鳥族の村は、"レッドプルーム"の天に伸びるような地形によって
奥に行くにつれて上へ上へと伸びており、頂上を村の中心にして構成されている。
ちょうど頂上に設置されている建物はこの村で一番大きな建物、"宮殿"がある。

その宮殿の前にブチョウが立っていた。


「ブチョウさん」


背後から声を掛けられブチョウはそちらを振り向く。
体格のいい男の姿が見えた。


「あら、なべのすけ」

「ワタクシはそのような名前ではありません!何処から出てきたんですか、なべのすけって!!」


気を取り直して男は咳払いをすると、名前を告げた。


「ワタクシはタイチョウであります」

「あぁ、カンチョウね」

「聞き間違えないでくださいよ?!!タイチョウですってば!」

「何興奮してるのよ、あんた。久々にあったって言うのにさ」


バカにするような目で言われたため少々腹が立ってしまったが、
「てめえが可笑しいのが原因だろが〜!」とタイチョウは心の中の海に向かって叫んだため無事に心を落ち着かせることができた。
話を進める。


「宮殿に何か用でありますか?」

「ちょっとね」


タイチョウの問いにブチョウは複雑な表情をこめて


「王についての情報でも伝えに行こうかなって」


目を少し伏せて


「あと、あの二人のところにも行きたいし」

「…」


それを聞いてタイチョウも目を伏せたがすぐにブチョウに顔に向けた。


「では宮殿内を案内いたしましょうか。ブチョウさん」

「あら、お願いしようかしら」

「はい畏まりました」


敬礼をビシっと決めて気を引き締めるとタイチョウはブチョウの隣に来て誘導しだす。
そして途中、思い出したようにブチョウに言った。


「早く元の声に戻ればいいですね」


じっと目を見て優しく微笑んでくるタイチョウにブチョウは


「いや、このままでいいわよ。私この声好きだから」


と首を振って否定していた。
タイチョウは健気なブチョウに対しまた微笑む。

低くハッキリした男の声とハスキーな女の声は宮殿内に消えていく。



+ + +


「ブチョウが何故英雄なのかって…」


メンバーの唐突な質問にヤシロは少し頭を抱え込んだ。
いきなりそんな質問かよ。と表情を濁らせている。
メンバーは躊躇なく訊ねる。


「確かに姐御ってどことなくヒーローって感じがするけどさ〜!」

「エイユウって何だ?いろいろはみ出したやつか?」

「何が一体いろいろはみ出しているんだ?!」

「英雄ちゅうのは偉大な事を成し遂げた人のことをいうんや」

「マジでかよ!ブチョウってすげーのか!」

「きゃー!姐御かっこいいー!!」

「ねえ」


ざわめきの中、クモマがさり気なくヤシロに問いかける。
先ほどまでは何気に敬語を使っていたクモマであったが知らぬ間にいつもの口調に戻っていた。

真剣な目をして、じっとヤシロを見る。


「ブチョウは一体何をしたんだい?」


見つめてくるクモマにヤシロも負けないで見返す。
彼に対し彼女はほぼ睨んでいるといってもいいような目だ。


「ブチョウの秘密を知りたいの?」


ヤシロの一言はざわめきの原因だったメンバーの動きを止めさせていた。


「ブチョウの秘密?」


チョコが首を傾げる。


「一体、何なの?」


瞬に静まる。
ブチョウの秘密とは一体…?

全員分の視線を浴び、ヤシロは不敵な笑みを溢した。


「ブチョウはね」


ゴクリと唾を飲み込む。
緊張と期待が漲っているこの部屋の中で、ブチョウの秘密が明かされた。


「耳で空を飛べるのよ」

「「ええええええ?!!」」

「嘘言うなー!!」


メンバーの絶叫をフウが妨げた。
叫び声と共にその場に現れたフウの手にはお茶が持たれていた。
失礼しました。と謝りながらお茶をメンバーに注いで渡していく。


「もう、いきなりあんな嘘言ったら気が抜けちゃうだろう?」

「何よ。事実じゃないの」

「あの人はあぁ見えても一応人間なんだよ!」

「「ええええええ?!」」

「何で驚いてるの?!確かにブチョウは耳で空を飛べそうだけどさ!一応僕らと同じ人間なんだよ!」


フウの発言にメンバーが顔を見合わせる。
そして不思議そうに首を傾げた。


「…ブチョウって人間だったんだ」

「俺てっきりブチョウは異世界の人かと思ったぜ」

「あれはどう見ても人間じゃねえだろ」

「姐御は姐御よ!」

「鳥人ちゅう時点で人間じゃない気がするけどなぁ」


「多数決の結果。ブチョウは人間じゃない。ということで」


ヤシロが全てをまとめた。
だから違うって!とフウがツッコミを入れる。
この様子から、二人は漫才夫婦のようだ。

話がそれてしまったため、クモマが戻した。


「それで、ブチョウの英雄話を聞かせてもらってもいいかな?」


突然話を戻され焦燥するフウであるが、やがてこう言った。


「聞いても、何も得はしないよ」


一旦、間を置いて。


「ブチョウの英雄話は、辛く悲しい話なのだから」



+ + +


広い広い宮殿内の廊下を歩いていくとやがて目的地に辿り着いた。
大きな扉に3回ノックをして、タイチョウは自分の名前と訪問の理由を告げる。
すると、突然大きな扉がガタンと開かれた。


「…ブチョウ…っ!!」


扉の奥から、ドレスの上に白いマントを羽織った女の姿が現れた。
ブチョウも彼女の名前を呼ぶ。


「ユエ王女」


それはこの国を治めている王女であった。
ブチョウの姿を見て、ポニーテルがよく似合っているユエ王女は感激のあまりいきなり泣きだしてしまった。
さすがにそれにはタイチョウは驚き且つ戸惑っていたが、ブチョウは平然としている。
ため息をついて言葉を続けた。


「あんた、せっかく王女になれたのに泣き虫なところは変わらないのね」

「…だって…ブチョウに逢えたのが嬉しくて…」

「それではワタクシめは幹部の方へ戻りますので。ごゆっくりどうぞ」


そしてタイチョウは二人を部屋の中に誘導するとゆっくりと扉を閉めて、行ってしまった。

ここはユエ王女の部屋。
豪華な代物が多々あり、見るからに王女の部屋って感じである。
二人きりになったところで、ブチョウが早速口を開いた。


「私がいなくなってからはこの村の防衛はタイチョウに任せられたのね?」


ユエ王女が頷く。


「タイチョウもブチョウみたいに頼もしい人だから、村を任せられるわ」

「何言ってんのよ、あんた」


王女相手にブチョウはいつもの口調。


「この村は今やあんたの村なのよ?」

「………だって…」


ここで一つまた泪を零す王女。
おかげで声にも元気がない。


「私、王みたいに村の人を守る力もっていないもの。私はただ王の親戚であって、本当の"王"ではない。代理の王。…本当はただの白鳥。湖を泳ぐだけしか能がないわ…」

「…」


この様子から、王女は代理らしい。
泪を拭き取ってユエ王女は喉の調子を整えると、思い出したように話を変えた。


「ところで、王は見つかった?」


王女の問いにブチョウは首を振る。


「全く。手掛かりも見つからないわ」

「…そう」

「悪いわね。王のために村を出たのに手ぶらでまた戻ってきちゃって」

「ううん。私こそ何も手伝うことが出来なくてゴメンね」


お互い苦い表情を作る。
少しだけ気まずい雰囲気が流れて、今度はユエ王女が口を開く。


「…早く戻ってくるといいね」


しかし、ブチョウは答えない。
目線を落とし、何だか堪えている様に見えた。
一体何を堪えているのかは分からない。


「みんな王の帰りを待ってるの」

「…」

「村の人々も、私もブチョウも、あの人のこと、好きだから」

「…」


頷くだけで口を開かないブチョウ。
気を使ってユエ王女が話題を変えた。


「ブチョウ。ここに来た目的はまだあるんじゃないの?」

「…ん?」


やっと反応があった。
王女は続ける。


「あの二人のところへ行きたいんじゃないの?」

「…」

「行ってきたら?私は邪魔になるかもしれないからここに残るけど」

「…いいかしら?」

「どうぞ」

「それじゃあ、失礼するわ」


王女の促され、ブチョウは扉へと向かう。
そして部屋から出る前に、一言

「ユエ王女」

「ん?」

「頑張りなさいよ」

「……うん」


白ハトは大きな扉の奥へと消えていく。



+ +




この村には、笑顔が消えつつある。
どこかにある"ハナ"の所為でもあるが、きっと違う。

ある日を境目に、鳥族は絶滅の危機に追われてた。


  突然の告白
  突然の出遭い

     それらへの戸惑い。



  突然 黒くなった村。



  突然 空っぽになった喉


         突然 消えていく 私の 大切な人たち



全てが唐突であった。






「…………」



喉に手を当てると、まだ変な感じがする。


「………」


それは未だに使いこなせない。


「……………」


手を喉から離して、目の前のものの所まで伸ばす。
暗闇の中でポツリと光を放っている大きな大きな水晶には種類の違う"羽根"が無数に舞っている。

水晶の中に手を入れると、人肌程度の温度が包み込んだ。
手を更に奥に伸ばして2種類の羽根を手に入れる。


水晶から手を抜く。
手のひらを広げる。
2枚の種類の違う羽根たちが顔を覗かせる。


黄色い羽根に、黒い羽根。


「………っ」


2枚の羽根の上に、雫が落ちた。

ブチョウの目から流れる泪が。


ポタポタと泪は零れ、羽根を濡らしていく。


「…ン…っ」


ハスキーな声は今震えていた。
しかし、それでも言い切った。



「………ゴメンね…」


ただ一言だけ、そう言って。


ブチョウは宮殿内にある、村の"墓場"で懺悔をしていた。









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さて、次回はブチョウの英雄話です。
辛く悲しいお話。どうぞ、ご覧アレ。

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