汚い道を歩いていく。
ゴミなど様々なものが散乱しているこの道をラフメーカーたちが歩いていく。
ボンビ兄を先頭にして。


「この村を戻す方法があるって本当なのかあ?」


メンバーから事情を聞かされ、ボンビ兄は驚きの表情でこちらに顔を向ける。
クモマが頷いて答えた。


「うん、たぶんだけどね。"ハナ"を消したらもしかしたら前のように平等な村に戻るかもしれないよ」

「んだんだ。俺らがちゃんとこの村を戻してやっからよ!」

「…まだこの事件が"ハナ"の仕業なのかわからねえがな」

「子供の夢を壊すようなことを言うんじゃないわよ。将来カバ男のくせして」

「俺の夢を壊すようなこというんじゃねーよ!!しかも俺の将来に一体何があったんだよ!カバ男って!」

「お?ソングってカバになるのか?頑張れよ」

「応援するな!」


ワイワイ騒ぎながら豪華な街へと近づいていく。
しかし一方に道は綺麗にならない。そんなにもこのスラム化したような場所は広いのだろうか。


「それにしても、まだ街にはつかないのか?」


ソングが表情を顰める。
それを聞いて


「ずーっと遠くって言ってたけどよー。一体どのぐらい遠いんだ?」


サコツが前を歩いているボンビ兄に訊ねた。
ボンビ兄が不細工に笑い声を上げた後


「まだまだ時間は掛かるぜ!」


ニカっと生意気な笑顔を作って


「だって、道に迷ってしまったからな!」


そう言い切ったのだ。


「「…おおおい?!!」」


暫くの沈黙の後、メンバーが金縛りが解かれたかのように一斉にツッコミの声をあげていた。



+ + +


不気味に暗い森の中、チョコは速さを緩めず走っていた。
彼女に追われているボンビ弟はトーフを担いでいる分疲れも先に出たようだ。呼吸を激しくしている。


「まあてええ!!」


ボンビ弟の動きを少しでも鈍くしようとチョコは威圧を放ちながら叫ぶ。
しかしそれでもボンビ弟は頑張って走るのだ。


「ぜえ…ぜえ…くそぉ…」


いつまでたっても後を追いかけてくるチョコに悪態をつくがそれでも走りはやめない。
苦しそうに息を吐きながら更に奥へと走っていく。
ちなみにトーフは、あまりにもグルグル回っていく世界に目を回してしまい気を失っているようだ。


「……ぜえ…ぜえ……」


さすがに疲れてきた。
ボンビ弟の速さは徐々に緩やかになっていく。
チョコはそのチャンスを逃さない。更にスピードを増していた。


「…ぜえ…何で…まだ走れるんだ……?」


全く疲れを見せていないチョコにボンビ弟は疑問を抱いた、そのとき


「捕まえたーーー!!!」


本当に彼女は素早かった。すぐさまボンビ弟の背後に着き、そして捕まえたのだ。
勢いで抱きつかれて、そのまま倒れこむ二人。


「だああ!!」


悲鳴を上げるボンビ弟。
対しチョコは力を緩めずボンビ弟にしがみ付く。


「逃がさないよ!…もう…逃がさないっ!」


彼女も疲れていたようだ。
言葉がところどころ突っかかっている。空気を取り込むのに忙しいのだろう。
ボンビ弟もしがみ付いているチョコを振り落とす気力さえ残っていないらしく、ぐったりと倒れていた。


「……ぜえ…ぜえ……もう疲れたぁ…」

「私もだよ…あぁ久々にこんなに走った…」

「おれもだぜぃ……」

「…じゃ、トーフちゃんは返してもらうよ」


そしてぐったりしているボンビ弟の腕の中にいたトーフに手を伸ばそうとするチョコ。
しかしボンビ弟はそれを拒否した。


「そうはさせないぜ…こいつはおれらの…もんなんだぜ…」

「ちょっと!」


ボンビ弟は身を起こしてトーフをもっと強く捕らえる。
意地でもトーフを放さないつもりだ。
そしてトーフはまだ気を失っているようだ。

そんな様子のボンビ弟にチョコは怒りを覚えた。


「何考えてるのよ!トーフちゃんは売り物じゃないのよ!」

「…おれらは金がほしいんだぜ…だからこいつを渡さない」

「…生っ意気なガキ〜!!」


歯軋りを鳴らす勢いでチョコがボンビ弟を睨む。
対しボンビ弟はというと、まだ息が荒いとも関わらずその場に立ってトーフを担ぐ。


「それじゃ、おれはこの珍種の猫を売るぜ…」

「そんなことさせないわ!」

「…いいや。売ってくるぜぃ…そして金を手に入れるんだ」

「…っ!」


また走ろうとするボンビ弟の姿にチョコもすぐに追おうとする。
しかしその動きはすぐに止められた。
突然動きを消したボンビ弟はやがてこう口にした。


「………しまった…」


トーフをその場に下ろして


「…道に…迷ったぜ…」



「…えええええ?」


ボンビ弟の告白にチョコは愕然と足を竦めて、肩も落とすのだった。




+ + +


「道に迷ったって…」

「おいおい、そりゃないぜ〜?」

「無責任な奴だな」

「おかげでタンコブできちゃったわ」

「そりゃ関係ないだろ?!」


メンバーからご指摘を受けたのにも関わらずボンビ兄は楽しそうに笑っている。


「わっはっは!道に迷っちゃったぜ!わっはっは」

「笑っている場合かい?!どうするんだいこれから先」

「わっはっは、大丈夫だって!きっと大丈夫だ!」


何とも信用することの出来ない態度だ。
そんなボンビ兄に対しソングはご機嫌を損ねる。


「ふざけているな。こんなガキに道案内してもらおうとしていたのが間違いだった」

「いいじゃねーかよ〜!誰にだって一度は道に迷うことはあるぜ〜?」

「お前の言う台詞か?!毎日のように道迷っているくせに!」

「まあ私の場合は人生の道に迷っているところだけどね。パンチパーマにするかモヒカンにするか」

「誰もてめえの人生について聞いてねえよ!ってかそんなことで人生の道に迷うな!」

「う〜ん…困ったねぇ。道に迷っているところで歩いたら余計迷うかもしれないし」

「だから心配ねえってば!」


心配そうな目をしているクモマにボンビ兄は突っ込んでくる。
耳障りな声でボンビ兄が叫び続けた。


「足を進めればきっと道は開かれる!おれを信じろ!」

「それが道に迷った原因のやつの台詞か!!」

「信じることが出来るはずないじゃんか!」

「全くよね。パンチパーマの方がハーモニカが似合いそうだし、こっちにしてみるわ」

「てめえは根拠がよくわかんねえよ!!」

「…とにかく、これからどうしようか…」


クモマが口先を尖らせる。
これから"ハナ"も消さなくてはならないし、トーフも助けなければならないのに。
こんなところでつまづいていていいのだろうか。
不安になってくる。

やがてその不安はサコツによって解かれた。


「ボンビ兄の言うとおりだぜ!進んでみようぜ!!」


思いもよらない発言に全員が声にならない声を上げていた。
ボンビ兄も肯定されて驚いている様子。

サコツは続ける。


「だってよーここでぐずぐずしてても意味ねえぜ?それによボンビ兄の言うとおりで進めばきっと道は開かれるんだと思うんだ。だから歩いてみようぜ?」


サコツに促され、戸惑うメンバー。


「でも、これで道に余計迷ったりなんかしたら大変だろう?」

「全くだ。ここはもっといい方法を考えた方がいいと思う」

「やっぱりモヒカンのほうがカッコいいと思うわ」

「お前まじめに考えてるか?」

「考えているわよ。だから今真剣に悩んでいるところなのよ」

「何か違うような気がするが…」

「とにかく!僕的な意見なんだけど、ここは一先ず来た道を戻ろうよ」


クモマが考えをまとめたのだが、サコツは首を振って軽く流していた。


「いいや!ここはぜってー前に進んだ方がいいぜ!だってよー戻るなんてカッコ悪いぜ?」


そういう問題なのだろうか?
しかしクモマは何も言わなかった。
サコツの真剣な目を見て言葉を失っていたから。


「とにかく歩いて、自分たちで道を開こうぜ!そっちの方がぜってーカッコいいって!」

「…」


熱く語るサコツにもはや全員が何も言えなくなっていた。
何でそこまで拘るのか。理由はきちんとあった。


「…あとよー。ボンビ兄の考えを否定するのなんて可哀想だぜ」

「「……?!」」


何と、サコツはボンビ兄に味方していたのだ。


「ここは暖かく受け入れようぜ?ボンビ兄は俺らのことを思ってここまで俺らを誘導してくれたんだしよ」


それに誰もが答えられない。

サコツはクモマと違う"優しさ"を持っている。
サコツの場合は仲間想いが異常なのだ。些細なことでもすぐに受け入れようとする。


沈黙になるその場。
しかしサコツが動く。ボンビ兄の腕を引いて。
突然引かれて驚きを隠せないボンビ兄は咄嗟にサコツに顔を向ける。
目が合った。


「自分で道を開くんだろ?だったら道を開けてくれよ」


サコツに無邪気に微笑まれ、ボンビ兄は一瞬心打たれ、そして


「おう!おれらで道を開こうぜ!」


こちらも無邪気に笑って、


「兄貴!!」


サコツに向けてそう呼んだのだった。


それから先頭を歩く二人につられて歩く残りのメンバーは複雑な表情をしていたが、
サコツの子供好きさには思わず微笑んでいた。








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