トーフとクモマが再び食事をしている頃、他のメンバーは"ハナ"を探していた。
その前に食べ物を取得しようと街にやってきていているのだが。

村の中心は街になっている。
商店街なのかいろんな店が建ち並んでいる上、どれも上品そうな店なので何ともメンバーには合わない。


「何とかして食べ物をゲットしなくちゃいけないね〜」


チョコがあちこちに首を回して、ものほしそうにそう言う。
落ち着きの無いチョコをソングが注意した。


「おい、見苦しいぞ。田舎もんみてえにキョロキョロするな」

「だってだって、こんなにキラキラした街はじめてなんだもん〜!すっご〜い…」


目を輝かせて綺麗な街並みにチョコは感動した。
確かにここの村の街は今まで見てきた街の中で一番綺麗である。
雰囲気からして明るく、見ている側としても気分がよくなる、そんな街であった。
興奮するチョコに溜息をついてソングは行儀悪く大股で歩いていく。
彼はもう女になる気が全くないらしい。普段どおりに突っ走る。
しかし外見は女に見えるため可笑しい風には見えない。何とも得した顔である。
それとは裏腹に…


「すっごいわ〜ん☆ここのネックレス、ピッカピカで美しいわ〜ん」


サコツは女を演じきっていた。
言葉づかいも慣れたのだろうか、まだ自然的になっている。
しかし外見が…醜すぎる。


「だよね〜!ネックレスとか綺麗〜!私もつけてみようかな〜」

「うんうん。そうしなさいよん。きっとチョコ似合うわよん」

「え〜そうかな〜?私よりかサコっちゃんの方が絶対に似合うって〜!」

「何言ってるのよ〜ん!でも、いいわね〜このネックレス」


意外に話が盛り上がるチョコとサコツ。
それにしてもサコツはノリが良すぎる…。

異常な光景に頭を抱えてソングが突っ込んだ。


「やめろ。キモすぎる…。お前、男のプライド捨ててしまったのかよ…」


対し全くノリ気でないソングにサコツは笑い声を上げて応えた。


「の〜ほっほっほっほん。今は女になりきってみせるわよ〜ん」

「何だその異常な笑い方は?!やめろ鳥肌が立つ!!」

「お前も笑い方を研究してみるんだな〜はっはっはっあはん」

「…もう嫌だ…早く"ハナ"を消して早くこんな村から出てやろう…」


この村の可笑しい風潮にソングは熱くそう誓ったのであった。

+ +

暫く街を歩いていく。
やはり町にいる人たちも皆女性。
ところどころ男らしい人もいるが、それらはもしかするとメンバーらと同じで他所から来た者かもしれない。
皆が皆で女、又は女装をしている。
メンバーらの大半も女装をしているのだが。


「さ〜ってと〜。何を買おうかなー?」

「そうね〜ん。サコっちゃんはこの生肉食べたいわね〜ん」

「やめろ。自分で自分の名前を"ちゃん"をつけて呼ぶな」

「ったく、つまらない村ね。女ばかりでいい男がいないじゃないの」

「お前はやはりそれしか頭に無いのか?!」

「男チェックが私の最も大きな人生よ」

「そんな人生止めてしまえ!もっと大きなプライド持て!」

「あらん?そしたらソングちゃんのプライドって何なのかしらん?」

「……っ」


先ほどからツッコミまくりのソングをサコツが黙らせた。
プライドは何かと言われ、焦燥する。
そんなソングにブチョウが言った。


「きっとあれよ。ロイヤルスーパーデラックススピンでどれくらいトイレットペーパーを巻けるかのプライドよ」

「げ〜マジで〜?」

「変なプライドねんソングちゃん」

「世の中にそんなプライド持つヤツなんかいるか!!」

「いるじゃない。あんたが」

「俺も持たねえよ!」

「何いってんのよ。あんたはゴンザレスなんだからできるでしょ?そのスピンが」

「できねえし!ゴンザレスじゃねえし!」

「おぉ〜ん?いい食材発見だわ〜ん」


盛り上がるその場からサコツは抜けると一目散に食材屋に突っ走った。
派手なドレスに高いハイヒールを履いているにも関わらず素晴らしい走りだ。
しかも走り方も女走りをしている。
彼は完璧です!


「…チョンマゲもすごいわね。女になりきっちゃってるわ」


そんな彼に思わず溜息をつくブチョウ。
チョコも続ける。


「本当…あれはまさしく理想の女像だよ」


ウットリしてしまった二人に思わずソングは突っ込んだ。


「待て!あれが理想でいいのか?!」

「何いってんのよゴンザレス」


もう、ゴンザレスで定着してしまったのだろうか…。


「チョンマゲは完璧よ。あれは誰もが憧れる女神の姿よ」

「マジでかよ?!」

「うんうん。サコっちゃんって女だったらきっと女神様みたいな人だったかもね」

「嫌な女神だな?!ってかあの顔だろ?」


今回はツッコミがソングしかいないため、彼も大変だ。
いつもならクモマも助けてくれるのだがクモマは大食いのトーフに捕まってしまったし
ここはソング一人で管理をしなければならない。
もう、寝込みたい気分だ。


女神だと言われ二人から感動されているサコツはというと
食材に釘付けだった。


「いいわね〜ん。この生肉…。脂身が乗っていて美味しそうだわ〜ん」

「いらっしゃいませ。お客様」


生肉に見とれているサコツに店の店員がやってきた。
そしてサコツの姿を見るとすぐさま、短く悲鳴をあげた。
何だろうと思ってサコツは目線を外し、店員の顔を見る。
すると店員。


「……やっぱりだわ…」


そして店員は言い切った。


「あなたは理想の…女神様だわ…」

「えええええ?」


店員の発言に思わずその場にいないソングが驚いた。
そしてその場に駆けつけソングが叫んだ。


「これのどこが女神なんだよ?!」

「うわ?!あなたどこの愚民よ?何ていう言葉づかい…はしたないわね」

「こいつはゴンザレス。恋に埋もれただけで他には何も出来ないただの凡人よ」

「コラ!?何ほざいてんだてめえ!」

「まあゴンザレス……それは酷いわ…」

「酷いのか?!ゴンザレスはそんなに酷いものなのか?!ってか何だよゴンザレスって!!」

「!!あら、女神様だわ。女神様が生肉を見ていらっしゃってますわ」

「きゃ〜女神様!こっち見てください〜」

「女神様!うちの生肉をご覧になってください!」

「何で野次馬が増えてきてるんだ?!」

「何?このゴンザレス…酷いわ…」

「うわ、ゴンザレスですわ。酷い」

「ゴンザレスは向こう行ってなさいよ」


「…もう、俺…疲れた…」


村人に"女神様"だと言われ囲まれているサコツを軽蔑するような目で見ると
ソングは一人そう呟いていた。


+ + +


「…んは〜!食った食ったわ〜」

「ホント、もう食べられないよ…」


そのころ、レストランに残ったクモマとトーフは、先ほどの倍ぐらいに腹を膨らませ、椅子に凭れかかっていた。
テーブルの上にはありえないほど山盛りの皿。
しかもそれらの皿にあった料理は全て食い尽くされていて。
全てはトーフの仕業のようだ。

満足そうな笑みを溢してトーフが言った。


「もうこれで夜は食わんでも大丈夫やろう」

「…そうだね…あぁお腹一杯だ…」


クモマは苦しそうだ。
彼の場合は全て肉を食したので然程食べていなくても腹が膨れてしまったらしい。
見た目は細見だし腹が膨れているようには見えないが、もう限界みたいだ。


「ホンマおおきにクモマ。ワイ一人やったらここまで食うことできんかったんや」

「うん、いいよ…。それにしても僕をここに残した理由はそれだったんだね…?」

「そやで。悪いか?」

「ううん…。トーフが満足そうならそれでいいよ…うん」


この様子から
トーフはまだ食事をしたかったのだが皆が"ハナ"を探しに行くと行ったのでクモマを犠牲にして一緒に食事をしてもらったらしい。
それにしても、一体トーフの胃袋はどうなっているのだろうか。
ブラックホールなのだろうか。


「…それじゃあ、僕らもそろそろレストランから出て皆と合流しようか…?」


そしてクモマはその場に立とうとする。
しかし気づいた。自分の裾をトーフが引っ張っていることに。
何?、と首を傾げるクモマにトーフは眼差しを送った。


「待ってくれや。ワイ動けへんで」


トーフは腹が膨れすぎて動けないらしい。
それだったらそんなに食べなければよかったものの。
しかしそれは口にせずにクモマは立つのを諦め、椅子に座りなおした。


「ホンマすまんな。あんたにはいろいろ迷惑かけとるみたいやなぁ〜ワイ」


本当に申し訳なく思っているのだろうか。トーフの顔は笑顔のままだ。
相当腹いっぱいなのが嬉しいのだろう。

笑顔を絶やさないトーフに思わずクモマも笑って返した。


「いや、そんなことないよ。むしろ僕の方が迷惑かけているような気がするよ」


遠慮がちなクモマにトーフは笑みのまま首を傾げる。
トーフは訊ねた。


「そうけ?ワイあんま気にしたことあらへんかったで」

「そう?それだったらいいんだけど。何か僕しょっちゅうトーフに質問ばかりしているような気がするんだ」


そう。クモマは質問をするとき必ずトーフに問い掛けるのだ。
いつも返事をするトーフに最近クモマは申し訳ないと思っていたらしい。
しかし当の本人は気にしていなかったようで、笑みを溢す一方だった。


「気にせんでもええで。一応ワイは皆より長く生きとるかい、知識はあるで」

「…え?」


トーフの発言に引っ掛かったところがあったのでクモマは思わずマヌケな声を上げてしまった。
そして聞き出した。


「…僕らより歳なの?トーフ」

「あぁ〜一応な。こな姿でもワイはあんたらより歳やねんで?」


驚いた。
トーフは見た目に寄らず歳であった。
てっきり小年齢だと思っていたためクモマは目を丸くしっぱなしだ。


「ええ〜そうなんだ…人って見た目によらず…だね〜」

「まぁ〜ワイは人じゃあらへんけどな。トラやトラ」

「すごいな〜トラって」


それから、話を切り替えた。


「ま、それはええとしてや。ワイはあんたに聞きたいことあるんねん」

「え?何だい?」


姿勢を正して、トーフは訊ねた。


「クモマ、あんたは一体何者やねん?」


ずっと気になっていた。
ゴーストの村からずっとずっと気になっていた。
心臓が無いと発言したクモマ。
果たして何故心臓が無いのか。トーフは気になって仕方なかったのだ。

トーフの質問にクモマは答えてくれた。


「僕は、普通の人間だよ」


目を細めて。


「心臓が無いんだけどね」


右手を心臓があったはずの左胸に持っていって


「昔、神様に取られちゃったんだ」

「神様?」


突然上げられた神様という単語にトーフは眉を寄せる。
クモマは続ける。


「僕の不注意だよ、心臓を取られたのは。だけどそれのおかげで僕の村は助かったんだ」

「…」

「これでよかったんだと思う。村が乗っ取られて沢山の被害が出るより僕一人だけが被害にあったほうが、断然良かったと思う」


トーフは黙って聞く。


「心臓が無くて不便だと感じたことはないよ。普段どおりに暮らしていたしね」

「そか…それならええんや。せやけど」


そしてトーフは更に訊ねた。


「あんたの両親はこのこと知っとるんか?」

「…」


トーフの質問に、クモマは笑顔で返すだけだった。


+ + +


ここは村で一番栄えている街。
色とりどりでまさに女性が気に入りそうな商店街。
その中で最も輝いている人がいた。
それは


「女神様〜!拝ませてください〜」

「女神様〜」

「女神さま〜!」


女神と言われているサコツであった。
あんな酷く醜い姿なのに何故こんなにも憧れの視線を浴びているのだろうかと不思議でたまらないのはゴンザレスことソング。
ずっと表情を顰めている。
そんな彼に声をかけたのはブチョウだった。


「なにカバが踏ん張っているような顔してるのよあんた」

「嫌な例えするな!てめえ!」


さすがブチョウだ。変な人である。
いや、今の格好も変なのだが。
丁度いい機会なのでソングはブチョウに訊ねた。


「何であいつがあんなにも人気になってんだ?」

「女神だからよ」

「だから何で女神なんだよ?!どう見ても見えねぇだろが!」

「え?そうかな〜?」


途中、チョコが口を挟んできた。
そのまま続けた。


「サコツを見てみなよ。赤い髪に長い耳。見るからに普通の人間じゃないよ〜?」

「…まぁ言われてみればそうなのだが」

「あれは女神の姿よ。間違いないわ」

「いや、とことん間違っているだろ?!大体あいつは男だぞ!」

「ってか妖精さんよね」

「そうね。妖精さんね」

「はあ?」

「だからどんなことでも許されるんだよね〜」

「妖精さんは得してるわね」


勝手に話を逸らされたためソングはそっぽを向いて話から外れた。
村人らに囲まれているサコツに目を向けてみる。
確かにあれは普通の人間の容姿ではない。
…ま、今の姿がアレだというのも問題なのだが。
果たしてサコツは何者なのか。
…って、気にしていてもどうにもならないことだ。

ソングはサコツからも目を外す。
少し場から離れ、そこから群がっている村人らを見る。
その端に映るのはチョコとブチョウ。

そんな彼女らを見て、改めて思った。
そういえば、何故チョコは桜色の髪をしているのだろうか。
彼女も今まで見たことのない髪色だ。どこかの部族なのだろうか。
動物と話せるというのも引っ掛かるところ。

ブチョウのことはいいとしよう。
あいつが鳥族っということは最初に出会ったときから話されていたことだし
ほかに気になるところはというと、果たしてヤツは人間でいいのか?というところだ。
もしかしたら異世界の人かもしれない。

クモマも見た目は凡人なのだが心臓が無いという話には驚いた。
なぜ心臓がないのかは、ま、気にしないでいいだろう。

そして最も気になるのはトーフだ。
あいつは一体何者なんだ?本人はトラだといっているが
…どういうトラだ。人間みたいなトラっているのだろうか?


改めて、ソングはメンバーの異常さに目を向ける。
考えてみると全員が全員で普通ではない。
確かに自分は凡人なのかもしれない。…ちょっと哀しいことなのだが。


村人らがサコツを囲んで盛り上がっている中、
ブチョウもチョコもそれぞれで話を盛り上げ、ソングは一人でそんな光景を眺めて

謎の影が、その場に見向けもせず、ある方へ向かっていく。


レストランの方へ。






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