川の流れに伴って腰を振り華麗な動きを見せる。


26.コンブの村


暖色系の髪色の2人と共に河へ向かうのはメンバー。
彼らの村と王が危険ということで2人の村の様子を見に行こうとついてきたメンバーであるがもっともの理由は"ハナ"が咲いていると予想したからだ。
今どの村にも"ハナ"が咲いているのだ。きっと2人の村にも"ハナ"があるのだろう。
ちなみに先ほどまでいたあの村の"ハナ"は道端に普通に咲いていたので、消しておいた。


「「あっちぃーなー」」


かんかん照りの地上にはふらふらしている2つの影があった。
アキラとタカシは目眩を起こしそうになりながらも歩く。


「だ、大丈夫かい?」

「無理しちゃダメよ?休憩とろうか?」


ふらついている男2人のうちタカシの肩に手を置いてチョコは優しい声で訊ねた。
しかし次の瞬間、チョコは言葉を失っていた。自分の手に伝わってきた感触が信じられないものだったからだ。
まさか、タカシの肌がこんなにもカラカラになっているなんて。


「いや、大丈夫だ。…おいアキラ。水くれね?」

「おう。んじゃちょっと待ってろ。俺が先に水飲む…」

「ちょっと待て待て!お前水飲みすぎ!俺の分まで残してろよ!」

「大丈夫だって。ほらよー」

「サンキュー!生き返るー!」


タカシのツッコミを軽く流しアキラは水の入った水筒をタカシに渡した。受け取ったタカシもアキラと同じようにグビグビと飲んでいく。
それにしてもこの2人、さきほどから水を飲んでばかりだ。
メンバーも軽く水を口にして、歩みを進める。
そしてしばらくこれを繰り返していると


「「河だ!」」


見えてきた。我らの目的地の河。


「「水ー!!!」」


河の姿を見てすぐに川の中に飛び込んだのは先ほどから水を飲みまくっていたアキラとタカシであった。
派手に水しぶきを立てて川の水を堪能する。


「あぁついたついた…」

「あっつかったねー!おかげで私汗だく〜」

「俺も河ん中入ろうかな」

「そうね、私も水浴びしようかしら。クマさんと一緒に」

「…お、おい!見ろよあれ!!」


全員が疲れてきっている中、ソングが突然河の方に指をさして叫んだ。
つられて指されている方向をみるメンバー。
すると


「「ええええええ?!!」」


不思議な光景が目に飛び込んできた。
見たもの、それはアキラとタカシなのだが


「「魚?!」」


水面に出ている二人の足が明らかに人間の足ではなくなっていたのだ。
2人の足は魚のようなひれになっている。
目の錯覚かと思って目をこすってもう一度2人を見るが結果は同じ。
二人の足は魚の尾びれになっていた。

目を丸くしているメンバーに2人は馬鹿笑いだ。


「なーんだ。お前ら知らなかったのか?」

「てっきりフウタから聞いたのかと思ったぞ」


手を打つ代わりに魚の尾びれで水面を打つ2人にクモマが恐る恐る訊ねてみた。


「これって一体何なんだい?」

「あ、やっぱ知らねーんだ?」

「フウタの奴。一番大事なこと言ってなかったんだな」


ケラケラ笑った後、ようやく2人は答えを言ってくれた。同音で。


「「俺らは人魚だ!」」


時は止まった。そんな時、全員の元へ来たのはメガネの男だった。


「やあ、きてくれたんだね。助かったよ」

「「えええええ!人魚おぉおお!!!」」


しかしいいタイミングでメンバーが絶叫を上げてしまったのでフウタの声はかき消されてしまった。
メンバーはそれぞれで叫び声を上げる。


「本当なのかい?!わあすごいなー!人魚かぁ!」

「人魚?人魚?きゃー!綺麗〜!!!」

「半魚人じゃねーんだ?でもすっげーなー!でも半魚人の方がカッコいいぜー?」

「人魚までいるのかこの世界には…」

「ナメクジと同じぐらいに美味しそうね」

「あんたら、人魚やったんか…」


そのなかで1人、冷静な発言をしたのはトーフであった。


「前に聞いたことがあるわ。水のある場所には人魚がおるっちゅうことを」

「おー?お前何気に賢いんだな!」

「俺らはその人魚の中の"河人魚"ってなやつなんだ」

「あと"海人魚"もいるんだよ」

「「って、フウタいたのか?!」」


最初からその場にいたかのようにさりげなく話題に入ってきたフウタの存在にアキラもタカシも驚いた。無神経な2人にフウタは眉を寄せる。


「もう、ひどいな2人とも」


ペチペチと足で水しぶきを作って怒りを表現するフウタ。
そんなフウタの足も2人と同じように魚の尾びれに変わっていた。


「わりぃわりぃ。お前は存在感薄いから気づかなかったぜ」

「急に出てくるんじゃねーよ。ったく、罰としてメガネ没収だー!」

「や、やめてよー。メガネないと僕何も特徴のない顔になっちゃうんだから」


人魚の3人が仲良く騒いでいる中、メンバーは口を半開きにしていた。
なるほど、フウタが道端で干からびていた理由も、アキラとタカシがやけに水分を欲しがる理由もわかった。
全ては水の生き物"人魚"につながるものだったのだ。
沈黙の降りているメンバーで先に口を開いたのはやはりトーフ。


「人魚ってホンマにおったんか…。めっずらしい生き物と出会ったなー」


あのトーフが言う事だ。人魚は数少ない生き物なのだろう。
現に他メンバーが人魚の存在を知らなかった事が全てを語っているのだが。

トーフに続いてチョコ。目を輝かせて言った。


「ホントホント!下半身が魚だなんて…何てロマンチックなの…」


果たしてそこが人魚の美しい所なのだろうか。


「そうね。下半身の部分をほんのり焼いたらスルメのようになるのかしらね」

「いや!それリアルに気持ち悪いぞ!?」

「食ってみたいぜ!」

「何ほざいてんだ!」

「僕は肉の次に魚が好きなんだ」

「だから何言ってんだ!」

「ワイもちろん魚大好物やで!」

「やべー!こいつら食う気満々だ?!」


まさかメンバーがそんな話で盛り上がっているとは、人魚の3人は知らないであろう。

やがてかんかん照りの地上にいる人間の存在を思い出した人魚のフウタが笑顔を向けた。


「ごめんね。こっちで勝手に盛り上がっちゃって」

「いや、こっちこそちょっとグロテスクな事で盛り上がっていたよ」


対しクモマがいい笑顔で覆していた。が、グロテスクな事で盛り上がっていたということが妙に引っかかったらしくフウタの表情は少し曇っていた。
気にせず、クモマは続ける。


「そういえば、キミ達の村は…」

「そうだったよ」


クモマに言われてフウタは事を思い出した。慌てて陸へ這い上がる。


「忘れていたよ!僕達の村が大変な事になっているんだよ!」

「うん。暖色系の頭2人からだいたいの話は聞いたよ。王様が大変みたいだね」

「そうそう!そうなんだけど…。あぁどうしよう…」


そして頭を抱え込むフウタ。この慌てよう、果たして村はどうなっているのだろうか。
俯いているフウタの顔を覗き込むように見上げてトーフが訊ねた。


「相当悩んでいるようやな。どないしたん?」

「……あぁ…どうしよう…」

「…」


トーフの問いにも答えないぐらい追い詰められているフウタにメンバー全員が駆け込んだ。
心配色を浮かべるメンバーであったが、河の中にいたアキラとタカシは陽気にケラケラと笑い声をあげていた。


「気になるんだったら俺らの村に来てみろよお前ら」

「んだんだ。ここにいる時間だってもったいないしよー。さっさと村へ行こうぜ」

「え?」


2人から誘いを受け、メンバーは戸惑った。
メンバーが2人の後をついてきた理由はもちろん2人の村に咲いてあるだろう"ハナ"を消すため。
しかし2人は人魚という水の中の生き物。どこに村があるのかと訊ねても答えは分かっている。

村はきっと水の中だ。

顔色が優れていないメンバーに気づいたのかアキラとタカシはまた笑う。


「何だ何だ。お前ら俺らの村がどこにあるのか心配になってんだろ?」

「河の中にあるんじゃねーかと思ってるだろ?」

「ん?違うの?」

「「いや。河の中にあるぜ」」


ダメじゃん。


「いや、心配する事はないよ皆」


ガックシと肩を落としているメンバーに声をかけたのは先ほどまで俯いていたフウタであった。
笑顔を作って言う。


「僕達の村はこの河の下にあるけど、息は出来るようになるから」


何を言っているのか分からなかった。
しかしフウタは続ける。
手を胸元に持ってきて


「これを食べたら一日は水の中で息が出来るから」


懐からある物を取り出した。
しかしそのある物を見てメンバーは絶句していた。


「……これって…」

「コンブだよ」


メンバーの前に出された物、それは『コンブ』であった。


「これ、食べてよ」

「コンブだし!」

「コンブだし!」

「コンブだし!」

「コンブだし!」

「コンブだし!」

「ナマコだし!」

「ちげぇし!」


コンブに思い切りツッコミを入れるメンバー。
しかしフウタは気楽に笑っている。


「そんなに興奮しないでよ。このコンブは普通のコンブじゃないんだよ」

「そうね。ナマコだし」

「ちげぇし!」

「ほな、このコンブは何やというんや?」


疑いの目を向けるトーフの質問に答えたのはアキラとタカシであった。


「「そのコンブは『超ウルトラスーパーデラックスハイパーナマコ』だ」」


最悪なネーミングである。
しかしその前にツッコミをいれたいところがあった。


「ナマコなのかよ?!」

「「これのことを俺たちは『コンブ』と呼んでいるんだ」」

「わかんねーよ。どんな原理でそうなったのかわからねーよ」

「ってか、それナマコじゃなくて普通にコンブだし」

「ちなみに『超ウルトラスーパーデラックスハイパーナマコ』って名前をつけたのは王様だよ」

「ネーミングセンス悪いな?!」


この様子から王様はバカみたいだ。
しかしその王様は今大変な事になっているらしい。なので


「ってなことで!コンブを食ってくれよ皆」

「ほら、グイっとグイっと!」

「コンブ美味しいから。ね?」


迫ってくる人魚たち。
河の中に入っていたアキラとタカシもわざわざ陸に這い上がってきて、メンバーに迫りよって。

そして


 にゅるっ


メンバーは『超ウルトラスーパーデラックスハイパーナマコ』通称『コンブ』を食べたのだった。







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