ソングをおいてメンバーは2階を目指して走っていた。
ロボットたちが追ってこなくなったことに疑問を浮かべるメンバーにチョコが言う。


「今ねソングが戦っているの」

「「え?!」」


思いがけない言葉に全員が驚きの声を上げた。

大量のロボットに対してソングは1人で戦いに挑んでしまった。
果たして敵うか。


「無茶な?!あいつバカだぜ!何で1人で突っ走ってんだよ?」

「ぼ、僕ソングを助けに行くよ!」

「待ちなさいたぬ〜」


煙が異常に立ち上がっている場所へ戻ろうとするクモマ。
しかしブチョウに止められてしまい、諦めつかないクモマは鋭く突っ込んだ。


「どうしてだい?今ソングがピンチなんだよ?」

「今、私たちはタマを助けることが先なの。凡はどうなってもいいわよ」

「いくらなんでもその言い方はひどすぎねーか?」


サコツも口を挟み、その場の言い争いは大きくなった。


「凡1人いてもいなくても変わらないわよ」

「だけど仲間じゃないか!ソングを助けなくちゃ」

「全くだぜ。ソングは確かにラブ男だしダメ男だしメロディさんのことしか頭にねえような奴だけどよー見殺しにはしたくないぜ!」

「大丈夫よ。私は凡1人欠けたって悲しくないもの」

「ひどいよブチョウ!ソングを見殺しに出来るって言いたいのかい?」

「メロディさんを護れなかった男なんてどうなってもいいわよ。見殺し万々歳」

「ひでえ!?」

「僕は見殺しに反対だよ!仲間が死ぬところなんて見たくない!」

「そうだぜ!ソングってああ見えてもきっといい奴だと思うぜ!死なせたくないぜ!」

「何言ってんのよ。あいつが戦いに突っ込んだのが悪いんでしょ?戦死はあいつの願望じゃないの?」

「「うーん…」」

「って、何さっきからヒドイ言葉連発してるの?!」


聞いていて何だかソングが不憫でしょうがなくなったチョコは思わずツッコミの声を上げていた。
全員が静まったのを見て、チョコは言う。


「大丈夫、ソングは強いもん。私を助けてくれたんだしね」


チョコはあのときあのソングが自分を助けてくれたことが相当嬉しかったのだろう、いい笑顔を向けてメンバーに言っていた。
そんな表情を向けられ、一瞬躊躇したが、メンバーもうん。と頷く。


ソングが作る爆発を背景にメンバーは上に続いている階段目指して走っていく。
ソングが無事であることを願いながら…。


+ + +


爆発はやり止まない。
いや、ここで止まったら全てが終わりだ。気を緩めてはならない。

敵は大人数だ。気を緩めてたら標的の的だ。負傷することは間違いないだろう。
ここは慎重に動かなければならない。

まず自分がすること、それは


「お前らをぶっ潰す!!」


ソングは自分が愛用としているハサミを華麗に動かしてロボットを刻んでいた。
毎日丁寧に手入れをしているハサミであるため切れ味は抜群だ。日頃からの自分の行いに感謝した。

しかし斬っても斬ってもロボットは湧き出てくる。


「クソ!1人じゃ抑えきれねえか?」


悔しそうに悪態つくソングにロボットの1体が言った。


『オ前 始末スル 我々ノ 邪魔 スルナ』

「っ」

『我々ハ 猫カラ イロイロト聞キ出シタインダ』


聞き取るのも難しい機械音を聞いてソングは顔を顰めた。
疑問になる点があるため、口にするが、体を動かすのは止めない。
背後から襲ってきたロボットを爆発させながら訊ねた。


「お前ら、あのドラ猫のこと知っているのか?」

『知ッテイルモ何モ アイツハ 怪シスギルダロ?』


ロボットの視点からでもトーフは不思議な存在だったらしい。
それはそのはず。あんな生き物今まで一度も見たことがない。
猫みたいなのに人間のように立っていて言葉も喋る。
"ハナ"に対しての知識も豊富だし、メンバーをよく指導するし。
あんな奴、存在していること自体不思議でたまらない。


「そうだな。俺もあいつを見たときは驚いた」

「ダロウ? 我々ダッテ ソレハ 同ジ シカモ アイツカラ 匂イ スルンダ」

「匂い?」


気になる単語を口にしたロボットに、ソングは眉を寄せる。
次々と他のロボットを破壊しながら更に訊ねた。


「何か気になる匂いでもあるのか」

「アル アイツ 我々ノ 尊敬スル アイツラノ 誰カノ匂イニ 似テイル」

「尊敬するあいつら?」


ソングはロボットの言うことをそのまま声に出した。
ロボットが気になることばかり言うからつい力を緩めがちになってしまう。
それにしてもロボットのくせに匂いをかぎ分けることが出来るのだろうか。
これも"ハナ"によって発達したのか?
…それはいいとして、ソングは問い詰める。


「お前ら誰を尊敬しているというのだ?お前らはロボットのはずだ」

「我々ヲ作ッテクレタ "ハナ"ノ製造者 ソレノ 仲間ノ匂イ」

「?!」


ダメだ。話が気になる。戦う余裕なんてない。

何だ?どういうことだ?
"ハナ"には製造者がいて、しかも仲間がいるというのか?

訊ねたい。そいつは誰なのか。自分たちの敵なのか。
トーフになぜそいつの仲間の匂いがするのか。

訊ねたかったが、ソングは相手の罠に見事掛かってしまっていた。


『オ前 気ヲ 緩メタ』

「!?」


しまった、と思ったときにはすでに遅かった。
ソングは銃で撃たれ吹っ飛んでいた。
大きな銃弾だ。わき腹を抉り血を散らす。


「っ!」


そして壁にぶつかり、下に叩きつけられた。
ハサミも撃たれたときの衝撃で手から離れていく。
大事なハサミがカランと音を立てた。もしかしたら少し刃が欠けてしまったかもしれない。
わき腹が痛かったがそれより先にハサミを手に入れたかった。
手を伸ばしてハサミを取ろうとするが、近くにいたロボットにハサミが撃たれ、反動でまた飛んでいく。
自分から離れていくハサミを見て、ソングは悲痛を感じた。


 あれは、メロディからはじめてもらった物なのに…


愛しい彼女からのプレゼント。ソングは正直嬉しかった。
だけれどソングは不器用なため素直に喜びを表現しないでいた。
「余計なお世話だ」とか言って彼女を怒らせたあのときのことを懐かしく思い出す。
そういえばあのときちゃんと言っておけばよかった。
お前からもらったハサミは実はいつも作業用ポシェットの中に入れている、だから悲しむな。と。

今では彼女の形見と言ってもいいほどの価値があるもの。
それが今、ロボットの手によってどんどんと飛ばされていく。
破片が飛び散る。刃が欠けたハサミなんて使えなくなってしまう。

そんなの許せるはずがない。


「クソ…腹が立つ」


わき腹の血がじわじわと黒い作業着を更に重い黒に塗り替えていく。
抉られたため血の量はハンパじゃない。
しかしそれでもソングは立っていた。

痛いがそれでも動く。

こんなところでひるんでいる場合ではないだろ。
自分は何のせいであいつを失った?
全ては、ラフメーカーである俺のせいだ。

魔物はラフメーカーに恐れ、世界に旅立つ前に始末しようとした。
そこであいつが現れたからあいつは…殺されてしまった。
ラフメーカーを騙そうとして魔物はあいつに成りすまして俺に近づいた。

俺がラフメーカーだったために殺されてしまったメロディ。
俺はあいつの死を無駄にしない。

俺らの幸せを奪った魔物…つまり"ハナ"に関係するものを消すために俺は闘う。

ドラ猫救出は他の奴らに任せて
俺はメロディのために闘う。



「ヴェローチェ (急速に)」


次にソングの声が聞こえたときは、元いた場所にソングはいなかった。
ロボットは首を回す。すると見つけたソングを。
腰のポシェットの中にあった別のハサミを持ったソングを。

そしてそのソングを見つけたロボットは今地上にいない存在になっていた。
技の如くロボットは素早いソングの犠牲になっていたのだ。
見えない刃で刻まれ爆発したロボットの煙によってまたソングの姿は見えなくなってしまった。

そのため四方八方に銃を散乱させる他のロボットたち。


『何処ダ 銀髪』

「カルマート(静かに)」


音もなくソングは、もうもうと立ち上がる煙の中でロボットの背後に回ると頭の付け根を瞬で捕らえた。

また仲間が壊されたとロボットが暴れまわる。
しかしソングはそれ以上に頭にきていた。

煙の中、密かにメロディからもらったあのハサミを取りに行ったのだが、ハサミは刃がボロボロ。無残な姿になっていた。


「クソ!てめえらどう責任とってくれんだ!もうあいつはいないんだぞ!もうあいつからもらえる事なんてないのにこの野郎!腹が立つ!ぶっ壊れればいいんだ、ロボットなんてものこの世に存在しねぇんでいいんだよ!!このポンコツ!!!」


自分でも何を言っているのか無意識に叫んでいたため分からなかった。
とにかく無性に苛立っていたソングは次々とロボットを壊していく。
対してロボットも自分に装備されている武器を使ってソングに挑むが今のソングに敵う奴はいない。

血の気が騒ぐ。
昔からそうだ。闘うとき自分は何故か笑みを溢してしまう。
笑う理由は、楽しいからではない。
相手が弱すぎるから。

自分の内なる力に興味がわくから。


「弱ぇんだよ、てめえら」


それでもわき腹の傷が痛む。銃弾を間近でぶち込まれたせいか撃たれた部分が熱い。
だが気を緩めたらまたやられてしまう。

もう誰も傷つけたくない。


『人間ノ クセニ ウルサイ ゾ』

「ロボットのくせにしゃべるんじゃねーよ」


手が刃物になっているロボットがソングに襲い掛かる。
刃物を横に振りまわすがそこにはソングはいなかった。
ソングは膝を地面に突け態勢を低くして刃物を交わすと


「アレグロ (快活の速く)」


立ち上がると同時にハサミを開きロボットを捕らえた。
そして力強く挟み、ロボットを押しつぶす。

ロボットの数が見る見るうちに少なくなる。
しかし攻撃は止まない。
銃弾がまた飛んできて、肩をかすめたが気にしている場合でもない。そいつを壊しに突っ走る。


「コン モート (勢いよく動きをもって)」


技の名通り勢いよくハサミを扱いロボットを爆発に変える。
ロボットの破片が飛んできてソングをまた傷つける。しかしそれでもソングは止まらない。
とにかく動いて自分の隙を見せてはならない。

自分が動くたび自分も傷つく。
痛いが我慢だ。上にいっていると思う皆に被害を及ぼさないため、ボロボロになってしまったメロディの片身への復讐のため、ソングは動いた。

またロボットの数が減った。
しかしそれでも数十体もいる。

辺りを見渡す。
爆発が生んだ煙が程よく立ち上がっている。
熱い爆風もある。

これならできる。
とどめの攻撃が。


「覚悟しろ」


そしてソングは持っていたハサミを勢いよく開きそのまま二つに分解した。
実はこれ、分解することが出来るハサミなのだ。

両手にハサミの刃を持ったソングは大きく腕を広げ、構えた。


「デューオ (二重奏)」


そのまま腕を上にあげ、その場にあった風を自分のものにする。


「トリオ (三重奏)」


今度は腕をクロスさせ風を収縮させる。
ソングに操られる風にのってロボットたちが1つの場に集められた。


「クワルテット (四重奏)」


右手を上から下へ強く斬り入れ、刃の風を中に入れる。


「クインテット (五重奏)」


左手を左上から右下へ強く斬り入れ、別の刃の風を作る。
刃の風に当たったロボットはスパンと斬られ、部品をその場に落とした。


「ゼクテット (六重奏)」


次は先ほどの逆だ。
右手を下から上へ


「ゼプテット (七重奏)」


左手を右下から左上へ動かし、計4つの刃を風の中に取り入れた。
風は舞う。刃の風と共に。
そして


「オクテット (八重奏)」


先ほどの行動を何度も素早く行い、風と刃の風を一気にかき混ぜた。
ロボットを見る見るうちに斬り込まれていく。

そしてそのまま勢いで半回転して、ソング


「トゥッティ (全合奏)」


分解したハサミをまた元通りに戻した。
パチンとハサミを元に戻した音が鳴ったのを合図にその場はドドドドドンと次々に爆発を生んだ。
風にとらわれ逃げることの出来なくなったロボットはソングが作った刃のように鋭い風に切り刻まれたのだ。

全ロボットが次々と爆発するため、その場は大爆発だ。

おかげでソングもぶっ飛んだ。


「っ!」


また壁にぶつかり、下にずり落ちる。
爆風が凄いが、これで確信した。

自分は、勝ったのだ。と。


あのロボット全部やっつけたのだと。



何だかそれが嬉しくて、下手な笑みを溢していた。



「…………よかった…」


ロボットたちの破片が壁にぶつかり、先ほどのソングのようにずり落ちてくる。
爆発は止まない。1体1対が爆発しているため音が止まらないのだ。


「…俺がここまで頑張ったんだからあいつらにも頑張ってもらなねえとな……っ」


独り言を言ってすぐ俯いた。
気を緩めた瞬間、今まで堪えていた腹の痛みやその他の怪我が急激に痛み出したのだ。

荒くなる呼吸。目眩も激しい。この怪我、こんなにも痛いものだったのか。

苦しい中、ソングはとっさにあるものを取り出していた。
それはいつも大切に使っていたハサミ。メロディからのもらい物。
しかしボロボロになってしまっている。


「…なあ、メロディ……。お前はどうして俺のこと、好きになれた?」


誰もいないのを機会にソングはどこかにいるメロディに問いかけていた。


「俺は言葉も不器用だし行動も表情も不器用だ。お前からもらったハサミだって本当はすごく嬉しかったのに笑って礼を言うことが出来なかった…」


今ではこんなにもボロボロになってしまったハサミ。


「…クソ…俺って本当にダメな男だ。お前の形見だってこうやって壊してしまった……悔しい…」


目の辺りが熱くなる。泪を堪えているからか。


「……お前との思い出…1つ欠かせてしまった…」


わき腹の血がポタポタと地面に滴り落ちる。
ソングは背にある壁を支えにその場に立った。


「…って、こんなとこで…立ち止っている暇…ねえな…」


のたのただけどソングは歩き出した。
手には大切なハサミを持っている。


「俺は行かなくちゃ……」


怪我が痛いし、心も痛い。おまけに爆風によってロボットの破片が飛んでくる。
ソングが歩いた道を血が辿る。
わき腹の血が止まることなく溢れている。


「クソ…あいつら無事でいろよ…」


前屈みになりながらメンバーの後を追った。
自分しかいないこの広い場所で壁を頼りにとにかく前へ歩いていく。


とにかく、あのことを知らせなくては
"ハナ"には製造者がいて、しかも仲間がいる。
そしてトーフは、その1人の匂いと似たものを持っている。

そのことが伝えたくて、ソングは歩いたのだった。












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