「ここが河の中……」

「河って意外に綺麗なのね〜」


華麗に河の中を泳ぐ人魚3人のあとに続いて人間6人がバタ足で泳いでいた。
服を着たままなのだが全く水圧を感じることがない。むしろここが水の中だということを感じない。
水の中で目を開けることも出来るし喋ることも出来る。自分たちの周りに水がないかのようだ。
今まで地上にいたときと同じようなこの空間。
これは先ほど無理矢理食べさせられたあの『コンブ』のせいなのだろうか。
メンバーは不思議な気分を味わっていた。


「これが綺麗だあ?ふざけたこと言えるなお前らも」


目を輝かせて河の中を眺めていたチョコの発言を耳にし、すぐにアキラが反応していた。
彼らはさすが人魚。河の中でも息が出来るようだ。…えら呼吸?

アキラの声にはタカシとフウタも振り向く。
喧嘩腰で自分の元までやってきたアキラに少し退くチョコ。気にせずアキラは続けた。


「前はな、もっと綺麗だったんだぞ。それなのに人間の奴が乱暴に河を扱うから」

「アキラ落ち着けって。人間にもいろいろ事情があったんだろ?」

「そうだよ。人間ばかり責めなくたっていいじゃないか」


後ろからアキラを捕らえてタカシは前へ歩みを進める。
アキラは不満そうであったが何も口にしなかった。
複雑な表情を作っているメンバーにフウタは頭を下げ軽く謝ると彼らの元へ急いで泳いでいきメンバーの誘導を再開した。

そこでクモマがメンバーにしか聞こえない小声で言う。


「…何か人魚の人たちって人間のこと嫌っているような感じだね…」

「そうだね。何か嫌な感じ〜」


口を尖らすチョコ。それを見てソングが注意する。


「おい。お前みたいな態度をとる奴がいるから人間が嫌われるんだ。行動を控えろ」

「な、何よその言い方!ソングだってその言葉遣い直したほうがいいんじゃない?」

「んだと?」

「「ちょっとちょっと!」」

「態度だってそうよ!私よりソングの方が嫌われることしてるよ!」

「…?!…てめえ腹が立つなっクソ!」



今度はこっちが喧嘩を始めようとするのでクモマとサコツが慌てて止めに入ったのだが軽く流されてしまった。
両者睨みあう。そのためクモマが無理にでも間に割り込み喧嘩を中断させた。

まったく、今回はやけに心が不安定なメンバーだ。
…まとめ役の彼が今この状態だからだろうか。


「あかん…水…水はあかん……気持ち悪いわ…怖い怖い………な、泣きそうやぁ…」


水恐怖症らしい、トーフが先ほどからずっと泣き言を吐いているからだろうか。
メンバーをまとめてくれるトーフがいないとメンバーは勝手な行動を起こしかねない。
トーフの役は実はとても大切な役割だったのだ。

今にも河の外へ逃げ出しそうなトーフの首根っこをブチョウが捕らえ、メンバーは自分らの前を泳いでいる人魚のあとをついていく。




河の中を泳いでいるといろんなものと遭遇する。
それは河の生き物であったり植物だったり。色とりどりのものたちが彼らを横切っていく。
外部のものである"空気"は"泡"となって上へ上がっていく。空気を元の世界へ戻してあげているのだ。
その泡も下へ行くにつれ数が減っている。どこまで連れて行かれるんだと思いつつメンバーは人魚のあとを泳ぐ。

すると彼らの目の前に影が遮った。
影は先頭を切る人魚に向けて突然叫びだした。


「皆さん何しているんですか!」


少し幼い感じの顔付きをしている…いわゆる童顔の少年だ。少年の下半身も魚になっており人魚のようだ。
アキラとタカシが陽気に笑う。


「「よ。カイ久しぶりっ!」」

「あ、どうもお久しぶりですアキラさんにタカシさん。…それはいいとして、これは一体どういうことですか?!」


二人の挨拶を流しカイは本題へ移す。
フウタが答えた。


「見ての通りだよ。村を案内するんだ」

「フウタさん!あのとき僕が言ったじゃないですか!人間を信用するなって!」

「え、でも」

「人間は欲の強い生き物なんですよ!また僕たちに何かするかもしれません!なので早く人間を戻してください!」

「か、カイくん…」

「カイも落ち着けって。この人間を村に招待したのは俺らの方だし」

「ええ?!タカシさんも何しているんですか!今人魚の事態は最悪なんですよ?」

「それは知ってるけどよー」

「おいカイ。タカシを攻めるなって。まあ俺も人間は嫌いだけどよー、こいつらいろいろと凄そうだし。だから大目に見てくれね?」

「……もう、勝手にしてください」


3人の人魚から反感を受けカイはそっぽを向いてしまった。
そしてシュルルと華麗にどこかへ急いで泳いで逃げていく。


「「…ったく、可愛くねえ奴だ」」

「カイくんも人が変わっちゃったよね。前はもっと素直だったのに」


小さくなっていくカイの姿を人魚はそれぞれに苦い表情を作って眺めた。
人間がどうのこうの…という話題だったため、メンバーは何とも居づらい雰囲気に立たされていた。

どうして人魚は人間を嫌っているのだろうか。
気になったが、今は聞かないでおこう。
感に触るようなことは今しない方がいい。そう思ったからだ。

無理に笑顔を作るアキラとタカシとは対照的にフウタは自然に笑顔になると、メンバーに向けて言った。


「ゴメンね。いろいろあってね…」


ただそれだけ言うと人魚は歩みを進めた。
尾びれを滑らかに動かせて速く進む人魚を見習ってメンバーも急いで足を動かす。



そして知らぬ間にこの場は暗くなりつつあった。
深いとこまできたらしい。一体この河の深さは何メートルあるのだろうか。
するとアキラとタカシが明るい声を上げた。


「「ついた!」」

「やっとついたね。…まったく、海なみに深いよね、この河は」


疲れたのだろうか重い声でフウタが後を続けた。
そして泳ぐのをピタリと止める人魚につられてメンバーも止まる。すると

目の前には不思議な光景が広がっていた。


「………村…?」


岩や海草、海藻がこの場に自然を作っている。
大きめの貝殻は家。それらがポツリポツリとある。


「そう。村だよ。僕らの村」


フウタは接客が上手い。常に笑顔で接してくれる。
対してアキラとタカシはキャーと騒ぐと早々と村の中へと突っ走ってしまった。
彼らも暫くの間はこの村にはいなかったのだ。久々の故郷に興奮してしまったのだろう。


「ビックリしたなぁ…まさか本当に河の中に村があるなんて」

「すげーぜ!貝が家だなんてすげー!こんなとこで生活できるんだな!」

「ホントよね〜。もうウットリしちゃう…」

「衝撃すぎて鼻毛が飛び出そうだわ」

「そっちの方が衝撃的だぞ?!」


こちらも人魚の村に興奮していた。フウタは優しく微笑む。


「気に入ってもらえてよかったよ。…だけど少し寂れているだろう?」


フウタにそういわれ、メンバーは再度村に目を向けた。
確かに少々寂れている所がある。貝で出来た家も心なしか少ないしボロボロだ。

頷くメンバーを見て目を細めるとフウタ。


「実はね、前に」

「「おい早く来いよ〜!」」


しかし村の中からアキラとタカシに叫ばれてしまってフウタの話はここで途切れてしまった。
フウタも二人に答えて早々と村の中へ入る。メンバーも一緒に。




+ + +


「……と、いうことなんですよ。どうしましょうか?」

「そうか。そんなことになっていたのか」

「僕、3人を止めたんですが無理でした。…もうどうにかしてますよ3人とも…」

「…あいつらも学習しない奴らだな。人魚は今や人間を最も嫌う人種なのに」

「先々月にこんな状態になってしまったのに、フウタさんたちは何とも思わないんでしょうか?」

「困った奴らだ。人間なんかをこの村に招待してきやがって。あとで何かお仕置きしてやるっ」

「ええ?できるんですか?いつもやり返されてるじゃないですか」

「っ!そ、そんなことないぞ!…ったくカイもカイで失礼な奴だ!俺を誰だと思ってるんだよ?俺はこの河の支配者だぞ」

「そう言い切るんだったらこの村と人魚をきちんと守ってくださいよ王様!」


+ + +


暫く村の中を泳いでいると、大きな建物が見えてきた。
ほら貝で出来た建物。立派ではあるがやはり少々寂れている気もする。


「ここは僕らの王のお城だよ」


フウタに教えてもらい、感心するメンバー。
すると


「あぁ、もう何か吹っ切れたで」


ようやくトーフが落ち着いたようだ。しかし顔色は優れていない。
久々にトーフが声を出したことにメンバーは表情を明るくする。


「あ、トーフ。大丈夫かい?」

「何かずっと怯えていたけどもう平気なの〜?」

「無理すんじゃねーぜ?…しっかしトーフにも苦手なもんあんだなー!ちょっとウケるっ」

「おいおい。人が嫌がっているのを楽しむなよ。お前だって白いの見て怯え」


まだ言っている途中とも関わらずソングはブチョウに頭を突付かれてしまった。


「いてっ!何しやがるんだハト!」


しかしブチョウは答えなかった。口を閉じてソングを黙って睨んでいた。
それにソングも自分の過ちに気づいたのだろう。舌打ちを鳴らすと口を噤んだ。

ソングは先ほど、サコツの"触れてはいけない部分"に触れるとこだったのだ。
白いものが苦手なサコツ。天使の存在を思い出すということでサコツが最も嫌う色であるのだ。

しかし当の本人は気にせず話題を変えていた。


「んで、この城ん中入るのか?」


自分に振られた話題だと気づいたフウタが答える。


「そうだよ。この城の中に王がいるからちょっと挨拶しようかなって」

「お、王様…何か凄そうだなぁ…」

「は〜?凄そう?お前らどういうイメージしてんの?」

「うちの王は全く凄くねえぞ?見て驚くから」

「「あの異常さにはな!」」


そしてクスクスと笑うアキラとタカシの姿にメンバーは首を傾げた。
そのまま城の中に入っていく。







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