メンバーらはこれからどうしたらいいのか分からずに、一先ず校長室へと向かっていた。


「ねえ、あの子大丈夫かな?」


只今休み時間のため騒がしい廊下を歩いて、クモマが全員に問う。
ブチョウが訊ねる。


「あの子ってどの子のことよ?」


ブチョウは先ほどまでずっとハト姿で一人の生徒を集中的に突付いていたためクモマの質問しているものが分からなかった。
すぐにクモマが答える。


「お金を脅し取られていた生徒のことだよ」

「ホント、あれ腹が立つよね!何で人のお金取ろうとするの?意味わかんない〜!」

「…食い逃げ万引きをしている俺らが言う台詞じゃねえけどな」

「それは禁句や、ソング」

「でもよー何か気になるぜ〜?金取られているなんてよー」


唸るメンバー。こういうときはどうしたら良いのか悩んでいるのだ。そのとき


「ねえ」


クモマは全員に目を向けて、訊ねた。


「あの子、助けてやれないかな?」


しかし全員は


「…」


無言になるだけだった。

そうやって歩いていると、やがて校長室のドアが見えてきた。


 楽しかったな。学校ライフ…。


メンバーは今まで歩いてきた廊下を振り返る。
校長室あたりは人の気配を感じない。さすが校長室付近では遊べないらしい。
たった2時間しか勉強を受けなかったが、楽しかった。

また振り直して校長室のドアの目の前までやって来た。
ここに入ったら、きっと校長に、見学は以上で終わり。と言われここから追い出されるだろう。

少しだけ、物寂しい。
だけど自分らは旅人。いつまでもここにいられない。


ドアノブに手を伸ばす。


しかし、その行動は彼女の声で止められた。


「皆さん!!」


ヒナコだ。
息を切らして、乱れた服装を整えて、メンバーを見ている。
目を丸くしてまずトーフが訊ねた。


「どうしたんや?」

「もう少しで次の授業が始まるんじゃない?」


チョコの質問を首を振って否定し、ヒナコは言った。


「今は昼休みでしてお昼の時間なんです。だから授業はありません」

「それはいいとしてよー」


サコツがトーフと同じように訊く。


「どうしてここに来たんだよ?」

「それがですね…」


今度はこちらの質問も答えてくれた。
しかしその答えはメンバーを絶句させるものであった。

ヒナコは呼吸を整えながら、メンバーに助けを求めた。


「ヤマブキくんが…大変なんです…」


まだ内容が不十分だというのに、ヒナコは近くにいたチョコの手を引いてメンバーを現場へと誘導していた。
ヤマブキとは一体誰のことなのか、わからなかったが一緒に行ってみれば分かる。
メンバーは校長室から離れて屋上へ向かう…。





+ + +


「やめろ!何を考えているんだ!」

「ちゃんと考え直してみて。こうしなくてもいい方法があるはずよ」

「おい!ヤマブキ!!」


場は屋上。
ここにはたくさんの人がいる。しかし全員が一人の生徒から距離を置いている。
その中にまた人が追加される。ヒナコに連れられたメンバーだ。
人集りに驚くメンバーの横でヒナコが叫んだ。


「ヤマブキくん!」


息を思い切り吸い込み、そして声と共に吐き出す。


「自殺は止めてください!!」


ヤマブキと呼ばれた生徒は、屋上の柵を越えた狭い空間にいた。
そのヤマブキという生徒にメンバーは見覚えがあった。


お金を脅し取られていた生徒だ。


そこにいる人は全てヤマブキに叫んでいた。
それらは全て、やめろ、早まるな、考え直せ、こっちに戻って来い。
ヤマブキは全てに拒否する。

本当に狭い足場だ。
一歩でも踏み外したら、真逆さまだ。飛び降りになってしまう。
柵にしがみ付きながらもヤマブキはこちらを睨んでいる。

叫び声が飛び交う中、メンバーも紛れ込んだ。
同じように叫び、ヤマブキに声を届ける。


「何してるんだい!こっちに来な!」

「あかん!飛び降りたらあかんで!よー考え直しぃ」

「ダメったら!はやまっちゃダメってばー!」

「あぶねーぜ!これ落ちたら死んじまうぜ!」

「おい!死ぬぞ!」

「飛び降りろー。飛び降りろー」


禁句を発したブチョウを取り押さえて、メンバーもヒナコもその場にいる人もヤマブキへ叫ぶ。
しかしヤマブキは全てに首を振る。
いつまでも動かないヤマブキにとうとう人々は疲れ果ててしまった。一旦声を張るのを休める。
少しの間だけ静かになるこの場。
そのときに、ヤマブキが口を開いた。


「………止めないで…」


それは人々を震わせる言葉であった。
おかげでその場は再び騒がしくなった
が、ヤマブキの鋭い声が打ち消していく。


「僕にはもうこうするしかできないんだ」

「な、なぜ…」


クモマが恐る恐る訊き出すが、ヤマブキが答えないため、続けた。


「自殺なんかしようと考えた…?」


沈黙。


「一体どういう経路を辿れば自殺に繋がるの?」


無音。


「君に一体何があったんだい?」


風の音が優しく流れる。


「教えてごらんよ…」


手を差し伸べるような言葉に、ヤマブキが篭った声で答える。


「僕の勝手じゃないか」

「大勢の人を巻き込んでいて、よくも無責任なこと言えるね」


クモマの言葉が鋭く突き刺さる。
おかげでヤマブキは怯えていた。

沈黙が怖い。

暫し沈黙。
クモマはヤマブキが答えるまで何も言わないつもりだ。

そして沈黙をやぶったのはヤマブキではなく、ヒナコであった。


「ヤマブキくん。一体どうしたんですか?」


目線を一旦落として。


「あなたはこんなことする人ではなかったはずですよ。一体誰があなたをこんなにも追い詰めたんですか?教えてください」

「どうせ、"俺ら"と言うんだろ?」


低い声が混じってきた。
いつの間にいたのか、シンジョウがダルそうに壁に寄りかかっていた。
ヤマブキを睨んでいるシンジョウに目線を向けヒナコが訊ねた。


「どういう意味ですか?」

「つまりはこういうことだ」


鋭い目つきが更に怖くなる。その目でヤマブキを見て。


「こいつが金を取られている現場を俺らは何も言わずにただ見ているだけだった。それが辛かったんだろ?その辛さが積み重なって今こんな風に追い詰められている」


この場にいる人の数名が、表情を変えた。
シンジョウは続けてやった。


「本当は助けてもらいたかったんだろ?同じクラスの俺らに助けてもらいたかった。それなのにいつも助けてもらえなかった」

「…」

「それで自殺か。簡単な奴だなお前も」

「…」

「死んでしまったら楽になるとでも思ったのか」


途中ヒナコがシンジョウを止めようとするが治まらない。


「バカなやつだ。だからお前は俺らに見放されているんだ」

「シンジョウくん!」

「そのまま落ちろ。落ちて早く楽になれ」


シンジョウの言葉はその場の人を震わせた。
場を考えずに淡々と言い放ったシンジョウにサコツが首を突っ込んできた。


「おいおいおい〜!そりゃ言いすぎだぜ?本当にあれで落ちたら笑えねぇぜ」

「俺は自分の考えを述べただけだ。余所者は口を出すな」

「何だと?!俺らには関係ないことだと言いてえのかよ!」

「黙れ。俺は眠い」

「こ、こいつ…」


珍しく喧嘩腰のサコツを今度はメンバーが止めようとする。
しかしそれは妨げられてしまった。ヤマブキの弱弱しい声によって。


「………違うよ…」


その場に吹いたそよ風がざわめきを奪っていく。
静かになったこの場に再びヤマブキは言った。


「違う…僕は皆のことを恨んで今こうしているんじゃないよ…」


あまり表情に出ていないが驚いている様子のシンジョウ。
ヤマブキは首を振って、全てを否定して、答えを述べた。


「僕がこうしているのは…お金がなくなったから」


「?!」


「払えるお金がなくなっちゃったんだ」


何を言い出すのかと身を乗り出そうとするメンバーをヒナコが抑えた。
ヤマブキは柵にしがみ付きながら全てを語る。


「今までこうしてお金を払って人生を送っていた。学校生活を送っていた。お金があったからこそ僕には希望があった」

「お金を払うって誰に払っているの?…まさかさっきお金を脅し取っていたあの連中のこと?」

「うん。僕の唯一の友達」


目を瞑って、過去を振り返る。


「昔から僕はこんな感じで友達がいなかったんだ。だからいつも一人だった。だけどねあの人たちに会ってから僕は生きる希望を与えられた」

「でも、お金取られているじゃん」

「あの人たちは、友達のいない僕にこういったんだ。『これから俺らのために金をくれろよ。友達じゃねえか』って。僕その言葉がうれしかった。僕には友達がいたんだって。だから僕は友達のために今までずっとお金を払っていた」


真実に、その場の人は様々な表情を浮かべていた。
驚く人もいる。唖然としている人もいる。そして表情を顰めている人もいる。
ヤマブキは涙ながらに叫ぶ。


「それなのに!僕はもうお金をなくしてしまった。手元にはお金が一銭もない。それが辛かった。これでは友達が逃げてしまう。嫌だった。だから」


そしてそのまま涙に埋もれてしまった。
ヤマブキの嗚咽が響き、メンバーも黙って眺める。
その中で動く複数の影。見やるとそれは金を脅し取ったあの連中らであった。
連中の表情は優れていない。
一人が言った。


「すまなかったな」


声に反応してヤマブキは顔を上げる。
連中の顔を見て、驚いている様子だ。
連中は続ける。


「まさかお前がそういう風に思っていたなんて」

「俺らのために、お前自殺する気か?」

「やめてくれよ」


「………」


驚いたことに懺悔をしてきた連中。ヤマブキはおかげで声が出ない。
代わりに泪が溢れ出るだけ。


「………ぅ…」


再び嗚咽を吐く。
連中も心配そうに眼差しを送って山吹に、手を差し伸べる。


「戻って来い」

「金はいらない」

「お前が死んだら悲しくなる」


手を差し伸べられて、ヤマブキは手を伸ばす。
やがて手は結ばれ、無事ヤマブキは落ちずに済んだ。

メンバーもその場にいた人たちも安堵をついた様子だ。
ヒナコは泪を流して見届けている。シンジョウがそんな彼女を無言で慰めている。

そしてメンバーは邪魔にならぬようゆっくりとその場から去っていった。


+ + +


「よかったよかったー自殺しなくて良かったねー」

「本当だよ。一時期どうなるかと思った」

「俺はクモマが突っ走るんじゃねーかとヒヤヒヤしたぜ」

「失礼だね。僕はそこまでバカじゃないよ」

「あら、たぬ〜。今日も非常に短足ね」

「うわーん!!!」


再び廊下を歩いていく。
校長室へ戻っているのだ。校長に挨拶をしなければならない。
しかし先ほどあんな事件があったのにも関わらずさすがメンバー。いつものペースに戻っている。
やがて校長室へ着くことが出来た。


「ほな、あいさつするで」

「早く"ハナ"も見つけないといけねえしな」


ソングの一言に全員が顔を見合わせた。
チョコが笑いながら言った。


「そういえば、"ハナ"のことすっかり忘れていたよー」


その他のメンバーも頷いて同意しあっている。
ソングが呆れ顔を作る。


「てめえら、大丈夫かよ…」


ため息をつきながら、ソングは校長室のドアを開けた。
そしてそこからはすぐにオオヤマ先生が飛び出してきた。見事オオヤマ先生とぶつかり飛ばされるソング。


「な、何故俺ばっかり…っ?!」

「どうしたんですか?オオヤマ先生?」

「やはり僕の計算どおりでした」


オオヤマ先生の手には数枚の紙が持たれていた。


「テスト答案を返します。あなたたちもうここから出られるんですよね」


そういえば忘れていた。テストのことを。
か、返されるのか…。
しかしその前にトーフが素早く止めに入っていた。
トーフの目は真剣だ。


「……感じるで…」


耳をピクっと動かして、あたりを見渡している。


「…"ハナ"や。最初こん部屋に来たときは意識してへんかったから気づかへんかったけど、今集中してみたらはっきりわかるわ」


メンバーも目の色を変える。
オオヤマ先生や、部屋のイスに優雅に座っている校長は訳が分からず首を傾げている。
そして


「あったわ!!」


見つけた。"ハナ"は校長室の植木鉢の中で立派に生えていた。
まさかこんなところにあったとは。
今回の"ハナ"は外見は非常に美しく、色使いも良い。きっと校長が好んで摘んできたものに違いない。
今は美しい姿だが、成長するにつれて"ハナ"は不気味さが増し、威力も大きくなる。
いずれこの村も可笑しくなってしまうだろう。
だから早く止めなくてはならない。今こそラフメーカーの仕事だ。

"ハナ"を消そう。


こうして、ラフメーカーは校長から無理矢理"ハナ"を奪い取って"ハナ"を封印させた。
校長は相当のお気に入りだったのか泣きついてきたが、無視しておいた。
"ハナ"は水晶のような玉に変わりひょうたんに封じ込めた。



無事に"ハナ"を消して、メンバーはこの村にいる必要はなくなり、足を進める。
そのとき


「待ってください。皆さん」


オオヤマ先生がメンバーを止めた。
手にはテスト答案が…。


「皆さん学生ではないんでしょう?計算してみて分かりました。あなたたちは旅人さん。何があったのか知りませんがご苦労様でした」


軽くお辞儀をして


「しかしこのテストで分かりましたよ。やはり旅人さんっていうのは頭が弱いみたいですね。旅が終わったら是非この村にまた訪れてください。そのときに」


オオヤマ先生は含み笑いを作って


「みっちり指導してあげますよ」



そしてメンバーは、オオヤマ先生から逃げるようにして、そこから凄い速さで駆けて行った。









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学生服のメンバーの姿です
では、どうぞ!

学生服1(チョコ、サコツ、トーフ)
学生服2(ブチョウ、ソング、クモマ)

大いに突っ込んでよし

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