耳を澄ましてみると、様々な囀りが聞こえてくる。


18.キズナの村


合成獣のバニラから逃げるために車は凄い速さで走ったため、短時間で目的地に着いてしまっていた。
ここは"レッドプルーム"。大陸の南端にある、最も太陽に近い場所だ。


「…ここが、"レッドプルーム"か…」


メンバーは"レッドプルーム"に感嘆の声を上げていた。
"レッドプルーム"とは山だ。滑らかに天に伸びている山。自然も多くて新鮮な空気のある場所のようだ。
はじめて訪れたこの場所にメンバーは興奮していた。


「ねえ、ここには一体何があるの〜?」

「思っていたよりも小さいところだな」

「なあなあ、早速奥へ行ってみようぜ!」


「…………」


全員が車から降り、エリザベスと田吾作と共に山を歩いて奥へ進んでいく。
広がる地帯は木、木、木。
まるで探検をしているみたいだとはしゃぐメンバー。
しかしその中で一人厳しい表情の人がいた。


「………」


ブチョウだ。
先ほどからブチョウは口を慎んでメンバーの後を黙ってついていた。
その様子にトーフが気づく。


「どないしたん?ブチョウ」

「……………」


ブチョウは黙っている。
目線はずっとずっと奥を見て、真剣な目を向けている。
今までに見たことのない表情だ。


「…」


思わず黙り込むトーフ。
対し、他のメンバーは賑わっているようだ。


「奥には何があるのだろうね?」

「でっけー恐竜とかいるんだぜ!楽しみだな〜」

「んなもんいるか!むしろいてもらっても困る」

「何かピクニックしているみたい〜!楽しい〜!!」


メンバーらは、"レッドプルーム"の奥へと足を踏み入れていく。



+ + +


「た、大変です!大変です〜!!」

「どうしたんだ?」

「何者かがこの地帯に足を踏み入れました!」

「何だと!村内放送だ!今すぐ流せ!!」

「はい」

『緊急事態!緊急事態!侵入者発見。"レッドプルーム"に侵入者発見。住民の皆様、至急指定場所へ非難してください!!繰り返しお知らせをします…』

「…ったく、一体どんな奴がこの場所に?」

「団体のようでした。…6人ほどいたかと」

「微妙な人数だな?!…わかった、それでは今すぐ戦闘態勢に」

「タイチョウ!大変です!」

「どうした?」

「あのラブラブカップルがまだ非難していません」

「はあ?!何をしているんだ。あの二人は!」

「何とも『自分らが足止めする』と言っているようでして」

「馬鹿者〜!!今すぐ止めさせろ!」

「無理です!もう侵入者が村の目の前までやってきています」

「も〜!!この馬鹿者がー!!!」



+ + +


メンバーと車は大きな門の下にいた。
どこかの村に着いたようだ。


「"レッドプルーム"には村があったんかぁ…」


トーフが目を丸くして言った。
チョコが身を乗り出して村の中を窺う。


「綺麗なところ〜!ねえ、早く村の中に入ろうよ」

「うん。そうしよう」


頷いて、村の中に一歩踏み入れる。
と、そのときであった。


「うわぁ?!」


メンバーらの前に激しい"風"が吹いてきたのだ。
風力で少し押されるメンバー。
風は更に吹く。


「……侵入者は立ち入り禁止だよ」


怯えているような、しかし聞き取りやすい声で誰かが風と共に言った。
前を見てみると、そこには男女が立っていた。


「この村に一体何の用で来たの?」

「ここからすぐに立ち去りなさいよ」


男が弱弱しく、女が厳しく言い放つ。
メンバーは二人が出している激しい風に目を眩んでいる。

どうしようかと悩んでいる、ときであった。


「待ちなさい!二人とも」


今まで黙っていたブチョウがメンバーらを庇って前に出たのだ。
身を纏っていたマントを払っていつも通りに仁王立ちをする。
ブチョウのマントによって和らいだ風はメンバーに優しく当たり、ブチョウは厳しい風の中、腕を広げて、言った。


「私は、ブチョウよ。覚えてないの?」



ブチョウの主張は村中に響いていた。









それから暫くもしないうちにその場にざわめきが起こっていた。


「ブチョウ!!!」

「ブチョウさんだ!元気でしたか?」

「ブチョウさん〜!!!」

「よかったー。よくぞご無事で!」


次々とどこからか出てくる村の住民らにブチョウは囲まれていく。
メンバーは何が起こったのかと唖然としている。


「ただいま」


そしてブチョウは喜びの表情を少し濁した感じで溢し、村の奥へと行ってしまった。
そこに残されてしまったのは、メンバー。


「一体、何がどうなっているの?」

「…さあ?」


顔を見合わせるメンバーの元に、先ほどの男女が駆けつけてきた。
男が語る。


「ミャンマー、皆さん。すみません。失礼なことしてしまって」

「本当本当。まさかブチョウの仲間だったなんてね」

「あ、あの…」


目の前の二人にクモマが訊き出した。


「ここは一体ブチョウと何の関わりがあるんですか?」


その質問に、男は驚き、女は表情変えずに


「あんたら何も知らないでここに来たの?」


と聞いた。男も同じ意見だったらしく、こちらをじっと見ている。
申し訳なく頷くメンバーに女は呆れ顔を作った。


「全く世間知らずなのね」


大きくため息をついてから女は教えてくれた。


「ここは珍種の鳥族が住んでいる村。鳥族の里よ」


そして二人に誘導されてメンバーは村の奥へと入っていく。



+ + +


「珍種の鳥族、一体どこに住んでるんやろかって思ってたんやけど、まさか"レッドプルーム"の中に村があったとはなぁ〜」


男女に連れられメンバーらはある家の中でくつろいでいた。
男が家の奥からイスを持ち出してきて、足りなかった分を付け足す。
そして、座って。と促されメンバーはイスに座り、テーブルにつく。
それから男は家の奥へと入り姿を消した。

女が上座に座って足を組み、トーフと語る。


「そうよ。鳥族は最も太陽に近い場所へいける動物だから村がここに置かれたの。自然も多くて鳥の私たちにとってはとても住みやすい所だわ」

「なるほどな。ここやったら鳥ものどかに過ごせるもんな」

「なあなあー。何であのとき俺らを村に入れようとしなかったんだよ?」


口をはさんできたサコツに、先ほどまで姿を消していた男が手にお盆を持ってこちらに歩み寄りながら答える。


「いろいろあってね、この村は警備を厳重に行っているんだよ」


お盆に載せていたドンブリをテーブルに置いていく男。
へえー、と頷くメンバーに男は続ける。


「これ、僕の作ったカツ丼なんだけど、お腹すいていれば食べてね」

「うまいで、これ〜」

「食べるの早!!」


瞬食をするトーフに思わず叫ぶ男にお礼を言いながらメンバーも食に励んだ。
…ってか、こういうときに出すものは普通お茶ではないのだろうか…?
と思いつつもモグモグと食べ続け、話は弾む。


「鳥族の村ってことは、ここはブチョウの故郷なんだね?」

「そうなんだよ。ブチョウはこの村の英雄なんだ」

「「英雄?」」


意外な事実にメンバーは一瞬食べるのを止める。
男は笑顔を作って


「そう。ブチョウはこの村の英雄なんだ。だからさっきもああやって歓迎されてたのさ」

「ブチョウが英雄って…?」


信じられないといった表情のメンバーに女が尋ねてくる。


「ねえ。あんたらブチョウの何?何でブチョウと一緒にいたのよ?」


そして女は空っぽのドンブリを男に向ける。
すると男が素早く新しいドンブリと取替え、女の手には2杯目のカツ丼が渡された。
カツ丼をガツガツと豪快に平らげていく彼女の質問にトーフが答えた。


「ブチョウは実はこの世界を救える一人なんや」

「さすがブチョウだな〜。尊敬しちゃうよ」「さっすが私のブチョウ!惚れ惚れしちゃうわ!」


男と女は同時に感想を述べた。この様子からブチョウは本当に慕われているようだ。
果たして何をして英雄になったのか気になるところだが、その前に聞いておきたいことがあった。


「あの、すみませんが、お二人はどちら様で?」

「あ、そうだったねー」


自己紹介するの忘れてたよ、と男がのん気に笑って


「僕はフウ。アヒルのフウです。よろしくね」

「私はヤシロ。ペンギンよ」


そして同時にお辞儀をした。メンバーをつられてお辞儀で返す。


「ワイらはブチョウの仲間や」


トーフは適当にこちらの自己紹介を済ませた。なんて大雑把な性格なんだ…!
しかし気にせずフウは話を続けた。


「僕らは夫婦で、ここで二人で暮らしているんだよ」

「そう!私たちラブラブ」


まだ10代だろうに二人は結婚をしていた。ソングが少し羨ましそうにそんな二人を眺めている。
そんな視線に気づかず今度はヤシロが続けた。


「まあゆっくりしていってよ皆。ダフウ〜お茶持ってきてーお茶ー」

「はいはいー」


命令されてフウはお茶を作りにキッチンへと向かっていく。
この様子から家事は夫がしているようだ。
ちなみにダフウとはフウのあだ名らしい。
フウがいない間も話しは行われる。


「あなたたち、いろいろと聞きたいことがあるんでしょう?答えてあげるわよ。私の知っている限りのことであれば」


ヤシロの言葉はまるでメンバーの心を悟ったかのようだった。
含み笑いをこぼすヤシロに、メンバーは一瞬戸惑いつつも、こう訊いてみた。



「ブチョウが何故英雄に?」








>>


<<





------------------------------------------------

さて!今日から「キズナの村」そしてブチョウのお話です!

ちなみに「フウ」と「ヤシロ」は私の脚本「ボンド〜絆〜」にて登場!
とすると絆メンバーが勢ぞろいするのか?そこのところはお楽しみにってことで

------------------------------------------------

inserted by FC2 system