その光に目を奪われている俺を見て、メロディは首をかしげた。


「え?そんなにキュウリ食べたいの?」


メロディの位置からでは買い物カゴの中に密かにある光が見えないらしい。
大量のキュウリしか目に入らないようだ。


「…いや、キュウリの中から光が見えたから」

「キュウリの中から光?キュウリの精でも現れたんじゃない?」


笑って冗談を言うメロディ。
キュウリの精って、可愛いこと考えるものだ。


「………気のせいか…」


瞬時、目線を逸らし、また買い物カゴの中を見てみると、光はなくなっていた。
先ほどの光は、目の錯覚だったのだろうか。
それとも本当にキュウリの精だったのか…。
って、そんなはずねぇか。





買物を済ました俺らはさっさと家へ帰宅した。
二人とも腹を空かせているのだ。
とにかく早くこの空っぽの腹を満たしたい。


「じゃ俺は部屋に戻っとくからな」


そして俺は早々とその場から去ろうとする。
しかしメロディが止めた。


「待ってよ!この大量のキュウリぐらい洗っていってよ!」

「はあ?マジでかよ…」

「いいじゃないそのぐらい〜。ほらさっさとエプロンまいて手伝って」


メロディに背中を押され、俺は仕方なく手伝いをするハメになった。
エプロンを着るようにと花柄のエプロンを渡されたが流石に着れない。
メロディはピンクのエプロンをきちんと着こなし、料理を作る気満々だ。
女の子らしい姿が、…いや、なんでもない。

呆然と立ち尽くす俺に、手を洗え、と注意する。
面倒くさそうに、手を軽く水につけ、濯いで汚れを落として。


「よし、洗ったねー。んじゃこっち来て」


手が濡れている俺の姿を見て、メロディは微笑みかける。
両手にキュウリを持って俺を誘き寄せる。


「これ、全部洗うのか」


流し台にはありえないほど大量のキュウリが置いてあった。
それを見て、俺はちょっとニヤケてしまった。


「嬉しそうね」

「あぁ。キュウリだからな」

「キュウリだもんね」

「仕方ない。キュウリのために手伝うか」

「何よ!!私のために手伝ってくれないのー?!」


ムッと表情を顰めるメロディ。
思わず笑ってしまった。


「んも〜。笑っている暇あるならさっさとキュウリ洗ってよ!」


そんな俺にメロディは叱った。
注意を受け、笑いを堪えながら俺はキュウリ洗いに取り掛かった。


キュウリを水につけて軽く洗い表についている汚れを落とす。
キュッキュっと表面を擦って音を鳴らし、順調に作業を進めていく。
慣れれば結構楽しい作業だ。

いろいろと言い争いながら、それぞれの作業をする。


と、そのときであった。
キュウリの中から、何かが見えたのは


「……?」


それは、あのときに見た、空色をした光であった。

…まさか、キュウリの精…
って、アホくさ…。

何だろうかと不審に思い、それに手を伸ばしてみる。
邪魔なキュウリを退かし、手は光の方へ。


カチ…


光は俺の爪にあたり硬い音を出した。
そのまま掴んでみる。



光の正体は、

空みたいな青い色をした、クリスタルだった。



「…何だこれ?」


眉を寄せ、呟く。
それにメロディが反応した。


「何々?」


作業をやめ、興味津々でこちらへ近づいてくる。
そんなメロディのために俺はクリスタルを見せてあげた。
そして感嘆の声を上げた。


「うわぁ。キレイだね。何それ…」

「知らん。キュウリの中に入っていた」

「……まさか、こっそり盗んできたの?」

「してねーよ!失礼な!」


冗談だと分かっているのだが俺は思わず力を入れて突っ込んでしまった。
しかし、そんなのいつものことなのでメロディは気にしていないようだ。


二人して、マジマジと青いクリスタルを眺める。
クリスタルの先には、釣針みたいに曲がった針がついていた。
イヤリングみたいだ。


「へえーイヤリングか。いいじゃん、カッコいいじゃん」

「待て待て。何調子乗ってんだよ。これ何なのかわからねえんだぞ」

「ソングつけてみてよー」

「嫌だよ?!耳に刺すんだろ?痛そうじゃねえか」

「たぶん痛いと思うよ」

「分かっててやるのかお前は!確信犯か!!」


ツッコミ時の俺は、どうも言葉づかいが酷い。
口悪くなってしまう。
しかし、メロディは気にしていないようだし…、俺も気にすることではないだろう。


「ま、それはいいとしてさ」


そこでメロディは話を戻した。


「これ、どうしようか…?」

「そうだなぁ…」


唸る俺。
メロディも一緒に唸り声を上げる。


「困ったね。もらっちゃっていいのかなぁ」

「いらねえよ。こんなもん」

「え?何で?」

「え?ほしいのか?」

「…うん。綺麗じゃない。このイヤリング」


イヤリングを俺から奪い、メロディは目の前でクリスタルを眺める。
メロディの瞳は反射して青色に輝いている。
目を輝かせるメロディを見て、俺は思わず溜息をついてしまった。
イヤリングを気に入ってしまったようだ。

 それだったら、仕方ない……

俺は、そんなメロディに向けて、


「んじゃお前が持ってろよ」


口元を歪めて、そう言った。
それにメロディも驚いた様子だった。


「いいの?」


丸っこいメロディの目が更に丸くなる。
そんな目で俺を見るな。


「…ま、どうなっても知らねぇぞ」

「大丈夫だって〜」


そして


「ありがとね。ソング」


可愛く微笑んで、俺にそう礼を述べた。

目の前で、笑顔を見せられ、俺は目を伏せて黙って頷くだけだった。









それから、暫く時が経って
事件が起こった。


自分の部屋で長閑に過ごしていた俺に突然メロディがやってきたのだ。
驚きつつ、表情を抑えて俺は訊ねた。


「どうした?」


それに、メロディは涙目になりながらも、応えた。


「た、助けて…」

「だからどうしたんだ?」

「追われているの」

「…は?」

「話はあとでする!今はとにかく一緒に逃げて!」


状況が分からない俺にメロディは構わず腕を引く。


「ちょっと待てって!」

「いいから一緒に逃げようよ!」

「いきなり言われてもわからねえだろ?一体どうしたんだ?」


俺の問いをメロディは無視した。
俺を部屋から引きずり出し、無理矢理家を離れる形になってしまった。


俺の腕を引いて懸命に走るメロディに俺は再度訊ねた。


「どうしたんだ?」


メロディは、混乱していた。


「もうワケ分からないの!突然変な人たちに囲まれて私をどこか連れて行こうとしたの…も〜!一体どうなってるの?!」

「はあ?何だよそれ!またお前狙われたのか?趣味のわからねえ奴らだな」

「んも〜!こっちはマジで困ってるんだからね!お願いだから守ってよ!」


メロディの頼みに俺は、モチロン頷いた。


「分かった。何でお前が狙われているのかそこはよく分からねぇが、とにかく逃げた方がいいようだな」

「うん。どこか安全なところへ逃げ込もう!」

「そうだな。……って、そんなところあるか?」

「さあ?」

「まあ、とにかくここから離れるか」

「うん」


そして、今度は俺がメロディの腕を引いて、先頭を切った。
男と女の体力の差をここで実感した。
メロディはバテバテになりながら、俺の腕に引かれている。
もうバテたのか…。


「大丈夫かよ?」

「平気平気…」

「あんま無理するんじゃね―よ」

「無理しなきゃいけないよ〜。追われているんだし…」

「…そうだな……」


と、二人で気を緩めた刹那の出来事。


「やっと見つけたぞ」


目の前に、変な奴らが現れたのだ。
複数名の奴ら。
こいつらがメロディを追ってきたのか。

避けようとステップを踏むが、相手に囲まれそれは無駄な行動に終わった。
足を止め、俺は奴らを睨んだ。


「…何の用だ、お前ら」


メロディの腕をギュっと握って、


「メロディに何する気なんだ?」


俺に寄り添うメロディ。
俺の背中に引っ付き、身を隠そうとしている。

そんな俺らを見て、奴らの一人が嘲笑した。


「何を怖がっているんだお前たち」


クククと周りがやまびこのように返す。
不気味に広がる笑い声。
その中央には俺らが立たされて。

冷汗流して、再度俺は訊ねた。


「何の用なんだ?」

「お前ら自体には用はないんだ」


返ってきた言葉に、表情を顰めてしまった。
そしたら何に用があるって言うんだ?

やがて、その答えがわかった。


「その娘が持っているクリスタル。それに用がある」


「「……っ?!!!」」


何と奴らは空色のクリスタルに用があるみたいだ。

表情を強張らせたメロディはビクっと大きく反応して、ポケットに手を伸ばしていた。
ポケットの中にクリスタルを仕舞いこんでいるらしい。


「さあ、こちらにそれを渡してもらおうか」

「聞きたいことがある」


奴らの言葉を俺はサラっと流し、疑問を口にする。


「何故クリスタルのことを知っているんだ?」


それに奴らは、簡単に答えてくれた。



「匂いで分かる」



…イヌかよ。こいつら…。


「もう一つ問う」


とても人間離れをしている奴らに俺は更に問い掛けた。



「このクリスタルを何故手に入れたいんだ?」


俺の問いに、奴らは突然焦燥しはじめた。
何故そんなに焦燥しているのか、わからない。


「…ソング。やめようよ…」


後ろから弱弱しいメロディの声が聞こえてくる。
俺はそれに、無言で否定し、返した。


暫時、どよめいた奴らは、言う決心をつけたのだろうか、やがて口を開いてくれた。


「そのクリスタルの中には、いるんだ…」


何がだ?
まさか、キュウリの精か?


奴らは恐る恐る言葉を繰り出した。



「……願いをかなえてくれる、お星様が」



あ、違った。
そりゃそうか。キュウリの精なんているはずねえしな。

…って、お星様かよ?!!


ツッコミ所が盛り沢山であったが、俺はそれを全て心の中でやり済ませた。
そして、口元を歪めて奴らを睨むだけだった







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