村の牢屋に5つの影。
それらは座っていたり立っていたりと様々な形をしている。
その中の立っている影が鉄格子に近づく。


「どうした?クモマ」


鉄格子に近づくクモマに、腰をおろしているサコツが問いかけた。
振り向かずにクモマは鉄格子に歩み寄る。そして答える。


「この鉄格子、壊せるかなーって思って」


サラリというクモマの発言はその場を期待に満ち溢れさせてくれた。
目を輝かせてサコツ。


「さすがクモマだぜ!力だけは異常にあるからなー」

「"力だけ"っていうところが気になるんだけど…」

「それで壊せそうなのか?」


ソングが話を戻す。
鉄格子をマジマジと見て、それから奥を見て人影がないかを確かめる。
人影は、ない。
鉄格子も何も変哲もないように見えた。


「たぶん壊せそう。グイって引っ張って一人分通れるように広げれば」

「おおーマジでかよ!グイってやっちまえ!」

「よし、頑張れ」

「やっておしまい、たぬ〜」


メンバーに仰がれ、クモマももちろんそれに答えた。
鉄格子に手を伸ばした、そのとき


―― バチッ


「痛っ!?」


手には鉄の感触はせず、代わりに何か違うものが通った。
痛さと熱さと驚きで手を引っ込む。


「ど、どうしたんだよ?!」

「おい、大丈夫か?」


音に驚いてサコツとソングが身を乗り出してきた。
クモマは鉄格子に触れた手を見て、冷や汗を流している。


「…電流…?」


このとき、クモマは自分の服装に感謝した。
クモマは無意味に手袋を装着している。
これのおかげで今回は助かった。

電流によって少し焦げてしまっている手袋。
手袋がなかったら、手が焦げていたかもしれない。


「で、電流?!大丈夫かよ!クモマ」

「大丈夫。手袋のおかげで助かったから」

「しかたないわ。たぬ〜がダメなら凡やっておしまい」

「待て!何で俺が?!」

「あんたなら焦げても大丈夫でしょう?」

「何が根拠だ?!この野郎!!」

「ダメだぜブチョウ!ソングは力めっちゃないんだぜ?」

「そうだよ!僕がダメならソングはもっとダメだよ!」

「それはそうね」

「…事実なだけに何も言い返せない」


全て即答で返され、ふてくされるソング。
そんな彼を楽しそうに見て


「それじゃあ私がやってみようかしら」


ブチョウが自ら鉄格子を開けると宣言した。


「やめなって。怪我しちゃうよ」

「あら、ダメね。開かないわ」

「わああ〜!!!ブチョウの頭がアフロボンバーに!!」


電流を受けてブチョウの頭は見事アフロになってしまった。
しかしそれでもブチョウは普段どおりに続けた。


「簡単に開かないのね。全く、面白くないわね。」

「いや、お前の頭が十分に面白いぞ!」

「はやくアフロ直しなよ!」


注意を受け、ブチョウはつまらなさそうに頭をアフロから戻した。
さすがブチョウだ。戻せるんだ…。

ひと段落終わると、全員は頭を抱え込んでしまった。


「一体どうやって抜け出せばいいんだろう?」

「鉄格子に電流流れているなんてよーやられたぜ」

「これじゃあチョコを助けにいけないじゃないの」

「困ったな」


全員は鉄格子を睨み、ここにはいない村人も睨む。
何故に自分らがこんなところに閉じ込められ、チョコは殺されなければならないのだ?
そこのところがさっぱり分からない。


「…ふぅ…ん…」


そのとき、気を失っていたトーフが目を覚ました。
目を擦って、ここは何処や?と訊ねる。
人生の恥ずかしい部分よ。と答えるブチョウを軽く避けて
牢屋だよ。とクモマが答えた。


「…しもうたわ…ワイまで捕まってしまったとは…」

「ごめんね。僕らがあそこで食い止めていればまだ助かったかもしれないのに」

「いや、ワイの責任や。ワイはチョコを助けることができへんかった…」

「……ところでチョコはどうなったのよ?」


ブチョウに問われ、あんた一体何処から湧き出てきたんや?と思ったがトーフは答えた。


「捕まってしまったで。今から裁判かけるゆうてたわ」

「…裁判ねぇ…」

「…たぶん"死刑"…間違いないわ」


トーフの断言に全員が眉を寄せる。


「死刑って、ひでえぜ?」

「何で断言できるんだい?」

「村の人たちが言うてたわ。間違いなく死刑にして殺す気なんやで」

「「……っ」」


衝撃過ぎて何も言葉が出ない。
トーフはボロボロに汚れた服を叩き、気を引き締める。


「何とかして止めへんとあかんわ。みんなでこん鉄格子を壊すで」

「それがダメなんだよ」


クモマに止められ、何言うてまんねんと目を半開きにするトーフ。
そんな彼にクモマは電流が通っていることを教えてあげた。


「あ、そりゃあかんわ。脱出不可能か」


そしてトーフは脱出を簡単に諦めた。


「おいおい。何か脱出案考えろよ」

「言うとくけどなワイはそこまで頭よくあらへんで!」

「そうだぜ!トーフは意外にオチャメさんなんだぜ!」

「食べ物には目がないもんね」

「…そっか」


ソングも脱出することを諦めた。
その場に腰を下ろし、つられて他の皆も腰を下ろす。
そして大きくため息をつくのであった。


「ダメか」

「しゃあないことや。どうにかして脱出はしたいところなんやけどなぁ」

「電流さえ流れてなければ…悔しいな…っ」

「チョンマゲ。あんた"気"を溜めてここ壊せないの?」


ブチョウは意外なところで名案を出す。
全員が期待の目でサコツを見るが、サコツは首を振って否定していた。


「それがダメなんだぜ。俺は物に"気"を溜めないと撃てないんだぜ。手だけじゃ"気"も溜まらないしよ」

「何だ。あんた使えないじゃないの」

「…すまん」

「俺はハサミがないと何もできない」

「んなこと言われなくても知ってるぜ」

「あんたハサミないと本当にただの"凡"ね」

「使えへんな〜ソング」

「もう少し努力してよ」

「………」


何だか悲しくなるソング。
クモマは頭を掻きながら電流の流れている鉄格子を睨む。


「武器が取られているというのもやられたね。素手で抉じ開けるしかないのかな…」

「それが無理やから困っとるんやろ?…ホンマ困ったわぁ」

「なあ、ブチョウがハトになればこの隙間通れるんじゃねーか?」


サコツの案に全員が、あ、と声を上げ納得した。
そういえばブチョウは鳥人なので小さな白ハトになることができるのだ。


「そうね。ハトになってみようかしら」


全員の視線を浴び、ブチョウはその場に立ち上がった。
そして、"印"を組みだした。
手影絵を両手で組み、それを見てトーフ以外の全員が驚きの声を上げていた。


「すげー!何かよくわからねーけどすげーぜ!」


これ手影絵なんですけど…。
しかしメンバーはバカなのでそんなことにも気づかずにブチョウは次々と手影絵を組んでいく。
一度騙されたことのあるトーフはそんな初々しいメンバーをバカにしつつ微笑みながら見ていた。
そして、ブチョウの"印"は手影絵のハトを組み、

ドロンパ


ブチョウは小爆発を起こし、ハトの姿になった。
初めてブチョウの変身を見てメンバーは歓声を上げた。


「すごいよブチョウ!何かマジシャンみたいだよ!」

「天才だぜブチョウ!弟子にしてくれ!!」

「確かにマジックみたいだったな。……メロディにも見せてあげたかった」


ハト姿のブチョウに感動する。
しかし何か異変に気づいた。


「……あれ?ブチョウ、大きすぎない?」


ブチョウのハトは異常にでかかったのだ。
トーフもそれには驚きの様子だ。


「普通よ普通」

「嘘つくんやないわ!あんたもうちょっと小さかったやないか!」


ブチョウのハト姿をメンバー以上に見てきているトーフにはこの異様な大きさは不思議でたまらなかった。
平然とそれに答える。


「ヘチマを食べ過ぎたからかしら?」

「ヘチマ食ったんか?!」

「ヘチマのせいなのかよ?!ってヘチマって食えねえだろ!あれはスポンジの原料だ!!」

「ヘチマとピーナッツってどう違うんだ?」

「多分大きさが違うと思うよ」

「全てが違ぇよ!!」


可笑しいブチョウと変な会話を密かにしているサコツとクモマに
その場はより騒がしくなった。
よって、うるさくなった牢屋へ誰かが駆けつけてきた。


「うるさいぞてめえら!!」


やはり。村人だ。
一人の村人に注意を受け、メンバーはそちらへ目を動かす。
そして叫び声。


「うっわ!でっけーハト!!」


それは村人の叫びであった。
そりゃあ巨大なハトが牢屋の中にいたら驚くだろう。
ハトは腕…翼を腰に当て、偉そうにした。


「ヘチマを食べたからね」

「ヘチマ食べたらでかくなるのか?!」


村人も思わずツッコミを入れた。
その声を聞いて他の村人も現れた。


「どうした?って、でっけーハト!」

「すげ!巨大ハト!」

「ありえねえぐらいでかいぞハト!」


4人の村人が牢屋越しに。
それらをメンバーは睨んでやる。

気を取り戻して、一人の村人が目を細めた。


「おやおや。『汚れた口』の仲間さん。ご機嫌いかが?」


そして鼻で笑った。
舌打ちでソングが返す。


「いいはずねえだろ。早くここから出せ」

「まあまあ落ち着いてください」


敬語なのが逆に腹立たしい。
村人は続ける。


「あなたたち、会いたい人いるんでしょう?今会わせてあげますよ」


その言葉が合図にまた人影が現れた。
大きい二人の影と小柄な一人の影。
やがてそれはメンバーにも見える範囲に近づいた。

大きい男二人に挟まれた、チョコだ。

手にはごつい手錠が掛けられている。
彼女の姿にメンバーは立ち上がり鉄格子まで駆けつけた。
もちろん鉄格子には触れないように。


「チョコ!」


クモマが叫ぶ。


「大丈夫か?あんた」


トーフも叫ぶ。
しかしチョコは俯いて反応してくれない。

やがて大きい男二人はチョコをメンバーらの目の前まで連れてきてくれた。


「チョコ」


目と鼻の先にいるチョコにクモマは声を掛けるがやはり反応はない。
そして気づいた。
チョコの頬が腫れていることに。
きっと頬を強く殴られたのだろう。真っ赤に膨れ上がっている。

女の子の顔を殴るなんて…


「みんな…」


暫くしてやっとチョコは口を開いてくれた。
しかし、あのチョコに元気はない。


「ごめんね…」


チョコはそれだけ述べた。
唖然とするのはメンバー。


「ど、どうしたんだ?チョコ」


サコツが心配そうに訊くがチョコは首を横に振るだけで何も答えてくれない。


「おい。何があったんだ」


ソングも訊く。
やはり答えてくれない。
ブチョウも訊いた。


「顔が腫れているじゃないの。殴られたの?」


そしてチョコの膨れ上がった頬に手を伸ばす。
しかし彼女は今巨大なハトの姿。
なんとも異様な光景だ。


「なんでもないよ…」


チョコは素っ気無い。一言で返す。
身を一歩引いて、ブチョウの手から逃げた。


「…裁判したんか?」


次はトーフだ。


「結果はどうやったんや?」


その質問に、チョコを挟んでいる大男の一人が答えた。


「案の定だ」


…つまり、死刑 だ。


「…そんな…」

「おい!チョコ!いいのかよ!殺されるんだぜ?おい!」

「……っ!!」

「ふざけているわね…」

「…ホンマかいな…」


もう悲しみいっぱいだ。
メンバーも俯いてしまう。
そんなメンバーにチョコが自ら口を開いた。


「ごめんね皆…」


今度の言葉は、長い。


「私のせいで捕まって…」


黙って聞く。


「…私の罪なのにね。みんなには関係ないのに…ごめんね…」


やがて、顔を上げた。


「みんなには黙っていた…。私の罪。大きな罪なのに…」


その顔は、真っ赤になっていて。
目からは涙が次々に溢れ出てくる。


「これでラフメーカーっておかしいよね?こんな罪を犯した女が世界を救えるはずないじゃん…」


鼻を啜って


「今まで明るくしていたのは少しでも罪を償えるかと思ってした行為」


また涙を流して


「本当の笑顔じゃない。私のは"嘘の笑顔"…」


鎖が繋がっている手で涙を拭い


「ごめんね…皆…。最期に…」


メンバーの顔を見て


「みんなといる時間、とても楽しかったよ」


せっかく涙を拭ったのに、また涙は溢れてくる。
しかし、それでも、いい。
チョコは精一杯の笑みを溢して


「ありがとう」



お礼を言った。


「………」


いろいろ謝罪され、メンバーは頭が回らない。
無言で返してしまった。

そして、チョコは


「さあ、死刑だ。行くぞ『汚れた口』」


男たちに引かれて、その場から離れていった。
姿が小さくなるチョコに、やがてメンバーらが叫んだ。


「チョコ!!」

「待てよ!本気なのか!これひでーぜ!冗談はよせって!」

「殺されるんだぞ!わかっているのか!」

「待ちなさいよ!チョコ!」

「チョコのアホんだらー!!!!」



メンバーらの声が聞こえたのか、チョコは再び涙を流し、
それと共に笑みも溢した。


チョコは死刑場へ、足を踏み入れる。












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