駄にしたらいけないわ。さっさと5階まで上ってタマを助けるわよ」


さすが鳥族の里の防衛隊隊長に任命された人だ。前に立つのが上手い。
メンバーを心配かけまいと行動は優しく考えも正確だ。
普段のあの変な発言さえなければ彼女は人間の理想像であるのに…。

ブチョウの言葉に「うん」と頷く。
しかしチョコの目にはまた泪が浮かんでいるように見える。


「が、頑張ろう…。私たちもサコツもソングもトーフちゃんも皆、無事にこの建物から出ようね」


何だか戦争に行く前のような台詞だ。
それが何だか面白くてクモマは思わず笑ってた。


「はは。そうだね。皆が無事なら僕も何も文句言わないよ。それにしてもチョコっていい性格してるよね」


そしてそのまま笑い声で言葉を殺すクモマにチョコは何だか自分がバカにされているように感じ赤面していた。


「な、何よ!いい性格ってどういう意味?」

「素直ってことでしょ?」


クモマが答えようとしたが笑い声を止めるのに必死だったため、ブチョウに先を越されてしまった。
後から頷いてクモマ、


「そう。素直だよチョコは。泪もこうやってすぐに流せて、羨ましいよ」


優しく目を細めた。


「感情豊かなだけだよー!素直って大げさだってー!」


チョコは浮かべていた泪を拭き取り、表情を笑みに変えた。
そしてそれと同時にあることに疑問を感じた。
それはクモマに対しての疑問。


 泪をこうやってすぐに流せて、羨ましい?


そういえば、クモマって今まで一度も自分たちに泪を見せたことがない。
いつも見せる感情といえば喜と怒と楽。
哀の表情は見せているが泪を流すところまではいつもいっていない。
あのソングだってサコツだってブチョウだって泣いたことはあるのだ。
それなのにクモマは一度もない。
泣ける場面は何度もあったはずだ。
とくにクモマは体を張って戦ったりしている。痛みはあるはずなのになぜ泣かない?
痛ければ泣けばいいのに。

まさか、我慢強いの?

だけど、泪を流して羨ましいと彼は言っている。
これは何か関係しているのだろうか。


と、言ってもこんなこと気にしていてもしょうがない。
今はトーフを助けることが優先だ。
こちらに集中しよう。



「それじゃ、さっさと上に行っちゃおうか!」


頭を切り替えチョコはいつものテンションに戻った。
首に巻きついていたブチョウの腕を払い、チョコは先頭を切って早々と走っていた。

いつものチョコに戻ってよかったとクモマもブチョウも安心する。
足が速いチョコに置いていかれないように二人も走り出した。


「待ってよチョコ」

「チョコったら足が速いんだから。だけど私が耳を回転しだしたら立場が逆転するわよ」

「え?!ブチョウの耳ってモーター?」


そしてブチョウもいつものブチョウに戻っていた。
やはりブチョウはブチョウだ。こうやって変な発言をしている方が彼女っぽい。


「ほらー!二人とも早く走ってよー!トーフちゃん助けるよー!」

「分かってるよ、ってチョコ足速いよ」

「さてそろそろ耳を回転しようかしら」

「待って待って!耳じゃない場所が回転してるよ!小指回転させても何も変わらないから!」

「何言ってんのよ。両手の小指だけが回転してんじゃないのよ。足の小指も回転してるんだから」

「だから回転したって結果は変わらないだろう?!」

「置いてくよー!」


いろいろ回転しているブチョウとツッコミ入れているクモマにチョコはそう叫ぶとまた速さを上げる。
そのため引き離されてしまった。


「あ、待ってよ!」

「小指回していたら胃潰瘍になってしまったわ」

「小指と胃潰瘍は全く関係ないだろう?!」

「ほら叫んでいる暇あるならさっさと走りなさいよたぬ〜」


そしてブチョウも走る速さを速めた。
おかげでクモマだけが引き離されていく。


「そ、そんな…みんな足が速いんだから…」


クモマはメンバーの中で一番足が遅かった。
…短足のせいとはあえて言いませんよ。



この階は今までの階とは違い天井が高い。
そのためより広く感じ取ってしまう。
そんな中3人はそれぞれの速さで駆けて行く。

クモマをグングンと引き離すチョコであったが、隣には既にブチョウが並んでいた。
瞬間移動してきたかのようなブチョウにチョコは驚く。


「はや!!」

「胃潰瘍のおかげかしら」

「胃潰瘍?!何したの姐御?!」


チョコはブチョウとクモマのやり取りを見ていなかったため胃潰瘍というボケの意味が分からなかった。だけど笑っている。

後ろを見るとクモマが何とか追いついてきたようだ。
距離が縮まっていることに気づき、一安心する。


暫くこの距離を保ちながら走っていると、目の前に階段が現れた。
上の階…つまり4階に続いている階段だ。

チョコははしゃぐ。


「よかったー!階段あったよー!」


そしてチョコは誰よりも早く階段に足を伸ばした。
しかしブチョウが不審な点に気づいてしまった。


「待って。この階、おかしいわよ。ロボットが1体も出てきていないわ」


ブチョウの声にチョコが息を呑んだ、その瞬間であった、
チョコの視界が突然ガクっと傾いたのだ。

豪快な音が立ち上がった。
それに伴ってチョコの視界にいたブチョウたちの姿が小さくなっていく。


「あら、しまったわね」


目の辺りを顰めるブチョウは顔を上げていた。
何故なら、チョコが自分たちより遥か上にいるから。


「ええー!何これー?!!」


自分の足元が大きく揺れたと思ったら宙を浮くような感覚でチョコは上に上っていた。
しかしチョコの足元の物体が自分の姿を現すために動くその度、振動が激しくなる。
おかげでチョコはそこから逆さまに振り落とされていた。


「きゃああああ!!!」

「っ!!」


上から降ってきたチョコをブチョウが受け止めたが、勢いが強くチョコに押しつぶされるといった形でブチョウは倒れ込んだ。
しかし白マントがクッション代わりとなり痛みをやわらげてくれた。


「ごめんね姐御…」


謝るチョコであったがブチョウは答えようとはしなかった。
目の前にあるものを睨むのに集中していたのだ。


「…ロボット…」


いつの間に隣にいたのか、クモマがブチョウと同じものを見てそう呟いた。
腕の中にいるチョコを入れたままブチョウは言葉の補充をする。


「しかも大型ね」


チョコが階段かと思い上っていたものは、実はロボットの腕から肩にかけての部分だったのだ。
轟音が鳴り響く中、ようやくロボットが全身を見せた。

本当に大きなロボットだ。
大きすぎて逆に存在に気づかなかった。いや、こいつが存在を消して身を隠していたのかもしれない。

この階の天井が高い理由も分かった。
全てはこのロボットのせいだ。
天井はロボットの全長を考えて高い位置に築かれたのだ。


『侵入者 発見』


ロボットは体がでかい分声もでかかった。
体に響く声だ。

唖然としている3人にロボットは言う。


『侵入者 コレ以上 上行クノ 禁ズル 今スグ 立チ去レ』


そう忠告しているとも関わらずロボットは、早速手を出してきた。
ロボットの長い手はブチョウとチョコに向かっている。このまま二人を掴む気か。

チョコを抱いたままであったためブチョウの行動は鈍くなっていた。
このままでは捕まってしまう。そう思ったとき、奴が動き出した。


「断る。僕たちは仲間を助けなければならないんだ。絶対に上に行くよ」


クモマがブチョウとチョコの前に立ち、ロボットの犠牲になった。
案の定ロボットは掴みにやってきていた。クモマを手のひらに入れ、持ち上げた。


「クモマ?!」

「何やってんのよたぬ〜!」


自分たちを庇って犠牲になったクモマに女二人が叫ぶ。
体を握られ顔だけがロボットの拳から出ている状態でクモマが答えた。


「僕は大丈夫だから、キミたちは上に行って!こいつは僕が止めるよ」


そして次の瞬間、ロボットの手は破壊されていた。
クモマのバカ力だ。手のひらから脱出しようと体の筋肉を張ったクモマはその力でロボットの手を破壊したのだ。

ロボットの手の部品と共に地面に着地するクモマは、もう彼女たちに顔を向けなかった。
ロボットも彼女たちに手を出さない。ロボットは殺意のあるものを始末しようとする。だからまずはクモマから倒そうとしているのだ。

クモマに言われ、ブチョウは無言で頷くと、チョコの腕を引いて本物の階段を探しにまた突っ走った。
何かクモマに言いたかったか言い遅れ、結局何も言えずにその場を立ち去ることになってしまったチョコ。クモマに言われたとおり、上の階を目指した。



「…彼女たちに手を出すのは僕を倒してからにしてね」


腕を回して軽く準備運動をするクモマ。
対しロボットは怒り頂点だ。
そりゃそうだ。自分の手を破壊されてしまったんだ。怒るのは当然だろう。
しかし壊した本人は平然としている。


「彼女たちに手を出そうとするからこんな目に遭うんだ。手加減はしないからね」


そう忠告し、クモマは手のひらをギュっと絞り、拳を作る。
ロボットも『手加減 ナシダ』と言うと早速攻撃を繰り出してきた。

もう片一方の手をクモマに向けて振り落とす。強い鉄拳だ。地面は割れ、大きな欠片が高く飛び散る。
そしてクモマはというと、その欠片に乗って高く上がっていた。
それからジャンプし気づけばロボットより高い位置を飛んでいる。クモマは足を上につきたてると


「Cs (うす雲)」


ロボットの頭にかかとを振り落とした。
高い位置から振り落とされたかかとにはその分の重力が重なっている。
しかしロボットの頭を地面にめり込ませるだけで負傷させることはできなかった。

こいつは、図体がでかい分、頑丈のようだ。


『ヨクモ ヤッタナ』


次はロボットの番。ロボットはムクっと地面から顔を上げると目から何とビームを出してきた。
不意打ちだったためクモマはビームを喰らってしまった。


「うっ!!」


黄色い光線が腕をかすり、傷をおわせた。血が飛び散る。
しかしクモマ、怪我することはしょっちゅうなため平然としている。
そのまま技を繰り出した。


「As (おぼろ雲)」


大きく回し蹴りをし、ロボットの頭を回転させる。
バキっという音が鳴り、結構手ごたえはあった。
この調子だ、と思い、クモマは休むことなく攻撃する。


「Ns (雨雲)」


次は雲が雨を降らせるようにクモマは拳を降らせた。
鉄拳を顔中に浴び、さすがにロボットの顔にはヒビが入ったり一部を破損したり。
しかしロボットも黙ってはない。
体を起こし腹をクモマに向けると、腹の一部がパカっと開き、そこから無数の銃口が出てきた。
そしてすぐに銃弾が連射された。
懸命に避けるクモマであったが、無数の銃弾のいくつかはクモマの体を貫き、足に貫き、クモマをボロボロにしていく。
血が宙を舞い、クモマも身を倒した、が血が流れたぐらいではクモマはへたばらなかった。
すぐに態勢を整える。

不意に口から流れた血を拭って、呟いた。


「…笑えないね……」


いくら撃たれても立ち上がってくるクモマ、その存在にロボットも驚きを隠せなかった。


『ナゼ 苦シマナイ? ナゼ 死ナナイ?』


しかしクモマは答えなかった。
そのためロボットを怒らせてしまった。
また銃を乱射する。が、


「St (霧雲)」


もうクモマのペースだ。
ロボットはクモマのレールのど真ん中。もう逃げることはできない。

乱射する銃弾を軽く避けロボットに近づくとクモマは強い拳を上に突き上げ、巨大なロボットを飛ばした。


「Cu (綿雲)」


綿が宙を舞うようにロボットはスローで飛び上がった。
対しクモマの動きは速い。
ロボットに登り、ロボットより高い位置に立つとクモマは


「Cb (入道雲)」


勢いよく拳を振り落としロボットを地面に沈め、更に全体重をかけて下に倒れているロボットに突撃した。


その場に大きな爆発が起こった。
ただでさえ力の強いクモマの拳を何度も喰らい、そしてとどめにあの技だ。
さすがにロボットも堪えることが出来なかった。体が割れ大胆に爆発を起こした。

大きなロボットが爆発しただけあって、その威力も凄かった。
クモマは吹っ飛ばされしまい、数メートル先に顔から着地していた。


「あぶ!」


更に転がっていき、クモマが止まることが出来たのは、壁にぶつかったときであった。
しかしまだ爆風は続き、風はロボットの破片をクモマまで飛ばしてくる。
大きな破片が頭に当たり、クモマは血まみれになっていた。


「……」


ようやく風は止んだ。
大きなロボットを始末することが出来、一安心する。

激しく動いたため、呼吸が乱れていた。
ハアハアと息をするたび、内部から血が込みあがってきて口から吐くはめになった。
しかし、痛みは感じない。


「…治癒しなくちゃなぁ」


額に手を当て汗を拭うが、拭い取れたのは血であった。
その血を見て、自分が本当にボロボロなんだなと実感する。

そうだよな。
だって、あんなに体を撃たれてしまったんだ。
おまけに頭には大きな破片がぶつかってしまうし、どこか切れちゃったんだ。こんなに血が出ているんだから。

しかし、おかしいことに気づいた。



「あれ?……」


ここまでボロボロなんだ。
普通なら感じないといけないものがある。
しかし今の自分には、それは感じなかった。




「痛くない…?」



口からも血を吐き、体も足も撃たれ、頭は切れ…。
だけどおかしい。

どうして、痛くない?

痛まなければならないはずなのに、今の自分には痛みというものを全く感じ取ることが出来なくなっていた。


これは、どういうことだ?


確かに自分には心臓というものがないため、死なない。
だけど傷を負ったときはそれなりに痛みを感じていた。この前までは。


今は?
何で痛みを感じなくなっているの?

これ、どういうことだろう?



何?僕ったらついに完全に不死身になっちゃったの?





自分が怪我をしていると知っている部分だけ治療をすると、クモマは上の階目指して、歩いていった。
1つの大きな疑問を浮かべながら。








>>


<<





------------------------------------------------

クモマの技名は「雲」の学名を使っています。
英語が読めなくてあえて略称の方を使っています(笑

------------------------------------------------

inserted by FC2 system