鉄格子の前に集まって、全員が唖然と正面を眺める。
今から死刑だというチョコの姿を失って、ただボーっとしていた。


「…そんなアホな…」


トーフが嘆く。
メンバーもそれを黙って聞く。


「何で抵抗しないんやチョコ…。その村を破壊したというんは何かの間違いとちゃうんか…?」

「…」

「チョコはそなことする子じゃあらへん。絶対に何かあったはずや」

「…」

「ワイらが死刑を止めなあかん。チョコを死なせてたまるか…」

「でもよー」


黙っていたサコツが口開く。


「鉄格子に電流が流れててこっから出れねーんだろ?」

「…はあ…どないしよう」


大きくため息をつくトーフにつられてソングもため息をつく。


「このまま見殺しってことか…」

「嫌だぜそんなの。どうにかして助けようぜ」

「でもどうやってだよ?」

「俺はバカなんだぜ?いい案なんて思いつかねーよ?」

「…そうだな…」


そしてまた一つ大きなため息をついた。
ハトの姿から元の人間の姿に戻ったブチョウも心配そうにチョコが消えていった方を眺めている。


「チョコ…無事かしら…?」

「どうやろな」

「女の子の頬を殴るなんて絶対に許せない。ここから出られたら頭を重点的に突付いてやるわ!」

「そうやな」


憤慨するブチョウに頷いてトーフはチラっと目線を変える。
そのときにトーフは見つけた。
奥のほうにある机の上に置いてあるものを。


「あ!あったで!」

「え?何が?」


身を乗り出してくるメンバーにトーフは指を差して机のほうに全員の目を動かしてやる。
そしてメンバーも見つけたのだろう。声を上げていた。


机の上に置いてあるものは、

メンバーらの武器だった。


「しゃもじ!!俺のしゃもじが置いてあるぜ!」

「よかった。ハサミもある」

「あら、私のハリセンもあるわ。いつの間に取られたのかしら。神業ね」

「…はっ!そういえば僕何も取り上げられてなかったんだ!」

「えかったな。みんな。武器は無事にあるで」


トーフに言われ全員がうれしそうに頷く。
しかし問題があった。


「あそこに武器があるのはいいんだけどよー」

「ここから出れなかったら意味ないじゃねえか」


サコツとソングにご指摘を受けるトーフであったが、なぜか彼の顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
その表情を見てクモマが冷や汗を出す。


「どうしたの?トーフ。なんか作戦でもあるの?」

「実はな」


するとトーフは逆側の裾に手を突っ込み、そこから糸を取り出した。
彼の武器だ。
それの存在を思い出し全員が、あ、と声を上げた。


「ワイは武器取られてへんのや」

「やったじゃねーか!これで武器を取り戻そうぜ!」


サコツに言われなくてもトーフはそのつもりであった。
すぐに作業に取り掛かった。
鉄格子に当たらないように糸をうまく通す。
そして、どうやって動かしているのか、糸はゆっくりと慎重に机の方へ伸ばされていく。
メンバーも熱い眼差しを送ってそれを眺め、応援する。

やがて、糸は机に辿り着いた。


「あとはうまく引っ掛けてこっちに引っ張り戻すで」

「よろしく頼むぜ!トーフ!」

「あまり乱暴にするなよ。ハサミは大事なものなんだからな」


また集中するトーフ。
糸は徐々に武器に近づいていって

と、そのときであった。


銃声が鳴り、トーフの糸は突如切られてしまったのだ。


「な?!」

「行儀が悪いですね。『汚れた口』の仲間さん」


聞き覚えのある声が聞こえてきた。
そちらの方を見るとそれは先ほどチョコを連れてきた村人の一人であった。

銃弾によって切られた糸はそよかぜに靡かれる。
悔しそうに舌打ちを鳴らすのはトーフ。


「しもうた!見つかってしまったか!」

「糸使いですか。なかなか侮れませんね〜。糸使いにはこういう小癪な奴が多いですから」


敬語なのがまた苛つく。


「あんたに言われたくないわい!あんたも嫌なタイミングで現れるんやないで!」


糸を裾の中に戻しながらトーフが叫ぶ。
村人は拳銃を片手にこちらへと近づいてきた。


「何ですか。せっかく教えてあげようと思って来てあげたのに」

「教えるって何をだ?」

「『汚れた口』の処罰方法をですよ」

「「………っ!!!」」


笑いをこらえて言う村人に全員は腹を立てつつも、村人の言葉が気になった。
睨んで村人を見る。


「おやおや、怖いですよ皆さん。そんなに気になりますか」

「あったりめーだろ!チョコはどうなるんだ!!」


鉄格子さえなければそのまま襲い掛かりそうな勢いのサコツに向けて村人はニヤっと笑って答えた。


「村人全員で見物します」

「何をだよ?!」

「『汚れた口』の頭が吹っ飛ぶところを」

「…!!」

「てめぇ…」


村人は唸り出すメンバーにむけて笑い声を上げる。


「はっはっは、いい様だ!村を破壊した罰にお似合いだ!『汚れた口』を殺してわが村にはまた笑顔が訪れる」

「……あかんわ。こん村の"ハナ"は人々に住み着いているようやな」


ここでトーフが突然"ハナ"の存在を言い、在り処も告げた。
しかしそれがありえない場所でメンバーも目を見開くだけ。
どういう意味だよ?と訊ねる前に村人が口を開いてしまった。


「さあ、今から死刑が始まるぞ。はっはっは。楽しみだ」


そして村人は踵を返そうとする。
だが、突然鳴り響いた音に足を止めてしまった。
再び踵を返す村人。
そこで見たものは…


「そうはさせない…っ!!」


鉄格子にしがみついているクモマだった。
クモマの手からは電流で焦げているのだろうか湯気が立っている。


「く、クモマ?!」


予想外の行動にメンバーも叫ぶ。
クモマは辛そうに歯を噛み締め目を見開くが手は離さなかった。
両手に掴んでいる鉄格子。
それを横の引いて広げようとしているのだ。
しかし音が痛い。


「……っつぅ…だあぁあ!!!!!」


全身から湯気を出しながらクモマは鉄格子を壊そうとする。
しかしビクとも動かない。更に叫ぶ。


「ひぃらけえぇえぇ!!!」


力を込めて広げようとするがやはり動かない。
クモマからビリビリと音が鳴り響く。


「やめろクモマ!お前死ぬぜ!!」

「もう無理だ。諦めろ!!」

「あかん、皆クモマから離れるんや!!」

「何言ってるのよタマ!たぬ〜をあのままにするつもりなの?」

「ちゃうわい!」


凄い電圧で光を放っているクモマをじっと見ながらトーフは言った。


「クモマがチョコのために今鉄格子を壊そうとしてるんやで。止めたらあかん。彼の努力を無駄にしたらあかんで」

「…」

「ここにおったら危険や。電圧でワイらもやられてしまうかもしれへん。少し離れよう」

「でもクモマが死んじまうぜ」

「クモマには心臓があらへん」


トーフに言われて思い出す。
そうだった。クモマには人間の命"心臓"がない。
電流の流れている鉄格子にしがみつくなんて、彼だからこそ出来る行動なのだ。


「…だったな…」

「あいつなら電気ショックで死ぬってことねえか」

「それじゃあ遠慮なく離れましょう」


そしてメンバーは何歩か後ずさりをし身を引いた。
そのころ村人は


「はっはっはっは。無謀なことだ。そのまま電気ショックで焼き焦げろ!はっはっは」


高笑いをしていた。
しかしなかなか死なないクモマにさすがに不審を感じ、そして恐怖を抱いた。


「な、何故死なない!何故お前は死なないんだ!?」

「……つうっ!!」


クモマは答えない。
鉄格子を壊すのに必死なのだ。
おかげで村人の恐怖は止まない。


「お前一体何者だ!何故死なない?何故そんなにしがみ付けるんだ!!」

「つうああっ!!!」

「化け物か!こいつ!化け物!」


そして村人は拳銃を構えて、恐怖に叫んだ。


「化け物ぉおおぉお!!!!」


電流の音に重なって乾いた音が鳴り響いた。
銃が乱射する音。
メンバーは耳を塞いで、身を縮める。

銃弾は全てクモマに向かって飛ばされていた。
クモマの腹部は赤く染め上がったが、クモマは特に反応はしなかった。
そのまま鉄格子を壊す作業をしていく。

よって、恐怖がより増した。


「撃たれたのに…全発ぶち込んだのに…っ!!何故死なない?…ば、化け物ぉ?!」


そしてまた銃を構える。
しかしそれは糸によって止められた。


「あんた、ちぃっと静かにしぃや。こっちには時間があらへんのや」


トーフが糸で村人を捕らえていたのだ。
凄い早業にサコツは歓声を上げる。


「すげーぜ!何だかすげーぜ!」

「よし、そのまま締め付けて殺せ」

「何あんた怖いこと言うてるんや…」

「グロイわね凡。グロ男か」

「んだよ。そこまで言わなくても」

「あ!」


ソングの反論をトーフの叫び声が掻き消した。
トーフは少し身を乗り出して、続けた。


「鉄格子がちょっと動いたで!」


クモマが掴んでいる鉄格子。
それは少しであるが形が変形していた。
クモマもそのことに気づいたらしく、更に力を込める。


「頑張れ!クモマ!」

「その調子だ」

「そのまま牢屋ごとぶっ飛ばしなさい」

「ファイトや!クモマー!」

「そうはさせん…」


メンバーらの声援の中、トーフによって縛られている村人が反論をするが、
トーフが糸を更に強く締め付けたため村人は気を失ってしまった。


ビリビリと痛い音が響く。
その中で聞こえてくる声援。


牢屋は電圧で明るく染め上がる。



+ + +



一歩一歩と死刑場へ向かう。

 怖くない。

足を震わせながら、一歩一歩と死の場所へ

 怖がってどうするの。怖がったらダメ

涙がどんどん溢れてくる。

 自業自得じゃない。こうなるのも当たり前。怖くない。怖くない。

前なんかよく見えない。

 私の所為だもの。こうなったのは。私があんなこと考えなければ良かったのよ。

涙の膜が目を覆っていて。

 村が滅びてしまったのも私の所為。人が消えたのも私の所為。人を消したいと望んだ。全て私の所為。

ガクガクになりながら、二人の大男に連れられて、確実にまっすぐと。

 人間なんて嫌い。人間なんて嫌い。

確実に、まっすぐと。

 今だってほら。人間は私のことを『汚れた口』と言って私を嫌っている。

ゆっくりゆっくり近づいていく。死刑場へ。

 だから私も嫌い。人間は嫌い。…だけど…

涙を拭う。

 本当は好きなの。

 嫌いじゃない。好きなの。

 好きだから人間の 友達 がほしかった。

 憧れだった。人間の友達。

 動物たちも好き。

 だけどね。人間は私と同じ生き物。自然に好きになっちゃうの。



 村を滅ぼして泣いて逃げたときから心で決めていた。

 私は償いをする。笑って償うって。

 だから異常なテンションで明るく振舞っていた。今まで。

 そしたら知らないうちにラフメーカー?驚いたね。

 何で私なんかがラフメーカーなの?おかしいよね。

 だけど、私、ラフメーカーの人たちと一緒に旅をしていていつも思っていた。



 人間ってやっぱり楽しい生き物だ、て。


 一緒にいるとこんなに心が癒されるなんて、思ってもいなかった。


 私にはやはり人間の友達が必要だったんだ。

 人間と一緒にいるだけで私は自然に笑みを溢せた。






 ラフメーカーの皆…

 怒っているかな…?どうなんだろう



 あぁ…もっと一緒にいたかったな。皆と。

 一緒に旅をしたかったな…。

 恋愛とかしてみたかった。もっと笑いあっていたかった。




 皆といる時間がこんなにも楽しいものだったなんて…。







 …ラフメーカーの皆と




 友達 になりたかったな…。








「ついたぞ。『汚れた口』」



大男に言われて、ハっと意識が戻った。
すごい声。ワーワーと大勢の人々の声が重なっている。


「死刑!死刑!」

「死刑!死刑!死刑死刑死刑!」



チョコは死刑場に立っていた。
どこかの武道館みたいな感じになっているこの場。
観客席には満員の村人。
そして


「そこに立て。『汚れた口』め」


大きく長いライフルを持った男が、チョコにそう指図した。


チョコは十字架に縛り付けれて………。


「今から『死刑』を下す」


その場は瞬にして静かになった。






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