「願いを叶えてくれるお星様だと?」


あまりにも可笑しい発言をする奴らに向けて思わず鼻で笑ってしまう。
奴らは、言わなければよかった。と苦い表情を作っているように見えるが、それは気のせいだったようだ。


「それがほしくてわざわざやってきたってことか」

「その通りだ」


見下したような俺の発言に、奴らは開き直ったようだ。そう胸を張ってきた。
奴らは続ける。


「そのクリスタルの中のお星様に俺らの願い事を叶えてもらうんだ!」


何とも幼稚な考えをするものだ。
だいたい願い事を叶えてくれるものって世の中にあるはずないだろう。
ったく、くだらない。


「ねえ…」


そのとき、高い声が混じりこんできた。
俺の後ろから聞こえてきた声、メロディだ。
メロディは強張った表情のまま、申し訳なく訊ねていた。


「何をお願いする気なの…?」


俺を壁にして、チラチラと奴らの反応を伺っている。
怖いのなら訊かなければいいものの…。
奴らはクククと面白げに笑った後、メロディの質問に答えた。


「特別に教えてやろう」


まだ、クククという笑い声が漏れている。
冷汗流しながら、次の言葉を待つ。

そして、その言葉はやってきた。
静寂の中、奴らは声のトーンを落として、不気味に言ってみせた。


「世界がほしい」


一気に血の気が引いた。


「世界を俺らのものにするのだ」


他の奴らもクククと笑う。
その笑い声は、やまびこの如く永遠と続いて。

俺らは顔を青くして奴らを黙って見ていた。
メロディは俺の服の裾をギュっと握って怖さを堪えている。
俺も怖かったが、ここは男だ。
守らなければならないだろう。


「馬鹿げたことを考えたものだな」


年上相手に俺は見下してものを言ってみせる。
それに奴らも頭に血が上ったのだろうか
顔を赤くして、こっちを猛獣の如く睨んできた。

その顔はとても怖かったのだが、俺は唇を軽く噛んで、嫌味を放った。


「世界を手に入れてどうする気なんだよ。考えることが幼稚すぎるな」

「ソング!」


メロディは止めようとする。
しかしここで引き下がっては、男ではない。
俺は守らなければならないのだ。

メロディと約束した。

俺は、守るのだ。



「凡人のクセして俺らに逆らう気か?」


顔を赤くして鼻息洗い奴が俺に挑発してくる。
…凡人とは、失礼なことを言ってくれる。

今度は奴らの番。
次々と言葉を言い放ってきた。


「世界を手に入れるのことの何が悪い?」

「自分の世界を作りたいだけさ」

「こんな平凡な暮らし、もう真っ平」

「世界を楽しいモノにしたいのだ」

「だからお願いするのさ。そのクリスタルに!」


最後の一人が言い終わると、
奴らは一斉に



「「クリスタルをよこしやがれ!!!」」


俺らに襲い掛かってきた。
標的は、メロディ。
メロディが奴らのほしがっているクリスタルを持っている。


「キャー?!!」

「伏せろメロディ!!」


背の高い連中から逃れるには、まず始めに身を小さくすることがいい。
俺はメロディにそう命令した。
メロディは命令どおり頭を抑えてその場に伏せた。

そして、俺のほうはというと


「ぐは!」

「ぐへ!」

「ぶえは!」

「ノーブラ!」

「ゴボウ!」

「アメリカンショートヘアー!!」


奴らを懲らしめていた。
奴らはそれぞれ悲鳴を上げると、吹っ飛びあがっていた。
メロディは目までも伏せて怖さを堪えている。


「弱いな」


腰につけていたポシェットからハサミを取り出すと、それを適当な大きさへと変える。
その間に奴らは唸り声を上げながらまたこちらへと襲い掛かってくる。
それを難なく避ける。


「喧嘩は得意な方でな」


俺は躊躇なく、襲い掛かってくる奴らをハサミで斬りおとしていく。
その場は血の雨が少々降り、汚い世界へなっていく。

昔から俺は喧嘩はやけに強かった。
別に道場に行ってたわけでも訓練していたわけでもない。
むしろ毎日のようにキュウリを食べて、メロディに肉を食え、筋肉つけろと怒られていた。
何故こんな戦いが余裕で出来るのかは、自分でもわからない。


「質問がいくつかあるのだが、いいか?」


奴ら全員を一塊にさせ、俺はハサミで脅しながら、腰を竦んでいる奴らを見下ろす。
奴らは苦しそうに血を流しながら、急いで頷いてみせる。
応答があったので俺は質問をした。


「俺らは知らぬ間にこのクリスタルを手に入れてたんだ。何故なのかお前ら知っているか?」


知っているはずがない。という答えが返ってくると承知した上での質問だ。
自分らが知らないものを奴らが知っているはずがない。
しかし、奴らは応えたのだ。


「あぁ。数日前のことだったんだが…」


思いも寄らなかった応答に俺は思わず間抜けな表情をしてしまった。
何故俺らがクリスタルを持ってしまったのか、
全て奴らが教えてくれた。


「仲間が一人、俺らを裏切ったのだ」

「仲間が?」

「そうだ。元々はそれは俺らのものだったんだ。やっと手に入れたクリスタル。いよいよ願い事を言おうとしたそのときに、一人逃げ出してしまったんだ。クリスタルを持って」

「…」

「俺らは後を追いかけた。しかし奴はデカい体をしている割には逃げ足は速かった。見失ってしまったのだ。それからずっとずっと探していた」

「…それで何だ?」

「あぁ。ついに先日見つけたさ、そいつを。そしてクリスタルをどうしたのか、吐いてもらったのさ。すると何だ」

「…」

「"罪をなすりつけた"と言いやがったんだ」

「…何だと?」


聞き覚えのある言葉だった。
そう、この言葉は、あのとき出会ったブサイクな大男が苦し紛れに発した…


驚く俺を見て、ニヤリと口元を歪めると奴らは更に続けた。


「ったく、趣味の悪い奴だったな。何故こんなガキにクリスタルを渡したのか意味わからないな」


全くだ。何故俺らが巻き込まれないといけなかったんだ。
…キュウリで喉を押しつぶしたのが悪かったのか…。
しかし、あれはあの大男がメロディに手出そうとしたのがいけなかったんだ。
俺は守っただけだ。


「…話は分かった」


奴らの話が終わったのを確認してから、俺は口を開いた。


「これは元々はお前らのもの。だからこれを正直に渡せばいいってことだな」


その言葉に奴らは期待を膨らませて頷く。
それに俺も頷いて応えた。


「メロディ」


突然呼ばれて、メロディは伏せていた目と身を起こした。
一体何のようだ、と訊ねる。
俺はそんなメロディにこう言った。


「クリスタルを渡してくれ」


メロディは目を丸くした。
俺が奴らのご希望通りにクリスタルを渡す、その行動に驚いているようだった。

一瞬躊躇して、メロディはポケットからクリスタルを取り出すと
心配そうな眼差しを送って、俺に渡してくれた。

空色のクリスタルを見て、唾を呑む奴ら。
相当ほしいのだろう。

そして、俺はクリスタルを奴らの目の前に持っていってやった。


「これがほしいのだろ?」


奴らは大袈裟に首を上下に振る。
喉から手が出てきそうな勢いだ。
すごい目でクリスタルを凝視している。

そんな奴らに、俺は思わず笑ってしまった。
不敵に。





「バーカ。やらねえよ」




俺の発言に、
奴らの表情は一気に冴えた。

俺は続けてやった。


「お前らにこれ渡したら世界がどんな風になるかわからねえ。これは俺らが預かってる」

「…小癪な…っ!」

「ま、本当に願いが叶うのか知らねえけどな」


目を見開いているメロディに一瞬目を流す。
目が合って、メロディは小首を傾げる。


「もし、それが本当だったら、面白そうだ」


そして、クリスタルは、メロディの方へ放り込まれた。
慌てて飛んできたクリスタルを支えるメロディ。

奴らはグウ…と唸り声を上げている。
酷く悔しそうに俺を睨んでいた。
対し俺は不敵に笑ってみせた。

襲いたければ襲えばいい。
しかし、そんなことしたら、お前らは串刺しにされるぞ。
俺のハサミによってな。


その場は睨めっこ会場になった。
ずっとずっと睨んで。睨んで。

メロディは大切にクリスタルを抱いて、奴らに奪われないように、守る。
俺は、そんな彼女を、守る。



そう。
だから、

守るためには……






+ + +


「もう!あんたバカじゃない!バカじゃない!ってか、バカでしょ!!」

「そんなバカバカ言うな!」

「だってあんなことしなくてもいいじゃないの!本当バカだよソングは!」

「うるせえなあ。あぁするのが一番手っ取り早いだろ」



帰り道。
俺とメロディはやはり言い争いをしていた。
メロディは、真っ赤に汚れている俺にまた叫ぶ。


「殺せばいいと思ってるの?どんな性格よあんた!」

「失礼だな!ちゃんと急所は外しておいたぞ」

「そんな問題じゃない!まず相手に刃物を振り回す時点であんた警察送りよ!」

「あいつらが先に襲い掛かってきたんだろ!」

「でも向こうは何も武器を持っていなかったじゃないの!」

「俺は武器を持たないと何もできねぇよ!」

「……そうだね。ソングって筋肉ないから拳で勝負できないんだね」

「………」


クリスタルを狙っていた危険な奴らは
俺のハサミによって、気絶させておいた。
殺してはいない。…たぶん。


「…まぁ、いいか。世界が無事なら…」


メロディがボソッと呟いた。
俺も頷く。


「そうだな。あんな奴らにこんな凄いもの、持たせるなんてもったいないよな」

「うんうん」

「で、このクリスタル…どうしようか」


そしてメロディが持っているクリスタルに目を向ける。
紅い陽に当てられたクリスタルであったが、その色に負けずやはり空色の光を放っていた。
あまりにも綺麗な光に目を奪われる。

俺の質問に、メロディは答えた。


「ソングが持っててよ」


メロディの発言に、俺は目を丸くしてクリスタルからメロディの顔へと目線を移した。
メロディも俺を見ていた。


「ソングが守ったんだよ。私は何もしていないし。だからさ、ここは記念にソングが持っててよ」


まさか自分が持つハメになるとは思ってもいなかったのだ。
俺は思わず首を振った。


「いらねえよ。こんなもん。第一俺が持っていてももったいない…」

「いいや、大丈夫だって!」


メロディの目は微笑み色になる。


「これ一応イヤリングみたいだし、耳につけなよ!ね?」

「……いや、遠慮しとく」

「え?何で〜?」

「耳に刺すんだろ。それ…」


臆病声になる俺をメロディは楽しげに笑ってみせる。


「そうだよ。いいじゃない〜。ソングって地味だからそのイヤリングで少しはマシになるんじゃない?」

「失礼だな?!」

「ね?つけなよ。絶対に似合うから!ソングって青色がすごく似合ってるから!ね?」

「…う……」


どんどん迫ってくるメロディに俺は、何も言うことが出来なくなってしまった。
こんなに近くでメロディを見るなんて…。

メロディは遠慮なく俺に近づく。
手には空色のクリスタルを持って。


「…お前、自分に刺すのが怖いんだろ?だから俺に…」

「え?何のこと〜?」

「……こいつ…」



メロディの手に持たれているイヤリングは
徐々に俺の耳に……




「――――――――――――っ!!!!」



夕刻時。
俺の声にならない悲鳴が、その場を震わせた。







――――――――― ‥ … … ……






空色をしているクリスタル。
その中には、願い事を叶えるお星様がいると云われている。

それは本当のことなのかは知らない。
しかし、もし、本当だとしたら……



俺は……



……きっと願いを……









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