オオヤマ先生に連れられ、メンバーはある部屋へと入った。

たくさんの人がいるこの部屋。
人の数だけの机イスがあり、前のほうには黒板もある。
…つまりここは学校の教室のようだ。
メンバーと同じぐらいの年齢の生徒が戯れている。
感動して暫し黙って眺めるメンバー。

やがて学校のベルも鳴った。学校のことをあまり知らないメンバーはその音に驚く。
そして今ごろ気づいたのか、教室にいる生徒もそんなメンバーの存在に驚く。


「起立。礼」


クラスの代表者がざわめいていたクラスをまとめる。
代表者の言われたとおりにその場に起立してお辞儀をした。


「「ミャンマー」」

「はい。ミャンマー」


数十名の生徒に挨拶されてオオヤマも同じく返す。
メンバーも慌てて頭を下げる。
生徒の一人が身を乗り出して、訊いてきた。


「先生〜!そこの人たちって転入生ですか〜?」

「違いますよ」


すばらしく即答で返すオオヤマ先生。
そこまで否定しなくてもいいじゃないか…。
まあ確かに違うことは違うんだが…。

オオヤマ先生はそろばんを弾いて計算をする。


「僕の計算によればこの人たちは他所の村からやって来たみたいですね」


見事的中され、ドキっとした。
一体どんな計算をしたらそんな答えに導かれるんだ?
気になって仕方なかった。


「へー他所の村の人が何故この教室に〜?」

「学校見学らしいですよ」


そろばんを弾きながらオオヤマ先生は意地悪くそう言った。
…もしかすると計算をしてメンバーの目的を知ってしまったのかもしれない。

メンバーらの目的。それは
この村で買い物(万引き)をすることだ。

元々、学校見学なんてする気はなかったのだ。


苦笑いをして対応するのはオオヤマ先生の計算に恐れを感じているメンバー。


「そやで。学校見学や。よろしゅうに」

「見学ってことは、ただ見ているだけなの?」


生徒の一人がそう訊いてきた。
クモマはすぐに反応した。


「そういうことになるだろうね。僕たちは学校見学を機にここにいるのだから」

「ま、勉強とか一度してみたかったんだけどね」


チョコが口を滑らせ、クモマがすぐに彼女の口を押さえる。
こんなこといってしまったら、自分らが学校へ行っていないということがばれてしまい、それと同時にメンバーの正体もばれてしまう。
ヤバイヤバイと慌てるメンバーに、


「皆さんも一緒に授業受けてみませんか?」


なんとオオヤマ先生が自ら誘ってきた。
メンバーも目を丸くする。
クモマがまた反応した。


「え?授業受けるって…」

「ワイら見学に来ただけやねん」

「全くだ。面倒くせぇ」


否定する3人に対し


「え〜!いいの?!本当に??」

「うっほほーい!勉強だ勉強だ〜!」

「これで私も億万長者ね」


肯定する3人。
オオヤマ先生はもちろん後者の3人に頷いた。


「そんなに喜んでいただけるとうれしいです。席も一番後ろの1行がちょうど空いてますので6人お座りください」


そしてうれしそうに微笑んだ。
オオヤマ先生も教師だ。授業を喜ぶ生徒に喜びを感じたようだ。
こう見るとオオヤマ先生もある意味怖かったが普通の教師と同じのようだ。

オオヤマ先生に言われ、メンバーは席についた。
他の生徒も興味津々にメンバーを覗いている。

クモマの席の前の生徒が話しかけてきた。


「ミャンマー。皆さん」


その生徒は大人びていて可愛らしい女の子だった。
生徒は名前を告げた。


「私、ヒナコっていいます。皆さん学校見学なんて勉強熱心なんですね」


そして笑顔を作る。
クモマも慌てて答えた。


「僕はクモマ。…まあいろいろあって学校見学することになったんだよ」

「そうなんですか。この学校は村でも一番有名な進学校なんですよ」

「検問所の人から聞いたよ。すごいねー。こんな学校の生徒だなんて」

「いえ。それほどでもないですよ。私なんかまだまだです」


ヒナコは目を伏せた。
クモマは笑顔を作って、控えめなんだね。と言う。
ヒナコがそんなことない、とまた否定しようとした
そのとき


「やめてくれ、もうやめてくれ…」


ソングの弱弱しい声が聞こえてきた。
そちらの方を振り向いてみると


「うわ!あなたかっこいいね〜!名前なんていうの?」

「すっごい綺麗な銀の髪!」

「今度一緒に遊ぼうよ」

「彼女とかっているの?いなかったらデートしない?デート」

「きゃー!ズルイ〜!私のほうが先だったんだよー!」

「ねえねえ、写真とっていい?」


ソングは数名の女生徒に囲まれていた。
それを防ごうと突っ伏している様子。


「あ、ソングって言われて見れば普通にいい顔してるもんね〜」

「何だよ何だよ。ちぇ!あいつだけいい気分かよ!」


のん気に言うチョコと頬を膨らませているサコツ。
サコツは悔しそうだ。
そりゃあそうだろう。ソングはただでさえ女がいるのにこの様だ。女を持っていないサコツには腹が立つ光景なのだ。

対し、トーフはというと


「先生。ワイあの机じゃちょっと届かんわ。もうちょっと小さいやつあらへん?」

「そうですねー。…計算してみたところ、あのミカン箱を使えばちょうどいいと思いますよ」

「そっか、わかったわ」


机に届かないということで新しい机…ミカン箱をもらっていた。
そんなトーフを保護者的側で見ているクモマ。微笑ましい現場に笑顔を作ってしまう。
そしてヒナコも笑顔だった。


「楽しい皆さんですね」


たった一言だけ言うとヒナコは再び前を向きなおした。


「では、授業を始めます」


ベルが鳴ってから少し経ってしまったが通常通りに授業が始められた。
メンバーもその声に反応してオオヤマ先生を見る。
ソングの周りに集っていた女生徒も大人しく自分の席へと帰っていった。
安堵の様子のソング。

オオヤマ先生がそろばんをたたく。


「皆さん。勉強はきちんとやってきたでしょうか?」

「先生、白ハトが僕の邪魔をしてきま〜っす」

「復習、予習は大事ですよ」

「うわ、思い切り無視ですか?先生。…こら!ハト!やめて!僕の頭をそんなにつつかないで!出るから!」


ブチョウにやられている可哀想な生徒を無視してオオヤマ先生は黒板に何かを書き始めた。
カツカツとチョークが黒板に当たっていい音が鳴る。

生徒は興味津々で黒板に次々と記される字を見るのだが、やがて顔色が真っ青になっていた。
メンバーらも同じく、だ。


書き終わって、オオヤマ先生は再び笑顔でこういったのだった。


「抜き打ちテストです」


そんなの、聞いてないよ…。
生徒全員がそう思ったが口に出さなかった。無言で配られるテスト用紙を眺める。
メンバーは絶句していた。テストなんて今までやったことがないのに

解けるはずがない!!!


「では、はじめてください。カンニングはしないでくださいね」


オオヤマ先生の声が合図に、鉛筆が紙をたたく音が鳴り響いた。




+ + +


 無理だ!無理に決まっている!


沈黙の中、クモマが一人放棄していた。
テストなんて今まで縁がなかったもの。
それを今しろだなんて、無理な話だ。第一勉強っていうものをしたことがないのに…。
しかも数学だ。計算の公式を知らないと解けない、あの数学のテストだ。
できるはずがない。

悪態をつくクモマに対し、他のメンバーはマジメにテストを受けていた。(一羽除く


 何で皆テストできてるんだろう?

 まさか、僕だけが勉強したことがないのかな…


不安になってくる。
もしそうだとしたら一番馬鹿なのが自分になってしまう。それが恐ろしかった。
不安と共に焦燥も起こった。


 どうしよう。何で皆やってるの?!ヤバイ、どうしよう…どうしよう


焦りだけがクモマに積もっていく。
どうすればいいのか分からず、思わずチラリと隣にいるチョコを眺めてみた。

チョコは鉛筆を動かしているように見えた、が
書いているものが違っていた。

数学のテストのはずなのに、浮かぶものは数字ではなく、絵であった。
テスト用紙の片隅に円が書かれていて、その中には"らくがき"のようなものが書かれている。

あの"らくがき"は見たことがある。

魔方陣だ!!


そして、魔方陣を書き終わったチョコは鉛筆を魔方陣の中に突き立てて、魔法を発動させていた。
見事後ろの席で、誰にも気づかれずに魔法がテスト用紙に掛かる。


やがてテスト用紙には、魔方陣はなくなり代わりに数字が埋め尽くされていた。


 ………。


無言でその光景を見ているクモマ。
そして


 卑怯だあぁあ!!!


心の奥底から叫んでいた。
チョコは魔法でテストを解いたのだ。卑怯にも程がある。
チョコの様子を窺って見ると含み笑いを作っていた。


 く、くそう…


さすがにテスト中だ。注意が出来ない。
クモマはチョコのカンニング(?)を見過ごさなければならなかった。悔しい。



そして今度はサコツの方を見てみる。
サコツは何だか楽に解いているようだ。まさか数学は得意分野だったのか。
オオヤマ先生に気づかれないよう、サコツの様子を見てみる。
しかし、見れなかった。
テスト用紙に繰り広げられている世界に、言葉が出なかった。

サコツのテスト用紙は、変な記号がたくさん浮かばれていた。
その記号を生んでいるはサコツ。


 何だ、あの文字はあぁあぁ〜?!!!


どこかの古代文字かのようなサコツの字にクモマはまた奥底から叫びを入れた。
そういえばサコツは文字が読めない。それなら文字も書けないのは当然である。
しかし、アレは酷いだろう…皆にも見せてあげたいよ…。



深くため息をついて、今度はミカン箱でテストを受けているトーフを眺めてみる。
トーフは頑張って解いているようだ。目つきが鋭くなっている。
しかしその目は明らかに違う方向を向いていた。

その方向はトーフの視界に入っている一人の生徒、のテスト用紙。
ときにトーフは手をクイっと引いて生徒の腕を退かし、自分にテスト用紙が見えるようにしている。
そして気が済むまで見ると、トーフは自分のテスト用紙を埋めていった。


 わー!見ちゃったー!
 カンニング現場だあぁあぁー!!!


さすがトーフ。今回もあくどいことをしていた。
それにしてもトーフのターゲットにされた生徒、可哀想に…。
知らぬ間に腕にはトーフの糸を絡ませられ、微妙に操られているなんて。

気の毒に、と思いながら、今度はブチョウを眺めてみた。
いや、見ないでおこう。ブチョウにまだつつかれている生徒が悲しく見えるから。

ソングを見てみる。
しかしここからじゃ表情は見えるのだが何をしているかとかは見えない。
ソングの表情は、いつもの無愛想な表情だった。面倒くさそうにテストを受けている。




…………。

一通りメンバーの様子を見てみて
クモマは一気に肩の力を抜いた。


 よかった…。
 皆バカだった。卑怯なことをしている人や、人間の字じゃないものを生み出している人もいて。
 …これで安心だ。
 バカは僕だけじゃない…


クモマは酷く安心していた。



+ + +


ようやく、数学の時間が終わった。
オオヤマ先生に呼ばれるメンバー。


「いきなり抜き打ちテストをしてすみません、皆さん」

「いえいえ、貴重な時間ありがとうございました」


礼儀正しく接するクモマ。
サコツが明るく身を乗り出してきた。


「俺、テストできたかもしんねー!」

「私もー!私は100%の確立で出来たよー」

「まあ、ボチボチだな」

「ワイも大丈夫やねん!糸持っといてえかったわぁ」

「あの子の頭突付きすぎたわ」


クモマは軽蔑したような目でメンバーを見る。
そんな視線に気づかずチョコがオオヤマ先生に訊ねた。


「これから私たちどうすればいい?」


聞かれてオオヤマ先生は唸る。


「そうですねぇ………」


そしてそろばんを弾き出した。計算をして答えを出しているようだ。
なんて便利な先生なんだ…。
弾き終わってオオヤマ先生は答えを出した。


「僕の計算のよると、次の授業は国語のようですね」

「こくご?」


聞きなれない言葉だったらしく首を傾げるチョコ。
オオヤマ先生は気にせず言葉を続けた。


「国語の授業もしてみてはいかがでしょうか?アカガワ先生だったらきっとあなたたちを快く引く受けてくれると思います」


そのとき、いいタイミングでその先生がメンバーの前を通りかかった。
アカガワ先生。と呼び、動きを止めさせる。


「オオヤマ先生に呼び止められ、私は歩くのをやめた。そして恐る恐るそちらを振り向いてみると、なんと見慣れない生徒がいるではないか」

「すみませんアカガワ先生。僕の計算の答えではアカガワ先生の授業までこの子たちを受け持つということでしたので」

「そしてオオヤマ先生は私に、よろしくと告げた。私は快く引き受けることにした。」

「な、何?この先生…」


まるでナレーションのような口調で語っていくアカガワという先生にメンバーは目が点になっていた。
教師でも様々な人がいるのだな。
アカガワ先生はナレーションを続ける。


「私の名前はアカガワ。国語の教師である。趣味は読書と俳句や短歌を作ること。マイブームは校長をいじめることである」


そしてお辞儀をした。
…やはり校長いじめは教師の中ではブームらしい。
メンバーも慌てて挨拶する。


「「ミャンマー」」

「そして生徒たちは、何だ?この先生。と思ったが、ナレーションされたら怖かったのであえて口に出さなかった」

「「ばれてる?!しかも思い切り口に出されている?!」」

「僕の計算によると、アカガワ先生は人の心を読み取ることが出来ます」

「「こえーよ!皆こえーよ!!」」


思わずメンバー全員で声を合わせて声を張っていた。
この学校では、用心深くしなければならないようだ…。










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皆さん、気づきました?
「ヒナコ」っていう子。この子は、私が書いているもう一つの小説「ま゜組バトルロワイアル」に出てきたひなこです。
このように私のキャラがラフメに出てくるかもしれません。皆さん用心深く見てみてくださいね☆

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