どうしてどの村も風潮が可笑しいのだろうか…。


20.ペットの村


それは村に訪れた直後の出来事だ。
メンバーらは車に大量に詰められている食料で腹を満たし、満足な笑みを溢しながらこの村に訪れていた。
しかし、村の門前には看板が邪魔する形で立っていた。

『人間の方、ご入場お断り』


「「……」」


看板に書いてあるその字を見て、その場は沈黙になった。
やがてクモマが口を開いた。


「これは……つまり入るのは無理ということだね」


今回の村は条件がきつすぎる。
人間が村に入ったらいけないとは一体どういうことなのだ。
せっかく満腹で機嫌がよかったのに、損ねてしまった気がする。

ソングが表情を顰めた。


「意味が分からないな。一体どういうことだ?」

「…う〜ん…意味分からないね〜」

「人間が入ったらいけないちゅうことやから村人も皆人間以外の生き物なんやろか?」

「すげーなー!ってか、これ何て書いてんだ?」


このパターンもこれで4回目だ。
そろそろサコツが身を乗り出してくるころだろうと予測できた。
案の定サコツは看板を読み上げてくれと頼み、やはりブチョウがそれに答えた。


「これは『子どもは見ちゃいけません!』って書いてあるのよ」

「お前のそれ、どんどんエスカレートしていってるな!」


ブチョウのボケとソングのツッコミに笑いながら、今回もチョコが看板を読み上げた。


「これは『人間の方、ご入場お断り』って書いてあるのよ〜!」


その言葉に全員の顔色はまた曇ってしまった。
サコツもチョコに教えてもらい、真実に唖然とする。

やがてサコツが口を開いた。


「人間が入っちゃいけないってことだから凡人のソング以外は入れそうだぜ!」

「失礼だな!他のやつらは人間じゃないというのかてめえは!」


問題発言をするサコツにソングが鋭く突っ込んだ。
サコツは理由を告げる。


「だってよー。トーフはトラだしブチョウは鳥人だろ?それで俺は妖精さんだし、チョコは動物と会話が出来る不思議ちゃん。そしてクモマは心臓がないだろ。…こう見るとソングだけが何にもない凡人だぜ!」

「てめえ斬られたいか…」


しかしサコツの言うとおりである。
トーフは人間ではないと外見から見ても分かる。
ブチョウも鳥族という人種の違う生物のため、耳が密かに軽く尖っている。
サコツは言われなくても分かるように長く尖った耳。人間のものではない。
チョコは人間なのだが動物と会話が出来るという時点で少し怪しい部分がある。
クモマは無念なことに心臓をとられてしまっている今、人間と言えるものだろうか。

こう見てみると、ソング以外が全員"普通の人間ではない"のだ。
ソングもそのことに気づいたらしく、表情を更に顰めた。


「ふざけている…。何だこの連中は!意外に普通じゃないのか!」

「え、僕は至って普通…」

「うりゃあ」

「うっわ!何するんだいブチョウ!イキナリ頭突付いてきて!」

「ほら、たぬ〜は頭から血を流しても平気でしょ?あんたは尋常じゃないわ」

「尋常じゃないって、イキナリ人の頭をつついてくる方が尋常じゃないよ!」

「クモマ!血が!血が!!」


ブチョウに頭をつつかれ噴水並みに溢れ出た血をクモマが回復魔法で何とか抑える。
そして話は続行された。


「まあ確かにここの連中は普通の人間じゃないのが多いわな」


トーフが全員を見渡して、感想を下す。


「これなら村に入れるとちゃうか?」


しかし問題があった。


「凡が凡だわ」

「そうよ。ソングが凡人じゃ入れないよ〜!」

「可哀想なことにソングが至って普通の凡人だぜ!」

「ソングが凡人の所為で入れないね…」

「そうやな。ソングが凡人やから入れへんかったか」

「そんなに人のこと凡凡言うな!!!」


失礼な連中だと叫びながらソングが喚く。
それを楽しそうに眺めているブチョウ。彼女曰く、近頃ソングを虐めるのがマイブームらしい。
そのため非常によく虐めている。


「凡はこの村には入らなくていいんじゃないかしら?」

「何だそれ!俺1人でここに残れってことなのか!」

「凡がいてもいなくても変わらないもの」

「言いやがったなてめえ!」

「まああま落ち着いて。だいたい僕やチョコは外見はバッチリ普通の人間だから簡単に入れないよ」


ブチョウに喧嘩腰のソングをクモマが何とか抑えた。
その意見にチョコも頷く。


「そうだよ!っていうか私は特別な力があるだけの人間だし、どっちみち"人間"には変わりないよ〜」

「まあ確かにそうやな」


トーフも頷いて、そのまま唸りだした。


「ほな、どうするか?立ち往生ってのも嫌やな」

「入る方法を考えるしか…」

「っていうか"人間"以外の生き物って一体なんなの?」


う〜んと唸り声が響く中、サコツが閃いた。


「村の中を覗いてみようぜ!」



+ +


上空に舞う、白いハト。
そのハトにしがみ付いているのは、この中で一番身が小さいトーフであった。
白ハトのブチョウの足に捕まりながらトーフが目を凝らして下を眺める。


「どう?タマ」


ブチョウが訊く。


「…見えへんわ…」


トーフのしょんぼりしている声が聞こえてくる。
するとブチョウ


「それじゃあもっと高度を下げるわよ」

「わあああああああ」


足にしがみ付いているトーフのことを考えずにブチョウは素晴らしい速さで高度を下げていく。
トーフの悲鳴は下の世界にも響き渡る。
下の世界とは、この村のことだ。
今彼らはサコツの提案どおりに村を覗きに来ているのだ。

村の上空から聞こえてくるトーフの悲鳴に顔を上げる村人の姿が見えた。


「あら、しまったわね。相手に見つかっちゃったわ」

「うわああああああ」


ブチョウが冷静にものをいい、トーフが悲鳴だけで返す。
村人はそんな2人の姿を見るとある表情を作っていた。
それは 笑顔 だ。


「あ、あの人は猫さんなんだね!」

「鳥さんもいるわよ!」

「お〜い!そんなところにいないでこっちにおいでよ〜」


下から村人の陽気な声が聞こえてきた。
しかも誘われるなんて思ってもいなかったため、思わず叫ぶのを止めて下を見た。
そして、見てしまった。
村人の姿を。


村人は……



+ +


「はあ?!!何それ〜!!」


村を覗きに行ったトーフとブチョウの話を聞いて、まずチョコが悲鳴に近い声を上げた。
続いてソングが素敵に表情を顰めて


「ふざけているにも程があるぞ。何だそれ」

「ええ?そしたら僕らもそうならないといけないわけ?」

「は?どういう意味だ?それ?な、教えてくれよ?」


おバカなサコツにはあまり理解できなかったらしい。
クモマが顔色変えて、篭った声で教えてあげた。


「つまり、こういうことだよ」


肩を竦めて


「僕らは今から動物にならなくちゃいけないんだ」


そして大きくため息をついた。
しかしそれでも理解できなかったらしくサコツはまた問う。


「動物になるってどういう意味だよ?」

「一回で理解しろよお前は!どこまでバカなんだ!」

「バカなのが俺の取り柄なんだから仕方ねえだろ!」

「そんな取り柄、取り消してしまえ!!」


ただでさえ不機嫌なのにサコツはソングを怒らせてしまった。
血管が浮き出てきそうに表情を顰めているソングであるが、質問にはきちんと答えてきた。
怒鳴り声のままだったが。


「動物の耳をつけたり尻尾をつけたりすればいい話だ!ったく、腹が立つ!!」


動物の耳をつけたり、尻尾をつけたり…


「それ、どうするんだ?」

「そんなの簡単だよ〜!」


混乱しっぱなしで眉を寄せているサコツに今度はチョコが身を乗り出してきた。
彼女の手には密かに棍棒が持たれている。
それは彼女の武器だ。魔法を使うときに使うあの武器…。

棍棒を見た者全て固まってしまった。
まさか、チョコは…

そしてチョコはやはり言った。


「私が魔法を掛けてあげるから!」


やはりだ。

ヤバイ!!!

全員が素晴らしい勢いでチョコから離れていくが、すでに遅かった。
地面に先ほどまでなかった模様が描かれていることに気づいたものから次々と歩みが遅くなっていった。

魔方陣だ!!

実はチョコは早々と魔方陣を描いていたのだ。

もう逃げられない、と魔方陣の中で肩を落とすメンバー。
そしてチョコは含み笑いを残したまま


「それじゃー!みんな動物にな〜れ〜!」


棍棒を魔方陣に突き立て、魔法を発動させた。



+ + +


村の中に入ると、驚いたことに村人から歓迎された。


「あ、さっき空にいた猫さんだ!はじめまして!」

「他にお友達いたの?あら〜可愛い子ばかり!」

「あれ?鳥さんはいないのかな?」

「皆さんこの村でごゆっくりしていってね!」


謎の団体に群がる村人の姿は全員動物の耳と尻尾をつけていた。
魔法に掛かっても変わらなかったトーフが苦い表情でそんな村人に返す。


「おおきに。ゆっくりしていくわ」

「きゃ〜!その口調!めっちゃプリティじゃん!もらいたい〜!」

「この猫、私もほしいわ!」

「ええー私はこっちのタヌキさんの方が好み〜!」


そして村人に腕をつかまれたのはクモマであった。


「違う!僕はタヌキじゃなくてクマだよ!」


クモマは魔法に掛かりクマになっていた。しかし、村人の言うとおり彼はタヌキの方に断然似ている。
しかも尻尾は大きくて丸い尻尾…タヌキの尻尾であった。

喚くクモマを楽しそうに見ているのはウサギ耳をつけているチョコ。


「ゴメンねー。私の魔法って気まぐれだから誰がどんな風になるかとか分からないんだ〜」

「な〜っはっはっは〜!俺はこれでいいぜ!気に入った!!」


隣でおなじみの笑い声を出しているのはサコツ。
大きい尻尾がクルっと巻かれている、そんな特徴的な尻尾をしている彼はリスになっていた。
そんなサコツの姿を見てツッコミを入れ忘れないのはソングだ。


「おい!お前はリスなのかよ!」

「ぴったりだろ〜」

「いや、全然」

「んな〜に言ってんだ!…あ、でもソングの方がお似合いだな。それ」

「やめろ!やめてくれ!!」

「な〜カメさん!」

「うわああ!!!!」


カメの甲羅を背中につけているソングは泣き崩れてしまった。
まさかこんな惨めな姿になるとは、彼も哀れである。
そして丸くなったソングの背中に足を乗せるのは、いつも偉そうなブチョウ。


「の〜ろま〜なカ〜メさん」

「言うなボケ!!ってか踏むな!立ち上がれないだろ!」

「カメぼんは甲羅の中にでも隠れていればいいのよ。」

「何でだよ!ってか何だよ!カメぼんって!」

「ねえ、ブチョウ。キミは一体何の動物なんだい?」


踏み台にされているソングに気づかずクモマが普通に訊いてきた。
ブチョウは、見て分からないの?といい、


「私はキツネさんよ」


と、ありえない答えを返していた。
彼女は頭から変な触角が生えているのだ。こんなのキツネではない。
それにもちろんクモマが鋭くツッコミを入れていた。


「いやいや!それはキツネじゃない!それは動物でもなんでもないよ!」

「そうね。アフロ頭じゃないっていうのがダメね」

「いや!アフロは関係ないよ!動物にアフロは関係ないから!!」


賑やかなその場には見る見るうちに動物になりすましている村人が集まってきていた。
ここの村人は人が善いらしく、広い心で接してくれた。


「村の見学ですか?皆様。それでしたら我がタワーにお越しください」

「いや、写真館においでください。お姿は記念にとっておくべきです!」

「……あぁ、買い物だけでいいですよ…」


商売のいい村人にクモマが疲れ果てた表情で返す。
村人は残念そうに自分の頭についている作り物の動物耳を下げて、悲しい表情をとる。
何なんだ。この村は…。

それから無事村人から逃げることの出来たメンバーは、クモマの言ったとおりに買い物をしに村の中央の街へと出かけていったのだった。







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我ながら恥ずかしい話だな。これ…(汗

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