村の中央にある豪華な街の出入り口にはたくさんの人がいた。
拳銃などの武器を持った村人たち。
個性溢れる格好をしたラフメーカーたち。

それらの視線は全て目の前の2体の魔物を庇っているボンビ兄に向けられている。


「…お、おい、冗談はよせよ?」


サコツが群れから一歩前へ出る。
ボンビ兄を魔物から離そうと促せるが、ボンビ兄は両手を広げて首を振った。


「冗談じゃない。これはおれの父ちゃんと母ちゃんなんだ」

「え…っだ、だってどう見たって魔物じゃないか?」



真剣な目をしているボンビ兄に釘付けのクモマが戸惑いを隠せないまま訊いた。
先ほどまで魔物と戦っていたブチョウは眉を寄せっぱなしだ。
ずっと首を振りっぱなしのボンビ兄に対しソングが呆れ顔を作った。


「全くだ。こんなときにウソをつくな」

「ウソなんかじゃない!父ちゃんと母ちゃんは突然魔物になってしまったんだぃ!」

「い、意味分からないよ…」


「ふははははは!そうだ。このクソガキの言うとおりだ」


険悪な空気が流れる中、村人の1人が高笑いをしだしていた。
メンバーの目線がそちらへ移される。
そこには村人の1人が笑い続けていた。


「ふははははは!このクソガキの両親は突然魔物と化したのだ。ふはははは!不運だったな」

「………っ」


ボンビ兄が無言になって俯いたのに気づいたサコツが大きく反応する。


「おい!それ笑い事じゃねえだろ!」

「ふはははははははは!」

「だから笑うなって!」


サコツが注意をするが村人の笑いは治まらなかった。
元両親を庇っているボンビ兄に対し村人は笑うのだ。
1人の村人から2人、3人、10人と笑う人々は増えていく。
ボンビ兄の後ろにいる魔物も唸り声を上げて威嚇をしている。


何なんだ。ここは?
何でこんなにも人々は笑うのだ?
ここはもう"ハナ"に侵略されてしまっているのか?

頭が可笑しくなりそうだ…。

嫌な汗が自然に出てくる。
その汗は額から流れ頬を伝って顎から滴り落ちる。

そして


「笑うなって言ってんだろ!!!」


その汗を流していたクモマがその場を鎮めた。
突然の怒鳴り声にシンと鎮まり返ったその場。
回復魔法で傷を癒し終えたらしくクモマは村人に対して勢いよく叫んだ。


「何で笑うんだい!これは笑うところじゃないじゃないか!あなたたちの村の仲間が魔物になったのに何でそれに対して笑うの?!」

「ふははははは!この魔物は仲間さ。我々の仲間だ!」

「?!」

「身分の高き仲間。この小汚いクソガキとは違ってこの魔物は身分が高い」


この"身分"は一体どれが基準で決められているのだろうか。
魔物のことを身分の高いものという村人の考えがよく分からなかった。
クモマは叫ぶ。


「ふざけるな!何が身分だ!身分身分ってうるさいんだよ!」

「おやおや口が悪いですよ。身分の低いものの仲間のくせして何我らをののしって言うんだ、このけだものめが!」

「…っ!」


非常に殴りたかった。しかしクモマは殴らなかった。
殴れなかったのだ。

ブチョウがすでに殴っていたのだから。

ブチョウの鉄拳によって頬が潰れた村人は大胆に転げた。
そして驚いている様子だった。
メンバーもまさかブチョウが殴るとはと目を疑う。

手にはまだこぶしを握りしめたままのブチョウが村人全体を睨んで言う。


「次はどいつを殴ればいい?」


ハスキーな声は凛とその場に広がった。
こぶしを村人に向けると村人は一歩と後ずさり。

ブチョウの質問にクモマが答えた。


「もう殴らなくていいよ」


ブチョウの作ったこぶしをクモマの手が包み込んだ。


「気が済んだよ。ありがとう」


彼女のおかげで気分が治まったと微笑むクモマにブチョウは


「どうしたしまして」


微笑で返した。
その間に村人は叫ぶ。


「いってーじゃねえか!けだものめ!何をしやがる!身分が低いくせに!」

「おい!お前らにはそんなに"身分"というのは大切なのか」


今度はソングだ。
頬を殴られ倒れている村人に近づいて、思い切り腹を踏み潰した。
ごえっと苦しそうに悲鳴を上げる村人。


「さっきから腹が立つこと言いやがって。このまま死にてえか?」

「おいおい、やめろよソング」

「そうよ。あんたの非力じゃこいつが死ぬはずないわ」


サコツとブチョウに止められソングは足を村人の腹からどかした。
しかし顔は睨みっぱなしだ。

サコツがボンビ兄と向き合った。
するとボンビ兄はビクっと驚き顔を強張らせながら元両親を庇っていた。


「大丈夫だから、ほら、こっちに戻って来い」


しかしボンビ兄は戻らない。


「そいつらがお前の父ちゃん母ちゃんっていうのは分かったからよー、早く戻って来い」


サコツにはひしひしと感じていたのだ。
あの魔物に"心"っていうのがあるのか、というのを。
もしなければ、両親は魔物と同じだ。牙をむいてくるだろう。
それが怖かったのだ。

手で招いてボンビ兄を誘き寄せようとする。ボンビ兄は拒否する。


「父ちゃんと母ちゃんにもしものことがあれば…!」

「大丈夫だから。もう俺たちは戦わねぇ」

「嫌だ、これ以上傷つけないでやってくれよ!」

「もう傷つけないって。だからこっちに戻って来い」

「何で戻らなきゃいけないんだ!」


ボンビ兄がそう叫んでいるときに、サコツは見た。
魔物が危ない目でヨダレを垂らしてボンビ兄に牙を向けていたのを。

予感が的中してしまった。
早くボンビ兄を助けなくては!
しかしサコツは負け腰。戦いたくなかった。


「ボンビ兄ー!!!」


武器を手に持たず、サコツはボンビ兄を強引にこちらに引き戻すために手を伸ばした。
それによってボンビ兄は無事にこちらに戻される。
続いて悲鳴が響いた。
それは魔物の声であった。


「………危ないなぁ」


クモマの声が聞こえてきて、サコツもボンビ兄もそちらを見る。
そこには頭が地面にめり込んだ魔物と、その上に乗っているクモマがいた。
すぐにもう1体の魔物も襲い掛かってきて、クモマは腕に傷を負いながらもこちらも押さえつける。


「クモマ!」


サコツが叫んだ。
しかしその声はボンビ兄の怒りの声で掻き消されていた。


「何しやがるんだ!てめえ!おれの父ちゃんと母ちゃんに何てことするんだ!」


サコツの手から抜けてボンビ兄はクモマに向けて走ってくる。


「何しやがるんだ!何しやがるんだ!何しやがる…っ!!」


そしてクモマの腕に噛み付いていた。


「おれの父ちゃんと母ちゃんに!何をしやがるんだ!!」


クモマの腕に噛み付いているボンビ兄の姿にメンバーは唖然としていた。
対して噛まれている本人は、ボンビ兄を睨んでいる。
やがて魔物に手を出した理由を告げた。


「あんなのがキミの両親なのかい?」


それはあまりにも残酷な言葉であったが言葉にも理由があった。


「自分の息子に牙を向けるなんてあんなの親のすることではないよ」

「…」

「ゴメンね。キミを助けるために僕は仕方なく手を出したんだ」

「…」

「そこから離れなよ。また魔物が襲ってくるよ」


それでもボンビ兄は離れなかった。


「お願いだから離れてよ。危険だよ?」

「…」

「怪我するから、早く……」

「…」


それはまだクモマがボンビ兄を説得している最中であった。
魔物ことボンビ兄弟の両親が身を起こしてまたこちらに襲い掛かってきたのだ。


「っ!!」

「父ちゃん!母ちゃん!」


ボンビ兄は叫ぶ。大好きな両親のことを叫ぶ。
しかし届かない。息子の声は届かなかった。
鋭い爪をこちらに向けてくる。


「危ない!」


クモマが荒くボンビ兄を振り落とし、魔物の動きを止めさせる。
クモマには武器がないため、体を張って止めさせる。
魔物2体からくる攻撃をかわすのは結構辛かった。


「父ちゃん!母ちゃん!」


ボンビ兄は叫ぶ。それなのに届かない。


「おれらのこと忘れたのか?父ちゃん母ちゃん!お願いだから…」


そのときであった。
街の出入り口の前に立っている3人の影に気づいたのは。
3人の影はこちらにやってくる。
そのうちの1つの影が服の裾から糸を出して魔物を止めているクモマに加勢しだした。


「大丈夫か?クモマ。みんなも無事なんか?」

「みんな、遅れてごめんね!」

「あんちゃん!」


それは"エバーダーク"の中にいたトーフとチョコとボンビ弟であった。
そしてボンビ弟は魔物の存在に気づいて叫び声を上げる。


「わー!父ちゃんと母ちゃん〜!!」


糸で魔物の動きを封じているトーフに、父ちゃんたちを傷つけるなと怒鳴るが、トーフは不敵な笑みで返した。


「大丈夫やねん。傷つけはしないし、これ以上こんなことしなくてもよくなるで」

「トーフ!チョコ!ボンビ弟!」


ようやく3人の影に気づいたメンバーはバラバラにそれぞれの名前を呼んでいた。
それらに答えずチョコがトーフに答える。


「うん、これがあるからもうこの村も大丈夫ね」


そう言うチョコの手には見慣れぬものが持たれていた。
目を凝らしてそれを見ようとするソングの隣にいるのは視力5.0のサコツ。彼はそれを見るなりこう叫んでいた。


「"ハナ"?!」


植木鉢に植えられている花は見た目普通の花であるが、明らかに何かがおかしかった。
その花は何故か糸で全体を巻きつけられている。そのため不自然な形になっていた。


「そう!これは"ハナ"よ」

「おい、何でそんなにぐるぐると糸が巻きつけられているんだ?」


凡人のソングには糸の存在も見えなかったため、見るのを半分あきらめているようだ。
サコツの問いにチョコは苦い表情を作って


「この"ハナ"、こうやって糸で巻きつけないと、中のものが昇天されちゃうかもしれないの」

「…え?」


言っている意味が分からず首を傾げる。
トーフが魔物を糸で捕らえ巻きつけている中、チョコは真実を言った。


「実はこの"ハナ"を持っていたボンビ兄弟の両親はこの"ハナ"の中に封じ込められていたの。だからそこにいる魔物は"魔物"なの。本当の両親はこっちの"ハナ"の中にいるのよ!」


それは驚くべき真実であった。
メンバー全員とボンビ兄弟が驚きの声を上げる。


「えええ?何だ〜それ!そしたらこの魔物は本物なのか!」

「…それだったらさっさと殺したほうが」


ソングの言葉を聞いてトーフがすぐに口をはさむ。


「それはあかん!魔物はボンビ兄弟の両親の体を乗っ取っておるんやで。もしそのまま魔物を倒してしもうたら"ハナ"の中におる両親は帰るところをなくしてしまうわ」

「…マジでかよ」

「それじゃーよーどうすればいいんだ?」


サコツが訊く中、トーフは魔物を糸で完璧に捕らえて、自由を奪っていた。
そしてクモマに頼み、魔物2体を抱えてチョコがいる方へと向かってもらう。
残りのメンバーも一緒についてきた。
やがてメンバー全員とボンビ兄弟が集まったところでクモマは魔物を下ろした。

気を失いかけている魔物2体を眺めながらトーフがこれからのことを語る。


「今回は"ハナ"に雫を掛けんでこっちの魔物の方に掛けるんや」


まさかそういう展開になるとは、と目を丸くするメンバー。
糸に巻かれている"ハナ"に目を移して


「急がんとボンビ兄弟の両親はあのまま昇天してしまうわ」


"ハナ"に糸を巻いている理由は、"ハナ"に封じられていたボンビ兄弟の両親が危険の状態にあったからだ。急がないと昇天してしまうらしい。

それを聞いて強張った表情を取るボンビ兄弟。


「それじゃあ早く消さないといけないわね」

「そうなの!急ごう!ボンビ兄弟のためにもね!」

「一体"ハナ"は何処にあったんだ?」

「"エバーダーク"っていう森の中にあったのよ!」

「え?そこって危険な森ってところじゃなかったっけ?」

「そうなんや。えらい大変やったわ」

「出口がどこかわからなくて本当に困ったよねー」

「全くやねん」

「それは大変だったね。ご苦労様」

「俺はてっきりトーフ売られてるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたぜ」

「あんな奴売れん」

「凡よりは価値があるに決まってるわ」

「クソ!また俺に対して反論したな!」

「凡、あんたは頭が濡れて力が出なくなるパン並に役立たずなんだから首を引っ込んでいなさい」

「…それは…言いすぎだろ……」

「ってか、ワイそろそろ腹減ってきたわぁ」

「そうだね。今日こそは肉を食べたいな」

「俺はキュウリがあれば許す」

「私はサルさえ盛ってなければ何でも食べれるわ」

「普通どの料理にもサルは盛っていねぇよ」

「「ってか早く父ちゃんと母ちゃんを助けてくれよ?!!!」」


大きく話がそれていくメンバーにボンビ兄弟は突っ込んだのであった。



+ + +


そういうことで、魔物に雫を掛けて両親に乗り移っていた魔物を昇天させ、無事に退治することが出来た。
"ハナ"に巻きついていた糸を解し、"ハナ"を自由にしてやると、"ハナ"の中に封じられていた両親の魂は無事に自分たちの元の体へと戻っていった。
魔物化された体であったが、持ち主の手に渡ると元の体に戻った。

その場に現れたのは、2人とも優しい顔をしたボンビ兄弟の両親だった。

ボンビ兄弟は両親の姿を見るとすぐに泣きじゃくっていた。
2人で両親の胸に飛び込み、今までの辛さ寂しさ恋しさをぶち込んだ。

両親も嬉しそうに泪ながらもこう言っていた。


「私たちのこと忘れずにいてくれてありがとう。モズク、メンタイコ」


+ +

「よかったねー。ボンビ兄弟の両親が元に戻ってくれて」

「本当だね。それにしても今回の"ハナ"には驚いたよ。あぁいうタイプもあるんだね」

「そや。"ハナ"は村によって症状が違うからな。気ぃつけへんとあかんわ」

「そっか!まあ今回は無事救えたからよかったじゃねーか!」

「あぁ。あのイカレ狂った村人も元に戻ったみたいだしな」

「もっとたくさん殴っていればよかったわ」

「や、やめなよ。ブチョウの鉄拳は見ていて怖かったよ」

「それクモマが言う台詞ぅ?」

「まあ、それはええとしてそろそろ村から出るで」

「そうだぜ!次に行こうぜ!次〜」

「次はもっとのんびりできるところがいいな…」


ボンビ兄弟の名前が「モズク」と「メンタイコ」ということにはあえて誰も何も言わなかった・・・。

そしてラフメーカーは村から出て
次の村を救うために旅を続ける。








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