ギンギラと太陽の光の反射が激しい街中を、メンバーらが走り回る。


「水は大量にあったほうが良いかな」

「うんうん!水はたくさんほしいなー!水浴びとかしたいし〜」

「食料もたくさん盗っておこうぜ!生肉とか果物とかよー」

「生はあかんで!腐る可能性が大や。もうちっと保存が利くのを選ぶとええで」

「そっか!それじゃあこの…いろいろはみ出しているキノコはどうだ?」

「一体何がはみ出してるの?!」

「ええで」

「よくないよ!いろいろはみ出しているんだろう?!」

「あら、これはどうかしら?」

「それなんだい?」

「恥ずかしいキュウリよ」

「恥ずかしいって?!…うわ!どうしよう!見ていて恥ずかしい!!」

「ホントだぜ!恥ずかしいキュウリだ!」

「きゃー!このキュウリ恥ずかしいね〜!!」

「あかんわ。何か恥ずかしいオーラが出てるで」

「よし、これならきっと凡も喜んでくれるわね」

「うん。酷く恥ずかしいけどね」


メンバーの懐には見る見るうちに街のものが詰められていった。



+ + +


「…不愉快だ」


そのころ、ソングは機嫌を損ねていた。村人がしつこくソングを崇めるからだ。
村人は両手を組んで祈り続ける。


「神様!神様〜!」

「"銀"の神様!」


村人はずっとずっと同じ事を繰り返している。
おかげでソングはこの有様。
イライラが治まらない。

ソングがその苛立ちを吐く。


「ったく、何なんだ。さっきからお前ら同じ事の繰り返しじゃねえか」

「あ、はい。すみません」


村人の一人がすぐに応答した。
しかし手を組んでいるところからまだ祈り続けているようだ。
ソングは態度悪くし、訊き出す。


「そんなに俺を崇めて何になるんだ?俺はただ銀の髪色をしているだけでお前らに何もしてねえだろが」

「いえ、あなたの存在に我々は尊敬しておるのです」


村人の言葉にソングは眉を寄せた。言っている意味が分からないからだ。
そんなソングに対し、村人の目は真剣だ。


「俺を尊敬している…とはどういう意味だ?」


ソングの質問に村人は答える。


「我々は太陽に憧れているんです」


ソングは更に眉を寄せる。


「太陽の子に我々はなりたかったのです。しかし我々はこの通り凡人です。ですから形だけはと、太陽の子のような美しい"銀"を我々は大切に扱ってきていました」


一人の村人は、手を大きく広げて、天を仰いだ。
太陽の光をたくさん浴びる。


「"銀"は我々にとってみれば太陽なのです。太陽になりたい我々には"銀"はもはや大切なものなのです」

「だから、何だ」

「ですから、"銀"の色を持っているあなたは我々にとっては太陽みたいな存在…神なのです」

「…」

「祈らせてください神様。我々はあなたのような美しい"銀"を身に付けたいのです」

「…」


ソングは黙る。
村人に熱い視線を受け、目線をそらす。


「あなたを拝ませてください」


村人はソングを見続ける。
ソングは目線をそらしたまま。
それでも再度頼み込む。


「太陽のように美しいあなたの髪色、我々はそれがすきなのです。憧れなんです。どうか拝ませてください」

「…」


太陽の下、太陽の子だ神だといわれているソングは複雑な顔をして時を過ごしていた。



+ + +


「ねえ」


村の街中をメンバーらは歩き回る。
すでに懐に物が入れられなくなってしまったので両手一杯に盗んだものを抱えて、クモマが続ける。


「何でそんなに太陽を好むのだろうね」

「誰が?」

「タケシが?」

「誰だよ!タケシって!!この村の人のことを言ってたんだよ!」


叫ばれてブチョウは、タケシをバカにするんじゃないわよ。と口を尖らせる。
サコツが訊ねる。


「太陽が好きってよー何か可愛くていいじゃねえか?」

「まあ確かにそうなんだけどさ」

「クモマは何がいいたいんや?」


首を傾げるメンバーにクモマは答えた。


「確かに太陽は僕らに光を与えてくれるし熱もくれるしさ、僕も太陽は好きだけど…だけどさ、ここの村の人は…言っちゃ失礼だけど」


苦笑いをして


「異常だよね」


メンバーも、確かに。と目で頷く。
太陽は自分らにとってはすばらしい尊い存在だ。しかし、そこまでして太陽を手に入れたいものだろうか。
クモマの言うとおり、これは少し異常である。

大量の荷物を器用に頭に載せているトーフが後を繋げた。


「そやなー。そこまでして太陽の光をほしがらんでもええのにな。"銀"を"太陽の子"だと見るなんて、何か宗教みたいやな」

「だよねー」

「そう考えると、この村の連中はみ〜んな"パ〜"ってことだな?」

「いや、それは言い過ぎだって〜!」

「そうよ。そこは"パ〜"じゃなくて"あへぇ〜ん"よ」

「うわ!何そのマヌケな声!」

「カバの泣き声みたいだったぜ!」

「例えられてもリアルに分からないよ!!」


さて、気を取り直して


「その連中に"神"だと崇められているソングはどうなっちまうんだ?」

「そやな〜…」

「そのまま"神"になっちゃうんじゃない〜?」

「あんな凡が神になるなんて私が許さないわ!」


チョコの冗談をブチョウは憤慨した。
そしてこう言い切ったのだった。


「この世の中で一番尊い存在は私だけで十分よ」

「「何か言っちゃったー!!!」」

「違うぜ!エリザベスが一番だぜ!」

「「アホがいるー!!!」」

「ワイは5本の指には入れるぐらいの権力さえあれば十分やねん」

「「何か遠まわしに言っているー!!!」」


最終的には叫び声はクモマとチョコだけになっていた。
ツッコミが一人かけてしまうとこんなにも大変だとは…。とこのときクモマはソングの存在のありがたさを思い知った。


「とにかく」


クモマは話を変えると同時に目線も変えた。ソングがいる"教会"に。


「ソングを助けてあげようよ。あのままにしていると可哀想で仕方ないよ」

「そやなー」


すぐにトーフが応答してくれた。


「ずっと崇められてるなんてキツイやろうしな〜」

「まず私は凡が神になるのが気に食わないわ。私が神よ」

「まだ言ってるの〜?」


ブチョウの主張にチョコが笑いながら注意をし、自分の意見を述べる。


「私も皆の意見を聞いていて、ソングを助けてあげたくなっちゃった」

「あのままじゃソングがどうなるかわからねーしな!俺もその意見に賛成だぜ!」


全員がクモマの意見に賛成した。
しかし、ここでチョコが首を傾げてきた。


「ソングを助けるっていうのはいいんだけど、どうやって助けるのよ?」

「…」

「あの宗教団体みたいな人たちからだよ?ちょっと怖いよね…」

「…」


全員が絶句していた。
そうだ。どうやってあの宗教団体みたいな人たちからソングを助けてやればいいのだ?
逆らった時点で何だか怖い目に遭いそうな気がしてならない…。

そこでトーフが口を開いた。


「まあ、まずはこん荷物を車の中に詰め込もうで。助けに行くときに邪魔になるしな」


あと、盗んだことがバレると厄介やねん。と笑いながら言うとトーフは車が置いてある門前へと向かう。
メンバーも頷いてトーフの後をついていく。

と、そのときであった。
突然クモマの足がピタっと止められたのだ。
クモマの後ろを歩いていたサコツが山積みになっている荷物を落としそうになるが、無事に堪えた。


「どうしたんだ?クモマ」


サコツの問い掛けにクモマは応答しない。
とある店の前に止まったクモマはじっと何かを一点集中しているようだった。
やがてクモマがプルプルと震えながら、見ているものを読み上げた。


「…これを履けば、あなたも足長になれる!快適足長グッズ………ど、どうしよう!ほしすぎるっ!!」

「「またかよ!!」」


思わず全員でツッコミを入れた。


「だってだって、これはもしかしたら本物かもしれないんだよ!」

「いや、無理だぜ!この前騙されてひどくショック受けてたじゃねーかよ!」

「ここは速やかに諦めるんや」

「そうよ!こんなの履いても悲しくなるだって〜!」

「あんたの足はどんなことしてももう無駄なのよ」


その場から離れないクモマを無理矢理引きずって、メンバーは先へ急ぐ。



+ + +



教会の十字架も銀。
太陽の光の所為だろうか、光を放っている。
その下にソングが座っていた。
教会ビッシリ詰まっている村人は手を組んでソングを崇めて幸せそうにしている。
ソングはやはり複雑な表情を作っていた。
それはそのはず。
ずっとずっとこの扱いだ。苛立ちは時間が刻まれると共に積み重なっていく。


「神様ー神様ー」


いい加減、疲れてきた。
いつまでこいつらこんなことしているのだろうか。と目元を顰めて奴らを睨む。
しかし、村人はそんな視線に気づかず、ずっとずっと崇めているのだ。


「いつまでこうしてるんだ…」


もう疲れた。と表情に出しながらソングが嘆き続ける。


「"銀"がそんなに好きなら自分の胸元にでもアクセサリー付けていろよ」


あんなに"銀"が好きならば身に付ければいいものの村人一人として"銀"は見当たらない。


「我々は"銀"を尊重しているのです。身に付けていたら汚れてしまうかもしれないでしょう?だから身に付けないで、外からこうやって崇めているのです」

「…こちらとしては非常に喧しいのだが」


表情が顰めっぱなしのソングに村人はサラリと言う。


「いえ、我々はこれでいいのです。もう暫く我慢なさってください」

「我慢しろって…」


ソングは怒りを表情に出した。


「何で俺がお前らに命令されなくちゃならねえんだ。ふざけんな」


冷静に怒りを伝えるのだが、村人は非常に鈍感だ。更に言う。


「我々は毎日"銀"をこのように崇めています。"銀"のためなら何でも致します」

「…バカげている」

「いえ、これは我々にとっては太陽に対する聖なる行いなのです。"銀"を見たらいてもたってもいられません。崇め続けるのです」


村人の考えに、ソングは歯軋りを鳴らす。


「"銀"が太陽である以上、我々はこのようにし続けられます。あなたの"銀"も我々にとって見れば太陽であり神です。崇め続けることが出来ます。しかもその綺麗な"銀"の髪ならなおさら…」

「俺は好んでこの髪色になったわけではない」


ソングはその場に立ち上がり、村人を酷い形相で睨みつけた。


「何だ、お前ら。さっきから大人しく聞いていれば"銀"のことしか言ってねえじゃねえか。お前らに"銀"が何をしたというんだ」


村人が唖然としているとき、車の中に荷物を置いてきたメンバーがやって来た。
しかしソングは気づかずそのまま続けた。


「"銀"を太陽に見立てるお前らの考えがよくわからん。そして俺を神だと崇めるその考えもよくわからん」

「ですからあなたの髪色が…」

「俺の髪色が何だっていうんだ!」

「今までに銀の髪色は見たことありません…」

「んなこと知るか!!」


ソングの怒りは頂点を達した。
メンバーは目を丸くしてその場に立ち竦んでいる。


「そんなに"銀"がほしいのなら自分で手に入れろ。崇めるんじゃねーよ。手にとって太陽にでもなってろ」


手を腰に持っていき、ポシェットからハサミを一本取り出す。
そして村人に刃を向けて


「俺はお前らに神だと言われる筋合いは全くない。俺は神ではなく、凡人だ」

「「……!!」」

「好きで"銀"になったわけでもねえのに、何だこいつら。はっきり言ってムカつく。俺にとってはいらない存在だ」


ハサミは村人に向けられたまま。
危険を察したサコツはついに叫び声をあげた。


「やめろソング!何する気なんだよ!」


しかしソングは無視して、ハサミを………


…………


斬った。



目を見開く村人たち。
メンバーも思わず絶句する。

銀が舞う教会の中
ソングはハサミを自分に向けて、太陽の光をあちこちに分散させながら立っている。

ハサミによって切り込まれた銀の髪は微かに吹く風に乗って村人の上空を飛んでいく。


「"銀"がほしいのなら、くれてやる」


ソングは更にハサミで自分の髪を切っていく。
大胆に切った髪を村人に向けて投げつけ、言い放つ。


「俺には必要のない色だ。勝手にもらいやがれ」


シンと静まる教会の中、ソングは村人を掻き分けながら出口へと向かう。
出口に立っていたメンバーの姿を見つけるとそこへと一直線に歩み寄っていく。
メンバーは髪を突然切ったソングをじっと眺めている。


「おい、ここから出るんだろ?」

「あ、うん…」


先頭を切ってソングが教会から出た。
メンバーも一緒に出るが、突然村人が騒がしくなったので首を伸ばしてみると
ソングの切った髪の残骸を村人は取り合っていた。
異常な光景にメンバーは顔色を変えてすぐにソングのとこまで行った。


+ +


「おい、一体何がどうなってんだよ?いきなり髪を切るなんてよー」

「全くやねん。驚いたで」

「でも、その髪似合ってるよ〜!私はこっちの髪形のほうが好きだな〜」

「あんた、ついに自分が凡人だと認めたのね。偉いわ。このキュウリあげる」

「いや、そんなにじろじろ俺のこと見るなよ。お前ら…。ってか何だこのキュウリ?!恥ずかしいキュウリだな?!」

「それにしても、本当に驚いたね。まさかソングがあんな行動とるなんて」

「あぁでもしねえとあいつら絶対に俺を崇め続けると思ってな。もうたくさんだ」

「それで髪を切るってすっごい選択をしたね!ソングったら〜」

「ちょうど髪を切ろうかと考えていたところだったからな。いい機会だった…って、そんなに俺の頭触ってくるな?!!」


髪が短くなったソングをメンバーは面白がって遊ぶ。
車の元へ向かいながら、ここでクモマが教会の方をチラっと見て言った。


「あんなに"銀"をほしがっているなんて…恐ろしいね…」

「そやな。考えがよぉ分からんな」

「早くこんなとこから出ようよ…。またソングが狙われちゃうかもよ〜?」

「いや、あんなに説教したんだぜ?もう大丈夫じゃねえか?」

「そういえば村人たちが凡の"銀"の髪を奪い合っていたわね。思わず私も一緒にとってきちゃったわよ」

「何とってきてんだ?!!」

「そしてこの髪をこの藁の中に入れれば完成だわ」

「やめろ!人型の藁の中に俺の髪を入れるな!!」


やがて車の姿が見えてきた。
桃色の豚の姿も微かにだが見え、サコツは真っ先に豚の方へ走っていく。
メンバーも走ろうとした、そのとき


「………はっ!!!!」


トーフが突然立ち止まった。
トーフにつまづきそうになりながらも何とか踏ん張って立ち止まり、クモマが訊ねる。


「どうしたんだい?トーフ」

「しもうたわ…」

「え?え?一体どうしたの??」


徐々に訊ねてくるメンバーにトーフは事態を告げた。


「"ハナ"のこと、すっかり忘れてたわぁ…」

「「……!!!」」


思い出し、メンバーも苦い表情に作り変えた。
焦りながらチョコが叫ぶ。


「どうするのよー!またここをうろちょろするの??」

「大丈夫やねん。"ハナ"の場所はわかってるんや。せやけどなぁ…」


そしてトーフは一度目を伏せたが、すぐに振り向き、ある場所を見て、言い切った。


「まさかあの教会の中にあるなんて……」

「「……」」

「教会にあった十字架がこん村の"ハナ"や」


トーフの目線につられて、メンバーも教会に目を向ける。
教会には太陽の光に浴びられ光り輝いているように見える。


「……さて、消しに行くで」


意地でも車の元に行こうとする頑固なメンバーを糸に絡ませ引きずりながら、トーフは"ハナ"を消しに村人が集っている教会へと戻るのであった。







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驚いたことにソングが髪を切ってしまいました!

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