「うわあ。キミ、上手いね。何か運動でもしてたの?」


初心者の割りには動きに活発のあるその男にダフウは関心の声を上げていた。
背が低いながらも無駄のない動きをしているし、何より足が速い。
こいつはいい獲物を捕らえた。私はそう思いニヤリと笑った。

ヒヨリがばててしまい足を崩したので、ここでボール遊びを終了させることにした。
ダフウがタオルを持ってきて皆に渡す。何気にこいつはマネージャーみたいな仕事が向いているんじゃないの?

爽やかに微笑んでいる男にダフウがタオルを渡したとき、ついでなのでダフウは訊ねていた。


「キミ、何ていう名前?見たことのない顔だからさ」


訊ねられ、男は目を細めた。


「俺ですか?俺は、ヒショウです」


ヒショウと名乗ったこの男。背も低いし、敬語を使っているところからして私たちより年下なのだろう。
まぁ、外見からしてガキっぽいから、きっとそうだ。
そう思うと、私は鼻で笑ってた。


「あんたどこのガキんちょよ?」


するとヒショウはこの私にキョトンとした表情で首を傾げてきた。


「え?さっきの声…あなたが…?」


ヒショウは私の質問に答えず、そう訊ねてきたのだ。
私は目の辺りを顰める。


「何よ?あんた。なんか文句あるわけ?」

「いや!とんでもないですよ!」


喧嘩腰の私を見て、ヒショウは慌てて胸前で手を振った。
そして言う。


「声が美しいな。と思っただけです」

「……」


初対面の人に、私はよく「声が綺麗」と褒められる。
最初にも言ったが、鳥族にとってはそれは最高の褒め言葉である。
今回も初対面のガキに声を褒められた。


「綺麗な声、聞けてよかったです」


ヒショウはそう告げると、ダフウの元へ行き、汗を拭いたタオルをどうすればいいのか訊ねに行った。
無言になる私。

声を褒められることは嬉しい。
だけど、何か…何かイヤだ。
だって、自分を褒められたような気がしないから。

どうせなら私自身を、私の存在を褒めて欲しい。


下を睨んでいる私に、誰も声を掛けてこなかった。
ジュンがチラッと見て優しい目をしてくれたが声を掛ける勇気がなかったようだ。
ヒヨリは鈍感だから何も気づかない。きっとアリんこの数を数えているようにしか見えないのだろう。



「そのタオルは僕が家で洗濯するからいいよ」

「いや、俺の汗拭かせてもらっちゃったし何だか悪いですよ。自分の家で洗濯して後日返しにきます」

「大丈夫だから。心配しないでよ。いつも僕がこの担当しているし」

「だけど俺、初めて逢ったばかりだし、悪いですよやっぱり」

「気にしないで気にしないで」


ダフウとヒショウは自分がタオルを洗濯すると言葉を譲り合っていた。
何こいつら?どこの優男軍団よ。
しかしダフウの方が勝ったのだろうか、ヒショウからタオルを無理矢理奪っていた。
するとダフウ、何か見つけたらしく、突然声を上げたのだ。


「あ!え?どういうこと…っ?!」


ダフウの叫びに疑問を持って皆が駆け寄る。
私もだ。一体何に叫んでいるのか気になる。何か恥ずかしい液体でも出たのかしら?

しかし実際に駆け寄って現場を見てみると、そこには驚くべき光景があった。
思わず、ユエが口を押さえて言葉を堪えているほどだ。
そんな中で恐る恐る声を出したのは、この中で何気に一番頭のいいヤシロだった。


「あんた、これ、どういうことなの?」


目を丸くするヒショウの手首を指差して


「その…手首の紋章…」


ヒショウの手首に描かれている赤い紋章。
炎と鳥を掛け合わせてデザインされているこの紋章は、この鳥族の里の王家の紋章だ。
なぜこんなガキの手首にその紋章が?

理由はすぐに分かった。
ユエが訊ねた。


「まさか、あなた。私と同じで王族出身?」


そしてユエもすぐに手首に撒いていたリストバンドを外し、ヒショウの手首の紋章と全く同じものを見せた。
全員が二人の手首の紋章を見比べている中、ヒショウはニコっと微笑んだ。


「そうですよ。俺、王族です」


それにユエは驚いた様子だった。
ユエも知らなかった事実。これは一体どういうことなの?

何だか変な空気が流れているので、私が話しを進めた。


「ってことは何なわけ?あんた一体何なの?カバ?恥ずかしい液体を鼻から出すカバ?」

「いや!カバじゃないですよ?!ってかその液体っていわゆる鼻水ってやつですよ?!」


可笑しい質問でもしてしまったのかしら?
ヒショウは鋭く私につっこんできた。何気にこいつ、ツッコミセンスがある。

手首の王家の紋章に触れるとヒショウは私たちに告げた。


「俺は、今の王の息子です」


そして触れていた手を離して、私たちにまた紋章を見せる。
紋章の形は、炎と鳥。

ヒショウはその紋章を見て、再度自己紹介をしだした。



「俺の名前はヒショウ、代々王家のシンボルとして取り扱われていたフェニックス。フェニックスのヒショウです」



暫時、時は止まっていた。
こいつがありえない発言をしたからだ。

王家のシンボルは手首にも描かれていた紋章。そのデザインはフェニックスをモチーフにしたもの。
不死鳥と呼ばれる鳥。人々に幸運をもたらす不思議な力を持っているという。
そのフェニックス。実は今までに見た者はいないと言われているのだ。
何故なら、フェニックスは架空上の生き物だから。
だから誰も見たことがないのだ。

それなのにこいつ、何ほざいているの?
こんなチビがあのフェニックスのはずないじゃない。


「あ、皆さん俺のこと信じていませんね?」

「当たり前じゃない!だって私、あなたのこと知らないもん!」


ヒショウの確認の声にすぐにユエが首を突っ込んできた。
当たり前だ。この中で一番混乱している者といえば王族の1人ユエであろう。
まさか今の王に息子がいて、しかもその息子があのフェニックスだと言っているのだから。

ヒショウが答えようとしたとき、ヤシロが口を出してきた。


「まさかフェニックスがこの世に存在していたとは驚きだわ。だけど考えてみれば、今の世の中、『ありえない』という言葉があることが『ありえない』のよね。だって私たちの知らない中では竜がいたり、妖精がいたりしている。他の人種から見ても鳥人の存在は大きいと思うわ。……そう考えるとフェニックスも珍しい生き物ではないはず」

「だ、だけど」


するとすぐにダフウが割り込んできた。


「フェニックスって不死の生き物だろう?だとしたら、ヒショウくんは一生死ねないことになるじゃないか」

「それは違いますよ」


ダフウの意見にヒショウが首を振る。
その頃ヒヨリの頭上にはクエスチョンマークが飛び交っていた。


「俺も皆さんと同じですよ。歳をとれば自然に死にますし」


その言葉にダフウは、眉を寄せて下唇を突き出す。
もっと詳しく言ってよ。と表情だけで表現している。

それが伝わったのだろうか、ヒショウは続けた。


「俺自体はフェニックスの効果はないんです。伝説で『フェニックスの血を飲むと不死になる』『フェニックスの泪は癒しの力がある』とかありますが、それは本当です。しかしそれの効果が現れるのは自分以外の方、つまりあなた方なんです。皆さんが俺の血を飲めば不死になれますよ」

「…!」

「俺も、癒しの力は強いらしく、自分の体が傷ついてもすぐに癒すことができます」

「ちょっと待てよ。お前本当にフェニックスなのか?」


ジュンの問いに全員がヒショウに目をやり、ヒショウも頷いて答えた。


「そうですよ。俺はフェニックスです」

「「……っ」」


ここまで詳しく話をされると本気でそう思ってしまう。
しかも、ヒショウは、目が真剣だ。

…だけど、信じることが出来るはずがないじゃないの。


「はいはい。冗談はそこまでにして。今日はもう上がり。皆帰るわよ」


私はそう促すと、さっさと白ハトの姿になって両翼を広げた。
皆は戸惑った様子だった。こんな中途半端なところで話を無理矢理中断されたので。
だけど私は興味がない。さっさと帰ってクマさんとイチャイチャしよう。

羽ばたく前に飛翔に言った。


「あんた、明日も来る?」


突然誘われたのでヒショウは驚いているようだ。
周りにいる皆からも視線を浴びられ、ヒショウは頷く。


「はい、来ます」

「あんたなかなか使えるわ。だからこれから毎日私たちとボール遊びするわよ」


命令形で私はヒショウに言い続ける。


「暇じゃなくても必ず来い!分かったわね?」


するとヒショウは嫌がるかと思ったのだが、意外にもやる気の目で返してきた。


「はい。わかりました!よろしくお願いします」


お辞儀をするヒショウであったがそのとき私はもう既に羽ばたいていた。
太陽に向かうように私は南に飛んでいく。

皆もヒショウも、別れの挨拶そして明日もよろしくと告げてから、それぞれ自分の家に帰宅した。





+ + +



この日から毎日私たちはボール遊びをしにコートに集まった。
ダフウは足を怪我しているからマネージャーみたいに裏で動いて、ヒショウが奴の代わりに舞台に立つ。
ヒショウは本当にいい動きをする。俊敏に動くこの姿に時々見とれてしまう。
休憩時間は必ずヒショウは私の元に訪れる。
そして言う台詞はこれ。
「今日も美しい声ですねミミさん」
最初は自分の声しか褒められていないような気がしてイヤだった。
だけどこう毎日同じ人から言われると、違う感じがしてくる。
どんな感じなのかと問われても答えることは出来ない。だけど何だか変な感じ。



「ミミー!ミミったら〜!」


そしてある日。
何気なく前転を繰り出している私の元にヒヨリが駆け寄ってきた。
いつもの可愛らしい声を出しながら笑顔を作っているヒヨリが今私の目の前にいる。


「ん?何よヒヨリ」

「すっごいいいニュースだよ!」

「だから何なの?」


前転を止められたので私は微妙に不機嫌だった。
しかしヒヨリは気にしていない。こいつがおバカさんでよかった。

私の質問にヒヨリは答えた。
私の腕を引きながら。


「とりあえず私の後をついてきて!絶対驚くから!」

「何?まさかダフウったら耳が伸びすぎて絡まったのかしら?」


疑問を口にする私であるがヒヨリは何も答えず、笑顔で私の手を引いていった。
向かうは、この村…レッドプルームという山の頂上にある宮殿。








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ヒショウこと飛翔!私の代表作品「絆〜きずな〜」や「ま゜組」でも主人公として活躍している飛翔がついにラフメに登場!

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