白い霧に覆われ、肌に当たるのは冷たい粒子。


11.幻の見える村


この村の付近から、場は白くなりつつあった。
霧が異常発生したのだ。


「ええ?何よこれ〜?!」

「この異常な煙の量……まさか火事か?!」

「ちげーだろ?!お前"霧"も知らねえのかよ?!」

「きり?」

「あ。その様子から知らないみたいだね」

「お前、いくつだよ……」

「私は50リットルよ」

「お前の年齢はリットル単位なのかよ?!!ってかお前が答えるな!!」

「いっつもブチョウってさ〜ソングの邪魔するよね〜」

「何やねん。この異常な霧は…?」


全員が霧の異常発生に騒いでいる中、トーフは眉を寄せる。
この様子からトーフにもこの霧の正体が分からないらしい。
困った素振りのトーフに気づき、クモマが声をかけた。


「え?トーフにもわからないの?」

「ゆうとくけどな〜ワイの知識にも限度があるんやで」

「そうよそうよ〜。トーフちゃんって意外に何も知らないのよ!」

「んだんだ。トーフは俺と同じでバカだ!」

「そやで。ワイはバカの中のバカや!」

「何を〜、俺のほうがバカに決まってるぜ?!」

「バカはワイのことをいうんや!」

「……その根性…お前、なかなかのツワモノだぜ…」

「ふふふ。あんたほどじゃあらへんで。ほな、」

「「バカ同盟。成立だ」」

「お前ら何やってるんだ〜!?!」


突然ほざき始め、そして最終的には同盟を組んだサコツとトーフにソングは勢い良くツッコミを入れ、とめた。
その中で楽しく笑い声を上げるのはチョコ。


「あはははは〜うける〜!なに面白いことやってるの?二人とも〜」

「仲いいよね二人とも。変な意味でね」


同じくクモマも笑う。


「ま、私ほどではないわね」

「そりゃそうだな」


対しブチョウは、チョコとクモマの感想を覆す。
そんな彼女を冷たい目線で返すソングは大きく溜息を吐いた。


「何で俺、こんなバカな集団の中にいるんだ…」


今ごろ気づいたのかい?君は。
でも、キミも十分バカだよ。


「…疲れる…」


そして、ボソッと呟いた。
誰にも聞こえないぐらいの声であったが、彼のすぐ前にいたクモマには聞こえていた。
眉を寄せるクモマ。

昨夜のことが頭を過ぎる。



…。


「お、村が見えるぜ!村が!」


ふと前を見たサコツが突然騒ぎ出した。
視力が5.0もある彼には霧の中でも村の姿が見えるのだろう。
メンバーは、どこどこ?と爪先立ちでとにかく前を見る。
しかし、普通の人間には見えなかった。


「ったく、見えないのか?皆目ぇ悪すぎだぜ?」

「いやいや、僕らが普通だから!」

「サコツが良すぎるんだよ〜!」

「照れるぜ☆」

「勝手に照れとけ」

「ほな、サコツを先頭に村へ行こうやないか」


トーフの案に全員が一斉に否定した。


「「待て待て!迷子になるって!!」」

「大丈夫だぜ!俺の後をちゃ〜んとついていけばいいんだから」

「それが危険だといってるんだ!」


胸を張るサコツに鋭く言い放つ。
しかしサコツは楽しそうに笑うのだ。


「な〜はっはっは。まーそんなに熱くなるなって。俺がちゃんと誘導してやっからよ〜」

「ええ〜、サコツの方向音痴を信用していいの〜?」

「でもさ、今はサコツにしか村が見えないんだよ。彼を信じるしかないじゃないか」

「んだんだ。俺を信じろ」


クモマの手助けにより調子に乗ったサコツは、先頭を切って歩き出してしまった。
方向音痴の彼を見放したらいけないということで文句をいいながらも後をついてくるメンバー。
サコツは非常に楽しそうだ。


「ちゃんと誘導してよーサコツ〜」

「任せろって」

「うわぁ…どんどん霧が深くなるなぁ…」

「皆気をつけて歩くんやで」

「早速姐御がいませ〜ん」

「おいおいおい」


チョコの発言により、メンバーはようやくブチョウがいなくなったことに気づいた。
確かに先ほどからブチョウの姿は見えない。


「早速一人行方不明かよ」

「姐御〜?」

「ブチョウ〜」


名前を呼ぶが、返事は返ってこない。
全員は顔を青くした。


「…」

「ど、どうする?」

「仕方ないわ…」


黙り込むメンバーにトーフは告げた。


「ワイらも迷子になったら困る。さっさと村に行くで」

「ええ?姐御置いていくの?」

「しゃあないやんか」

「ま、ブチョウだし、無事だよきっと」


テンションが下がり気味のチョコにクモマが元気付ける。
言われてみれば確かにあのブチョウだ。きっと無事であろう。


「それじゃー俺の後をついてこいよ」


そして、サコツは再び先頭を切って、真っ直ぐ前に〜と言いながら思い切り右に曲がった。


「言ってる側から方向間違ってるぞ!」

「何言ってんだ。俺が歩く方向は全て北だ」

「いや、それすっごく自己中心的な発言だから?!」

「十分と方向音痴やな〜サコツは。ほな…真っ直ぐ前…つまり北へ歩けば村にはいけるっちゅうことやな」


一応歩く方向を確認する。
サコツは元気良く応答。


「そうだぜ。真っ直ぐ前に進行だぜ」


そして、サコツは華麗に左に曲がった。


「キミを信用できないよ?!」


方向音痴の彼に、先ほどサコツを庇ったクモマさえも文句の言葉を言い放つのであった。




+ + +



暫く、もめながら歩いていると…


「あ、村が見えてきたよ」

「きゃ〜!村だ〜!」

「やっと着いたな…」


無事、村に着くことが出来た。
それにしてもこの辺りの霧の量は異常だ。
1メートル先は霧の所為で見えないほど、霧は多かった。

そして、


「遅かったわね。皆」

「「いたのかよ!ブチョウ!!!」」


そこには悠々とブチョウが仁王立ちをして立っていた。
思わず思い切りツッコミを入れてしまうメンバー。


「ったく、私がローリングスマッシュをしている間にみんないなくなっちゃうんだから」

「何してたんだお前は?!」

「ってかブチョウが勝手にいなくなっちゃったんだろう?」


この様子から、ブチョウは見事に迷子になっていたらしい。
しかし、それでも無事に村に着けるブチョウは流石だと思う。


「でも、姐御がいてよかったよ〜。いなくなっちゃったら私寂しくて死んじゃうもん〜」

「うふふふ死ねよ」

「うわ!何か言った!今すっげーいい笑顔で言いやがった!」

「ま、無事で何よりや。ほな、一応人数確認でもしとくで」


賑わっている一同を止め、トーフは点呼をし始めた。


「番号〜!」

「1」

「に〜」

「さんま」

「キッチンタオル」

「真面目に点呼受けろよ!!」


以上
クモマ、チョコ、サコツ、ブチョウ、そしてソングの順でした〜。


「よし、皆おるな」


確認をし終えるトーフ。
って、あの点呼でよかったんですか?


「ほんなら早速こん村に入るで」


あ、あの点呼でよかったらしいです。


「そうだね。…って、ねえトーフ」


そこでクモマは訊いた。


「この村にも"ハナ"はあるのかい?」

「……」


しかしトーフは答えなかった。




+ + +




村に中に入ると、霧の所為で何も見えなかった。


「皆ちゃんとおるか〜?」

「いるよいるよ〜」

「一応確認とるで〜。番号〜」

「1」

「に〜」

「塩焼き」

「もっぱらけ〜もっぱらけ〜」

「真面目に答えろよ!お前ら!!」

「…よし、皆おるみたいやな」

「お前も普通に応答するなよ!!」


メンバーは先ほどから声を張りながら前へ進んでいた。
それにしても、酷い霧だ。
村の中の様子なんか見れたものじゃない。

おかげでソングもご機嫌斜めだ。


「…ったく…」


真っ白い中に浮かぶ銀の髪は、ほぼ見えないに等しいものになっていた。
しかし服が黒いため、何とか彼の存在は見えるのだが。
対し、他メンバーの場合は髪の色が濃いため、白い中でも無事見える。

消えそうになりながらもソングはその場を睨んでいた。

こんな不気味なところ、早く出てしまいたい。


そのときであった。




――――― ソング




「………?」


ソングは名を呼ばれた気がした。


「誰か俺のこと呼んだか?」


一応確認をとってみる。


「え?僕は呼んでいないよ」

「誰も凡のこと呼ぶはずないでしょ、時間の無駄だわ」


誰も呼んでいないようだ。
しかし、呼ばれた気がして、ならなかった。


 おかしい…


表情を顰める。
幻聴でも聞こえたのだろうか。
そうだとしたら、自分は疲れているのだろうか。

確かに、昨夜はあまり寝ていなかった。
むしろ毎日のように寝ていない。

夜は夜中まで自然に起きていて
朝は日が昇るのと同時に起きてしまう。

そのため、ほとんど寝ていないと言っても過言ではない。


なぜ、ソングはそんなに寝ていないのか。
理由はきちんとある。


 そう、それは全ては……




――――― ソング



また聞こえた。

 厄介だな。まさか2回も幻聴が聞こえるなんて。
 今夜はきちんと寝たほうがよさそうだ。

そう毎日思っているのだが、
いつも寝れないでいる。

もう、それが日課になってしまっているのだから。



――――― ソング


 まただ。


――――― ソング


 ヤバイな。これは


――――― ソング……


幻聴は、何度もソングの名を呼ぶ。

 ………っ!!

ソングはその幻聴の声を聞いて、思い出すものがあった。


 この声って……


――――― ソングってば〜


 …ウソだろ…

ソングの手が、震えだした。



――――― 聞こえているの〜?ソング〜


このお惚けたような声。
そして、可愛らしい声。

非常に、聞きなれた声。


ソングは足を止める。
複数の足音から、一つの足音が消える。
しかし、それにはメンバーも気づかなかったようだ。

メンバーの足音は、奥へと離れていってしまう。
しかし、ソングは気にせず、その場に止まり、冷汗を流して

体が震えて


声が震えて




―――― ソングってば〜。返事してよ〜!も〜


「……メロディ……?」


震えるソングの背中には、
小柄な乙女の姿があった。




―――― やっと気づいてくれたんだね。ソング



真後ろから聞こえてくる声に、ソングは表情を緩めた。





そして、その場には
メンバーの足音が、完全に消えてしまっていた。







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さ〜凡ことソングはどうなってしまうのか?あの幻聴は一体?

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