「何か村が騒がしいね〜」


そのころ、チョコは門付近に止めてある車を背凭れ代わりにして、体を休めていた。
先ほどから村が騒がしくなっているため長閑に時を過ごせないのだが。


「一体何やってるんだろう?」


首を伸ばして村を眺める。
しかし何も見えない。
ざわめきと大きな叫び声が聞こえてくるだけだ。

何が起こっているのか、わからない。


「お祭りでもやってるのかな〜?」


のん気にものを言うチョコ。


「それだったら私も混ざりたいな〜。お祭り大好き☆」


ブヒ


エリザベスがすり寄ってきた。
微笑んで答える。


「何?エリザベス?」


ブヒブヒと豚が鳴く。
すると


「………え?トーフちゃんが?」


チョコは眉を寄せた。


「トーフちゃんが追われているってどういうことなの?」

ブヒブヒ


「大勢の人に追われているの?!何それ?大変じゃないの!!」


目を凝らして村の中を見る。
先ほどまではなかった人影がそこにはあった。
それらは大勢であり、すごい勢いでこちらへと駆けてくる。
先頭にいるのはトーフなのかはわからない。
トーフはチビにも程があるため見えるもんじゃない。


「トーフちゃん大丈夫かな…」


心配になる。
あんなに大勢の人に追われていたら、あのトーフだって恐怖だろう。
ここは、助けてあげなくてはならない。
チョコはそう思った。
しかし、チョコには助ける術がなかった。
戦闘に使えるような魔法は一切使えないのだ。

どうしようかと惑っているとき。
声が聞こえてきた。


「チョコー!!!」


それは間違えなくトーフの声だった。
追われながらもトーフはこちらへ叫び声を張っている。
応える。


「トーフちゃん〜!どうしたのよ〜?」

「はよ逃げるんや!!」

「…え?」


突然そう言われても理解できない。
首を傾げるだけだった。


「何ボケっとしとるんや!はよ逃げい!あんたはここにおったらあかん!」

「ちょっと待ってよ!あ!!」


チョコは見た。
トーフが村人に押さえつけられているのを。


「トーフちゃん!」


トーフの元へ駆けようとするが、止められた。


「駄目や!こっちに来たらあかん!あんたはこん村からすぐ出るんや!!」

「どうして?トーフちゃんが大変じゃないの!ほかのみんなはどうしたの?」

「知らん!きっと捕まったんやろうな」

「どうして?」


村人に押さえつけられてもトーフは叫び続けた。


「ワイらのことは気にせんでもええ!あんたはあんたの身を守るんや!」


そしてトーフは何とか村人から逃れ、またこちらへ走ってくる。


「あんた、こん村におったら殺されるで!すぐに離れるんや!」

「えっ?!」


衝撃的な言葉に、言葉を詰まらせた。
殺される…って?


「はよ逃げんか!!!」


トーフがそう叫んだ次の瞬間


「いたぞー!!『汚れた口』だー!!!」


チョコは、目を見開いて固まった。

村人はトーフを追い越し、一目散にチョコの元へ走っていく。


「長年待っていたぞ!『汚れた口』め!」

「よくも『スピークの村』を滅ぼしたな!」

「私の夫をどうしてくれるのよ!」

「人殺し!!」

「人殺し!」

「「人殺し!!!!」」


「………そんな…」


村人の無数の叫びに、チョコは体を竦めた。
ガタガタに震えて、チョコの肩が大きく揺れる。


「なんで……この村は……」


「何しとるんや!はよ逃げい分からんのか?!」


次々と自分を追い越していく村人にトーフは武器の細い糸を使って捕らえるが、村人の威力は凄まじかった。
糸が絡まっているとも関わらず村人は走るのをやめないのだ。
よってトーフは勢いで引きずられてしまった。


「くそぅ!!」


踏ん張るがトーフは身が軽いため簡単に引きずられてしまう。


「やめい…あんたらチョコをどないするつもりなんや…っ」


意地でも糸を解かないトーフに村人が応えた。
目線はずっとチョコなのだが。


「もちろん、殺す!あんな奴生かしておけん!」

「ど、どないしてや?!チョコが何したいうんや!」

「あいつは村を滅ぼした!」


村人は憎しみこもった声。


「殺してやる!!」

「……」


徐々に距離が縮まっていく。
チョコはずっとずっと震えて、恐怖の顔を作っている。
トーフは糸で村人を抑えようとするが全て失敗に終わってしまう。
村人はトーフを無視してチョコへ突進する。


「もう訳分からん!!」


ずっと震えっぱなしのチョコの姿を見て、トーフが最後の力を振り絞った。
ボロボロになりながらもいつもの食い逃げをするときのような走りをして村人を追い越していく。
そして


「…チョコ…」


トーフは村人よりも早くチョコの元へ行くことができた。
チョコの隣にはエリザベスと田吾作がおり、心配そうに眺めている。


「…あんたどないしたんや?」


チョコは震えるだけ。
トーフは息が荒い。もう限界なのだ。
引きずられたせいで体がボロボロだ。軽く服を叩いて付着していた土を落とす。


「村を滅ぼしたっていうんはホンマか?」

「…」


チョコは縦に首を動かした。
やがて口を開いた。


「…そうよ……私が…やったのよ…」


目を見開きすぎて真っ赤になっているチョコの目。
その目からは涙が溢れてきていた。
涙をポロポロ流しながらチョコは続けた。


「私は…この『スピークの村』の出身よ」

「…」

「だけど、その村はもうないの」

「…」

「私が…滅ぼしたから…」

「それって…」

「追いついたぞ『汚れた口』め」


やがて村人もやって来た。
すごい人相でチョコをトーフを睨んでいる。


「この村を滅ぼしたくせによくもヘラヘラとやって来れたな『汚れた口』め」

「…」

「滅ぼしたって…」


トーフは理解できない。
一体どうやってチョコが村を滅ぼしたのか、分からなかった。
チョコは涙を流し続ける。


「…ごめんなさい…」


ただ、一言言って涙に埋もれてしまった。
しかしそんな弱弱しいチョコの姿を見て村人はというと


「泣いて事を済ませる気か?!さすがイカれ女だ。頭の中が腐っている」

「ちょ…待てい」


あまりにもひどい言葉遣いにトーフは止めようとするが村人の怒りはおさまらない。
突っ走る一方だ。


「お前には即効裁判をかけるっ!そして死刑だ!」

「死刑!死刑!」

「死刑!死刑死刑死刑死刑!」


呪いの言葉が無数に飛び交う。
訊いているトーフでさえも頭が痛くなる言葉であった。
村人はおさまらない。
ずっとずっと『死刑』と言って喜んでいるのだ。

そして、強引にもチョコの腕を引っ張って起こそうとする。
チョコもその通りに立たされ、村人に引っ張られていく。


「ちょっと!チョコ!!」


トーフは叫ぶが村人に押さえつけられてしまった。
チョコも無視して村人に引っ張られていく。


「意味分からん!あんた一体どないしたんや?!あんなやつらの後についていく気なんか?殺されるんやで!わかっとるんか!!」


叫ぶトーフを黙らせようと複数の村人が押さえつける。
しかしトーフは叫び続けた。
連れて行かれるチョコに。


「まてやチョコ!行くんやない!死刑なんやで?!死刑やで?!」

「黙れネコ」

「ネコやないわい!チョコ!待ってくれやチョコ!チョコ!!」

「ほら、このぺろぺろキャンディあげるから黙って」


キャンディを渡されトーフはおとなしくなった。
一方チョコの方はというと


「ごめんね。ごめんね…」


何度も謝りながら、そこから離れていった。



+ + +


「くっそ!腹が立つ!何で俺がタルなんかに!!」

「虫取り網に捕まるなんて俺もナウいぜ!」

「足が長く見えるなんて嘘っぱちだ!!騙されたあ〜!!!」


そのころ、村人に捕まってしまったソングとサコツそしてクモマは村の牢屋の中でそれぞれ悔しそうに叫んでいた。
クモマは相当ショックだったらしく突っ伏している。


「せっかく足が長くなれるチャンスだったのに…っ!悔しすぎる…」


勢い良く床を殴る。
よってその場が少し凹んでしまった。
その拍子で飛ばされた床の破片は、見事ブチョウの顔へ飛ばされ、
ブチョウは


「生足最高!」


良く分からない言葉を放って、有り得ないぐらい体を反り返した。
そのため破片は彼女に当たらず彼方へ飛ばされていった。


「おいおい、落ち込みすぎだぜクモマ」

「全くだ。いいじゃねえか足が短くたって」

「嫌なんだ〜僕は足が長くなりたいんだ〜」


クモマはまたその場を殴りつけた。
呆れ顔を作る残りのメンバー。

あ、何ですか?
どこからブチョウ湧き出てきたのかって?
それはですね〜ちょっと時間を戻して見ましょう。

+ +


「え?本当にこれくれるの?これで足が長く見えるの?ね?ね?」

「待てよ!待ってくれ!お願いだからハサミはとらないでくれ!」

「しゃもじ!俺のしゃもじが〜っ!大切なしゃもじが〜!」


これは捕まって直後の出来事。
彼らは村人に武器を奪われ、牢屋に監禁されてしまった。
哀れな姿のメンバーを鼻で笑い、村人はその場から悠々と去っていった。


「ねえ、これで本当に足が長く見えると思う?」

「やられたぜ!クモマの弱点をつかれてしまったぜ」

「確かに店でずっとこのグッズ眺めていたからな」

「これで足が長く…っ!」

「あら、あんたら来るの遅かったわね」


足が長く見えるという快適グッズを手に入れてウハウハしているクモマとその他に向けて誰かが声を放った。
そちらの方を振り向いてみると、想像もしていなかった人物が偉そうに仁王立ちをしていた。


「私が一番乗りだったみたいね」


それは行方不明になっていたブチョウだった。


「「ブチョウ?!」」

「ノー!私はスマイリー」

「んなことどうでもいい!何でお前がここにいるんだ!」


自分らより早く監禁されていたブチョウに向けてソングが叫ぶ。
ブチョウは偉そうに答えてくれた。


「人生の道を歩いていたらここにたどり着いたのよ」

「自ら牢屋に入ったのかよ?!」

「ってかキミの人生の道は牢屋に入ることだったの?!」


こんなときでも可笑しいブチョウに思わずメンバーは頭を抱えてしまう。


「まあ見ての通り一番乗りで牢屋に入ることができたわ」

「いや、それはいけねえことだろ?」

「ブチョウ!ナウいぜ!」


+ +

…ということだった。

牢屋の中にはブチョウを合わせ、4人がいる。


「ところでトーフは無事なんだろうな〜?」


ぎゃーぎゃー喚くクモマを無視してサコツが話を進めた。
それに答えるのはソング。


「さあな。まだ捕まってはいないようだな」

「このブーツの底、無闇に高いなーって思っていたんだよ…」

「ディナーはまだかしら?」


なんともまとまりのない団体だ。
後者の二人を無視してサコツがソングに答える。


「無事だったらいいんだけどよ〜。チョコも大丈夫だろうな〜?」

「知らね。全く意味がわからねえよ。何で俺らは捕まってあの女は村人にあんなに憎まれているんだ?」

「底が高すぎでおかしすぎるよ!これじゃあ足長グッズを使っているのバレバレじゃないか!」

「ディナーはカツ丼でいいわ。ただし肉なしで」


後者の二人のことは放って置いてください。


「なあ、ここから出ようぜ。あの二人のことが心配だぜ」

「あぁ、そうだな。俺もこんな狭苦しいところにいたくない」


完全にうるさい二人を無視してサコツとソングは話を進めていく。
牢屋から出ようと出口に近づくソング。
しかしその瞬間、牢屋のドアが勢い良く開かれた。


「これで最後だ」


その言葉と同時に牢屋の中へ放り込まれたのはボロボロのトーフだった。
トーフは見事ソングにぶつかり、ソングは頭から地面へめり込んだ。


「いて!!」

「トーフ?!」

「大丈夫かよトーフ!」

「ボロボロじゃないのタマ。一体何があったのよ?」


意識を失っているトーフに心配するメンバー。
ソングの心配は誰もしていないようだ。

牢屋の鉄格子の隙間からトーフを強引に投げ入れた村人の姿が見えた。
それに向けて、サコツが吼えた。


「何しやがったんだ!てめえ!!」

「ぺろぺろキャンディを瞬時で食べ終わったせいでまたうるさくなったから黙らせたのだ」


ぺろぺろキャンディ…?


「くそ!ぺろぺろキャンディめ!」

「お前ツッコミ入れる場所間違ってるぞ!」

「大きいいなり寿司の話はいいとして、チョコはどうしたのよ?」

「んなこと話題にも出ていなかったよ?!」

「あぁ。『汚れた口』か」


ブチョウに問われ、村人は答えてくれた。


「今から裁判だ」


ただ、それだけ言うと奇妙な笑い声を立てて奥へと消えていった。









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