人の人生というものは、1つの線の存在で決まってしまうもの。


30.ウンセイの村


二股の分かれ道があった。エリザベスと田吾作は二匹で話し合い右の道を進むことにした。
行く道はこの二匹の豚たちが勝手に決めているのだが、今まで一度もハズレを引いたことがない。
何気に豚たちは道を選ぶのが上手いようだ。

シートによって風景を見ることが出来ない車の中にいるのはメンバー。
豚たちが右の道を進んだことを知らずに、楽しく談話をしていた。
話が途切れることはない。メンバーは仲良しだ。
人種は違ったりしているけど、仲がいいのには変わりはない。
今までいくつもの村を訪問して"ハナ"を消した仲だ。
そしてこれからもたくさんの村を訪問して世界を救うのだ。



笑い声の耐えない車は、やがてある村の門前に止まった。
エリザベスが「ついたよー」と豚語で言い、チョコは「おー速かったね!」と人間語で応答する。

今回は一体どんな村なのか、と胸に期待を抱きながらメンバーは車から降り、足を地面につけた。
すると真っ先に声を上げたのは一番にこの地に足を踏み入れたクモマだった。


「わあ、賑やかな村だね」


クモマの声に続いて、村の風景を見た者から順番に同じような声を上げていた。


「ホントだねー!面白そうなところー!」

「ほー、ここにはたくさんの人がおるんやな」

「すげーぜ!何かいろいろとすげーぜ!」

「一体どんな村なんだ?」

「イカ墨みたいな匂いがするところね」

「どこがだ!」


車の中にいたときのテンションでメンバーは盛り上がっていた。
しかし目線は皆この門の先にある村の中。
黒い瞳に映るものは多くの村人たちの姿。
今までの村は中心部に人口が固まっていたようだったがここは入り口からすでに賑わっている。

そのため、ドキドキがとまらない。クモマには心臓はないけど気分はドキドキしていた。


「何でこんなに賑わっているのかな?」


クモマの弾んだ声にチョコが「だよねー」と笑顔で答えた。


「何かイベントでもやっているのかな?」

「おー!それだったら面白そうだぜ!早速俺たちも行ってみようぜ!」

「そやな。ここでじっとしとるよりまずは行動起こしてみた方が早いわな」

「それならさっさと行ってみるわよ愚民ども」

「お前はどこのお偉いさんだよ?!」


ブチョウに促されメンバーは一斉にその場から駆け出していた。門を潜って村の中に入る。
そういえばこいつらの目的は"ハナ"のはずなのだが…。
しかしそんなこと、今のメンバーは一欠けらも思ってもいなかった。
人ごみの中に自主的に入り込み、一体何をしているのか訊ねまわる。
すると村人は皆同じ答えを出していた。


「占いをみてもらっているんですよ」

「「占い?」」


聴きなれない言葉に全員が首を傾げてた。
村人はその行動をとったメンバーのことが面白かったのが吹き出していた。


「うふふ。ここは『占い』で有名な村なんですよ。手相占いやおみくじ、夢占い、星占いにタロット…とたくさんの占い館があるのですよ」


親切に教えてくれる村人であったが、占いのことをひとつも知らないメンバーの周りには「?」が飛び交うだけだった。
それなのに村人ときたら、「別の占いをして今日の運勢を把握してやる!」と言ってここから離れて近くの館へと入っていってしまっていた。

残されたメンバーは人ごみの中、顔を見合わせ、また首を傾げあう。


「占い?なんだぁそれ?」

「私聞いたことないよー?」

「僕も初めて聞いた…。何だろうね」

「あら奇遇ね。私も全く知らないわ」

「食い物やろか?美味かったらええなぁ」


それぞれ顔を見、目が合うと皆首を振って否定する中、1人だけ首を振らないものがいた。


「占い…か。聞いたことがあるな」


そう言って、ソングは全員の視線を浴びる。
目を丸くしているメンバーにソングは、自分の知っている限りのことを話した。


「占いっていうのは確か…人の運勢や物事の吉凶、将来の成り行きを判断したり予言することだと思う」

「マジでかよ!予言するのか!うわーすげーぜ!」

「ええ?占いってそんなにすごいことだったんだ?」

「きゃー何かドキドキする!」

「何よ凡。あんたやけに詳しいわね。カンペでももらったの?」

「何不吉なこといってんだ!ったく!何かの本で読んだことがあんだよ!」


ふざけるブチョウにソングがツッコミ、その場はそこで治まった。
占いのことを教えてもらい、メンバーの目の色は先ほどの色より明るく輝いていた。
占いに興味を持ったのだ。こんなメンバーを誰も止めることは出来ない。

そして次の瞬間、チョコが弾けた。


「んじゃ早速占いしてみよー!!」

「「おー!」」


掛け声を上げて色とりどりの旅人団体は人ごみの中に更に埋もれていった。



+ + +



人と人の間を掻き分けながら、やがてある館へとたどり着くことが出来たメンバーは、その館から醸し出されているオーラに身震いを感じていた。

看板にはこう書いてある。
『手相占いの館』と。


「…手相占い?」

「あぁ、そういえばさっきの村人さんもこんな占いがあるといって教えてくれたような気がするよ」

「手相って何だ?」

「まぁ、入ってみたらええで。入ってみれば」


何だか異様なオーラが流れている館の前で思わず足を止めていたメンバーをトーフが押し、メンバーは恐る恐るこの館へ入ってみることにした。

中には狭い通路があった。それしかなく、メンバーは1列になって前に進んでいく。
不気味な色をしている館内。
この通路を歩いているだけでも心臓が泣きそうになっている。小刻みが止まらない。

一体これから何が起こるのだろう。
そう思いながら足を進めていると、やがて見えてきた。
この通路の幅と同じぐらいの大きさのドアが。


「…ここ?」


先頭に立っていたチョコは背後にいるサコツに訊ねていた。
そこしかないし、ここじゃねえ?と答えられたのでチョコはゆっくりとドアノブに手を伸ばす。
ドアノブはヒヤリと冷たかった。
場が少し冷たいせいなのか、それともこの異様なオーラのせいなのか。
息を呑んで、チョコはドアノブを捻ってドアを開けた。
すると、驚いた。
そこから見える光景がとても狭いものだったから。
狭い部屋は不気味な色に染まっていた。
ライトが紫だなんて…恐ろしい…。
ドアのすぐ前にはイスがあり机、そしてイス。そのイスに腰掛けてメンバーを迎えてくれたのは年配の女だった。
厚い化粧がこりゃまた怖い。
おかげでメンバーの表情は非常に引きつっていた。
お化けよりこえぇ!!と誰かが心の中で叫んでいるように感じる。


「いらっしゃいませ…」


愛想のない挨拶にメンバーもたじたじだ。


「す、すみません…ここって何をするところですか…」


メンバーは次々と狭い部屋の中に入り、クモマは部屋に入ると同時にそう尋ねていた。
占い師の女が答える。


「ここは『手相占い』を見る館です」

「手相占いって何だ?」


サコツのその質問は皆も知りたいものだった。
すると女はそんなことも知らずにこの館にやってきたのか、と目を丸くしながらも親切に教えてくれた。
何気にいい人のようだ。


「手相占いはもって生まれた運勢とこれからの開運法を、手のひらの『丘』という指の付け根と『線』という手のひらのしわで判断します」


きちんと分かってもらえただろうかとメンバーの顔色を確認してから女は更に続ける。


「丘には、人差し指から順番に、本人のやる気、仕事運、家庭運、評価運の4運勢が示されており、丘の突起具合から運勢の高低を鑑定します」

「え、そんなもので運勢わかっちまうのか?!」

「す…すごい…!」


感嘆の声を上げるサコツとチョコに女は微笑を浮かべた。
顔にしわを作ると分厚い化粧が崩れてしまうかとヒヤヒヤしたが無事のようだ。


「線判断の主となる3本の太いシワは、上から感情、知能、生命運を示してます。線の長さ、曲がり方で運気を占います。…とこんな具合です」

「な、なるほど…」


ざっと簡単に説明した女であったがあまりにも難しいことを言うので少し理解できていない部分もあった。
しかしおおまかにはわかった。
つまりは手のひらのしわを見て占う、ということだな?


「それでは、まず初めに誰の運勢を占いましょうか?」


女にそういわれメンバーは戸惑ったが、1人バリバリにやる気の奴がいた。
チョコだ。


「私の占って〜!」


そういうことでチョコはイスに座って女と向き合い、女に手のひらを見せた。


+ 


「…しわの少ない手ですね。生命線も長くて感情線も長い。あなたは感情豊かな人ですね」

「うわ!当たってる?!」

「生命線も長いですので、生命力が強く、長寿体質をしています。あなたはなかなかいい手相の持ち主ですよ」

「本当?わーありがとう!」

「ねえ、僕のも見てもらってもいいかい?」


手相占いを間近で見て皆が興味を持つようになっていた。
その中で真っ先に次見てくれとお願いするのはクモマだった。
女の人はもちろんと頷いて、チョコの座っていたイスに座れと促した。

見るからに豪華なイス。それに座るとやはり感触も最高だった。
心地のいいイスに座ってクモマは目の前の女に自分の手を見せようとする。
しかし、そういえばそうだった。
自分は手袋を着用している。脱がないと自分の手のしわを見てもらうことが出来ない。だから脱ぐ。

実はクモマはあまり手袋を脱がない。脱ぐとしたら手を洗うときだけ。それ以外は絶対に脱がない。
別に何かがあるというわけではない。何となくだ。


「お願いします」


そしてクモマは女に手相を見てもらった。
虫眼鏡で手のひらの丘と線をじっくりと観察している女。
果たしてクモマはどのような答えが出るのか。

しばらく時間が掛かった。
沈黙が続く。

チョコのときは見えやすい線だったためすぐに答えが出たのに、クモマの場合は一方に出てこない
そんなにも見えにくい線なのか?


暫くの間続いた沈黙はやがて破られた。


「結果を発表します」


声はなぜか沈んでいた。
緊張の糸が張っている中、女は篭った声で言った。



「結果が、でませんでした…」



女の口から出た言葉に、クモマもメンバーも呆気にとられていた。



+ + +


それからいくつもの占いの館に顔を覗かせて結果を見てもらったが、クモマの結果だけは返ってこなかった。
どの占い師も「結果が出ない」と答えるのだ。

なぜそんな結果が出たのかは分からない。
他の皆には出たのに、クモマは出ない。
トーフは見てもらうのが怖いからといって最初から見てもらってはいなかったのだが。


どうして結果が出ないのだろう。
クモマは訳が分からず、まずは自分の手相を睨むことにした。
再び手袋を外し、自分の手のひらを見る。
すると驚くべき光景を目にすることになる。


クモマの手には、しわなどなかった。


よく見てみるとクモマの指先にも、しわがなかった。
指紋もなかったのだ。



「………………っ?!」


まさかそんなことあり得るか?
人間に指紋がないなんてことあるのか?


これは一体どういうことなの…?



これ以上占いをしてみても結果は同じだろうと思ったメンバーは、クモマの顔色がとても優れていないことにも気づかず、さっさと"ハナ"を消しに村中を走り回っていた。






どうして、もっと早く気づかなかったのだろう?
自分のことなのに、どうしてもっと早く気づかなかった?

だけど早く気づいたとしても、この僕に何が出来る?

結局は何も出来ない。僕はこれからどうすればいい?






車の中は珍しく無言が続いた。
クモマにどう励ましの言葉を送ればいいのか迷い、全員が下を俯いていた。


メンバーを乗せた車はガタコトといつもの動きを見せながら、前へ進んでいく。









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