ひそひそ…ひそひそ…

普通に声を出して会話をすればいいのに、この村の人々は皆耳打ちをしあって会話をしている。


「何だかやな感じだぜ…」


村の様子を見てサコツがポツリと呟く。
サコツに頷くのはクモマ。


「本当だね…何だか悪口言われているみたいで嫌だね…」

「これがこの村の風潮なんやろか?変なとこやなぁ」

「全くだ。気が散るな」


コンクリートでほぼできているようなそんな街中を歩いていく。
人々は何だか目つきが鋭い。
目が合うと思わず目をそらしてしまう。


「…こんなところで盗みとかできるのか?何だか村人の視線が怖いぜ?」

「根性や根性。根性で盗むんや」

「やっぱり盗むのかよ?!」

「ねえ、この村ではきちんとお金払ったほうがいいんじゃない?どうせこの置物すべて売ったらお金手に入るんだし」


クモマの意見に全員が納得した。


「そうだぜ!これ売れば金が手に入るんだ!早速売ろうぜ!」

「…まぁこんなところで万引きするよりかはマシか」

「ほなどっかの店で売って金もらおうで」


そしてすぐ近くにあった店に足を踏み入れた。
店は主に家庭用品を売っているらしく様々な品物が売られている。
その中に浮かぶのは謎の置物たち。
メンバーらが抱えている置物は素敵にこの店に合っていなかった。


「場違いのような気がするが…」


この中でひそかに一番まともであるソングがそう呟いたのだが、メンバーは無視をして店を物色する。


「…!こ、これは…足が長く見えるという快適グッズ…っ!どうしよう、ほ、ほしい…っ!!」

「ここ食い物は売ってへんのやな。品ぞろいの悪い店や」

「すげーぜ!このしゃもじの表面にイボイボがついてるぜ!これでつぼを押すのか?」



ソングはすべてにツッコミを入れたかったのだが、全て言いそびれてしまった。
しばらくして騒がしいメンバーらの元に、自らこの店の店員がやってきた。


「……お客様、静かになさってください」


店員は営業スマイルっというのを完全無視し、不機嫌そうな表情でそう告げた。
そういえば、ここの村の人々は皆表情が険しい。
何かあったのだろうか?


「あ、すみません。足が長くなるというのに興奮しちゃって…」

「おお!ええとこにきたな店員!ワイら売りたいものがあるんねん!」

「そうだぜ!この置物、全て売りたんだけどよー」

「いくらぐらいになるんだ?」


次々と繰り出される言葉に店員は更にしわを寄せる。
メンバーらの髪色や服装などを眺めるとやがてこう口にした。


「余所者ですか?」


たった一言だけであった。
今度はこちらが眉を寄せる。


「余所者ってひでえ言い方だな!旅人だぜ旅人!」

「何やねん?まさか余所者には品物を売買させへんってか?」


思わずトーフも口悪く質問を出す。
店員が答えた。


「そんな訳ではございませんが、我が村はあまり人を信じないという風習がありましてね」

「人を信じない?」

「何だよそれ。失礼な習慣身につけてるぜあんたら?」

「それで俺らのことも信用できないってことか?」


ソングは元々であるが無愛想にものを言う。
それに苦い顔で答えるのは店の店員。


「ま、そういうことになりますな」

「どうしてそんな習慣持っているんですか?」


クモマはメンバー以外の人には大抵敬語を使う。
店員が礼儀正しいクモマをチラっと見る。
そして言う。


「実はだいぶ前のことなんですが」


ここの店員は意外にも優しかった。
正直にクモマの質問に答えてくれたのだ。
しかし、周りの客にも聞こえないぐらいに小声であったが。


「この村は一度、滅ぼされたんですよ」


店員の言っている意味がわからず、メンバーは首を傾げる。
抱え持っている大量の置物をその場に置き、クモマが更に深く探る。


「一度滅ぼされたってどういう意味ですか?」


クモマに続いて他のメンバーも置物をその場に置き、店員に身を寄せた。


「まったくだぜ。意味わからねえぜ?」

「気になるなその話」

「滅ぼされたって戦争でも起こしたんか?」


まさかこんなにも深く聞かれるとは…
と、店員が冷や汗流し、つばを飲み込む。


そして、言った。


「戦争ではない」


店員は店の奥へ行き姿を消すと、すぐにまたメンバーらの元へ駆けつけてきた。
店員の手には何か紙切れが握られていて。

一体なんだろうかと店員の手に目を集中させるメンバー。


「これなんですよ。これ」


握られた所為でグシャグシャになっている紙切れを強引に伸ばし、メンバーらに見せた。


「こいつの所為でこの村が…」


言い終わった後の店員の表情は眉間のしわが深くなっていて、
泣く子も黙る恐ろしい表情になっていた。
そんな店員の表情に気づかず、メンバーらはというと
見せられた紙切れにただただ唖然とするだけだった。




+ + +


そのころ、車の留守番をしているチョコは


「ヒマだ〜ヒマ〜…あぁ〜ヒマ〜」


退屈していた。
車の周りをクルクルと回ったり、無意味に体を動かしたり、ヒマー!!って叫んでみたりと
この退屈な時間を無駄に使っていた。

自分を置いて街へと出掛けた男性陣に腹を立てながら。


「も〜!早く帰ってきてよ〜!あ、そうか買い物もするって言ってたし早く帰ってこれないのかな?」


独り言を言う。
自分の声に誰も反応しないというのにチョコは物寂しくなった。


「早く帰ってきてほしいな〜……」


やはり反応はない。


「っていうか置物売られちゃうのか…ショックだなぁ…」


そしてシュンと目を伏せる。
置物のことがやはり気になるようだ。


「あの置物たち、元気にしているかなあ〜」


何かほざきやがったぞ、こいつ…。

チョコは遠い目をして、村の奥を眺める。
置物たちのことを考えていたその時、
車引き用のエリザベスがチョコの足にすり寄ってきた。
目を丸くするチョコ。


「あれ?どうしたの?」


ブヒっと答えるエリザベス。
チョコは笑う。


「あはは〜大丈夫だよ。ごめんね。私そんなにさびしい顔してた?」


チョコはエリザベスと会話する。
緑色をしている豚、田吾作も会話に混ざる。
その場は人間の笑い声と豚の鳴き声でいっぱいになった。


「本当なんだって、置物かわいいんだよ?」


ブヒ!ブヒブヒ


「エリザベスったら〜冗談きついな〜。そんなことないってば〜」


ブヒブヒブヒ


「マジで?それありえないよ!だってあれ恥ずかしいじゃん?」


ブヒブヒブ〜!


「すっごい!田吾作そんなことできるの?今度やってみてよ!」


ブヒブヒ〜

メーメー

グワっグワっ!


って、何の話してんの?!!田吾作に何ができるの?!!
しかも知らないうちにヤギとかアヒルも混ざってますよ?!どこから溢れてきたのね?
もうツッコミきれないよ、わたしゃ…。




チョコは動物と会話することができる。
それは何故?実は本人も知らない。
だた言えることは
動物は彼女にとって、友達。
大切な友達なのだ。

動物と話すことができるから、彼女の周りにはいつも動物でいっぱい。


そして、チョコはそんな動物に囲まれているときが
とても幸せそうなのだ。

メンバーらといるときとは違う、本当の笑みを溢して…。

+ + +



「そ、そんな…」


沈黙の中、口を開いてしまったのは、クモマだった。
しかしその後に続く言葉が見つからない。
また沈黙に戻るだけだった。

唖然としているメンバーの様子を黙ってみているのは店の店員。
先ほどまであんなにも騒いでいたメンバーがグシャグシャの紙切れを見た途端、無言になったからだ。
表情が更に険しくなる。


「一体、どうなさいましたか?」


店員が訊く。
しかしメンバーは唐突過ぎるこの真実に、何も言えなかった。
店員は更に問い続ける。


「これのことに驚きましたかね?」


そして店員は、持っている紙切れを一度だけ目に映す。
店員の目に映った色は、桜色。


「こんな小さな子が、この村を滅ぼしたんですよ」


憎しみこもった声で


「こんなガキのせいで、私の妻は…」


歯軋りを鳴らす。


「絶対に許せない……絶対に」


紙切れを地面に叩きつけた。
紙切れは表を向いて、嫌でも目に付いてしまう。


「…殺してやる…っ!」


勢い良く紙切れを踏み潰して


「絶対に、殺してやるんだ!」


グシャっと音が鳴る



「ここに今住んでいる村人はいつもこの事ばかり考えている。このガキを殺す!その事しか頭に入っていませんっ」


更に音は鳴り続ける。


「村人は皆憎しみの塊。こんなガキのせいで大切なものを失った、ここはそんな人たちの塊の村」

「…っ」

「人を信用できなくなったも全てこのガキのせいなんだ!」

「…」

「いつまたこの村を破壊しにくるかわからない。ガキは今一体どんな姿になっているかわからない。だから余所者は、信用できないんだ」


「……っ」


そして、店員は、邪悪な顔と声で、こう言った。


「あんたらも、信用できない…」


店員に睨まれて、一歩下がる。


「あんたらの顔色を見るともっと信用できない。何故そんなに顔色が優れていないんだ?」

「……」


メンバーは何も言い返せない。
目線はずっと紙切れで。



紙切れには、見覚えのある色が浮かび上がっていた。

桜色

そんな髪色をした幼い女の子が紙切れに写っている。
そしてその女の子の写真の下には赤い字でこう書かれていた。


"凶悪犯!!我らの敵!!殺せ!!殺せ!!"

"『汚れた口』を殺せ!!"





"指名手配:チョコ"




「…チョコ……」


指名手配の紙に載っているチョコの幼いころの姿と赤い字を見てクモマが辛そうに言った。
サコツが苦い表情を作る。


「おい!クモマ!チョコの名前呼ぶんじゃねーよ!もっと怪しまれるじゃねーか!」

「てめえの方が危ねえこと言ってるだろ!」

「…信じられへん…。まさか…チョコが……」


突然騒ぎ出したメンバーらの言葉を訊き、店員が吼えた。


「てめえら!やはりこの女の仲間だったのかっ!!!」


その声は大きく響き渡り、
周りにいた村人にも伝わった。

村人の表情は見る見るうちに赤くなり怒りが込みあがっていた。


「やべーぜ!何だかやばいことになったぜ!」

「逃げるしかねえかっ!」

「でも何処に?チョコのとこに戻ったらチョコがこの人たちに殺されちゃうかもしれないんだよ!」

「何ゆうてるんや!チョコを守ってあげへんとあかんやないか!せやからチョコのとこへ戻るで!!」

「『汚れた口』の仲間だ!みんな捕まえろ!!!!」


店員の叫び声が合図となり、その場は戦争になった。
まずメンバーらが先頭を切って走り出す。
後をすぐに村人が追いかける。
店にあった品物を次々へとメンバーへと投げる。
それは包丁だったり、フォークだったり


「うわ!危ないなぁ!包丁飛んできたよ!」

「いて!フォークが刺さった?!この野郎っ!!」


フォークが刺さったのに腹を立ててしまったらしく、ソングは村人にハサミで襲い掛かろうとする。
しかしそれはトーフにとめられた。


「やめい!村人を傷つけたらあかん!」

「んだよ?俺刺されたんだぞ!」

「刺されるあんたが悪いんや!!」

「全くだぜ!フォーク刺されてマヌケだぜ〜?」

「頭にフォーク刺したのは多分世界でキミがはじめてだろうね」


俯くソング。
しかし走るスピードは緩めない。
追いかけてくる村人から何とか逃げる。
村人はいろんなものを投げつけながら追いかけてくる。
それらは見事にメンバーらの頭上を通ったり、当たったりと。


「いて!また当たったのかよ?!しかもまたフォークか!!」

「あんたフォークに好かれとるんか?」

「うっわ!痛いなぁ〜ナイフが背中に刺さっちゃったよ〜」

「よく平気でいえるなお前も?!」

「おい?!クモマ危ないぜ!!」


サコツに叫ばれたが、遅かった。
この中で一番足の遅かったクモマは見事村人の下敷きにされていた。


「しまった!!」


村人の下でもがくクモマ。
その村人の手には大きな刀が。


「『汚れた口』の仲間よ。死ねっ!!」

「そうはさせっかよ!!」


サコツが助けに来た。
ポケットからしゃもじを取り出すと、すぐに"気"を溜め、刀目掛けてぶち込んだ。
刀は宙を舞って弾き飛ばされた。

走るのをやめたサコツにトーフが叫んだ。


「ったく!戦ったらあかんゆうたやないか!」

「くそ!俺も戦ってくる!」


トーフの注意を無視してソングもクモマらの元へ戻っていく。
変わらずトーフは走り続ける。


「ワイはチョコのとこ行くわ!あんたらは足止め頼むで!」

「了解!」

「合点承知だぜ!」

「おう!」


そしてトーフは門付近へと戻り、残りのメンバーは、村人を止める側へ渡った。
躊躇なく襲い掛かってくる村人を見て


「一体何がどうなっているんだろう?!」


クモマが村人を傷つけない程度に軽く蹴りをする。


「知らねえよ。あいつ、一体この村で何しやがったんだ?!」


ソングが武器を持っている村人の動きをハサミで止める。


「村を破壊させちゃったのかよ?チョコは…?もうサッパリだぜ!」


サコツがしゃもじで"気"を撃ち込み、足止めをする。


「殺せ!『汚れた口』を殺せ!長年待っていたこのときを!!」


村人は呪いの言葉を吐きながら次々へとメンバーらに襲い掛かってくる。
しかも、村人は意外に強かった。
村人全員が頑丈な体をしているのだ。
もしかしたら日々訓練をしていたのかもしれない。そんな感じの体つき。
だからすぐにまた襲い掛かってくるのだ。


「『汚れた口』の仲間を捕まえろ!!!!」

「ったく何だよ!その『汚れた口』っていうのは!」


ソングがそう言って気を緩めた瞬間、ソングに何かが被さった。
よってソングの動きは止められた。


「わー?!ソング!!」

「しまった!ソングがやられてしまった!タルに!!」


ソングはタルに押し込まれてしまっていた。
タルの中からソングが暴れるが村人はやはり力が強い。
タルからソングが出ないようにそのまま押さえ込んだ。


「まずは一人目」


村人が嬉しそうににそう言う。
タルの中からソングが叫んでいるようだったが、外にいる人には伝わらなかった。

悔しそうに舌打ちを鳴らすサコツ。


「しまったぜ!ソングがタルに捕まってしまったぜ!!」

「ソング…なんてマヌケな姿に…」


ソングの哀れな姿に、彼らも気を緩めてしまった。
村人はそのチャンスを逃さない。襲い掛かってきていた。
そのためサコツが捕まってしまった。
虫取り網で。


「うわっは〜?!」


サコツの頭は見事に虫取り網の中に。


「わ〜!サコツが虫取り網に見事に捕まってしまっている〜?!」


思わず説明口調で叫び声をあげるクモマ。
その間に村人はクモマを捕まえに来た。


「最後はお前だ!」

「僕は簡単に捕まらないよ!」


襲い掛かってきた村人を蹴って避けるとクモマは捕まってしまったサコツとソングの元へと駆ける。
しかし、それを押さえに来る村人。
すごい執念だ。
村人が叫んだ。


「おとなしくお前も捕まれ!」

「捕まらないよ!チョコのためなんだ!ここで捕まってなんかいられないよ!」

「ほら、この足が長く見える快適グッズあげるから捕まって」

「わかった」


「「おい?!!!」」


こうして、ソングとサコツそしてクモマはこの村に人々に捕まってしまったのであった。










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今回はチョコのお話です。

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