メンバーは、互いに声をかけながら近づきあい、
霧中でも表情が見えるぐらいに、寄り添った。


「何だよ何だよ!俺だけが知らなかったのか?!」


サコツが悔しそうに口を尖らしているのが見える。
そんな彼のためにトーフはサコツ以外の全員に訊いた。


「ほな、何で皆はソングの彼女のこと知っとるんや?」


それにまず始めに応えたのは、
いつも返事の早いチョコ。


「私は、この前の村…ほら私がソングと入れ替わったじゃない。そのときにたまたま見ちゃったんだ〜」

「私も一緒に見たわ」

「お、二人一緒に何を見たんや?」

「それがさ〜、ソングが可愛らしい彼女と一緒に写っている写真をさ〜…」

「あ、それ僕も見たよ」


続いてクモマが身を乗り出す。
対し目を丸くするのはトーフ。
そんな写真があったとは知らなかったのだ。


「僕の場合は、昨夜の出来事だったんだけどね」


そしてクモマは、昨夜のソングのことを話した。
彼女の名前はメロディといい、ソングの許婚であり、だけど彼女は魔物に殺されてしまったこと。
自分の知っている限りのことを全て吐き出した。

全てを聞き、メンバーはそれぞれ表情を表に出すと
まずはサコツが顎に手を置きながら、ハハンと笑った。


「へ〜何だよあいつ〜。水臭ぇなぁ〜。そんな強がらなくてもいいのによ〜」


彼女の姿自体は見ていないがサコツは彼女持ちのソングに対し意地悪く言う。
しかし、その本人は今行方不明なのだが。


「…ええ…メロディさんって…殺されちゃったんだ………可哀想……」


メロディの死に対しチョコは眉を寄せる。涙目だ。
今まで強気でいたソングに対し、同情しているのだろう。

人というものは儚いもの。

自分の気持ちを伝えることもできずに彼女を失ってしまったソングの心は、もろくなっていて。
そう考えると、ソングが可哀想で仕方ない。


「全く、凡も凡よね。彼女を助けてあげれなかったなんて。そのメロディさんが可哀想じゃないの」


メロディに同情したのは、やはり仁王立ちをしているブチョウ。
…メロディっていう発音が異常にいいのは気のせいか。


「何や、結構いろいろと知っとるやんけ。クモマ」

「うん。昨夜ソングが言ってたから…」

「たぬ〜に愚痴を言うほど凡は追い詰められていたのね」

「意外に可哀想な人だったんだ〜ソングって…」

「…で、どうするんだ?これから先」


サコツの問いに、トーフではなくクモマが先に応答した。


「ソングを助けに行くに決まってるじゃないか」

「そやな」


トーフが頷く。
続いてチョコも溜まっていた涙を拭う。


「メロディさんの幻を見ていたとしたら、そのままそっとしておいてあげたいのは山々なんだけどね…」

「それでソングが消えてしまっても困るぜ」

「そうよ。6人全員がいないと"ハナ"を消せないもの」

「全くやな。ラフメーカーは一人でも欠けてしもうたらその時点でアウトやねん。全員が無事でなきゃあかんのや」

「え?ちょっとちょっと!そっちの意味でソングを助けるんだ?」


クモマが突っ込む。
しかし、それはサラっと流されてしまった。


「ほな、ソング探しに行くで」

「イエッサー☆」


明るく応答するチョコ。
しかし、それに被ってサコツが問い掛けた。


「待てよ。どうやってソングを探すんだ?」

「そうだよね。こんな霧だらけの場所で、銀髪のソングなんて見つかりっこないよ」


霧と紛れ込んでしまうソングの髪色では非常に見つけにくいと、クモマが補足する。
それにトーフは簡単に応えを下した。


「ワイには"笑い"を見極めることができるんやで?ラフメーカーの独特な笑いぐらい簡単に探知することができるわ」


全員が納得した。


「ちょいと時間かかるかも知れへんけど確実にソングの居場所を突き止めてやるで」

「頑張ってネ、トーフちゃん!ファイト〜!!」

「ソングの無事を願っていよう…」


チョコはトーフを応援し、クモマは祈るように手を組んで、
全員は先頭を切って歩くトーフの後を慎重についていった。








+ + +




―――― ねえ、ソング〜

「…んだよ?」

―――― やっと、逢うことが出来たね

「……」


喜びを噛み締めて、ソングは背中に引っ付いている彼女と話していた。
側から見たら、ソングはニヤケ顔かもしれない。
だけれどそれは仕方ない。ずっとずっと逢いたかったその人と、今逢って、そして話をしているのだから。


―――― えへへへ…。嬉しいな。久々だもんね〜。こうやって話しているの

「……」


ヤバイ。
こんな姿、奴らに見せれるもんじゃない。


―――― 前も、こうやって私のほうから抱いてきたよね


ソングは無言で返す。
後ろのメロディは更に続ける。


―――― それなのにソングったら、恥ずかしがって逃げちゃうんだもん


笑い声を漏らしながらメロディは
ソングの背中を強く抱く。


―――― 今度は逃がさないもんね〜


意地悪っぽく言うメロディが
懐かしくて、恋しくて



―――― ねえ、もう一度問うよ


黙っているソングにメロディは再度問い掛けた。


―――― ずっとずっと、ここにいてよ。私と一緒にいてよ?ね?


「………………」


だけれど、ソングはやはり無言。
恥ずかしくて何も言えない。


答えは決まっている。


 一緒にいたい。


しかし、自分はアマノジャク。
どうも気持ちと裏腹の言葉を出してしまうのだ。



「断る」


予想もしていなかった言葉だったのか、ソングを捕らえる形で腹まで回していた腕の力は、緩まれてしまってた。


「お前は死んでるんだ。死んだ奴には興味ない」


何を言っているんだ?俺は。
本当はすっげー嬉しいくせに
アマノジャクにも程がある。


「離れろよ」


冷たくあしらうソングにメロディは泣くと思いきや


―――― あははは。ソングらしいや〜


メロディは楽しく笑い声をあげていた。
対し俯くソング。
自分の性格に落ち込んでしまった。

こんな俺、なんだかバカみたいだ。

俯いているソングの後ろから再び声が聞こえてくる。


―――― ね〜ソング、お願いがあるんだけどさ

「…何だよ?」

―――― あ、振り向かないでね。ソング


払おうとするソングにメロディは注意した。
表情を顰めるソング。


「は?何でだよ?」

―――― だってね。今の私は幽霊と同然。姿なんか見えないよ。きっと


メロディの告白に目を丸くした。


こんなに近くにいるのに、
メロディの姿は見えないのか?


―――― だけどね


ここで、メロディは嬉しい知らせを持ち出した。


―――― 私の姿が見える方法はあるんだよ。


そして、キュっとまたソングの背中を強く抱く。
ソングは言葉を期待する。


―――― しかもね。それは簡単に出来ちゃうんだよ

「……」


―――― 知りたい?

「……」


彼女に問われたが
ソングは、やはり言葉が不器用だった。


「…勝手にしろよ」

―――― 全く、無愛想だね〜ソングは、喜んでくれたっていいのに

「……」


彼女は知らないだろう。
ソングがこんなにも嬉しそうに微笑んでいることに。


―――― それじゃあ、教えてあげるね


期待する中
メロディは、ゆっくりと、ソングに、こう、告げたのだった。







―――― 私を生き返らせてくれれば いいんだよ





…………?


何を言っているのか、分からなかった。


「どういう意味だ?」


ワケが分からずソングは眉を寄せる。
メロディは続けた。


―――― え?簡単じゃない。私を生き返らせることぐらい

「…無理に決まってるじゃねーか」

―――― 何よ。ソングったら。忘れちゃったの?

「何をだよ?」

―――― ほら、その耳のイヤリング。


「………っ!!」



そこまで言われて、ソングは思い出した。

顔を動かさず目だけで耳を見る。

ソングの耳につけられているのは、空色のクリスタル。
大きいイヤリングは、ソングの耳に重そうに吊るされている。



ソングは思い出す。

空の塊のように美しい
クリスタルの存在のことを。


まだ初々しかった思春期に起こったあの出来事を。







そう、それは昔
綺麗な青空の下で、メロディと買物に行ったときの、お話だ…









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はい、見ての通り、この『幻の見える村』はソング中心のお話です。
このように他のメンバーも中心の話がありますので楽しみにしててくださいね☆

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