煙が上がっているポメ王の部屋。そこまで駆けつけた私は息を荒くしながら、勢い良く扉を開ける。
すると中から黒い煙が溢れてきた。視界が暗くなる。


「ポメ?」


私は無我夢中だった。思わず呼び捨てだ。
しかし名前の主は声を返してくれない。
私の視界には黒い煙だけ。


「ポメ!返事したらどうなの?おい!ポメ!!」


私の叫びは空振りするばかりだった。ポメ王は声を返してくれない。
もしかしたらポメ王はこの部屋に既にいないのかもしれない。

だけどその確立はとても低い。
何故なら、この部屋に魔物がいるからだ。
魔物はきっと人間の匂いを嗅ぎつけてこの部屋まで来たのだと思う。
そうすると、その人間というのはポメ王に絞られる。ここがポメ王の部屋なのだから。

どこにいるんだ?あいつは…。


「ポメ!」


返事してよ…。


「ポメ!」

『ギュルルルルルル』


ポメ王の代わりに違うものが返事をした。いや、こんなの返事とは言わない。唸り声だ。
その声は私の耳元から聞こえてきた。


「っ!!」


"殺気"を感じ、私は避けるために身を倒した。
そしてすぐに声の主の攻撃が繰り出された。鋭い爪がそこを鋭く抉る。そのためまた違う煙が上がった。


「なんて奴…っ!!」

『ギュルルルルルル』


悪態ついている暇も許してくれない。私に酷く威嚇してくる魔物はまた私に襲い掛かってきた。
"殺気"というものを感じ取ることが出来る私はすぐに避けることが出来る。
だけど相手の攻撃は速いうえ鋭い。
場はどんどんと煙を立てていく。ここは王の部屋だというのに。

相手の攻撃を避けながら私はこの部屋の奥までやって来た。
まるで違う世界のように黒い部屋。こいつらが攻撃として口から繰り出す黒い炎のせいなのか。
黒い炎から黒い煙が出て、天井まで舞いながら上っていく。
何よこのムダにカッコいい演出は!私よりカッコいい技使いやがって!許さないわ!!

私がそう心の中で思っていると、私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ミミさん!!」


聞きなれた声。


「ポメ!」


目の前は真っ暗だが私はすぐにそう応答した。姿を見ることは出来ないがポメ王も弾んだ声で返してくれる。


「ミミさん、来てくれたんですか?」

「当たり前じゃないの。私を誰だと思っているの?私はジョふィーヌよ!」

「そうですね…って違うじゃないですか!あなたはミミさんでこの村の防衛隊じゃないですか!」


さすがポメ王。ナイスツッコミだ。ここまで育てた甲斐がある。


「今はそうやっておしゃべりしている暇もないわよ。さっさと逃げるわよ!」

「分かっていますよ!だけど………!」


そこで私はある異変に気づいた。

…どうしてポメ王はこの部屋から逃げなかったのか?

どうして逃げなかった?理由はあったの?そしたらその理由は一体何?

まさか…
逃げたくても逃げられなかった?


そう思うと私はいてもたってもいられなくなった。
ポメ王を助けなくては!


「ポメ!!」


とにかくポメ王の元へ、私は走った。ポメ王の声が聞こえてくるほうへ走る。
黒い炎が邪魔してくるが私は何とか避けて前へ進む。


「ミミさん!ここです!」


ポメ王の声はすぐ近くで聞こえた。この辺りだ。だけどこの辺りより先は行きたくても行くことができなかった。

黒い炎が大きな壁を作っていたから。


「……っ!!」


何て不運。


「ミミさん。そこにいるんですか?」


ポメ王の声が目と鼻の先で聞こえてくる。それなのに私は足を進めることが出来なくなっていた。
困った。炎が邪魔しやがる…。


「いるわよ。だけど行くことが出来ないわね」

「無理しないでいいですよ」

「いや、行くわ。私を誰だと思っているの?私はジョふィーヌよ」

「そうですね…って違いますよ!また間違っていますってば!」


ポメ王のツッコミの声を間近で聞くことに成功した。
私は黒い炎に包まれながらもポメ王の前までやってきたのだ。
炎は私の白いマントを真っ黒に染めていく。何だこの炎…?

私が黒い炎に突っ込んでここまでやってきたことにポメ王は絶叫していた。


「大丈夫ですかミミさん?!」

「ダイジョウブイ!」

「そ、それならよかったです…」

「さあここから出るわよ」

「それが…」


本当に近くにポメ王がいるのだろう。黒い中でもポメ王の姿を見ることが出来た。
しかしその顔色は優れていない。
ポメ王は目線を足にもっていく。


「足に変なものが巻きついていて…」

「変なもの?」


言われて私もポメ王の足に目を向けた。すると驚くべき光景を目にした。
ポメ王の足元から変な根っこが生えていてポメ王の足に巻きついていたのだ。
一体これは何?


「……あの魔物の仕業かしら?」

「…わかりませんが…俺がこの部屋から逃げ出そうとしたときに突然足を捕らえられてしまって…」


魔物の奴。何てことしやがるんだ。

私は必死にポメ王の足に巻きついている変な根っこに飛びついた。
引きちぎろうとするがなかなかうまくいかない。


「困ったわ。この根っこ、ガンコだわ…」

「…そうですか…」


歯を食い縛って根っこをちぎろうとしている私を見てポメ王は悲しみいっぱいの表情を作っていた。そして言う。


「……それでしたら、もういいです…」


その残酷な言葉に私は思わず手を離した。


「な、何を…?」

「これ以上ミミさんを巻き込みたくありません。だからミミさんだけでも逃げてください」

「!」

「もう俺のことはいいので…」


何言ってるのこいつ…

思わぬ発言をするポメ王に私が言葉を失っているときだった。
私たちを取り囲んでいた黒い炎の隙間から唸り声が聞こえてきたのだ。
魔物だ。魔物がこちらを凄い形相で睨んでいる。よだれも出放題だ。


「しまった!」


そして刹那の出来事だった。
魔物は炎を通って私たちの目の前までやってくると鋭い爪で襲い掛かってきたのだ。
目を瞑るポメ王。

爪は確実にポメ王に向かって…。


「……そんなこと、させない……」


しかしそんなこと私が許さなかった。


「ミミさん!?」


鋭い爪を伸ばしてきた魔物。私はそいつを利用した。
私は相手の爪を素手で掴むとポメ王の足に巻きついている厄介な根っこのとこまでやった。
そのおかげで根っこが斬られ、ポメ王は自由の身になった。

代わりに私の手が酷いことになったのだが。


「………ぐっ!!」


魔物の爪を強引に掴んで動かしたせいで私の手は血でグチャグチャだった。痛い、これは痛いわ。
血は激しく、私は動くことが出来なくなってしまっていた。


「ミミさん!」


ポメ王は自由になったとも関わらず私の元までやってきた。
手が痛くて地べたでもがいている私を抱き上げようとするのだが


「!?」


私が徐々に黒くなっていくのでポメ王は思わず手を止めてしまっていた。
黒い炎に突っ込んだせいか。炎は私のマントを黒くするだけではなく、皮膚にまで侵入してきていた。
黒が私を支配しようする。


『ギュルルルルルル』


そのうえ魔物も目の前にいる。どうするか。ポメ王が混乱しているときだった


「助けにきたであります!」


防衛隊の人たちが助けに来てくれたのだ。しかし部屋の黒さに驚いている様子。
だけれど次々と現れる防衛隊のおかげで魔物を捕らえることが出来た。






「……ミミさん…俺のために…すみません…」


防衛隊の人たちが魔物撤収をしているとき、ポメ王は気を失っている私を腕の中に入れていた。
私の血まみれの手を優しく包み込むとポメ王は自分の顔のところまで持ってくる。


「…痛かったですよね?ホントすみません……」


そしてポメ王は大きな目から一粒の泪をこぼした。
その泪はポツっと私の手に落ちる。
すると私の血で赤くなっていた手が突然元の肌の色を取り戻したのだ。
ポメ王の泪が落ちるところ落ちるところ同じ現象が起きる。


 フェニックスの泪は癒しの力がある。


黒い炎で黒く染まってしまった肌も、怪我して赤くなっていた手も、全て泪で治癒されていく。
これがフェニックスの真の力。
私はポメ王の泪のおかげでついには完全に治癒されていた。


「……本当にありがとうございました」



全てが完治し、意識を取り戻すことが出来た私。
ポメ王の感謝の気持ちを聞いて私は優しく微笑んでいた。



+ + +



その事件が幕を閉じてまた数日がたった。
私は突然王に呼び出しを喰らって王の元へ駆けつけた。
すると、驚いたことにポメ王から称号を与えられたのだ。


「あのときは本当にありがとうございましたミミさん」

「もっと褒め称えなさい」

「少しは遠慮というものを知ったらどうですか?!」


エッヘンと胸を張る私にポメ王は頭を抱える。
だけど態勢をすぐに立て直して、ポメ王は咳払いをして言う。


「そういうわけでミミさん、あなたに称号を与えようと思います」


称号を与えられるのはえらい地位の人間だけ。
私はこの度、防衛隊の隊長に任命されたのだ。

一体どんな称号を与えられるのだろうと胸を躍らせていると、ポメ王


「そうですね……ミミさんの称号は…」


なかなかもったいぶるな、こいつ。
私が「早く言えよ」と視線を飛ばすとポメ王は「すみません」と笑って、ついに言ってくれた。


「あなたの称号は『ブチョウ』です。これからあなたはブチョウです」


一瞬、間があった。
私が何も反応しなかったからだ。そのためポメ王は戸惑った様子だった。


「え?何ですか?気に入りませんでしたか?俺、実は昨夜、頭を抱えながら一生懸命考えたんですけど」

「…」

「あ、ダメですか…?」


反応のない私を見てポメ王は本当に困った表情を作っていた。
そんな王に私は思わず声を立てて笑っていた。


「ガッハッハッハッハ」

「でえ?!もっと女の子らしく笑ってくださいよ?!」


驚きの拍子で思わずツッコミを入れるポメ王。
そんなポメ王に私はクククと笑いを堪えて、言った。


「ブチョウね。いいじゃないの」


ニンマリと笑顔を作って


「気に入ったわ。今度から私はブチョウよ。いいわね?」


私はポメ王に念を押した。
するとポメ王も


「はい。これからもよろしくお願いしますね。ブチョウさん!」


私と同じように無邪気な笑みを溢していた。











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ついにミミはブチョウという称号を与えられました。
昇格した原因となった物語が今回のだったわけですね。はい。

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