長いレールに乗った僕らは、限られた数だけ前へ進んでいく。


27.スゴロクの村


メンバーがこの村に訪れたとき、村の姿にまず目を疑った。
村はジャングルみたいに緑一色。
その中にある細い道。そこにしか足を踏み入れることが出来ないようだ。


「なんだ〜この村は?」


サコツが大きく辺りを見渡してそう口を尖らせる。


「何だか不思議なところに来てしまったね」


サコツにつられてクモマも目線を一周させる。
視界に入ってくるものは様々な木々とレールのような細く長い道。
それ以外には何も見当たらない。


「この道を歩けば村の中央にいけるのか?」

「だけどこの道、形が可笑しいって〜!絶対怪しいよ〜!」


メンバーの前にある道。チョコの言うとおり形が可笑しいものだった。
一定の間隔…一メートルもないほどの長さで区切られている道の姿はまるでレール。


「…何か足を踏み入れたくないよね…」

「どないしてこんな形なんやろか?意味はあるんか?」

「誰かこの道の上に立ってみなさいよ」

「ええ!私はイヤよー!何か怖いもん」

「明らかに怪しいだろこの道は。絶対に仕掛けがある」

「そんなこと言ってないでよーさっさと行けってソング」

「お、俺なのか?!おい俺なのかよ!?って、うお!!」


反論の途中であったがサコツとブチョウにソングは背中を押されてしまい、勢いで道の上に立ってしまった。
場がシンと静かになる。
果たして何か起こるのだろうかと緊張する。

しかし、何も起こらなかった。


「おい、何も起こらないぞ」

「…そうみたいだね〜」

「それじゃあ僕たちも道に乗ろうか」

「そやな。ほなこん道辿って村を探索してみようで」


そういうことでみんなで一斉にソングのいる道の上に立つことにした。
恐る恐る辺りを見渡したり地面を蹴ったりしてみるが何も異変も起こらない。

ふと一安心し、胸をなでおろした、そのときであった。


『いらっしゃいませミャンマー!』


どこからか声が響いてきた。
その声は拡声器を使ったような声で、村中に響いているようだ。

突然の声にメンバーは声にならない声を上げていた。


「な、何?」

『ようこそいらっしゃいました!ここは「スゴロクの村」です!』

「スゴロクぅ?」


サコツは意味が分からず首をかしげ、ソングは不機嫌そうに眉を寄せる。


「スゴロクってさいころを使ったゲームのスゴロクのことか?」

『そうです!その通りです!』


拡声器の声の主はどこにいるのか分からない。
だけどメンバーの声を聞き取ることが出来るようだ。
どこかに盗聴器でもあるのか?

拡声器は言葉を続けた。


『この村では皆さんにスゴロクゲームをしていただきます。近場にさいころがあるはずです。人数分用意してありますので、一人一人さいころを振ってさいころの出た目の数だけマス目を進んでください!』

「…え?それ本気?」


冗談だろうかと思っていたが、近場にさいころがあることに気づいてしまった。
早々と用意されてあったさいころ。…本気?
表情の曇ったメンバーに拡声器の声は容赦ない言葉を更に繰り出す。


『ときどきマス目にお題が書かれています。そのお題の指示通りにしなければさいころを振ることが出来ません』

「ちょ、ちょいまちぃ!」

『もしお題の指示通りにできなければあなたたちに不幸が訪れることでしょう』

「おい!何言ってんだてめえ!」

『それでは、ごきげんよう』


そしてブツっと回線の切れる音が鈍く響いた。
それ以来放送は流れなかった。
再び沈黙になるこの場。
突然の出来事に頭が働かないのだ。
一体どうすればいいのだ?スゴロクをするのか?

凍りついたかのように固まっているこの場で、最初に動く姿勢を見せたのはブチョウであった。


「仕方ないわね。やってみようじゃないの」


彼女の手にはサッカーボール並の大きさのさいころがあった。
ブチョウはやる気のようだ。
人数分に転がっているさいころの中一つ手にとってクモマ。


「そうだね。そこまで言われたからにはやるしかないね」

「それじゃーやってみよ〜!」

「スゴロクかぁ。ワイはじめてやるわぁ」

「俺もだぜ!何かわくわくするぜ〜」

「………ゲームは苦手だ…」


それぞれがさいころを手にとる。
緊張の瞬間だ。


「それじゃあ…」


まずはじめにクモマがさいころを振った。
地面に優しく転がしてさいころは面白い回転を見せながらやがて『3』の目を表にして止まった。


「…3かぁ…」

「ほら、進みなさいよ」


ブチョウに促され、クモマはマスを一つ一つ飛び越えながら3つめのマスへ足を伸ばす。
そのマスには何も書かれておらず、無事お題をしなくて済んだ。今のところ安心だ。

次はサコツがまねをする。
さいころを転がして、彼の場合は『6』になる。


「お、早速6だぜ!」


そしてサコツは


「チ、ヨ、コ、レ、イ、ト」


と一マス一マス丁寧に足を入れていった。
どこかで見たことのある遊びだとツッコミを入れるソング。
しかしそれが面白かったのか、残りのメンバーもサコツを真似していた。

『3』の目が出たチョコ。

「タ、ヌ、キ」


『4』の目が出たブチョウ。

「た、ん、そ、く」


『5』の目が出たトーフ。

「う、わ、の、そ、ら」


『5』の目が出たクモマ。

「な、け、て、く、る」


そして悲しみいっぱいに笑顔を見せるクモマであった。


今のところはまだ、お題の書いてあるマス目に誰も止まっていない。
メンバーは先を急ぐ。


『4』の目が出たソング。

「メ、ロ、ディ、イ」


『5』の目が出たソング。

「あ、い、し、て、る」


『4』の目が出たソング。

「メ、ロ、ディ、イ……」

「もうあんたやめい」



ようやく誰かがお題のマス目に止まったようだ。
それはチョコ。
ゲっと苦い表情を作るチョコであったが、内容を見た瞬間、喜び一杯の表情に変わっていた。


「やったー!『3マス進め』だって!ラッキー!」


そしてチョコはお題通りに3マス先に進むことが出来た。
いいなーと羨ましそうに眺めるメンバー。


「ア、フ、ロ。あら、私もお題だわ」


今度はブチョウがお題に当たったらしい。
するとブチョウ、お題の内容に書いてあったのだろうか、突然ねじれだしたのだ。
ありえない方向に体を曲げた彼女は、無事お題クリアをした模様。
さいころを振ってまた前へと進んでいった。

そして他のメンバーは誓った。
あのマス目には止まらないようにしようと。


「ソ、ン、グ、は、ボ、ン。お、ワイもお題やー」

「お前今何ていったか」

「『ここにある食べ物全て食べつくせ』やて?何や余裕やないかー」


ソングのツッコミを無視して、トーフは目の前に出された食べ物を瞬時で平らげることに成功し、無事クリアとなった。

メンバーはいい調子でお題をクリアしていく。
時には苦戦するものも出たが、大半が余裕で成功することが出来た。


「クソ!また『5もどれ』か!」


メンバーは前へ前へと進んでいく。


「次は『10もどれ』だと?!俺下がりすぎじゃねえか?!」


それぞれのペースで先を行く。


「『ふりだしに戻れ』?!ちょっと待てよ!おい!コラ!!」






しばらくこれらの繰り返し。
ソングも何とかみんなの元まで追いつくことが出来た。
ほぼ全員が並んでマスを進む。…ブチョウを除いては。


「ア、フ、ロ、ボ、ン、バ、ー、な、ク、マ、さ、ん」


彼女だけがグングンと先へ行ってしまう。


「あいつ一体どんなさいころ使ってんだよ?!12マス進んでいったぞ?!」

「…まぁ、ブチョウだし。あ、僕は『1』か…」


憤慨するソングを安らげようと優しい声を掛けたクモマはさいころの目の通りに1マス進む。

「凡、と」

「お前………」


肩を竦めるソングの横を過ぎるのはサコツ。
「エ、リ、ザ、ベ、ス」と5マス進むサコツは初めてお題の書いてあるマスに止まることとなった。


「おー。お題だぜ〜!俺のはどんなんだろうなー!」


弾けた声を出すサコツ。
しかし、肝心なことを忘れていた。


「………………………」


突然何も言うことが出来なくなってしまったサコツ。
果たしてどうしたのだろうかと、自分のマスから出ないように首だけを伸ばしてサコツを見やる。
するとサコツは、汗をかきながらこういっていた。


「…俺、字読めねぇじゃん」


肝心なこと忘れてたー!!!

全員が絶叫した。
そしてそれからすぐのこと。

サコツがいるそのマスに穴が開くとサコツはそのまま穴の中に落ちていったのだ。

悲鳴を上げることなくサコツは穴の中に吸い込まれていく。
そして完全にサコツが穴の中に入ると穴は塞がれ、マスは何事もなかったかのようにまた元通りになっていた。


「……え?」


一瞬の出来事だったので、何が起こったのか理解することが出来なかったメンバーは呆然とそこに立ち尽くしていた。








>>


<<





------------------------------------------------

inserted by FC2 system