チャイムが鳴り、次の授業が始まった。
生徒はすぐに自分の席へ戻り、メンバーもこの授業まで受けることになったため先ほどの席へ行く。

国語担当のアカガワ先生は、ナレーション口調で快調に授業を進めていく。



「そして私はある生徒に指名をした」


別な意味で緊張する授業だ。


「私の指差す先には、赤髪の生徒の姿があった。今日学校見学に来た生徒の団体の一人だ」


アカガワ先生に指名され、サコツは目を丸くする。
メンバーも、何でサコツが指名されているのか、と驚く。
授業って生徒を指名して進めていくものなのか…と、ここでメンバーは一つ学習した。

指で指図され、サコツはその場に立った。


「それでは教科書を読んでください。と、私は赤髪の生徒に命令した。赤髪の生徒は、げ!マジでかよ!俺バカだから字読めねえぜ!!って思いながらも私に心が悟られている恐ろしさのほうが大きく、仕方なく読み上げることにした」


こえーっ!!!!


「では、読んでください」


アカガワ先生はサコツの心を悟りながら、そう命令した。
しかしサコツは本当に字が読めないのだ。
アカガワ先生に教科書を貸してもらい、ここを読み上げろと言われたが、無理だ。

さあ、どうする?サコツ。


緊張の糸が張っている教室の中、サコツがやがて口を開いた。


「……もにゅらっぺ」


ええええ?!!!


「ちきゃらいすんら。くしいせももんんらすにかんせ!かゃちっほてへあかえふたふたた…もっぱらとろいおまつ。あれわたっぱっぱ」


何か変な言葉を発してる?!!!
一体何語だよ!!!

サコツは頑張って教科書を読み上げる。
変な空気に包まれた教室。
謎の言葉が流れる中、生徒は硬直している。
やがてサコツは教科書を読みきったらしく、汗を拭った。


「はい、上手に読み上げていましたね。と私は大いに称えた」

「「ええええ?!!」」


手を打つアカガワ先生。
生徒は訳分からずただ驚くばかりだ。

あれでよかったのかよ?!思い切り変な言葉だったではないか!!


そのまま授業は進んでいった。


「では、次は短文を作ってもらいます。と私は声を張る。今からノートに短文を書いて発表してもらうのだ。生徒は苦そうな表情を作りながらもその作業に取り掛かる」


そして、アカガワ先生は口調を変えた。


「今日もまた遅刻ですか?シンジョウくん」

「……」


後ろのドアから入ってきた男に目線を向けずに、アカガワ先生はキツく言葉を放った。
シンジョウと呼ばれた男は服装が乱れていて如何にも不良っていう感じだ。
無言でシンジョウは自分の席へ行く。

そこはクモマの前の席に座っているヒナコの隣の席だった。
すぐ近くで不良を見れてクモマは息を呑む。


「も〜シンジョウくん。今日も遅刻ですか?」


ヒナコは笑顔で不良のシンジョウに接する。
目つきの悪いシンジョウのことが怖くないのだろうか。ヒナコはまた声をかける。


「遅刻ばかりしていますと内申書に大きなバツがついちゃいますよ」

「うるせえな…」


やがてシンジョウが口を開いた。
声が低くて見るからに怖そうだ。ヒナコは笑う。


「失礼ですねーシンジョウくんは」

「お前は黙ってろ。ヒナコ」

「何でですか?そういわれる筋合いはないはずですよ?」

「……うるせえなぁ…」


何かこの光景は、ソングとメロディを思い出させてくれる。
しかしその本人は別になんとも思わずそんな光景を眺めている。




アカガワ先生は気にせず授業を進めた。


「皆さん早速短文を作ってください。使う語句は…。そういうと私は黒板にその語句を書いた」


首を伸ばして黒板に注目する生徒。
ちなみにヒナコとシンジョウはまだ口喧嘩をしているようだ。
クモマは微笑ましくそんな二人を眺めている。

黒板がチョークに叩かれる音が鳴り、アカガワ先生は語句を示した。


「使う語句は『ゴボゴボ』か『あばんちゅう』です。皆さん、頑張って作ってくださいね。そして私はニコリと楽しそうに微笑んだ」


使う語句が『ゴボゴボ』または『あばんちゅう』…
一体どうやって使えばいいんだ?!


しかし、メンバーらはすぐに書き上げることが出来た。
それに気づいたのか、早速アカガワ先生はメンバーに指名した。


「それでは、そこの猫っぽい虎。一つ短文を言ってください」

「猫?…いや、途中で虎言うてくれたな、嬉しいわぁ」


トーフは嬉しそうに微笑み、そして言われたとおり短文を一つ読み上げた。
彼が使う語句は『ゴボゴボ』のようだ。


「ブチョウからゴボッゴボゴボ、ゴボッと音が鳴った」

「何処から?!」

「すばらしい短文でしたね」

「何処が?!」


思わずソングより早くツッコミを入れるクモマ。
トーフは褒められて少し照れているようだ。
次はチョコが指名された。


「姐御とキミとであばんちゅう」

「何だよ!あばんちゅうって!しかもまたブチョウネタ?!」

「すばらしい短文でしたね」

「何処が?!」


またクモマがツッコミを入れる。
ソングは入れるタイミングを逃してしまい、しょげかえっていた。


そして、国語の授業は無事に終わった。




+ + +


「楽しかったねー授業〜!」


チョコが笑いながら大きく伸びをした。
クモマも机にベッタリ顔をつけて


「そうだね〜でも僕は何だか疲れたよ…」


初めての授業の所為か、それとも可笑しい先生らにツッコミを入れすぎたのか、どちらか分からないがとにかくクモマは疲れ果てていた。
机の肌が何とも冷たくて気持ちがいい。
上の空になりつつあるクモマに、ヒナコが振り向いてきた。


「どうでしたか?皆さん。楽しく授業を受けられましたか?」


そして微笑む。何て可愛い子なのだろうか。
クモマもそんな彼女に見苦しい姿を見られたくなくて、急いで顔を起こした。


「楽しかったよ〜!学校って楽しいね〜!」


元気なチョコが代わりに感想を述べた。
謎の言葉を発していたサコツも続ける。


「全くだぜ!いろいろ勉強になったぜ!」

「もうやめてくれ…あっちいってくれ…」


紛れて女生徒に埋もれているソングが嘆き声を発しているが気にせず続けた。


「ワイも楽しかったで。まだここにおりたい気分やな〜」

「そうだよね〜」

「もうやめて!ハト!僕の頭をそんなにつつかないで!いろいろ出るから!」


ブチョウはまだある生徒の頭をつついているようだ。
賑やかなメンバーにヒナコは微笑む。


「それはよかったです。私も嬉しいです」


そしてチラっと自分の隣の席を見て、呆れ顔で


「…もうシンジョウくん。もう寝ているんですか…」


その席に座っていたシンジョウは寝息を立てて寝ていた。
先ほど来たばかりだというのに。
メンバーも思わずそんな彼に目を向ける。


「ごめんなさい。授業中に見苦しい姿見せちゃって…。私とシンジョウくんっていっつもこんな感じなんですよ」

「何や?あんたら恋人同士か?」


意地悪な口調でトーフが訊ねた。
ヒナコは顔色変えずに軽く返す。


「違いますよ。私たちは幼馴染なんです。昔からずっと一緒だったんですよ。シンジョウくんとはそんな関係なだけなんです」


それを聞いてトーフが軽くソングを見た。しかし彼は女生徒から逃れるために突っ伏しているため見えなかった。
本当にこの二人はソングたちと似ている。
もしかしたら密かに恋心を抱いていないだろうか?まあ気にすることではないか。

そして次の授業は受けられないだろうと思い、席を立ったそのときであった。


「おい、金出せよ」

「俺たち金に困ってるんだ」

「お前の有り金全て出せ」


黒い言葉が飛んできた。
そちらの方を振り向くと、数名の生徒に囲まれた一人の男子生徒の姿があった。


「…有り金…全部…?」


怯えた声で囲まれている生徒が訊く。もちろんそれに数名の生徒らが頷く。
そして言われたとおり生徒は財布を取り出し金を払おうとする。
だが、そのまま財布ごと取り上げられてしまっていた。


「ちぇ、全く持ってねえじゃねえかよ」

「使えねえ奴」

「今度はもっともってこいよ。な?」


他の生徒はそんな光景を黙ってみていた。
メンバーも…。と思っていたが


「おいおいおい〜、何やってんだ?」


サコツが止めに入っていた。
目を丸くしてそれを見るその場。
囲まれている生徒も目を丸くしサコツを見る。財布を取り上げた生徒がまず言った。


「何だよ、てめえ」

「俺たちに喧嘩売ろうとしてるのか?」

「生意気な奴だ。お前からも金取ろうか?」


向こうは喧嘩腰だ。
サコツはどうするのか?喧嘩腰で行くのか?
嫌な空気の中、サコツが言い切った。


「俺は金なんて持ってねえけどな!いい心は持っているぜ!!」


何か言っちゃったよ?!!


「…そうか」

「それなら仕方ない」

「やられたぜ」


何まいってるの?!!


そして、その生徒らは大人しく教室から去っていった。財布を持ったままだったが。
嵐が過ぎ、静かになった教室。
ポツンと残された生徒はサコツをじっと眺めている。


「大丈夫か?おい?」


勝負に勝ったサコツが生徒に訊ねた。
生徒はまだサコツを見ている。


「大丈夫〜?ってか何よあいつら!腹が立つね!」

「ホンマやな。何やねん。あんたも何か言いかえさんか」

「そうだよ。しかもお金取られたままじゃないか、どうするんだい?」

「ハト!やめて!ちょっと出かかってるから!」


メンバーが次々と訊ねてくるため、生徒は目線を下にし俯いてしまった。
困った、と思ったそのとき、ヒナコが代わりに答えてくれた。


「この子は、いつもこうなんですよ」


メンバーはヒナコを見る。
ヒナコも眉を下げて、心配そうに俯いている生徒を見やる。


「誘われたら断れないタイプのようでして、いつもこうやってお金を取られているんです。困ったものですよ。嫌なら嫌だと言えば良いのに…」

「そんな奴無視しとけ」


途中低い声が割り込んできた。
そちらを見ると、それは先ほど眠っていたシンジョウだった。いつ起きたのだろうか。


「そんな!ひどいですよシンジョウくん!」

「自分に弱い人間はどうやっても弱いままだ。無視しとけ。俺らには関係ないことだ」

「関係ありますよ!同じクラスの生徒じゃないですか!」

「別のクラスの奴にターゲットにされているこいつが悪い」

「シンジョウくん!」


ヒナコに怒鳴られるが、シンジョウはまた突っ伏して眠りに入ったようだ。一体何しに起きたのだろう。
沈黙が起こる教室でメンバーは何とも居た堪れない状態になっていた。
しかし、この生徒が心配で仕方ない。


「…ねえ」


沈黙の中、クモマが訊ねた。


「キミは、このままでいいの?」


しかし、生徒は俯いたままだった。









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ヒナコの次はシンジョウが出ましたね!新城です!新城!ま゜組でも人気を集めた新城ですよ!

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