「…この辺りにラフメーカーの"笑い"を感じるで」


メンバーはトーフの技能を使って行方不明になったソングを探していた。
こちらもこの深い霧の中、迷子にならないようにとにかくトーフの後をついていく。
そしてトーフはここまで来るとやっと足を止め、後ろにいるメンバーの動きを止めさせた。


「それじゃあソングは近くにいるんだね?」


白い霧の中、反転色の髪を持っているクモマが問う。
トーフは振り向きはしなかったが声で応答する。


「たぶんな。でも真っ白けで何にも見えへんわぁ」


そしてトーフは残念そうに猫耳を下げた。
それを見てブチョウが言った。


「なに弱気なこと言ってるのよ。ここまで来たんだからちゃんと凡のところまで誘導しなさいよ」

「あぁ、すまんな…」

「あ、でもトーフちゃん無理しなくてもいいんだよ。さっきから集中してたんだから疲れてるでしょ?」

「そうだぜ!無理すんじゃねーぞ!」


チョコとサコツの優しい言葉にトーフは感動する。
しかし、こんなところで休んでいる暇はなかったのだ。


「いや、ブチョウの言うとおりソングを探すわ」


眉を寄せるチョコとサコツ。
こちらを振り向いているトーフは何だか疲れたような表情をしていた。
本当に大丈夫なんだろうか。
メンバーから心配そうな眼差しを受けるトーフであったが、彼は気にせずまた前へと一歩踏み出した。


ラフメーカーの独特な"笑い"を追って…。




+ + +



―――― その様子から、思い出してくれたようだね


メンバーに探されているソングはというと、目を見開いて、ただただ黙っていた。
そんなソングを後ろから抱きしめている彼女は、とても微笑ましそうに口を開く。


―――― ソングのイヤリングのクリスタル。それの力があれば、きっと私生き返ることが出来るんじゃないかな?


メロディがソングを誘う。
しかしソングは黙っていた。


―――― ねえ、ソング。お願いだから、願い事言ってよ。ね?


ソングは黙る。


―――― そして、ずっとずっと一緒にいようよ


ソングは黙る。


―――― 今までどおり、楽しくしようよ


「……」


―――― ね?


「…………」


ソングは全て沈黙で返す。
それにメロディは不安を感じたのか
ソングを捕らえる腕をまたギュっと強く抱いて、更に訊ねた。


―――― ……ダメ…なの?


「……いや」


ようやく応答がきた。
安堵を着くメロディ。
対しソングは酷く汗を掻いていた。
ソングは頭の中で思考を巡らせる。




 本当なのか


奥歯を噛む。
ギリリと音を立てて。


 もし本当に願いが叶うのならば


両手は拳を作って強く握りつぶして。




 願いが叶うのであれば、願いたい



目を瞑って、深呼吸。
深く息を吸い、そして深く息を吐く。



 メロディがいてくれるのなら

 俺は
 何でもする


 例えそれが酷く困難な願いだとしても
 メロディが願うなら、俺も……




 一緒に願いたい。




 なあ

 メロディ…?




 やっぱ生きたいよな?





 まだ死にたくなかったよな?


 生きて、また喧嘩したいよな?


 …




「メロディ…」

―――― ん?

「俺の願い、言ってもいいか?」


―――― ……うん。いいよ


メロディに確認を取るとソングはメロディの腕を払い落とし、後ろを振り向いた。
そこには、メロディの姿は
なかった。


メロディの言うとおり、今のままではメロディの姿は見えないようだ。

何も無い空間に、ソングは目を泳がせて、言った。



「…生き返ってくれ……」


ソングは俯く。
もう寂しさを堪えるのが辛いのだろう。
震える体に震える目。


ソングは俯いたまま、メロディの願いを、自分の願いを、言い切った。


「お願いだから……生き返ってくれ…」




その場に、空色の光が放たれた。




+ + +


「な、何だ?あの光?」

「青い光?一体何なの〜?!」

「綺麗ね。この光はまるで、ジョバンナが不意をついたときに出るアレのようね」

「まるでって例えられても全く分からないよ?!」

「…あん光は……」

「何か見覚えあるの?トーフちゃん」

「いや、あらへん。けどな。あそこから"笑い"を感じるんや」

「マジでかよ?そしたらあの光はソングが…?」

「…凡のやつ、不意をついてアレを出したのね」

「だからそのアレって何なの?アレって?!」

「あいつ、すげー技持ってんだな…」

「いや、きっと違うから!人間不意をついたとしてもあんな光出ないから!」

「ま、不意をついた話はどうでもいいとしてや、とにかく光の中から"笑い"を感じるんや。きっとソングがおる。間違いないで」

「……分かった。んじゃ早く行こうか。ソングを助けに」

「そうね、不意をつかれてあんな光を出すなんて人間業じゃないものね」

「そっか、ソングは人間じゃなくてジョバンナだったのか!すげーぜ!」

「はよ行ってやれ!!!」



+ + +


突然、クリスタルが空色の光を放ちだした。
凄い光で思わず目を瞑る。
ソングには一体何が起こったのか分からなかった。


―――― ……ありがとう。ソング。


メロディの声が聞こえる。
しかし、光に包まれたソングは光の強さに目を瞑ったまま。
声は続ける。


―――― …ありがとう。


声は何度もソングに礼を言う。
そして




―――― バカ者め…っ




メロディの声ではない、別の声が混ざってきた。
その声はメロディの声を潰して、事を言う。



―――― こんなことして、人間簡単に甦ると思っているのか



クックックと笑い声を洩らす。
その言葉にソングは唖然としていた。


―――― 人間、死んだら終りなのだぞ


まるで、ソングを叱っているかのように、声は低い。
青い光の中、何とか目を開けてみる。


開けてみると、あった。



―――― クックックッ…愚かな者だ。人間という者は



そこには、邪悪な色をした別な光が灯っていたのだ。
光はまた告げる。


―――― お前は今、罪を犯した。人間を甦らせようとした、大きな罪だ。


光の中、ソングは別な光を見る。
何が起こったのか、サッパリ分からず、ただただ見つめる。

邪悪な色の光は、続ける。
しかし、それをソングが阻害した。


「………メロディは…」


乾きすぎたソングの目は真っ赤だ。
潤わせないといけない目には泪は一滴も溜まっていない。


「メロディは…生き返らないのか?」


ソングは続ける。


「メロディは……死んだままなのか?」

「メロディは、永遠と土の中なのか?」

「メロディは、帰ってこないのか?」




「メロディに俺は何も言えないままなのか?」




無数の質問に、光は答えを下した。


―――― 大きな罪だ。


一気に気持ちが冴える。


―――― 罪は罪だ。それなりの罰をお前には与える。

「……」

―――― 人間の哀れさを、今、ここで味わうがいい。



そう言い切ると、邪悪な色の光は膨大し、空色の光と混ざった。
空色は邪悪な黒色に無念なことに染まっていく。
それをソングは呆然と見ていた。

やがて、全てが邪悪な色に染まりあがると、光は霧となり、次は霧と溶け込んでいった。
場はまた元の白色に、いや、霧は、晴れていた。
場は元々から白かったのだ。


白い中、ソングは一人。
微かに残る霧が、自分を白くさせる。
ソングの頭を白くさせる。

何が起こったのか分からず、ただ、ぼうっと…。


「ソング〜?!」


そこで、先ほど語りかけてきた声ではない別の声が聞こえてきた。
連なって声は無数に飛び交ってくる。


「あ!ソングだ!無事だったかい〜?」

「何や?光が青から黒になったなー思っとったらイキナリこの場が晴れだすなんてな〜ビックリしたで」

「おいおい、ソング大丈夫だったか?それにしてもイキナリ迷子だなんてお子ちゃまだな〜、な〜はっはっは」

「不意を突きまくったのね?大変だったわね」



個性溢れる声、そして姿をソングは黙ってみていた。
ラフメーカーの皆だ。
そう分かっていたのだが、ソングにはそれは眼中になかった。

気の抜けたような感じのソングにここまで駆けてきたクモマが訊ねた。


「どうしたの?ソング」


周りに幻がないかを確認して次はトーフが問う。


「ま、無事でなによりやったわ」

「ホントホント〜!心配したんだよ〜!」


チョコも頬を膨らませてソングを叱る。
しかし、ソングは反応しない。
それを見てトーフが首をかしげた。


「ホンマ大丈夫か?ソング。あんた、ここで何してたんや?」


ついでなので質問もしてみる。
だけれど反応はない。

ソングは黙って、遠くを見ていた。


「おいお〜い!まさか目を開けたまま死んでるんじゃねーだろうな〜?」


冗談を言うサコツをソングは無視する。
だたずっとずっと遠くを見て

メンバーも気になって、同じ方向を見てみる。




すた 、 カツ  、 すた 、 カツ 、 すた ……




そこからは、足音が聞こえてきていた。
まるで両足種類の違う靴を履いているかのような音を出して。
一つの人影は、こちらへ、ゆっくりとゆっくりと…

足音を立てながら、ゆっくりと、やってきていた。




「……………メロディ……」


やがてソングは口を開いた。
その人影を見て、先ほどは溜まっていなかった泪が真っ赤な目を潤わせ
唇を深く噛んで、そう、呟いたのだった。





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