「死刑!」


静かになったこの場に、一つの言葉がポツリと出された。
伴ってまた新しい声が同じ言葉を出す。


「死刑!」

「死刑!死刑!」」

「死刑!死刑!死刑!」

「「死刑!死刑!死刑!死刑!」」


やがて声は全員から出されていた。
死刑場には溢れんばかりの人だかり。
村人全員がここに詰め掛けて来たような、そんな多さ。
村人の声は一致団結して、同じ言葉を繰り出す。

死刑者のチョコは十字架に縛り付けられ、自由を失っている。
縛り付けられる前に涙を拭っていたため顔は綺麗だ。
しかしその顔は悲しみいっぱいであった。


 こんなにも 村人は 私を嫌っている…


チョコは悲しかった。
チョコは友達がほしかっただけなのに。
チョコは人間なのに、どうしてこんな扱いをされるのか、未だに分からなかった。



 笑って償おうと思っていたけど
 この様子からやはり村人は私のことを根に持っている。

 こんな私の笑顔なんか見ても村人は癒されるはずがない。
 村を失ってしまったのだから。


 もう私には笑っている意味がない。
 償いは村人に届かなかった。

 もういい。もうやめよう。
 笑って済ませる償いなんかもうやめてしまおう。
 代わりに別な償いを。

 そう、死ねばいいのだ。
 こんな私死んでしまえばいいのだ。
 村人から嫌われ、友達一人もできずに今まで人生送っていた。
 もう死のう。


 嫌いだけど大好きな人間のために、
 私は死んで償おう。


 もう私にはそれしかできない…。


ライフルを持った男が、十字架に向けて構えている。
それをチョコはボーっと眺めている。


 あれで死ぬのかな…。

 そうだよね。あんなに大きい銃だったら簡単に死ねるもんね

 一発で死ねたら苦しくないかな…



 うん。苦しくない。
 何も考えずに死ねるんだもん。痛みも感じずに私は死ねる。

 痛くもないし、苦しくもない。



ポンプアクションをして銃弾を装填する音により、死刑コールが静まった。
しんと静まった死刑場。
観客である村人も全員動きを止め、一つの場所に目を集中させる。
動いている影はただ一つ。
ライフルを構えている男だけ。


男の笑いを堪えている声が漏れて聞こえてくる。
それはすぐ近くにいるチョコにしか聞こえなかった。

じっとライフルの銃口を見つめ、そこから銃弾が飛んでくるのを待つ。




 これで、死ぬのか…



そのとき、チョコの体が急に震えだした。
ガクガクに震える体。
目も大きく見開かれ、歯を噛み締めて銃口を見て恐怖を実感する。




 怖い!!!




体が恐怖を覚えている。



 嫌だ…死にたくない!!
 怖い!怖い…怖すぎる…


震えている体を縛り付けている十字架までもが振動する。
男は気づかず引き金に指をかける。



 やめて!!!

 それで私を撃たないで!
 怖いの、死にたくないの。
 頭撃たれたら痛いし、ツライし悲しい!

 しかしそれ以上に痛むものがある



 それは、

 ラフメーカーらの心 だ。



 きっと皆私のこと心配してくれてる。
 トーフちゃんだって私をかばってくれたのに、私は簡単に捕まってしまった。
 他の皆も私の所為で捕まってしまった。
 私をかばったために…

 いつも私は皆に迷惑ばかりかけていたような気がする。
 特にトーフちゃんには世話になった。
 初めて会ったあの時だって、少し無理もあったけど私を助けてくれた。
 クモマも体を犠牲にしながらも助けてくれた。
 サコツはいい人だからきっと私の死にショックを受けてくれると思う。
 ソングにも迷惑かけた。テンセイの村で…ね。
 姐御もいい人。だから悲しんでしまうかも。



 ねえ、皆。

 私は皆にとってどんな存在だったの?

 やっぱり邪魔な存在だったかな?私何も出来ないし。




 迷惑ばかりかけている。
 何か申し訳ない。
 だから私はまだ死にたくない。


 死んでしまったら私、皆に何も出来ないままになってしまう。
 何かしてあげたい。何かしてあげたいから


 私は、死にたくない…




 死にたくない





「…………」


静寂の中。
チョコの蚊のような声が過ぎる。


「……けて」


声はライフルを持った男に届く。
男は眉を寄せるが、銃を構えたまま。引き金にも指をかけている。
チョコの声は、徐々徐々に込みあがってきた。


「…けて」


「…た…けて」


「……たすけて」




「助けてええええぇぇ!!!!」





チョコの悲鳴に続いて、パンと軽い音が響いた。
思わず目を瞑る。

しかしチョコには痛みも感じてこない。
何故かと思って恐る恐る目を開けてみる。
すると、男が悔しそうに舌打ちを鳴らし、観客席を睨んでいた。


「……てめえ…」


男が見ている観客席には、一人の男の姿があった。
近くにいた村人は、驚いてその場から退けている。

赤髪のチョンマゲヘアーが風に靡いて、
彼の持っているしゃもじの"気"も微かに揺れた。


「チョコ!助けに来たぜ!!」


それは、サコツであった。
彼のしゃもじの"気"によって弾き飛ばされた男のライフルは宙を舞っている。


「くそっ!!」


男は飛んでいるライフルを取ろうと追いかけるが、サコツがまた"気"を撃ち、ライフルは更に回転をかけて飛ばされた。


 …何で…?

唖然とその光景を見ているチョコは、知らぬ間に自由になっていた。
十字架と一緒に縛られていた縄が解かれたのだ。


「チョコ」


名前を呼ばれてそちらを振り向く。
そこには白マントを身に纏ったブチョウがいた。
彼女の手にはその縄が持たれている。


「大丈夫?」

「…サコツ…姐御……」


信じられないという表情でチョコはメンバーを見る。


「…どうして…?」


何故ここにいるのかと訊ねようとしたときに、ブチョウが心を悟った。


「脱出したのよ。牢屋から」


チラリと目線を変えて。


「たぬ〜が抉じ開けてくれたの」

「…クモマが…?」

「今たぬ〜はお寝んねしてるわ」

「…」

「タマも一緒かしらね。そこのところは知らないわ。だって私らはすぐにここへ駆けつけていたから」

「……」


ブチョウの話を聞いていて、チョコの目からは自然に涙が溢れ出ていた。



「てめえら『汚れた口』の仲間か!!」

「ちげーよ」


男のライフルを撃ち続けながら、サコツが否定した。


「俺らは、チョコの仲間だぜ」

「………小癪な!」

「お前、空ばかり睨んでいるから狙いどころありまくりだ」

「?!」


突然背後から聞こえてきた声に男は驚き、振り向いた。
そこには巨大なハサミを構えた銀髪のソングがいた。


「今俺は無性に腹が立ってんだ。さっさと終わらせるぞ」

「?!」


男の足元を蹴り上げて転ばせる。
それからすぐにソングは男にまたがってハサミを構えた。


「ひっ!!」

「言っておく」


男の喉目掛けてハサミを垂直に立ててソングは一言言った。


「汚れているのは、てめえらだ」

「…っ!」


そしてソングは一気にハサミを突き刺した。
よって男は気を失った。


「…びびったぜ。俺てっきり殺してしまうんじゃねーかと思ったぜ…。びびった〜」

「何よあんた中途半端な奴ね。そこまで来たらズバって刺しなさいよ」

「どっちだよてめえ!!」


観客席から降りこちらへ駆けながらサコツが胸をなでおろす。
そう簡単に人は殺さねぇよ、とソングが無愛想に振舞う。

ソングのハサミは男の喉の真横に突き刺さっていた。
男は気を失って泡を吹き出している。


その光景を見ていた村人。
恐怖に狂って観客席から身を乗り出していた。


「何だよあんたら!」

「『汚れた口』の仲間め!よくも邪魔をしてくれたな」

「せっかく復讐をするチャンスだったのに!なんてことしやがるんだ!」

「『汚れた口』の仲間なだけに汚れ繋がりかっ!」


メンバーらは殺意の篭った視線を浴びる。
サコツがソングが反論しようとしたそのとき、新しい影が入ってきた。


「汚れ汚れってうるさいんだよ」


焦げた匂いと共にその場に入ってきたその影は、ボロボロな姿であった。


「クモマ…」

「汚れって何のことなんだい?一体何が汚れているんだい?」


ふらつきながらメンバーの元まで歩み寄るのはクモマであった。
電流が流れていた鉄格子を壊したあの体でここまで来るなんて。

彼の後をいそいそと追いかけてくるのはトーフ。


「あんた何しとるんや。寝てなあかんやないか!」

「…汚れているって酷い言葉だよ。それを分かって言っているの?」


トーフの注意を無視してクモマはメンバーらの前を過ぎる。


「チョコのどこが汚れているというんだい?こんなに純粋な心を持っている彼女のことをどうしてそんなに悪く言う?」


やがてクモマはチョコの目の前までやって来た。
フラフラ且つボロボロのクモマを見てチョコがまた涙を流した。
手を伸ばし、クモマがチョコの涙を拭ってあげる。


「チョコはこんなにも優しい子じゃないか。正直で汚れ一つない綺麗な心を持っているのに…」


クモマの癒しの言葉にチョコは涙でいっぱいだ。
村人は憎そうに歯切りしを鳴らしている。


「それを汚れているというなんて、失礼だよ」

「動物と話が出来るなんて、汚れている」

「どこがやねん」


クモマに反論する村人にトーフが反論した。


「動物と話て何が悪いんや?動物やってワイらと同じ"生き物"やんか。同じ"生き物"同士が何故会話しあったらあかんのや?ええことやんけ。動物と会話が出来るなんて逆に羨ましいことやん」

「気持ち悪いだろ。動物と会話しているなんて。そいつだけが動物と話が出来るなんて最も気持ち悪い」

「気持ち悪いんわあんたの考えやボケ!何故そんなに否定するんや!もうはよ"ハナ"を消さなあかんみたいやな」

「どうやって消すんだよ?」


そこでサコツが口を挟んできた。
村人は無関心そうに見ている。
チョコはボロボロのクモマを優しく抱いて泣いていた。


「消す方法はただ一つ」


そしてトーフは懐からひょうたんを取り出し、大声を張った。


「村全体に雫をかけるんや!!」


………。


「どうやってだ?」

「全くだぜ。村全体ってどこらへんだ?」

「恥ずかしい部分辺りじゃないかしら?」

「お前、"恥ずかしい"って単語好きだな…」


「何ごちゃごちゃほざいているんだ!汚れめ!」

「ついでだ!この村から追い出せ!」

「むしろ殺してしまえ!」

「『汚れた口』と一緒に殺してしまえ!」

「汚れ仲間として死んでしまえ!!」

「汚れ!汚れ!」


また騒ぎ出す村人。
それを鎮めたのはクモマの一言であった。


「汚れといわれて傷つく人のこと考えろ!!この汚れ!!!」


そして鎮まっているうちにトーフはひょうたんをひっくり返し、


「村にぶっ掛ければええんやから場所は何処でもええんや!!」


その場に雫を落とした。




+ + +


雫は光を放ち、村は光に包まれた。
村の汚れた部分は全て洗い流され、人々の心に住み着いちょった"ハナ"は無事封印された。

それからというものの、村人はやはりチョコのことを見ると『汚れた口』と呼んでいたわ。
一体彼女の何が汚れているのかワイにはわからへん。
人々の心に"ハナ"が住み着く前に村人は彼女のことを避けていたようやねん。

村の風習というんはさまざま。
きっとこの村は不思議な力のことを"汚れ"と呼んでいたんやろう。
チョコも不運やったな。


「ねえ、みんな」

「何だい?チョコ」

「私って皆にとってどんな存在?」

「そんなの決まってるじゃないか」


そう、チョコはワイらにとって



仲間、そして 友達 や。







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