ここはレストラン。


「ほな、そろそろ店を出るか」


膨れた腹を抱えながらトーフがやっと椅子から身を降ろした。
しかしやはり腹が重いのだろうか、少しよろめいていたが何とか無事支えることができた。
危なっかしいトーフに連なってクモマもその場に立つ。


「そうだね。結構長くここにいたからね」

「おかげさまでワイ腹いっぱいやねん」


トーフはとっても満足そうだ。
そんな笑顔を向けられるとクモマも思わず笑みを溢してしまう。


「僕もお腹いっぱいだし今日のところはこれで十分だね」

「そやな」

「それじゃあ……」


そして辺りを見渡して


「いや、今はまだよした方がええで」


足を進めようとしたクモマにトーフが止めた。
今はまだ食い逃げをしない方がいいらしい。
何故なのかクモマは問い掛けた。
それにトーフもあたりを見渡して答えてくれた。


「ほら、まだ店員がうろちょろしとるやろ?あれじゃあ捕まるのがオチやねん」


言われてクモマも、それは知ってるよ。と頷いた。


「店員がいることについては僕も知ってるけど…いつものトーフだったらそんなのお構いなしじゃないか」


実は何度か食い逃げをしてきたのだけれど、今までは辺りに人がいようとも関係なく突っ走り食い逃げを繰り返していた。
…今回はしないのだろうか?


「いつものワイやったら確かに今ごろ突っ走っとるわ。だけどな、よ〜見てみぃ」


そしてトーフは指差した。
それはまっすぐにトーフの着物を差している。


「こな姿で走れるかあんた?」

「…っ!!!」


言われて思い出した。
急いでクモマも自分の服に目を向ける。
そういえば、自分もスカートだ。
これじゃあうまく走れないじゃないか!


「ゴメン。無理だね」

「やろ?走りにくいにも程があるわ」

「うんうん。やっぱりズボンがいいよね…」


ズボンであれば、足に障害物もなく、うまく走ることができる。
だから今まで食い逃げを成功することができたのだ。


「それじゃあ、店員がいなくなるまでちょっと待っていようか」

「そやな」


ラフメーカーたちは、食い逃げのときだけやたらと慎重に行動するのだ。
そのときだけは異常に一致団結する。素敵なメンバーですね☆食い逃げ万歳☆



辺りを再度見直してみる。
やはり店員は、いる。
舌打ちを鳴らして店員にあっちへ行けと無言で訴えてみるが、それは届かなかった。

彼らはとにかく食い逃げをしなければならないのだ。
何故なら全財産が二人合わせて110Hしかないから。
ここは何とかして食い逃げをしなければ…っ。


「…今店員さんいなくなったよ」

「いや、まだおんねん。別な店員が出てきたで」

「あ、本当だね。…ん〜なかなかいなくならないね」

「密かにここの店は食い逃げ厳重なんやろか」

「ええ?困ったねぇ〜」

「ホンマやなぁ〜」


ここから離れたいのに、離れられない。
身を乗り出して、店員の姿を窺うが奴らはなかなかいなくなってくれない。

本当に困ったものだ。


「ど、どうするの?」


クモマがトーフに訊ねる、そのときであった。

突然、事件が起こった。


+ + +


「「えええええええええ?!!」」


そのころ、村の中央の街では騒ぎが起こっていた。
村人がキャーキャー声をあげる。


「え?え?一体どうしたの?」

「何が起こったんだ?」

「頭から液体でも溢れてきたのかしら?」

「どっから溢れ出てきてるんだよ?!」

「ゴボっゴボゴボ、ゴボっゴボ」

「溢れ出たぁ!!!」

「ね〜ん、それはいいとしてよ〜ん。一体どうしたんだっていうのよん?サコっちゃん困っちゃうわ〜ん」

「そんな口調でしゃべられるとこっちが困る!」

「あの、一体どうしたのよ?」


村人に合わせてメンバーも慌て騒ぐ。
その中でチョコが1人の村人を捕まえて一体どうしたのか訊ねてみる。


「あんたたちも早くここから逃げなさい!」


村人に叫ばれてしまった。
しかし納得いかないチョコは眉を寄せるだけ。


「何で逃げないといけないのよ?」

「侵入者が現れたのよ!!」


「「侵入者?」」


侵入者…って自分らの事か、とメンバーは表情を強張らせてしまった。
村人は続ける。


「そうなのよ!侵入者が今村のどこかをふらついているらしいのよ!」

「え?ど、どんな人?」


恐る恐る訊き出してみる。村人は声を抑えずに叫び続けた。


「どんな人って、この村の天敵よ!!」

「て、天敵?」

「男よ男!!!男がこの村に来ちゃったのよー!!!」


そして村人はキャーキャー叫んで逃げ出してしまった。
知らぬ間にそこにはメンバーがポツン。


「…男?」


チョコが首をかしげた。


「…やべえな」


ソングが舌打ちを鳴らし、続ける。


「まさかバレてしまったのか」


お互い顔を見合わせる。
サコツが、言った。


「あらま〜ん。ソンちゃんが男ってことバレちゃったのかしらん?」

「ソンちゃんって、ムカツクなてめぇ!」

「ほら〜!ソングがそんな風に男口調で叫んだから!」

「まぁ、あんたはゴンザレスだし、仕方ないことだったのよ」

「だからゴンザレスって何なんだよ!くそ!バレちまったのか?!」


そして何もかもがバカバカしく感じてしまったソングは、男の道を突っ走り続けた。


「だからこんなこと嫌だったんだ!第一男が女のフリなんかするの無理なんだよ!くそ!」

「こら!凡はしたないわね!う○こ言わないの!」

「うわ!お前今何ていったか?!」

「う○こよ」

「ちゃんと答えるなボケ!!」

「何よ。う○こ、う○こ言ってるあんたが悪いじゃないの」

「"くそ"を"う○こ"に変換するてめえが」


発言の途中ですが、あまりにも汚い会話が続くため、中断させます。


「ま、う○この話はいいとして」


話をそらそうとしたチョコでしたが、禁句を発したので、中断させます。


「こら〜!そこのあんたらもう○この話題から逸れてこっちに逃げ込みなさい!」


先程の村人が叫んでくれましたが、やはり禁句を発したので、中断を…
する前に、チョコが身を乗り出してしまった。


「え?逃げ込めって…?」


チョコは村人の発言に目を丸くした。


「は?俺を見て逃げたんじゃないのか?」

「何いってるのよ?ゴンザレスを見て誰が悲鳴出して逃げるのよ。そんなバカこんな村にはいないわよ」

「…」

「え?ってことは私たちのことバレてないってこと?」

「ん?何いってるのあんたら。私は"男が侵入してきた"と言ったのよ。あんたらは男じゃなくて女でしょ」

「…!」


この様子からして、バレていなかったようだ。
胸を撫で下ろすメンバー。

そして、同時に疑問も生まれた。


「その"男"って誰なの?」


自分ら以外の誰か(しかも男)がこの村に侵入してきているらしい。
果たしてそれは誰なのか。

…そういえば


「待ってよ!トーフちゃんとクモマってまだレストランにいるじゃないの!」

「やばいな。まさかあいつらのことバレたのか?」

「ん?侵入者は一人よ」


「「……」」


村人の発言に、メンバーは無言になった。
レストランに残っているメンバーは二人、この村に侵入してきた男は一人。
…と、いうことは…


「俺ら以外の誰かか?」

「そういうことになるね」

「ごぼ、ごぼごぼ…」

「また溢れ出た?!」

「う○この話はいいとしてよん!サコっちゃんら以外の誰が、しかも男が侵入って一体何なのかしらん」

「いや、その話題はもう逸れただろが!また持ち越すな!あとお前の語尾の"ん"がキモい!!」

「その男は今レストランで暴れているらしいわよ!」

「「はあ?!」」


そんなこんなで、村人の証言により、メンバーらは侵入者を見に行くために、レストランへ向かっていった。



+ + +


そのころ、そのレストランでは、


「げへへへへへ。若いオナゴがいっぱいだ〜げへへへへ」


村に侵入してきた男が、下心丸出しの顔で暴れていた。
レストラン内にいる店員やお客は顔色を変えて走り回る。
女装をしているクモマとトーフも右に同じ。


「何やねん。あいつ!」

「え?男?この村は女性の人しか入れないんじゃ?」

「まさか、それを狙って入ってきた侵入者っちゅうことか?」

「え?侵入者?!…ど、どうしよう!」

「知らん!あのまま暴れさせると何しだすかわからへんで、あいつ!」


コソコソと声を殺して二人は会話をする。
侵入してきた男は舌を舐め回して鼻の下を伸ばしていた。


「…うわ、本当だ…。すっごいヤバイねあの人」

「いつ襲われるかわからへんで」

「そ、そんな。僕たちは男だし…」

「今は女装してるんやでワイら」

「…何とかあの人を止めなくちゃ」

「そうするのが一番ええわ。被害者が出る前に、あん変態を止めるで」


目で合図をして二人は男に目線を移す。
男の暴走は止まっていない様子。


「げっへへへ。どいつから襲おうかな〜げへへへへへ」


さあ、二人はこの変態を止めることができるのか?


「…ゴメン。やっぱ無理だよ」

「キモいわ。ありゃあかん」


無理みたいです。

苦い顔を作る二人に男はこちらを見てきた。
そして困ったことに目が合ってしまった。クモマが。


「お、そこの女!」

「えっ!」


突然呼ばれ、裏声で悲鳴をあげるクモマ。
男はヨダレを垂らしそうな勢いで、告げた。


「こっちにおいで」


一気に汗が出た。
いやな汗だ。

男は手招きをする。


「おじさんと遊ぼうよ〜」

「え?え…ちょっと」

「クモマ、行ったらあかん!何されるかわからへんで」

「いや、それぐらい分かっているけど…」

「何だ?おじさんのところに来ないというのか?んも〜可愛いな〜恥かしがり屋さんなのか?」

「…っ」

「ほら、こっちにおいで。さもなければ…」


そして男は懐から、黒い塊…拳銃を取り出した。


「発砲するぞ」


拳銃をその場にいる村人に向ける。


「ほら、こっちにおいで。お前がこっちに来てくれればおじさん撃たないですむんだから」

「……っ」


拳銃を向けられ、目を伏せる村人。目を見開く村人。クモマを見る村人。
それらを見てクモマは…


「わ、わかりました…行けばいいんですね…」


拳銃を持つ男の下へ足を進めた。


「クモマ!!」


トーフはそんな彼を引き戻そうと叫ぶが、クモマは止まらない。
村人の命がかかっているのだ。歩くのは止めない。

確実に、男の元へ。


「げへへへへ。最初からそうすればよかったんだよ」

「…」


そして、クモマは男の目の前まで来て、止まった。


「…っ」


拳銃に目を向けてクモマは言った。


「あの、その拳銃おろしてください」

「…げへへへへ。そうだな」


クモマに言われ、男は拳銃を懐に仕舞う、と思いきや
そのままクモマを捕らえてしまった。
クモマは腰を抱きつかれ、声にならない悲鳴をあげた。


「も〜可愛いな〜こいつ〜」

「や、やめて!!」

「抵抗されると燃えちゃうな〜げへっへへ」

「…っ!!」


そして、本当に燃えてしまったのか、
男の手はクモマの腰から落とされ、尻へ。



「―――――――っ!!!!!!!」




+ + +


そんなレストランへ向かっているのは残りのメンバー。
レストランにはクモマとトーフがいると、冷や汗流しながら辿っていく。


「あの二人ん。大丈夫かしら〜ん」

「心配だね〜!トーフちゃんもクモマも女装可愛かったからね〜」

「もしかして襲われているかもしれないわね」

「それは有り得ねぇだろ?あいつら男なんだぞ」


それぞれ不安を抱きながら、とにかくレストランへ向かって走る。

やがて、レストランの姿が見えてきた。


「あ、あったよ!レストラン!」

「なんか騒がしいな」

「やっぱり男がいるのかしらん?怖いわ〜」

「おめぇが怖ぇよ」

「さあ、レストランに突っ込むわよ!」

「おお〜!」


そのままレストランに向けて勢いつけて走る。
と、そのときであった。




ズドオオオオォ…ン



「「?!?!」」


何か大きな音が村中に響き渡った。


+ + 


その音は、レストランから鳴っていた。
メンバーは恐る恐るレストランに近づき、様子を窺う。
土煙が激しい店内。
壁には大きな穴があいている。
先ほど自分らがいたときはこんな穴空いていなかったはずだ。

これは一体…?


土煙まみれの店内から、声が聞こえてきた。


「…ちっ」


それは舌打ちだった。
そのまま言葉が繰り出された。


「いきなり自分を呼ぶもんだから何をするのだろうと思ってみたら」


聞き覚えのある声だ。
土煙内には影が映っていた。


「…セクハラか」


せ、セクハラ?!
思わず変な顔を作ってしまうメンバー。

声は続く。


「嫌な性格だね。全く、セクハラオヤジはこれだから困るよ」


聞きなれた声とともに、影は姿を現せた。


「非常に、笑えないね」


それはクモマであった。
彼の足元にある瓦礫の山から別な声も聞こえてきた。


「く、くそ…何だてめぇ…イキナリ殴りやがって」

「あなたが悪いんじゃないか。こうなるのも当たり前だよ」


クモマは身を下ろし、姿勢を低くする。
そこにはクモマにぶっ飛ばされた変態男がいた。
唸る男をクモマは見下す。


「全く、何で僕を狙ったのか、意味がわからないよ」

「…僕っ?!まさかお前…」


男?!


「これ以上言わないで。バレちゃうから」


言われる前にクモマは男の両頬を片手で軽く潰して、男の言葉を殺す。


「ちょ…クモマ!あんた無事か〜?」


クモマが言葉を続けようとしたとき、土煙内からまた新しい影が生まれた。
影はすぐにトーフの姿を作る。


「も〜あんたの拳強いんやから、気ぃつけへんと」

「あ、ゴメンネ」


トーフの姿を見てクモマは普段のクモマに戻った。
苦い表情を作って、謝った。


「ちょっと頭がカーっとなって」


これを聞いて、クモマを怒らせたらあかんわ。怒らせないよう気ぃつけへんと。とトーフは熱く誓った。
その隙に残りのメンバーも到達した。
おーいと手を振ってこちらに近づいてくるのはチョコ。


「も〜一体どうしちゃったのよ〜?これは?」

「何よん?セクハラって何なのよん?そんなのサコっちゃんが許さないわん」

「俺はお前が許せねぇよ…」

「ゴボ、ゴボゴボ」

「また溢れ出たのか?!」

「お、みんな。来たんか。ちょうどえかったわ〜」


陽気なメンバーの姿を見て、トーフは笑顔を作ると、瓦礫の山を指差して、言った。


「こいつを懲らしめてほしいんや」

「は?何でだ?」

「クモマのケツ触ったんや。こんスケベが」


クモマの…尻を……

思わずメンバーは表情をしかめ、瓦礫の下に埋もれている男を睨んだ。


「クモマをセクハラ?どういうことなの?あんた?!」

「どういう趣味だ。ったく、意味わかんね」

「サコっちゃん許せないわん!クモマたんを苛める奴は許せない〜キーっ!」

「さあ、やっておしまい。クマさん」


「ギャアアアアー!!!」


その場に、男の悲鳴が響いた。


+ + +


そして、メンバーは変態男をじっくりと懲らしめた後、自分らもいつ正体がバレるか不安だったので早々と"ハナ"を消しにいった。
意外に目立つところにあったため、今回は楽に"ハナ"を消すことができた。


「ほな。はよ村から出るか」

「そうね。今日もでかしたわね、クマさん」

『そんなことないさベイビー。全ては皆のおかげさ〜』


早々と村から逃げる形で出るメンバー。
すると、チョコの魔法は解けたらしく、魔法にかかっていた男性陣とブチョウは無事もとの姿へ戻り、
ソングはゴンザレスから凡へと繰り下がった。


「おい、何だその無駄な文章は!余計なお世話だ!!くそ!」



  ラフメーカーは旅を続ける。







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