…イヒヒ…見つけた。やっと見つけたっス


17.バニラ


荷物がたくさん積まれた車をエリザベスと田吾作が頑張って引く。
中にいるメンバーは前回の村から盗ってきたパンをかじって時を過ごす。


「それにしてもたくさん盗ってきたな、お前ら…」


パンの中にキュウリを挿み両方の味を楽しみながらソングが呟く。
前回、彼は髪を思い切り切ったため、何だか爽やかになっている。
クモマよりも短い髪は、今までのソングとは違う雰囲気を醸し出しているが、無愛想な表情はやはり変わらないようだ。

ソングにクモマが答えた。


「これでしばらくは大丈夫だろう?」

「あぁ、そうだな」

「食べ物を中心にたくさん盗ってきたからご飯にはもう心配はいらないのよ〜!」

「そうだぜ!それにしてもこのいろいろはみ出しているキノコは美味いぜ!」


ワイワイと騒ぎながらメンバーらの車は次の村へと向かっていく。
本日もやはり太陽光が暑い。
ギュウギュウ詰めの車の中はそれなりに熱気も篭っていた。
汗を拭いながら、異常に大きいパンをトーフは平らげていく。


「今日も暑いわぁ〜」

「どうしてこんなに暑いんだろうねぇ…」


クモマも汗を拭って、パンを食べる。
サコツは上着を扇いで風を体に馴染ませて、だらけながら言った。


「全くだぜ。ここんとこず〜っと暑い日が続いているぜ?これって一体何故なんだ?」

「私のハートが燃えているからよ」

「何言ってんだ、てめえはよ?!」

「あ、そういえば」


ブチョウにツッコミを入れているソングの後に続いてチョコが思い出したように告げた。


「さっき、エリザベスが言っていたんだけどね。今私たちは南方面に向かっているんだって。だからちょっと暑いんだってさ」

「あぁ〜"レッドプルーム"に向かっとるんか?」


聞きなれない言葉に全員がトーフに目を向けた。
パンを平らげたトーフは指を舐めてパンくずまでもを残さず食べた。
満腹になったらしく満足気にトーフは教えてくれた。


「"レッドプルーム"ちゅうのはこの大陸の南端にある山のことを言うんや。ちゅうても山っぽくないとこなんやけどな」

「へえー」

「そこは、太陽に最も近い場所にあってな。ちょっとばかり暑いらしいわ」


それを聞いて、納得した。
太陽に近づいているのならそりゃあ暑くなるだろう。
…この車の中が狭くて熱気が篭りやすいというのも原因の一つであるのだが。

と、ここで


「………レッドプルーム…」


ブチョウが激しく反応していた。
目を見開いて汗を流しているブチョウにクモマが問いかける。


「どうしたんだい?ブチョウ」

「…いや、実は」


ブチョウが答えようとした、そのときであった。
車が突然止まってしまったのだ。
勢いで車内でぶっ飛ぶメンバー。


「どうしたんだ?!」

「おいおいおいー。またこんな展開なのかよ〜!」

「今度はどうしたんだい?」


エリザベスの叫んでいる声が聞こえてきた。
それにすぐにチョコが反応した。


「はあ?」

「どうしたんや?」


しかしチョコは信じられないといった表情ですぐに外へ出て行ってしまった。
何が起こったのかわからないメンバーも後に続いて外に出る。


外に出てみると、異常な光景に思わず目が点になった。


「「…………っ!!!」」



チョコは口を押さえて後ずさりをしている。そしてサコツにぶつかってチョコは止まる。


「…イヒヒ……」


メンバーの目線の先にいる少女は特徴的な笑い声を発しながら、こちらを楽しそうに眺めていた。
その少女の姿に、とにかく唖然とする。


少女の容姿は一度見たことがあった。


桜色の髪をした少女は、楽しそうにこちらへ駆けて来る。



「……そんな…」


口を押さえたまま、チョコ


「昔の…私…?」


また後ずさりをしようとするが後ろにはサコツがいるため下がれなかった。


「…イヒヒ…」


昔のチョコの容姿をしている少女はチョコの目の前までやって来た。
楽しそうに笑いながら、少女はやがてこう告げた。


「やっと見つけたっス。あなたが"チョコ"っスね?」


「「…?!!」」


メンバーの顔色は真っ青だ。
少女に恐怖を抱いたのだ。
何故、チョコのことを知っている?何故、チョコの昔の容姿を知っている?

トーフが恐る恐る訊きだした。


「あんた、一体何者やねん?」


少女はまた特徴的な笑いをし、ゆっくりとその場で1回転をする。
すると驚くべき光景を目にした。

1回転をした少女に一体何が起こったのだろうか。
再びこちらに姿を見せたとき、それは少女ではなくなっていたのだ。


今メンバーらの前には、クモマがいるのだ。


しかしクモマはチョコの隣にいる。


その場にいるクモマは二人になってしまったのだ。



「「ええええええ?!」」


思わず絶叫だ。
目の前のクモマはまた特徴的な笑いを漏らす。
その笑い声はクモマ本人の声とそっくりであった。


「そんなに驚かないでっスよ」

「いやいやいや!驚くから!」


クモマがすぐに反応し、続けた。


「キミは一体何者なんだい?」


メンバーは二人のクモマを見比べている。
どう見ても二人はクモマだ。違うところといったら、口調だけである。

イヒヒと笑って、クモマの問いにもう一人のクモマが答えた。


「うちのことっスか?知りたいっスか?」


もちろん頷くメンバー。
熱い視線を受けて、もう一人のクモマが、笑う。


「そうっスか。それなら教えてあげるっス。まあ、もともとそのつもりだったし」


そして先ほどのようにその場にゆっくりと1回転をする。
こちらに再度姿を見せたとき、それの正体が明らかになった。

メンバーらと同じぐらいの年齢の、狐色の髪の女。

目つきも鋭く口先も尖っている彼女は、こちらを見て、また笑った。


「イヒヒ。皆さん、ミャンマー」


絶句しているメンバーに気にせず、先ほどから変身をしていた彼女は話を続けた。


「何だか衝撃を受けているようっスね?イヒヒ。ゴメンっス。驚かせるつもりはなかったっス」


後頭部に手をやって軽く謝ると、彼女は自己紹介をしだした。


「うちは"バニラ"っていうっス。どうぞよろしくっス」


そしてバニラはお辞儀をした。
つられてクモマもお辞儀。


「どうもはじめまして」

「それはええとしてや」


トーフが身を乗り出して、バニラに訊いた。


「さっきからしつこく訊いているようやけど、あんた一体何者やねん?」

「気になるっスか?」


バニラはもったいぶる。
しかし、さっさと答えろよと頬を膨らませるメンバーの姿を見るとバニラは慌てて答えていた。


「うちは、実は人間じゃないっスよ」

「は?」


表情を顰めてしまったメンバーであったが、バニラは気にせず続けた。



「うちは、合成獣っス」



その場に衝撃が走った。
バニラがありえない発言をしたからだ。
一気にメンバーは爆発した。


「「はああああああ?!!」」

「何て言った?」

「合成獣?!」

「どういうこと?」

「んなもんあるはずないやろ!!」

「何だよ?ゴウセイジュウって?」

「分かりやすく100000字で答えなさい」


騒ぎ声を聞いてバニラは爆笑している。
腹を抱えるバニラの肩をチョコが掴み、揺さぶりながら訊ねた。


「ねえ!合成獣ってどういう意味!そして何で私のことを知っているの?」


一番落ち着きがないのはやはりチョコであった。
何故彼女がチョコのことを知っているのか。どうしても気になる。

笑いが抜けたところでようやくバニラがそれについて答えてくれた。


「合成獣とは、獣と合成された人間のことを言うっスよ。その逆のパターンもあるんスけどね」

「獣と合成された?」

「そうっス」


頷いて


「うちはキツネと合成された者っスよ」


そして狐目を細めて


「不思議っスよねー。世の中不思議なことばかりっス」

「ありえへん…」


トーフも合成獣については知らなかったようだ。先ほどから信じられないといった表情をしている。
バニラは笑う。


「だからうちはこうやって姿を自由に変えることができるんス」

「マジでか?!なら俺の姿になってくれー!」

「何要求してんだ!!」

「私の姿にもなれるのかしら?」

「待て!何でお前の頭はアフロになってんだ?!」

「なってみたっス」

「なるなよ?!!」


アフロ頭のブチョウの姿になったバニラは、視線に気づいてそちらを向く。
そこにはチョコがいた。


「ねえ。何で私のこと知っていたの?」


やはりそのことが気になっていたようだ。
バニラはようやくそちらのほうの質問にも答えた。アフロ頭のままであるが。


「実はうち、あなたのことを捜していたんスよ」

「え?」


目を丸くするチョコ。
アフロ頭の彼女は続ける。


「桜色の髪のチョコ。あなたのことをうちは今までずっと捜していたっス」

「な、何で?」


焦燥するチョコをバニラは笑う。アフロ頭のままであるが。


「理由は教えないっス。まあ時機に分かると思うっスけど」


やはりバニラはもったいぶる。
チョコが機嫌を損ねている間、バニラは懐から紙を取り出していた。
それをチョコに見せながら


「これはあなたの小さいころの姿っスね?」


その紙は、写真であった。
写真には桜色の髪をした少女の姿があった。

チョコが頷く。


「…これ、私だ。模様も一緒だし、桜色の髪だし……。何であなたがこんな写真を持っているの?」

「……」


するとバニラは無言でチョコに飛びついていた。アフロ頭のままであるが。
突然捕まれ短く悲鳴を上げるチョコにメンバーもすぐに反応した。


「「チョコ!!」」

「大丈夫っス。うちは何もしないっス」

「何が大丈夫なんだよ!チョコを捕まえておきながらよー!」

「全くだ。何が目的なんだ」

「うちはチョコと一緒にいたいんス」


もう意味が分からない。アフロ頭のままだし。

バニラが不気味に感じたメンバーは、彼女からチョコを救出させ車の中に潜り込んだ。
すぐにバニラが後を追うが、エリザベスと田吾作も危険を察したのだろう、凄い速さでその場から離れていく。


「一体あいつ何なんだよ?!」

「知らない、何で私を捕まえるの?!」

「早く離れないと追いかけてくるかもしれねえぞ」

「エリザベス、もっと速く走るんや!チョコのためにも!」


トーフの言葉が分かったのだろうか。更にスピードをつけて車は走っていく。

それでも後を追うバニラであったが、相手は車だ。豚が引いているけど。
すぐに車の姿は見えなくなってしまった。







その場にポツンと残されたのは、バニラ。
元の姿に戻って


「……………チョコ……」


そう呟いて


「…うちは…ただ……」


車が消えていった南方面を物寂しそうな表情で、見つめていた。







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新キャラ登場!『バニラ』
何だかチョコのことを知っているようでしたが、時機にわかると思います(ぉぃ


あと、ソングの髪を切った姿の絵↓。

こちら

個人的にはこっちの髪型のほうが好きなんですが、皆さんはどうなんでしょう?

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