あれから数日がたった。
ブチョウは王の護衛で忙しく、ヒヨリたちのところへいけない日が続いていた。
全員がブチョウの帰りをまだかまだかと楽しみに待っている。

昔、みんなで遊んだ、あの場所で。




パーティが終わったときにブチョウが全員にこう言ってきた。


「これから私は忙しくなるかもしれない」


目を少し伏せて


「王の…あいつの護衛をしなくちゃいけないから。あいつのとこにいなくちゃいけない」


全員が頷く。


「だから皆とあまり逢える日が少なくなるわ」


苦い表情を作って、だけど無理に微笑み色にして


「ゴメンね。だけどその分あいつの護衛をするから」


王をあいつと呼ぶブチョウを微笑ましく眺めて、そして全員は黙り込む。
ブチョウは微笑み色の瞳のままで


「…全員がまたあのころのように揃う日を願っているわ」


全員に握手を求める。


「だから、暇なときでいい。そのときにあの場所に来て。私も暇があれば必ず来るから。そしてそのときに全員でまた」


握手を全員にしてから


「ボール遊びするわよ」




ヒヨリは今、その場所に来ている。
ボールを抱きしめて、いつまでもいつまでも彼女の帰りを待っている。

そのときに訪れてきたのはジュン。
ジュンも最近この場所に来ている。


「…また来ていたのか?ヒヨリ」

「あ〜!ジュンもまた来てくれたんだねー!」

「あぁ〜うん。…暇だし」

「うん。私も暇〜」


ヒヨリの横に座って、ジュンはヒヨリを見上げる。


「最近みんな忙しいんだな?」


ジュンの言葉にヒヨリはしょげる。


「…うぅん…。つまんない…」


そしてボールをギュっと抱きしめているヒヨリを見ると、ジュンは立ち上がって今度はヒヨリを見下ろす。
だけどその表情は、笑顔であった。


「それじゃあ私と遊ぶか?」


ヒヨリからボールを叩き落として、続ける。


「ボール遊び、する?」


そのままボールを叩いて跳ね続けさせているジュンにヒヨリも笑顔を見せた。
にま〜っと笑って


「うん、する〜!!」


無邪気な笑顔でヒヨリは、ドリブルをしているジュンからボールを奪おうとする。
しかし、ジュンも見事避けて、ドリブルしながら走っていく。
ヒヨリは悔しそうに追いかけていく。


「も〜!ジュン、ちょっと待ってよ〜!」

「今ゲーム中よ?誰が気を抜くか」

「ケチー」


そしてボールは、数メートル高さに設置されている網のゴールに放り込まれた。
このゲームはジュンが先制に点を取った。
勝ち誇った顔でジュンがヒヨリを見下ろす。


「私の勝ち」


疲れて腰を落としているヒヨリであったが、ジュンの意地悪な声に少々口を尖らせる。


「も〜!どケチ〜」

「あんたが足遅いのがいけないんだよ」

「私はそこまで足は遅くないよ」

「いや、前よりだいぶ足が遅くなっている」

「…」


図星をつかれヒヨリは黙りこんでしまった。
無言になるヒヨリにジュンが不思議に思って、近づく。
ヒヨリは俯いて、地面を睨んでいた。


「…だって…」


理屈を吐いた。


「皆が一緒にゲームしてくれないから…」


泪を堪えてヒヨリは呟く。


「あのときのように毎日ゲームが出来ないからだよ」

「…」

「私、いつも皆とね、さっきみたいにゲームがしたかった。だけど……彼が王になってから、突然みんな変わってしまった…」


遠いあの日を思い出して、ヒヨリもジュンも目を瞑る。


「王はそりゃあ皆の王様だしこんな私のために遊びに来てくれない。ブチョウは村の防衛隊に入隊しちゃって忙しそうだし、ユエは王の親戚だからと言って王の下で働いているし、ヤシロとダフウは二人で愛を深めているし…」

「…みんな、変わっちゃったな」


目を開ける。
ジュンの目に映ったのは、泪を流しているヒヨリの姿であった。
泣いているヒヨリにジュンはため息つくと、ヒヨリの肩を抱きしめる。
背中をポンポン優しく叩いて落ち着かせようとする。


「変わっていないのは私とヒヨリだけだ」


しかしヒヨリが覆した。


「違う。私もジュンも変わっちゃったよ。昔はこんな悲しい想いしなかった」

「…そうだな」

「ねえ、ジュン」


ヒヨリからもジュンを抱きしめて、問いかける。


「"絆"って、何だと思う?」


突然の問いにジュンは戸惑いつつも、こう答えた。



「この場所のことじゃない?」



ジュンの目線の先は、先ほどゲームをしたときに使われたコート。
二つの背の高いゴールと、近くには小さな小屋がある。
小屋は昔、みんなで使っていた。休憩所として。
ダフウが必ずカツ丼を作ってくれて、みんなで仲良く瞬間で食べていた。

ここは、昔、ヒヨリとジュンとブチョウとユエとヤシロとフウ…そして王と一緒に育んできた遊び場。
ボールをゴールに入れあうゲームをよくしていた。皆と仲良く遊んだ。

楽しかった、あのころ。


皆を結んでくれた場所。


ここが"絆"。


「…そうだね…。絆…ここは私たちを結んでくれた、大切な…」


二人で小屋を眺める。
あのころの自分らを思い出しながら、微笑ましく眺める。


いつか、みんなが出会えるように、ヒヨリは目を瞑って、願いをする。


…………っ。


+ +


「…あれ、ブチョウどうしたの?」


"宮殿"の廊下で、たまたますれ違ったブチョウの存在に気づき、ユエが話しかけた。
しかし、ブチョウは聞こえなかったのか、それとも無視したのか、とにかくユエに反応せずにさっさと去っていく。


「……どうしたんだろう?ブチョウったら…」


離れていくブチョウに首を傾げながらユエは疑問を口にする。
普段ならすぐに応答してくれて、それからいろいろと変な方向に話が弾むのだが、今日は果たしてどうしたのだろうか。
あんな悲しい表情をしたブチョウを見るのははじめてであった。

 ブチョウに何かあったのだろうか。


ブチョウが出てきた扉を見てみる。
そこは驚いたことに、王の部屋であった。


「王と何かあったのかな?」


非常に気になったので、ユエは王に訊ねてみることにした。
大きな扉をノックして名前と訪問理由を告げる。
しかしここも応答がなかった。
王はいないのだろうか?
だけれど明かりはある。窓から漏れているから分かる。

 王まで自分を無視するなんて…。


少し悲しく思いながら、ユエは大きな扉を開いて中に入ろうとした

そのときであった。


「―――― っ!」


背後から口を押さえられると、王の部屋から遠ざかるように
どこかに引き込まれてしまった。



+ +


ブチョウは途方に暮れて、村の外に出ていた。
"レッドプルーム"を少々下っていく。

何処に行くのか、本人も分からない。
何も考えないで、ただボーっと歩いていく。


泪を流しながら。


「……ちくしょう…っ」


悪態をつく。
悔しそうに泪を流して、それを強引に拭き取る。
しかし泪は止まらない。


「…何で……何で……」


もう、何もかもが嫌だった。
どうして自分はこんなにも不幸なのだ。と。

正直じゃない自分が悔しくなった。


「…もう、帰れない……」


震えた声で、そう呟く。
静かな場所で、ブチョウは呟き続ける。


「私はこれからどうしたらいいのかしら…何でこんなの…辛すぎる…」


「どうしたのよ?あなた」


誰もいないはずのこの場所に聞いたことのない声が聞こえてきた。
そちらの方を振り向くと、
そこには、いた。



「んふ。前にあなたの歌声聞いたわよ。美しい声の持ち主ね」




+ +


突然、村が真っ黒になった。
大きな爆発音。
大勢の悲鳴。

燃え盛っていく、鳥族の里が。


『敵襲〜!敵襲〜!』


村内放送が流れる。
鳥の村人はすぐに自分らの本来の姿になって急いで飛翔する。
向かう場所は避難所だ。

黄色いカナリヤも避難所に訪れた。
黒いカラスと共に。


「一体これって何なの?」

「どこの連中だよ。こんなひどいことするのは」


ヒヨリとジュンだ。
人間の姿になって他の村人と共に避難所で身を潜む。
辺りを見渡してヒヨリが訪ねた。


「…ヤシロたちは?」

「知らない。どこかに非難していると思う」

「心配だなぁ…」

「…ったく、本当腹が立つ。何でこの村が襲われているんだ」


そしてジュンは吼えた。


「ブチョウはどうしたんだよ?ブチョウは!」

「…!」

「何であいつ村を守っていないんだ!一体何しやがってるんだあいつはよ!」

「…本当だね…」


近くにいた村人もこちらを見ている。
しかしそんなのお構いなくヒヨリも頷く。


「ブチョウに何かあったのかな?」

「知らない。…どうしたんだよ、あいつは…」


頭を抱え込むジュンにヒヨリは何を言えばいいのか言葉を探すのだが、頭が弱い彼女にとってはそれは困難だった。

無言になる二人。
その間に村のほうからは酷い音が鳴り響いている。
爆発音なども混じっている。




「皆さん、無事でありますか?」


避難所に体格のいい男が現れた。
軍服を着ているところから男は防衛隊の一人のようだ。

身を固めている村人らは一斉に頷く。


「そうでありますか。それはよかった」

「あ、あの…」


安堵をつく男に、村人の誰かが訊ねた。


「今、村はどうなっています?」


誰もが気になっていたことだ。
耳を傾ける村人の塊。

男は答えた。


「只今、魔物らしきモノが村中をあちこちと彷徨っているようです」

「「…っ!!」」

「しかし、魔物たちは団体で行動しているようなので、何とかすれば村も助かると思います」


ですので安心してください。と男は微笑む。
村人も男の笑顔に少し癒される。

ところで気になる点があった。


「魔物たちは今何処辺りにいるのですか?」


誰かが聞いた。
すると、男は腰からトランシーバーを取り出し、誰かと連絡を取り合いはじめた。

暫くして、男が告げた。


「只今、コートのある小屋辺りをうろついている模様であります」

「!!」


その場にいた村人の大半が、そこは一体何処だと首を傾げあっている中、激しく反応している二人がいた。
ヒヨリが呟く。


「…コートのある小屋って…」

「うん」


隣のジュンも頷いて、続けた。


「あの場所だ」


突然ヒヨリが出口に向かって走り出した。
驚く村人と男。


「ちょっと!どうしたでありますか?!」


訊ねる男であったがヒヨリはそのまま避難所を離れていた。
後を追おうと態勢を整える男であったが、それはジュンのハリセン攻撃によって止められた。


「私たちの邪魔をしないで」


ジュンも同じく避難所から抜けようとしたとき、男が腹を押さえて苦し紛れに叫んだ。


「危険でありますよ!戻ってきてください」

「ダメだ」


ジュンは首を振って


「あれは私らを結んでくれた"絆"なんだ。魔物なんかに奪われてたまるか」



そしてジュンは男の注意を拒否して、先に行ってしまったヒヨリの後を追いかける。







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ヒヨリとジュンがゲームをしていましたが、あのゲームは云わば『バスケットボール』というやつっすね。
脚本「絆〜きずな〜」でもバスケの話でしたし、やっぱりこいつらはバスケかな〜って思って。

ちなみに避難所に来たあの防衛隊の男は「タイチョウ」です(ぉ
まだこのときは称号をもらっていなくて本名だと思います。

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