「え?ミミさんが防衛隊に自主的に入隊ですか?」


大きな王冠を被ったヒショウことポメ王の元に訪れた私であったが、まず始めにそう言われてしまった。
思わず私は、悪いか?と表情を顰める。するとポメ王は慌てて手を振っていた。


「いや、そんなことないですよ。だけど意外でしたよ。まさかミミさんが入隊してくれるなんて」


ポメ王は本当に意外そうな目をしていた。
何よ。防衛隊に興味を持って何が悪いわけ?

私がポメ王とおしゃべりをしていると、同じく防衛隊に入隊した男がその場に現れた。


「王様と仲良く会話をしているときにすみません。今から実力試験が行われるそうであります」


ガッチリとした体格をした男。王様に向けて丁寧に敬礼を決める。
対して私はマイペース。


「あら、そうなの?全く面倒くさいわね」

「頑張ってください。ミミさん」


ポメ王が私に優しく微笑みかけていたのを見て、男は驚いている様子だった。


「お二人は何か関係があるのでありますか?」


私たちのことに興味があったのか、男はそう訊ねてきた。
ポメ王は戸惑っている。それに対して私はきっぱり答えた。


「こいつは私の召使よ」

「でえ!?ちょっとまってくださいよミミさん!」

「プレプレハブハブ」

「その"舞って"じゃありません!ってか何ですかその踊り!人間離れした動きですよ!」

「これはキノコの舞よ」

「キノコは関係あるのですか?!プレプレハブハブ言っていましたよ?!」

「言っていないわよそんなこと」

「嘘言わないでくださいよ!めっちゃ言ってたじゃないですか!」

「あんた痴呆?そろそろヤバイんじゃない?鼻が」

「鼻は関係ないですよ!痴呆には全く関係ないです!」

「何言ってるのよ。鼻を伸ばしすぎたんでしょ?」

「ゾウさんですか?!ってかゾウさんでもそんなマヌケなことしませんよ!鼻を伸ばしすぎて痴呆になるなんて!」


新王ポメのツッコミ具合に男は開いた口が塞がらない。
当たり前じゃないの。こいつのツッコミは私が作り上げたもの。誰にも真似が出来ないわ。
こいつの右に出る者はいない。私の自信作よ。ポメ王は。


「まあ、こんなチビ放っておいて、試験受けに行くわよ。なべのすけ」

「あ、はい!あとワタクシはそのような名前ではありません」

「嘘言うんじゃないわよ。あんたの伸びた鼻にそう名前が書いてあるじゃないの」

「本当でありますか?!って、ワタクシの鼻は伸びていませんよ?!」


男はそう叫んだのであったが、私は完全無視していた。
体格のいい男の腕を強引に引いて私は王の元から離れていく。

王は私たちの姿を見守ってくれている。


「これから頑張ってください。そしてよろしくお願いします」


王の声援は私たちまでは届かなかった。
王は誰もいなくなった部屋の奥へ足を運び、自分の体格とは合わない大きなイスに腰をかけた。



+ + +



「それでは今から実力試験を始めます」


試験場への道が分からなかったので男に連れて行ってもらい、無事に私たちは試験を受けることが出来た。
試験官の早速の一声に胸が高まる。一体どんな試験なのか。

すると突然、会場で大きな音が鳴り響いた。

地震みたいに揺れ動く会場。全員が身を伏せた。
私も一緒に来た男も態勢を崩してしまった。


「な、何でありますか?」

「……魔物?」


私の目線の先に現れたのは魔物のような容姿の物体。
隣の男も他の新防衛隊の奴らも唖然としている。突然の魔物の登場に頭が回らないのだ。

何が始まるっていうの?

そう思っていると、試験官がニコリと微笑んで口を開いた。


「実力試験はズバリこれ。この魔物たちを倒してください」


思わぬ言葉にまたも絶句する新防衛隊員。
試験官は付け加える。


「ちなみにこの魔物は私たちがしつけしていますので、ご安心を」


ご安心を…って。信じていいのやら。

そう気を緩めたときだった。
魔物は躊躇なく私たち新防衛隊員に向かって飛び込んできたのだ。
前触れもなく襲い掛かってきた魔物に隊員は反射的に逃げ出す。
ただし、私は違った。

私は自分の指を噛んで血を出すと、空中に魔方陣を描く。
血の魔方陣が空中に浮かんでいる。すると魔方陣は光を発光して世界を白くした。
思わず目を瞑るのは隊員だけでなく魔物も一緒。私だけが目を開けて、じっと魔方陣を睨む。
そして私は、呪文を唱えた。


「ま゜」


すると光はより一層大きくなり、視界は全て白くなった。

そして光が晴れたとき隊員はまた絶句していた。
驚きの拍子で腰を落とすマヌケな奴もいる。
私の隣にいた男は、感嘆の声を上げて私を褒めていた。


「…素晴らしいであります。…まさか召喚魔法を使えるなんて…」


男の目に映るもの、それは真っ赤な狼だった。
ガルルと目の前の魔物に威嚇するこの狼は私の召喚魔法で呼び寄せたもの。
赤い狼の紅(くれない)。
こいつは獰猛なのであまり出さない召喚獣だ。

だけど、これは試験。自分の実力を見せる試験だ。
私は本気でいく。だから迷わず紅を出した。

赤い狼の登場に魔物は怯えていた。
対して紅の奴は威嚇と共にヨダレを垂らし、金色の目を輝かせている。


「紅。暴れておいで」


私はそれだけ言うと、隣にいた男の腕を引いてその場から離れていった。
隊員も何だか危険な予感がしたのだろうか、私の後を早々とついてくる。


「試験官、聞きたい事があるんだけど」


紅が魔物を懲らしめている間、私は試験官の元へ行く。
おどおどした様子で「何ですか?」と訊ねる試験官に私は言った。


「あの魔物、消滅させちゃったらゴメンコ」


紅は暴れまわる。
赤い体はより一層赤く染まりあがる。







「でええ?!」


試験官から話を聞いたポメ王は絶叫していた。
まさかあの魔物が瞬で倒されてしまったなんて。


「ミミさんの実力には驚きましたよ。召喚魔法を使える人なんて数少ないのに」

「……そうですか…。俺も驚きました」


この世界では召喚魔法を使う人の数はごくわずか。
何故なら異世界の獣と契約を結ばないといけないからだ。

ポメ王は息を呑む。
その様子を見て試験官が言った。


「私もミミさんに興味を持ちました。今後ミミさんの実力を更に見てみようと思います」

「そうですか。頑張ってください」

「応援有難うございます!王様。ミミさんをいい防衛隊に育てて見せます」


そして試験官は敬礼をしてから去っていった。



+ + +



それから数日がたった。
私はいつものように皆とボール遊びをしにコートに来ていた。


「ミミ、最近よく宮殿に行っているけど、防衛隊の仕事ってそんなに忙しいのか?」


ハスキーな声のジュンに尋ねられ私は口先を尖らせる。


「別に。村に異常がない限り仕事はないわよ」

「え?それなのに宮殿にしょっちゅう行っているんだ?」


ダフウも身を乗り出してきた。面白がってヒヨリもやってくる。


「ねえねえミミー!ポメ王はどんな感じ?元気なの〜?」


ポメ王は王になってから一度もこのコートに訪れていない。
当たり前だ。いま彼はみんなの王なのだ。私たちのためにボール遊びに来てくれない。
行きたくても行けない状態なのだ。

そのため、ここにいるメンバーは最近ポメ王の姿を見ていない。
私だけがポメ王を毎日のように見ている。

ヒヨリの質問に私は頷いた。


「元気よ。だけど皆とボール遊びがしたいとウジウジしていたけどね」

「あーやっぱりね。体を動かしていないから肉体が落ち着かないようね」


ヤシロはやはり難しい発言をしてくる。IQが高い人って考えが普通と違う。
体をぐーんと伸ばしてジュンがくくっと嫌味くさく笑った。


「あいつって外見は女みたいだけど性格は男だもんな。体を動かしたいと思うのも当たり前だな」

「んー何だか気の毒だなぁ」

「まあ仕方ないことよ。彼は王なんだから」

「そういえばユエも最近来ないよねー」


下唇を突き出してヒヨリは皮肉そうに言った。
そう、実はユエも最近宮殿に篭りっぱなしなのだ。
防衛隊に入隊しているわけではないのだが、彼女は王族なので王の下で働くのは義務付けられている。
宮殿に行っている私だけが知っている。
ユエはポメ王の下で、召使として働いているのだ。
まぁ、ポメ王は召使として扱ってはいないようだがユエはそう思って働いている。


「最近、忙しいんだよ。みんな」

「ちぇー。私、みんなとゲームしたかったのにー」

「僕の足も残念なことになかなか治ってくれないしね…困ったなぁ」

「ま、私はあんたの作るカツ丼さえ食べることが出来るならそれで十分なんだけど」

「そうだね!私もダフウのカツ丼大好き〜!」

「ダフウのカツ丼は天下一品だもんな」

「て、照れるよ…」

「皆、私のダフウからカツ丼もらうのなら260H払ってもらうわよ」

「お金請求するなよ?!ってか260って安くない?」


人数が減っても私たちの絆は変わらない。
ポメ王もユエも頑張っているんだ。私も頑張らなくちゃ。

私も防衛隊の一員として、村を守るのよ。
そして王も守る。それが私の仕事。




そう私が誓っているとき、村中に大きな音が響き渡った。
全員が耳をふさいで、よろめいた。


「な、何?」

「え〜?何の音?」


どこから鳴った音なのか辺りを見渡す。するとジュンが声を上げてある方向に指を指していた。


「煙が上がっている!」


ジュンの声に反応して全員が顔をその指の方へ向ける。
そこは


「…宮殿………っ!!」



私たちの王がいる宮殿だった。
遠くにあって少し見難いのだが、煙の上がっている場所、そこは

試験会場


そこには確か……


「畜生っ!!」


悪態ついて私は無我夢中で宮殿に向かって飛翔していた。



+ + +


試験会場には、黒い煙が上がっていた。
付近には誰もいなかったため誰も負傷していなかった。
しかし、アレが脱走してしまった。

魔物が。


「しまった!こんなことになるんだったらあのとき消しておけばよかったわ」


舌打ちを鳴らしながら、白ハトの私は宮殿内の試験会場で翼を下ろした。
魔物は試験会場の奥に設置されているオリの中で飼育されていたようだ。
しかし今そのオリはボロボロに破壊されていた。

魔物が暴れてしまったのだ。


「魔物め!どこへ行ったのよ?」


辺りを見渡しても魔物の姿はない。
果たして何処に行ってしまったのだろうか。困った。

このまま宮殿内を荒らしてもらうと非常に困る。
被害者を出したくないし、ポメ王も守らないといけない。


……やばっ!


そしてまた私は無我夢中で走り出した。
向かうはポメ王の部屋だ。

私は防衛隊。村を守る者であり、王を守る者でもある。
私は王を守らなければならない。
だからまずはポメ王の元へ行き、あいつを守ってやらないと…。

広く長い廊下を私は自分の足で走っていく。
魔物が暴れまわったのだろうか、所々が破損してしまっている。何てことしやがるんだ魔物のくせに。

私は確実にポメ王の部屋へ向かう。
するとあることに気づいた。

場の異常さに。


おかしい。
ポメ王の部屋に近づけば近づくほど、"気"を感じる。
"殺意"の篭った"殺気"というものを。

なぜそんな"気"をこの辺で感じてしまう?
理由は簡単だ。


「…まさか、魔物のやつ………!!」


また音が響いた。
そしてまた黒い煙。


それはポメ王の部屋からあがっていた。


「ポメ?!!」







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