「下で爆発しなかった?」


ソングがロボットと戦っている間、メンバーは無事に2階に着くことが出来た。
堂々と2階を走っているのだがまだロボットには会っていない。
見つかる前にさっさと移動しようと足を進める。
すると足元に響き渡る低音に気づいた。
チョコが訊ね、え?と目を丸くしたサコツがおちょぼ口で答える。


「そっか?俺全く気づかなかったぜ」

「僕も…。まさかソングが?」

「あら、私も気づかなかったわ。凡のことなんて一切考えてもいなかったから」


またソングに意地悪してる〜とチョコが笑い、そしてまだ下で鳴り響いている音に耳を傾けた。
ドーンという音がなっているような気がする。
足で感じ取っているため正確にはわからないがここまで振動するのだ。
きっと下では激しい戦いが繰り広げられているのだろう。

足に伝わる振動は更に大きくなり、さすがにメンバーも気づくようになった。


「本当だ。振動が来るね」

「おいおいおいー。ソングの奴、大丈夫なのか?」

「凡ハデにやってるじゃないの」

「でしょ〜?…あぁ心配〜」


そして頭を抱え込むチョコ。
チョコにとってはラフメーカーのメンバーが自分にとっての始めての仲間であり友達だ。
皆のことが心配で仕方ないのだ。
なので先ほどから顔色が悪い。

そんなチョコに気づき、肩を叩いたのはサコツだった。


「な〜っはっはっは!気にすんなって!あいつは強ぇんだぞ。そう簡単には死なないぜ?」


笑いながら力強く叩くので少し痛かったがチョコはそのことに注意はしなかった。
代わりに、うんと頷いたのだった。


「ソングが今自分の身を犠牲に戦ってくれているんだから僕らもそれに答えないと。だから早く一番上の階に行ってトーフを助けよう」


クモマに促され、メンバーはより一層速く走る。
結構な道のりを走っているはずなのだが、日ごろ(食い逃げや万引きで)足を鍛えているので呼吸が乱れることはなかった。
下の振動を気にしながらも前へ走る。

この階には道があった。
大きな道を中心にして小さな道が枝分かれをしてこの階が成り立っているようだ。
物もたくさんある。驚いたことに機械ではない。鉄の塊のようだ。
頑丈そうだからロボットの襲撃がきたときはそれを壁にすれば何とか銃弾などを避けることは出来るだろう。

そう思いながら走っていると、不運なことにそれは現実になってしまった。
3階目前に現れたロボットは、階段の前で横一列になってメンバーを待ち構えていた。

遭いたくなかった不運が訪れ、メンバーの足はそこで止められた。


「あら、そんなところにいたのね」

「げ!やっぱりいたぜロボット!」

「待ち構えてたの〜?もうそんなことやめてよ〜」

「…ねえ」


全員が皮肉を吐いているとき、クモマだけが一歩前に出て、ロボットに話しかける。


「僕たち、上の階に行きたいんだ。だからそこどいてくれないかい?」


クモマの問いに、もちろんロボットは


『逆ラウ』


文字の通り銃を散乱してきた。
ここにいるロボットは全部、銃を体の内部に装填されている。

躊躇なく襲ってきたロボットにメンバーはまた逃げ回るはめになってしまった。


「やっぱこうなっちゃうの〜!?」


そしてやはりその中で先頭を切って走るのはチョコだった。
この階は硬い物がごろごろとあるため隠れることが出来る。少し大きめの物を見つけるとその影にチョコは身を潜めた。
クモマもチョコのすぐ近くにある物に隠れる。


「チョコ、大丈夫かい?」

「うん、何とか大丈夫よ」


ロボットたちに気づかれないように小声で二人は会話する。


「それはよかった」

「ねえ姐御とサコツは?」


キョロキョロとチョコの視線が泳いでいる。
二人の姿が見当たらなくて心配しているのだ。
クモマも辺りを見渡すが見当たらなかった。


「どこだろうね?」

「う〜……ってきゃあ!」


口先尖らせて唸るチョコであったが、自分の真横に銃弾が飛んできて思わず悲鳴を上げてしまっていた。
クモマのチョコの悲鳴に目を見開く。


「大丈夫?チョコ」


チョコは大丈夫そうであったが、心配な点があった。
先ほどのチョコの悲鳴で自分らの居場所がばれたのではないだろうか、という点だ。
しかし案の定、ばれてしまっていた。
ロボットたちがこちらに近づいてくる。


『ソコニ イルノ 誰ダ』

「「!!」」


声には出さなかったが、チョコは唇を動かして「しまった」と叫んでいた。
クモマも目の辺りを顰めて、苦い表情を作った。


散乱するのを止め、ロボットはこちらに近づいてくる。
カシャン、カシャンと機械音がどんどんと耳に入ってくる。


 ヤバイ…


もう既に居場所がばれているのに二人は身を潜めた。空気の中に溶け込もうとした。
しかし無理に決まっている。
ロボットは正確にこちらに近づいてきていた。


 どうしよう…!!


クモマはチョコを見る。チョコの目にはまた泪が浮かび上がっていた。
彼女は魔法は使えるのだが戦えるような魔法は一切使えない。
だから怯えているのだ。何もすることができないため逃げることしかできないのだ。

ここは男だ。
クモマは思った。僕が護ってあげなくては、と。
しかし自分のその行動は少しばかり遅かった。
何故なら…


「そんなことさせないぜ…!」


へっぴり腰になりながらもサコツがロボットたちの前に立ちはだかっていたからだ。
思わず身を乗り出すチョコ。


「ちょっと?!サコツ!!」


チョコが身を乗り出す理由はズバリ簡単。
サコツは戦いが苦手ということを知っているから。

しかしサコツは巨大化させたしゃもじを構えてロボットと向き合っている。
だけれど呼吸が乱れている。
表情も強張っていた。


「大丈夫だ。俺がロボットの気を自分に向かせるから、その間に皆は上の階に行ってくれ」


サコツの勇気ある行動に全員が唖然となる。
まさか、あのサコツが戦うというのか?


「サコツ!無理しないでいいんだよ!僕が戦うよ」


自分たちに背を向けて立っているサコツにクモマが言うが、サコツは引き下がらない。そして答えない。


「サコツ!」

「ほら、二人とも、上の階に行くわよ」


身を更に乗り出す二人の元に、どこかに身を隠していたらしいブチョウがやってきて、二人の手を引いた。
しかしチョコが反抗する。


「イヤよ!サコツを置いてまで上の階に行きたくないよ!」

「何言ってるのよ!」


チョコの反論にブチョウが鋭く突っ込んだ。
チョコの手をグイと引いてブチョウは叫んだ。


「チョンマゲが勇気を振り絞ってあそこに立ってくれてるのよ!あいつの気持ちを無駄にするな!」


ブチョウに言われて、クモマも頷いた。


「そうだよ。僕たちは前に進まなくちゃ。トーフを助けるためにね」

「…でも…」

「何よ?まだ逆らう気?いい加減にしなさいよ」


また逆らおうとしたチョコだがブチョウにとどめを刺され、チョコは声を噤んだ。
ブチョウの手に引かれ、チョコは前に進み、クモマもその後を追う。
ロボットたちを避けるように遠回りをしながら3人は上の階へ向かう。


「サコツ!」


ブチョウに引っ張られるが、顔はサコツに向けて、チョコは言った。


「気をつけて!」

「おうよ!」

「チョンマゲ、死ぬんじゃないわよ」

「無理しないでねサコツ」


後に続いてブチョウとクモマがサコツに向けて言い、やがて3人はロボットたちの背後にあった3階へ続く階段を上っていった。

自分たちの背後にメンバーがいたとも関わらずロボットはずっとサコツに体を向けていた。
ロボットは殺意のあるものをまず始末しようとする。
今この中で殺意を持っていたものはサコツだけ。
だからロボットたちは他のメンバーを無視してサコツ1人に絞ったのだ。
何とも単純な機械である。


「…本当は…やりたくねぇんだけどなぁ…」


しかしサコツの殺意というものは何とも弱いものだった。
戦いがキライなだけに殺意というものを作るのが下手なサコツ。
武器を構えたのはいいのだが、このあとどうすればいいのか、とサコツは悩んでいた。

そんなサコツとは裏腹にロボットたちは


『オ前 始末スル』


また銃を散乱してきた。
そしてまた悲鳴を上げながらサコツは逃げ回った。


「まーじでーかよー!!」


巨大なしゃもじを大事そうに両手で掲げてサコツは逃げに集中した。
銃は無数に飛んでくる。標的はサコツ1人であるため銃弾の数は今までの倍の倍の倍…。
怖さも100%だ。


「やべーぜ!これってやべー!!」


きゃーきゃー悲鳴を上げながらサコツは考える。
自分には心強い武器しゃもじがある。
こいつに自分の"気"を溜めてロボットに攻撃すれば、ロボットと互角に戦うことが出来るはず。
だ、だけど…

サコツの表情は更に強張った。


これでもし、自分が"本当の殺意"というものを…"黒い心"を持ってしまったら
また自分は悪魔になってしまうかもしれない。


自分の体が震えている事に気づいた。
これはヤバイ。もし悪魔になってしまったら、また自分をコントロールできなくなってしまう。
また皆を傷つけてしまう。
大切な人たちを失ってしまうかもしれない。


ダメだ。
戦いなんて出来ない。


ロボットの銃弾が飛んでこなくなった。いや、サコツの逃げ足が速いため、銃弾が追いつかなくなったのだ。
背後に何もないことを確認するとサコツは近くにあった鉄の塊の物陰に身を潜めた。


大きなしゃもじを抱えて、呼吸を整える。


これから一体どうすればいいんだ…?


ガタガタに震える体を抑えて、サコツはまた思考をめぐらせる。


ロボットは俺が殺意のある奴だと分かって俺に勝負を挑んできたんだ。
ということは、今の俺には殺意というものがあるわけだ。
だけどこんな殺意、俺の中では殺意とは呼べない。

俺は悪魔なんだ。
本気で殺意なんかもったらひとたまりもない。一気にこの村を変えてしまうかもしれない。
そう闇の世界に。
それが、怖いんだ。

これからどうするか。


いや、考えても答えは一つしかねーだろー。
バカな俺だってそれぐらい分かる。

答えは、ロボットを倒す。


しかし俺にできるのか?
…いや、弱音吐いてたってどうしようもないな。
この階には俺しかいないんだ。俺が戦うしかない。

このしゃもじで…"気"を使って…。


ソングも下の階で戦ってんだ。俺もしなくちゃ。男だろ。怖がってどうするんだ。

戦いはキライだ。しかもあのとき母さんとも約束してしまった。
自分は人を傷つけないって。

だけど、今は戦わなくちゃいけないだろ。
トーフを助けるためなんだ。それを邪魔する奴らを倒さなくちゃ。
上にいる皆のことも考えて、俺は……


「やるしかねーか!!」


潜めていた体を起こし、サコツは抱えていたしゃもじを手のひらに収めた。
するとロボットもサコツの声に気づき、こちらにやってくる。

しゃもじを構えるとサコツは、しゃもじの先に"気"を溜め込んで


「コルトガバメント!!」


ドンドンと大きな音を立てて、"気"を撃った。
命中率は何気にいいため、どんなに遠くにいた敵でもサコツは仕留めることが出来た。
ロボットの頭を狙って、爆発させる。

ここは、心を鬼にして…。
だけど"黒い心"は持ったらダメだ。


仲間が撃たれたことにロボットも怒ったのだろうか、こちらに撃ってくるが、鉄の塊のおかげで身をすぐに隠せることが出来た。

"気"の威力を変えてまた体を出す。


「デザートイーグル」


爆発に近い音を立てて"気"を撃ち、すぐにサコツは身を屈めた。
こんな強い"気"、撃ったのが久々だったため射撃時の反動が肩に走ったのだ。

しかしくたばっている暇なんてない。

動きの速いロボットは既にサコツのすぐ前にいた。
ロボットの銃弾を避けて、別な鉄の塊に身を潜めに行きながらまた撃つ。


「ベレッタ」


自分でも驚くぐらいの命中率のよさと早撃ちに少々ビビリながらサコツは新しい隠れ家に身を隠す。
しかしロボットは休ませる時間も与えてくれない。また攻撃に突っ走ってきた。
そのためまた撃たなければならない。

いちいち短銃みたいな攻撃でやっていたらキリがない。
ここはちゃっちゃと済ませてしまおう。
でなければ、自分が壊れそうになる。

ここでケリをつけよう。

そしてサコツはクルっとしゃもじを回転させ、しゃもじの柄を相手に向けた。
"気"を集め、自分が撃たれる前に、サコツは撃った。


「イングラム」


"気"は散乱した。マシンガンを撃っているようにパラララと連なった音をたてて、サコツはロボットを壊していく。
ロボットは次々に壊れていく。
この階にいたロボットの数が少なくてよかった、とサコツはこのとき思った。




やがてこの階にはサコツと1体のロボットしかいなくなった。
と言ってもそのロボットも動けるような体をしていないのだが。
身を倒しているがまだ会話が出来るようだ。


「…あとはお前だけだな?」


サコツの息は荒かった。
久々に戦ったからか、それとも自分の本当の殺意を抑えるのに必死だったのか。

サコツの声は続く。


「俺はお前を壊してからみんなの後を追うぜ…。だから悪いけど…」


言いながらサコツは"気"の溜まっているしゃもじをロボットに向けた。
するとロボット、恐る恐る言葉を放ったのだ。



『…撃タナイデ 痛イ 痛イヨ 助ケテ』


「っ!!」


何とロボットはサコツに助けを求めだしたのだ。
感情のないモノだろうと思ってサコツは今までロボットに攻撃をしていたのだが、現にロボットはこういってサコツに痛みを訴えている。

自分の過ちが頭の中を白くさせる。


ダメだ…。
俺、傷つけてしまった。ロボットだからと思って戦えると思ったけど、ロボットにも感情ってもんがあったのか?


思わずしゃもじをその場に落としてしまった。


「ご、ゴメンな?まさかロボットが痛みを感じるなんて思ってもいなかったからよー…」


自分の過ちに後悔し、謝りだすサコツにロボットは


『バーカ ロボット 痛ミ 感ジルハズ ナイダロ』


サコツに向けて、銃弾を放ったのだ。
不意をつかれサコツは避ける暇もなかった。
銃弾を腹に喰らい、サコツはぶっ倒れた。


「な?!」


騙された?!


腹から溢れ出る血がその場を赤く染めさせた。
サコツはもがいた。痛くて痛くて。

 ロボットにも、もし痛みというものを感じ取れたとしたら、こんな風に痛かったんだろうなぁ…。


意識が朦朧としてきた。
もうダメだ。殺される。

今のサコツには殺意というものはサッパリなくなっていた。
そのため隙だらけだ。
ロボットは銃になっている手をサコツに向ける。


『モウ 終ワリ ダ』


サコツも思わず目を瞑った。
銃砲が鳴ると思い、表情を強張らせた。
しかし、いつまでたっても銃砲は鳴ることはなかった。
不思議に思って目を開ける。すると


「……何やってんだ。チョンマゲ」


巨大なハサミを突き立てたソングが、自分の目の前に立っていたのだ。
ロボットはソングのハサミに突き立てられたせいで破片があちこちに飛び散っている。


「……ソング………」

「ったく、お前戦えないくせに戦ってたのか…。無理しやがったな…」

「…んだよ…俺だって戦おうと思えば戦えるんだぜ…」

「だけど血まみれじゃねーか。苦しそうだな」

「何言ってんだよ。ソングだって血まみれだぜ」


その場に現れたソングは、わき腹から血を大量に流していた。
下の階からここまで歩いてきたのだろう。しかしまだ血が滴り落ちている。かなり重症のようだ。
表情も苦しそう。


「立てるかチョンマゲ」

「…わかんねぇー」

「………クソ…何だこのありさま…。笑えねぇな…」

「…全くだぜ……」


そしてサコツは、苦笑いを浮かべているソングに


「助けてくれてありがとな」


お礼を言って、ソングも


「いや、たまたま通りかかっただけだ」


いつものようにそっけなく返してた。


それからまた、腹から滴り落ちてできる血の道は上の階にまで伸びていく。







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サコツは「銃」の名称を技名で使いました。

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