もうダメかと思った。

ロープを切られる直前にブチョウが武器のハリセンを取り出し、地面を叩いたため
自分らは無事生きることが出来た。

ブチョウがあのとき、お得意の召喚魔法でクマさんを呼んでいなければエレベーターは落ちていただろう。


「ふん。私を誰だと思っているのよ。魔物め」


ブチョウが上にいる魔物に向けて言い放つ。
メンバーらは何故自分たちが無事なのか上手く理解できていない。
クマさんが出てきたというだけなのに何故落ちずにすんだのだろうか。

真実はクマさん自身が語ってくれた。


『僕は超能力が使えるのさベイビー。僕のこの"念力"を使えば、物が宙を浮くことも可能なのさベイビー』


やはり腹の立つ口調であった。

ロープを切られ、支えがなくなったエレベーター。
本当ならば落ちなければならないのに何故か落ちないで場を留めている箱の姿に、上にいる魔物も驚いた様子だった。


『な、何故落ちないんだ?!』

「ばーか。あんた私たちを舐めているの?」


魔物の叫びをブチョウが鎮める。
ただでさえ狭い空間だったのにクマさんが出てきて更に密度も濃くなった。
ほぼ全員がクマさんに押しつぶされそうになっている。


「おいおいおい〜。このクマさんちょっくらでかくねーか?」

「潰れる潰れる…」

「ちょっとどいて〜!」

『無理を言わないでおくれよお嬢さん。僕はキミたちを助けるためにここに呼び出されたんだからさベイビー』


文句を言うメンバーにクマさんがのん気に言う。
こいつが超能力を使えるという風には見えないのだが。
以前は透視も出来ていたし、このクマさんはある意味最強なのかもしれない。
顔も顔だし…。


「ブチョウ!あんた戦ってくれへんか?!」


メンバー全員がクマさんに押しつぶされそうになっているため
トーフが平気で仁王立ちをしているブチョウにお願いするがブチョウは首を振って否定する。


「召喚は一体しかできないのよ。今クマさん出している私にはこれ以上何も出来ないわ」


普段ハリセンでバンバン敵を打っている奴の台詞だろうか。
しかし文句を言うと腰を打たれそうなのでトーフは黙り込んだ。

ひっくり返っているソングが言う。


「くそ!俺が戦う」

「あんたは無理に決まってるやないか」

「誰か起こしてくれ…!」

「こっちもそれどころじゃないよ!クマさんに押しつぶされそうになっているんだから!」

「そうよ!ねえ一体誰が戦うの?!」


チョコの叫びは虚しく響き、それから刹那の出来事。
エレベーターの天井が破られ、狭い空間に破片が散らばったのだ。
そして魔物が穴から顔を出してきた。


『だはははは!戦いに来ないのならこっちから来てやる!』


見て分からないのか、こちらにはクマさんという巨大且つ変な物体がいるのだ。
戦えることすら出来ない。
しかも戦う場所もない。
果たしてどうしろというのだ。

そのとき、クモマが叫んだ。


「お願いだから今回は引き下がってくれないかい?今この状況では無理だよ。相手にしてられないよ」


しかしその言葉は逆に魔物に怒りを持たせた。


『引き下がれ、だと?ふざけるんじゃないぞラフメーカー。だはははは。何だ?この俺様が怖いのか?だはははは』

「!」

「誰がてめえなんか怖いか。さっさと失せろ」

『ひっくり返っているカメのいう台詞か?だはははは』

「笑うなよ…お願いだからこの姿を見て笑わないでくれ…」


いじけるソングとは裏腹に腹を立てているのはチョコ。


「いいから早くここから去ってよ!一般乗客もいるんだから!」


そして猫耳姿のお姉さんに目を向けた。
お姉さんはクモマにもたれ掛かってグッタリしていた。

しかし魔物は一方に引き下がってくれない。


『だはははは!どいつから殺そうか。どいつから』

「黙れ魔物」

「あとで相手してやるからよー今は引き下がってくれ。他の人を巻き込みたくないんだぜ」


お願いするメンバーを見て魔物は笑う。


『だははは!愚かなものだなラフメーカーも。そんな心配しなくても今ここで殺してやるから安心しろ』

「…!」

「黙れ、魔物…」

『だははは!』

「黙れって言っているだろう!!」


狭い空間に大きな怒鳴り声が響いた。
クモマだ。

クモマは気を失っているお姉さんをその場に寝かせ、
知らぬ間にクマさんの上に乗っていた。
そのおかげで下で押しつぶされそうになっているメンバーはより沈んだ。


「ここは一発僕が黙らせるよ。いつまでたってもこの状態でもキツイから」


クモマの勇敢なる言葉に全員が頷いた。


「任せたクモマ」


クモマも頷き返し、それから魔物と向き合う。
自分で作った穴から頭だけをひょっこり出している魔物は見ているだけでも腹立たしく見えた。

そんな格好で頭に血が上らないのだろうかという状態で魔物が生意気なクモマに言った。


「そんなヒョロっとした体のお前に何が出来るというんだ。それだったらそこでひっくり返っているカメの方が…」


まだいい終わってもいないとも関わらず魔物の声は爆風で消えてしまった。
クモマが魔物の顔目掛けてこぶしを振り上げたみたいだ。
鼻を殴られ、魔物は勢いでエレベーターより高く上がる。
クモマもクマさんのおかげで楽にエレベーターの上に上がり、浮き上がっている魔物をまた勢い良く殴りつけた。
エレベーターに被害がないように上に目掛けて、だ。

メンバーは飛ばされている魔物を、作られた穴から黙って見ていた。
いや、唖然として見ていた。


「クモマってよー、戦うときになると…いろいろすげーよな」


サコツの感想に全員も同感していた。


それから間もなくして、上からエレベーターの中に魔物が落ちてきた。
クモマがそこ目掛けて軽く叩きつけたようだ。
すぐにクモマもエレベーターの中に戻ってくる。

突然現れた魔物にメンバーはビクっと反応するが、気を失っているのに気づいて、安堵をついた。


「懲らしめてきたよ」


クモマが後頭部を掻きながら面目ない、と言うように。


「…ちょっとやりすぎたかな…」

「いや、助かったで。魔物を倒してくれたおかげももう安心や」


トーフが笑顔で返した。
それにクモマも一安心したようだ。
グッタリしている魔物を見てチョコやサコツは硬直している。


「早くこの魔物退かさないとまた暴れるかもしれないな」


ひっくり返ったままソングが魔物を睨む。
しかしブチョウが首を振って、別な意見を言った。


「その前にエレベーターを何とかしないといけないわ。ロープも切られているんだし」

「そ、そうだったね」


そういえばこのエレベーターはロープが切られ支えがなくなっているのだ。
クマさんが"念力"によって浮かべている状態だ。
クマさんを仕舞ってしまえばエレベーターは逆さまに落っこちてしまう。


「どないするんや?ロープ切られたんやからどうしようもないやんか」

「そ、そうよ!」


チョコがエレベーターの大半を占めているクマさんに向けて言い放った。


「どうにかできないの?元通りに戻せたり出来ないの?」


それにクマさんは、いつもの口調で返す。


『できるさベイビー。キミがそう願うのならしてあげるよ。僕は可愛いレディの見方だからね』


うっわー。ムカつく、その口調。


「え?本当?ロープ元に戻るの?」

『僕は何でも出来るのさ。キミのためなら何でもしてあげるさベイビー』


クマさんに気に入られてしまったのか、チョコに対し爽やかに優しいクマさんに
チョコは複雑な表情を作っていた。
対し、その飼い主は


「何言っているのよ!クマさん!あんたは私のものでしょ!」


嫉妬していた。


『僕は可愛い子には目がないのさベイビー。だけどブチョウさんのことも好きなのさ〜』

「何よそれ。ハッキリ決めなさいよ!二股は許さないわよ!」

『僕はレディは平等に愛するのさ〜』

「そんなの許さないわ!私だけを愛しなさい!」

「「どうでもいいから早く元に戻せよ!!」」


いつまでたっても言い争っているブチョウとクマさんに、メンバーが口をそろえて一斉に叫んでいた。


+ + +


それからクマさんの力によって無事もとの状態に戻ったエレベーターは
通常通りに動いてくれた。
クマさんを仕舞い、密度が一気に減ったその場に全員がへなっと座り込む。
何だか一気に疲れてしまった。
何ていうかクマさんの姿を見ても冷静になってしまっていた自分らに少し悲しくなる。

この魔物をどうしようか話し合った結果。また暴れだしたら危険だということで
魔物を消すことにした。
クモマはこれ以上魔物を傷つけたくないと喚いていたため、この作業はトーフがすることになった。
糸で絡め、そして勢い良く縛り上げると魔物はパンっと小爆発し、ここから消えた。


そして目的地の5階に着いた。
気を失っていた猫耳お姉さんを抱えて近くにあったベンチに寝かせ
メンバーは"ハナ"探しに取り掛かる。


「"ハナ"はどこにありそう?」

「…この辺りやわ。この階にあるみたいや」

「お、やったじゃねーか!なら早く探そうぜ!」

「…ずっとひっくり返っていたから頭がクラクラするな…」

「カメさんはやっぱり歩きものろいのね」

「違う!久々に立ち上がったから上手く歩けないんだ!」

「の〜ろま〜なカメさ〜ん、こっちまでおいで〜」

「………どうせ、俺はのろまなカメさんだ…」

「わー!ソングがいじけちゃった!!!!」


突然座り込んでしまったソング。
カメだ、のろまだと言われついにはへこみ込んでしまった。
それの原因であるブチョウは平然と眺めている。


「はあ、メロディ…。俺はついにカメになってしまった…こんな姿お前に見せたくねえよ……はあ…」


ああ、もうダメです。彼は重症の模様です。
愛しの彼女に懺悔をし出しました

見ていて辛くなったクモマが手を差し伸べる。


「ソング、早くこの村から出よう。そのために"ハナ"を探そうよ」

「…何だか俺、最近情けないところしか見せていないような気がするが気のせいか?」


気のせいです。

クモマに慰められ立ち上がるソングを見て、メンバーの歩みは再開した。
タワーの5階をうろつき回る。
外を見てみるとさすが5階。高い位置から村を世界を見渡すことが出来る。
チョコが楽しそうに眺めていたので、全員も一緒に眺める。


「うわあ。すごいねー。やっぱ高い位置だといろいろ見えるね」

「だよねー!すっごーい!こんな高いところ初めて上ったよ私〜」

「…この村の付近はあまり村がないな」

「………もう"レッドプルーム"は見えないのね…」


それぞれが感想を述べる。
ブチョウは故郷が見えなくなって少しだけ寂しそうだ。

爪先立ちをして遠くを眺めているサコツの目に何かが映ったらしく、より身を乗り出した。


「何か見えるぜ、向こうの方に何かが」

「どれどれ?」


全員が詰め寄せ、それを見ようとする。
すると微かに見えたのだが、それが一体何なのかが分からなかった。
この中で2番目に目がいいチョコには見えたらしく、声をあげる。


「あ、あれって」


より爪先立ちをしてチョコが目を輝かせて言った。


「温泉?」

「「温泉?」」

「うん!」


言われて見ると分かるような気がする。
メンバー全員して爪先立ちをして、身を乗り出す。

白い湯気が濛々とたっているその場所は、確かに"温泉"のように見えた。


「温泉かあ、いいねー。久々に入ってみたいもんだね」

「うんうん!私温泉に入りたいな!ずっとお風呂入っていないんだもん!」

「そやなー。温泉もええなー。でもワイ泳げへんのや…」

「泳ぎは関係ないと思うぞ?!まあ俺も確かに入りたいな」

「な〜っはっはっは!温泉って何なのか知らねーけど、いいんじゃねーかー?」

「全くしょうがないわねー。みんなが入りたいというなら連れて行ってあげようじゃないの」


何気に仕切りだすブチョウであったが、メンバーはその言葉に大いに賛成していた。
早く温泉に入ろうということで、メンバーの動きは先ほどより早くなり、
やがて店で売られていた花の"ハナ"を見つけた。
そしてひょうたんに入っている"笑いの雫"を使って"ハナ"を封印した。

それからメンバーは「温泉、温泉〜」と騒ぎながら、早々と村から出て行ってしまった。





同じ頃、猫耳をつけたお姉さんがベンチの上で目を覚ましていた。


「うぅん……あれ?あの人たちは…?」


キョロキョロあたりを見渡して、メンバーの姿がいないということを確認すると


「…ちぇ、逃げられたかっスか」


今までと違う口調になった。


「まさかうち気絶してたっスか?イヒヒ、気を緩めていたっス」


周りに人がいないということも確認したうえで、お姉さんは軽く1回転をして
元の姿に戻った。
それは狐色の髪をした女の姿であった。


「また今回も逃げられたっスか。でも次は必ず…チョコを手に入れるっス」


イヒヒと特徴的な笑い声を発しながら、彼女はまた1回転をして、虫の姿に化けると、早々とこのタワーから出て、村からも出て行った。







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後半辺りから気づきました。
動物耳と尻尾、関係ねー!!って(笑

約束どおり書いてきました。動物耳と尻尾をつけたメンバーの絵。
動物耳と尻尾をつけたメンバーの絵

最後に出てきた狐色の髪の女、誰か覚えていますか?
覚えていない人は17の話を読んでみよう!


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