またこのパターンか…。


15.ワークの村


それは村に訪れた直後の出来事だ。
メンバーらは前回買い物をする機会を逃してしまったので今回再挑戦しようとこの村に訪れていた。
しかし、村の門前には看板が邪魔する形で立っていた。

『無職の方、ご入場お断り』


「「……」」


看板に書いてあるその字を見て、その場は沈黙になった。
やがてクモマが口を開いた。


「…無職って…どういう意味だろう?」


そして首を傾げる。
それにしても、このパターン多くないだろうか?これで3回目だ。
やはりどこの村も風習というのがあるのだろう。
今回の村の風習はこの様子から"職業"が関係しているみたいだ。


「…待てよ。俺らは元々"職"に就いてただろ?今回は大丈夫じゃねえか」


ソングが腰につけているポシェットをチラっと見る。
そこには彼の美容セットがあった。ハサミは彼の愛用だ。

そうなのだ。メンバーらが元々住んでいた"エミの村"は幼けれども何か仕事に就かなければならない村であった。
この村はエミの村と一風似ているように見える。
だと、すると…
クモマは胸をなでおろした。


「よかった。今回は無事村に入れるね」

「なあなあ。これ何て書いてんだ?」


やはりサコツは字が読めなかったみたいだ。身を乗り出して訊いてきた。


「…お前今までどんな人生歩んできてたんだ…?」

「この歳で字が読めないなんてある意味凄いよ」

「な〜っはっはっは。バカなのが取り柄だぜ!」

「やめろ。悲しい自慢はやめてくれ」


もうここまでバカだと何もいえない。
そんなおバカなサコツの質問にブチョウが答えてくれた。


「これは『僕のお父さんはお父さんじゃない』と書いてあるのよ」

「どんな家族関係だ?!!」


やはりブチョウはブチョウだった。今回も可笑しい答えを出してくれた。


「これは『無職の方、ご入場お断り』て書いてあるのよ〜」


笑い声を漏らしながらチョコが看板を読み上げた。
前回の村で恐怖に怯えていたチョコであったが、今は無事のようだ。
普段どおりに気分高く話しに入ってくる。
ちなみに電流の流れていた鉄格子を壊してボロボロになったクモマは自分の回復魔法によって治っていた。
ある意味彼は最強である。

チョコに教えてもらい、事を納得するサコツ。


「まあ今回は楽に村に入れそうやな〜」

「そうね〜!」

「職業持っていてよかった」


それぞれ感想を言う。
しかし、


「…だけどさ〜」


こんなこというのも申し訳ないんだけどと言った表情でクモマが言った。


「僕たち、"職人"に見えるかな?」


「「………!!」」


全員が一斉に表情を顰めた。
そういわれてみればそうだ。
メンバーは皆見るからに10代。大人には見えない。
よって職業に就いているようにも見えなかった。


「そうか。俺たち若かったな」

「だけど俺の心は大人だぜ」

「嘘つくな!字も読めないくせに!」

「色気で誤魔化せないかな〜?」

「どうだろうね〜…?」

「あ、でもクモマって見るからに子供っぽいから無理だね!」

「…………」

「ソングも無理だぜ!何せ心が不安定だからな」

「何ほざいてんだてめえは!」

「毎晩彼女の写真を見てにやけている奴なんて大人じゃねえぜ?」

「…………」

「鼻から凄いモノが出る、というのは無理かしら?」

「きっと無理や。『子供は見ちゃいけまへん』ってなると思うわ」


盲点だった。
今回は楽に村に入れるだろうと思っていたのにまさかこんなところで引っかかるとは。
頭を抱え込むメンバー。


「どうしよう…見るからに子供な自分は一体どうしたらいいんだろう…」

「あ〜困ったね〜!」

「俺、作業着着ているが無理か?」

「無理だぜ。何せ心が不安定だからな!」

「やっぱそれが原因なのか?!」

「耳毛が溢れ出る、というのも無理かしら?」

「きっと無理や。『暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています』っちゅうことでモザイクかけられるわ」

「……はあ、今回もまた無理なのか…」


深くため息をつく。
しかしすぐにチョコが提案してきた。


「皆で"学生"になるのはどう?」


目を丸くしてチョコを見る。
チョコは異常に微笑みながら話を続ける。


「私らの年齢って普通"学生"でしょ?それだったら"学生"に化けるというのもいいと思うなー」


そしてメンバーらの様子を窺う。
チョコの意見に全員が納得し、同意した。


「いいね!それ!"学生"だったら僕でも余裕で入れる」

「なるほど。"学生"という案があったか」

「すげーぜチョコ!って、"学生"って何だ?」

「あれよ、あのモジャモジャのことよ」

「どれだよ?!しかもモジャモジャって一体何の音だ!!」

「"学生"か。それなら誤魔化しがきくし有効的やな」

「でしょ〜!だからさ〜」


弾けるメンバーにチョコは悪戯に笑って
腰に手を当てる。
そこから棍棒を取り出した。


「今回も、魔法にかかっちゃおうか?」


そしてまた悪戯に笑ってみせる。
そこで全員が、はめられた!と気づいた。
しかしもう遅い。チョコは早速行動にうつしていた。
棍棒を回して大きくするとメンバーの周りを大きな円が囲み、それから"らくがき"を描いていく。


「また魔法?!」

「しまった!はめられたか!」

「ヤッタゼ!魔法だ魔法!」

「"学生"ってことは…何を着せられるんや?」

「あれよあれ。もっちゃり系よ」

「どんな系統だ?!」

「いっくよ皆〜!」


ワーワー喚いているメンバーにチョコはそう告げると


「"学生"って言ったらアレよ!」


魔法陣の中に入って


「"制服"でしょ〜!」


棍棒を突き立てた。


魔方陣発動!
光に包まれたメンバーは
今回もまた魔法に掛かってしまったのであった。





+ + +




村の入り口には、検問所というところがあり、そこで職業は何なのかを検問する。


「次の方どうぞ」


検問所の役員がそう言って次の人を呼ぶ。


「あ、団体さんなんですね。少々お待ちください」


そして検問所の役員はその場にイスをいくつか追加した。
学生服を着たその団体は、なんともまとまりがない。
見るからに怪しい団体であったが、検問が始まった。


「はい、皆さん腰を下ろしてください」


そう勧められて腰を下ろす学生服の団体。
それからレポート用紙にペンを立てて、役員が訊ねてきた。


「では皆さんの職業をお教えてください」

「えっと、学生です」

「学生だよ〜」

「学生さんだぜ」

「……学生」

「学生やねん」

「皇女よ」

「何処のだ?!」

「…学生と皇女…っと」


レポート用紙にそうメモをして役員は続けて質問する。


「学生さんはこの村に何しに来たのですか?」

「そよ風が俺を呼んだんだぜ☆」

「学校見学です」

「そよ風と学校…っと」


どんなメモだ、とツッコミたいところだったが、さすがに今は控えていよう。
メモを書き終えると今度はメンバーらの容姿に注目した。


「えっと…学生服…ですね〜」


ただ、そう一言だけ言った。
何故そんなに口ごもっているのか、メンバーらは気になったが、
理由はきちんとある。

それは


「…個性溢れていますね〜皆様」


では全員の学生服姿をご覧ください。

まずクモマ。
きちんと学ランを着こなしています。
しかし、お〜っと!足が!足が!ズボンが!ズボンが可哀想だ!
ダボダボです。ズボンの丈と足があわなかったみたいです。
傍から見たらわざとズボンを下げているのだろうと思われがちだが、違います!
これが彼の足の長さなんです。精一杯ズボンを上げてこの結果です。

次はトーフ。
制服がダボダボです。きちんと着れていません。
サイズがなかったみたいです。
あと気になるところはネコ耳と尻尾ですね。眼帯も気になるところです。
一体何者あんた?って感じです。

チョコ。
彼女はまだ普通です。
セーラー服がまぶしいです。
しかしちょっと待ったー!それは危ないです!18禁になりかけです!
スカート短すぎの上に何故へそだしルック?!なぜわざわざ変な着方をするんですか?
ちなみに彼女の格言は"露出はファッション"です。

サコツ。
彼はひどいです。
なぜなら、学ランの中は何も着ていなく裸だからです。鎖骨、胸板もろ見えです。
そこまでして自分の鎖骨を見せたいのですか?!
ちなみに彼の格言は"へそピアスがポイント"です。

ソング。
至って普通です。
どこを語ったらいいのでしょうか?
…学ランと銀髪が合わないというところでしょうか。
しかし行儀の悪いところからこれは不良です。不良に見えます。
だけど制服をきちんと着ている不良です。凡人の不良です。むしろ凡人です。

ブチョウ。
何も語れません。拒否したいです。
え?語らないとダメですか?
では…ゴホンっ…ここでもあなたはアフロ頭なんですか?!!
しかもスカート丈長い!!くるぶしあたりまであります!
何故チェーンを振り回しているんですか?いつの時代の不良?!
…はっ!女番長!!


お互い姿を見せ合って、やがて口を開いた。


「普通ですよ。普通」

「普通に学生さんだぜ?」

「そうよ。何も変哲のない学生よ!」

「そうですね。では質問の続きをいたしましょう」

「いいのか?!」


あっさりクリアした。役員は続けて質問をする。


「では、皆さんに聞きます。あなたたちは学校でどのような生活を送っていますか?」



………。
盲点だった。まさかそんな質問がくるとは。
固まるメンバー。しかしブチョウが答えた。


「毎晩彼女の写真を見てにやけているわ。こいつが」


そしてソングを指差した。


「こら!何言ってんだてめえは!」

「そうですか。彼女とウハウハなんですね」

「お前も可笑しいだろ?!ウハウハって言葉あんま使わねえよ!」

「あと俺はへそを出べそにできるぜ」

「変な自慢するな!」

「足が長く見える快適グッズ…やっぱりもらっていればよかった…」

「何後悔してるんだ!あきらめろ!」

「ここにいる皆、私の友達なの〜!いいでしょ〜?初めて出来た友達なんだ〜」

「えかったな〜チョコ。ワイらはずっとあんたの友達やで」

「ありがとートーフちゃん〜」

「何だここは?!」


しまった…。
普段のノリが出てしまった…っ。

それらを見ていた役員は、レポート用紙にメモをとり終えると、やがて決断を下した。
緊張の一瞬…


「合格です」

「「マジで?!!」」


予想もしていなかった結果に全員が驚いた。
その間に役員はレポート用紙の下に敷いていた紙を近くにいたサコツに渡した。


「それではこれを渡します。村の地図です」

「いらねえよ」

「いや!もらっておこうよ!」


サコツの代わりにクモマが手を伸ばし、受け取った。
地図を見る。
大まかに書かれているため内容が不十分であったが、大きい施設はきちんと書かれていた。
その中の一つに、学校があった。
役員はそこに指を置く。


「ここの学校を推薦します。村で一番大きい学校です。設備もよく成績も優秀なんですよ」

「へえ」

「ここからも近いですし、是非覗いてみてください」


+ +


そしてメンバーは、無事に村に入ることを許可された。

よし、学校へ行かないでまずは買い物だ。
と、思ったが


「私、学校っていうの見てみたいな〜、ちょっと憧れだったの」


チョコにお願いされて、少しだけ学校に寄ってみることにした。



しかしその選択は後にメンバーを苦しませることになる。








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