― 絆 ―





「ミミー!ミミ〜!!」


あれはちょうど1年ほど前。
この鳥族の里"キズナの村"は笑顔が溢れかえっている村であった。


「ミミ〜?」


黄色いマントを羽織っている女が、白マントの女の元へ駆けて行く。
白マントの女はのん気にカツ丼を食べている。


「あら、ヒヨリ。どうしたのよ?」


モグモグと口を動かして、カツ丼を瞬で平らげていく女を見ると、すぐにヒヨリと呼ばれた女が絶叫していた。


「あああ!それ私のカツ丼だよー!!」

「あ〜ら。ゴメンコ」

「も〜!ひどいー!ミミひどすぎるぅ〜。私カツ丼食べるのだけが生きがいなのにぃ〜」

「カツ丼に生きがい持つなよ?!」


ヒヨリの喚きにハスキーな声がツッコミを入れていた。
ヒヨリに続いて現れた黒マントの女の手には大きなハリセンが持たれている。
ミミと呼ばれた白マントの女が胸を張って、仁王立ちをすると、いきなり何かほざきだした。


「私はいい男チェックするのが生きがいよ」

「お前は口を慎んでろ!!」


ジュンと呼ばれた黒マントの女はミミの腰に思い切りハリセンを咬ます。
おかげでミミからはハリセンに当たるいい音が出されていた。

ヒヨリが腹を抱えて笑い出す。


「も〜ミミはいつも愉快だよね〜!見ていて楽しいもん〜」


続いてジュンも呆れ顔を作って、


「アホなだけだ。こいつはただのアホ」


ハスキーな声でズバっと毒舌を吐いた。
対しミミは綺麗な声で反論しだす。


「私はアホではないわ。カトリーヌよ」

「意味分かんねーよ?!!」


ミミの透き通るような美しい声は、ジュンの低い声によって消されてしまった。

笑い声が飛び交う中、二つの影がこちらに近づいてきた。


「やっほー!」

「仲いいよね。3人は」


ヤシロとフウだ。
当時はまだ結婚していなくて、普通のラブラブなカップルである。

フウの姿を見ると、ヒヨリはフウに目掛けて凄い勢いで飛び込んできた。
驚きの拍子に倒れこむフウ。
ヤシロは悟ったらしく平然な顔をして、言葉を吐く。


「ヒヨリがカツ丼食べたいんだって」

「さっすがヤシロー!私の考えてること分かっちゃうのねー」

「ってかヒヨリさんはワンパターンだよ…」


いつもこうやって僕にカツ丼をねだってくるんだもん。と微笑むとフウはどこからかカツ丼を取り出していた。


「きゃー!ダフウはやっぱいいね〜!」

「ダメよ。ダフウは私のダフウなんだから」

「それにしてもダフウのカツ丼早作りには関心するなぁ」

「照れるよ。…あ、そうだった」


ここで、フウが思い出した。
偉そうに仁王立ちをしたままのミミに顔を向けて言う。


「王があなたのことを呼んでいたよ」


その一言でミミの仁王立ちは崩された。
フウは続ける。


「何だか急ぎの用みたいだったよ。早く行ってあげなよ」


しかし、ミミは首を振った。


「何で私があんなチビのとこに行かなくちゃいけないのよ」

「いや、王の命令だろ?!行けよ」

「そうだよ。確かに王は小さいけど私たちの王様なんだから」


ジュンとヒヨリに覆され、ミミは頭を掻く。面倒くさいといった表情だ。


「しょうがないわね〜。あのチビのために行ってやるか」

「うんうん。そうしなよ。きっと王様喜ぶよー!」


首を鳴らすミミにヒヨリはキャッキャとはしゃぐ。
ヒヨリはミミたちと同じ年齢なのだが少し幼稚のようだ。
対してジュンは男勝りである。
ハリセンをビュンビュン振って素振りをしている。
それによって出来る風が彼女らを涼しくさせる。


「ほら、早く行けよ。さもなければ…さばくぞっ!!」


目の前に舞い落ちてきた木の葉をハリセンが凄い音を立ててぶっ飛ばしていた。
一つの星になってしまった木の葉を目を細めて眺めるその場。


「…早く行きなよ。ミミさん。早くしないとあなたもきっとお星様になってしまうよ」

「あの様子からジュンのハリセンの速度は羊…」

「待って!そんなの計算しなくていいよ!しかも羊って答えは可笑しいだろう?!」


ヤシロは実はIQが高くて無駄に計算をするのが好きなのである。
フウはそんな彼女のツッコミ役。あんな彼女を放っておけないようだ。

そして散々言われミミは面倒くさそうに王のいる"宮殿"へと向かっていった。


白ハトが"宮殿"に向かっていくのを全員も温かく見守っている。
華麗に空を飛んでいる白ハトは見事に障害物とかにぶつかっていたが無事に"宮殿"の中に消えていった。


「それにしても何で王がミミをご指名?」

「全くだ。あいつ何かしたのか?」

「さあ?…あ、もしかしたら村の防衛隊会議かしらね?」

「村の防衛隊会議?」


ヤシロの発言にヒヨリは首を傾げる。
ヤシロは得意げに話をしだした。


「この村を防衛する"防衛隊"がこれからのプランを練る、会議のことよ。…まあ、ミミはその会議中変なことしてそうだけどね」

「そうだな。無意味に逆立ちとかしてそう」

「そしてその上カツ丼も食べてそう〜!いいなー!」

「しかも鼻からね。ズルズル食べてるはずだわ」

「こらこら!言いすぎだよ!」

「「いや、あいつなら出来る!」」

「声合わせて肯定しないでよ?!僕も自信なくすから!確かにミミさんは逆立ちをしながら鼻でズルズルとカツ丼を食べそうだけどさ!」


本人のいない前ではミミはひどい扱われようだ。

と、全員でにぎわっているとき、また新しい影がやって来た。
影は走るたびにポニーテルが上下に揺らしている。
王の親戚のユエだ。
当時は普通の女の子のようだが。


「ここにいたんだね。皆」


息切れを起こしながらユエは全員に話しかけていた。
この様子から彼女は相当探し回っていたのだろう。
一体どうした?と覗き込んでくる全員に
胸に手を当てて呼吸を整えさせながらユエは続ける。


「ミミはどこにいるの?」

「あぁ、今さっき王のところに行ったけど」

「うんうん。逆立ちしながら鼻でズルズルとカツ丼を食べてるんだよ」

「…あ、そうなの。それはよかった」


よくないよ?!!
逆立ちしながら鼻でズルズルとカツ丼食べている、という発想をどうか消してやって!!


「ねえ、一体ミミは何で王に呼び出されたの?」


苦しそうに息をしているユエの肩を叩いて、フウが訊ねる。
ユエは一度咳払いをして答えた。


「何とミミが昇格するんだって」


「「…え?」」


同時に眉を寄せる全員に向けてユエはもう一度声を張る。


「称号が与えられるんだよ!そして王の護衛を使命されるんだよ、ミミが!!」


徐々に込みあがってくる感情を全員は抑えることが出来なかった。
その場には一気に叫び声が上がっていた。


「ええ!やったじゃんミミったら〜!」

「すごいな。あいつ一体何したんだ?」

「そういえばミミって、前に王を必死に守ったことがあったっけ」

「ああーそうだったねー。それがいい評価を与えられたんだ。すごいねミミさん。おめでとう!」


興奮気味のその場にユエはまた一言付け加える。


「祝いに皆でパーティ開いちゃおうよ。王も呼べたら呼んでさ!」

「いいね!それ!」


全員はすぐに話に乗った。


「やっぱここはダフウの作ったカツ丼でしょ〜!」

「そうね。決定!」

「カツ丼で乾杯もなかなかいいじゃんか」

「そのときのカツ丼は特別に山盛りにしてあげようっと」

「いいなー!私も山盛りにしてよ〜!」

「特大山盛り〜!」


この村ではカツ丼は大人気料理である。
もちろんここの連中もカツ丼大好き。
フウはカツ丼を作るのが上手でよくねだられているのだ。

軽く計画を練って、その場はまたカツ丼の話で盛り上がっていく。



そして、翌日。
全員の前にミミが姿を現した。
普段と変わらず胸を張って偉そうに立っている。

そんなミミに身を寄せてくるのはヒヨリ。


「ねえーねえー名前もらったんでしょう〜!一体なんて名前になったの〜?」


他の皆もミミの周りに集まった。
果たして何ていう名前を与えられたのか。気になるところだ。

しかし、ミミはもったいぶる。


「そうねー。もし当てたら私の恥ずかしいものあげるわ」

「恥ずかしいものって何?!」

「ヨダレよ」

「うわ!現実味のある恥ずかしいものだ?!」

「リアルで逆に怖いな…」

「ねえ、教えてよ。ミミ」


全員に目で訴えられてもミミは平然としている。
澄ました顔をしてこちらを見て。


「まあ、いいわ。私もヨダレを容器に入れて人に渡すのなんて恥ずかしいしね」

「容器に入れるって相当の量出すつもりだったの?!」

「ってか、何なの名前〜?教えて教えて〜!」


ヒヨリにねだられてミミは頷く。


「教えてあげる。驚いてヨダレ垂らすんじゃないわよ。あれ恥ずかしいんだから」

「は〜い」


健気に返事を返すヒヨリにジュンはツッコミを入れたかったが、ミミの新しい名前が気になって、口を開くのを忘れていた。
しんと静かになるこの場。
時を狙ったかのように、ミミは静かなこの場で美しい声を流す。


「私の新しい名前、それは」


一旦間を空けて、言い切った。


「"ブチョウ"よ」


そして、ミミことブチョウは無邪気に微笑んでいた。







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ついにでました!ヒヨリとジュンこと日和と潤!!
脚本「絆〜きずな〜」で部長と仲のよかった二人がついに登場!

そしてそして、新事実!ブチョウは元は「ミミ」という可愛らしい名前だった!
顔に似合わず可愛い名前ですよねー。
ちなみはミミ(ブチョウ)は「絆〜きずな〜」の美々(部長)ですよー。

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