+ + +
深い霧の中、メンバーは足音と声を頼りにとにかく歩いていた。
「それにしても深い霧だよね〜」
クモマが誰かに声をかける。
それに応えたのは、チョコであった。
「何でこんなに霧だらけなんだろ〜?」
「全くだ。前が見えなくて困るぜ」
「誰かこの霧を吹き飛ばしなさいよ」
チョコに連なってサコツとブチョウも自分の意見を述べる。
全員のワガママにトーフも思わず溜息ついた。
「困ったなぁ。意味のわからんとこに来てしもうたらしいなぁ」
「さっさとこの村から出ようよ」
クモマの意見に全員が即賛成する。
その場はワーワー騒ぎ出す。
「そうだそうだ!こんなとこいたら真っ白けになりそうだぜ!引き返そうぜ〜!」
「賛成〜!村の中が見えないのならここに来ている意味がないと思いま〜っす!」
「まず私は歩くのがダルイわ」
「いや、ワイも引き返したいとさっきから思ってるんや」
しかし、といいトーフは前言を否定しなおした。
「ただでさえ前が見えへんのに、引き返すことできるんか?」
「「…………っ!!!」」
ごもっともだ。
全員も言われて気づいたようだ。
「あ、無理だね!引き返せないや!」
「しまった〜!これじゃあ帰れないじゃないの〜!」
「エリザベス〜!俺は早くエリザベスの元へ帰りたいぜ〜!エ〜リ〜ザ〜ベ〜ッス〜!!」
「どうするのよ。タマ」
「…どないしよか」
「ま、ここまで来ちゃったんだしさ。歩き続けてみる?」
真っ白い中、自分らの周囲には目立つ髪色の人影。
クモマはそれらに向けて訊ねてみる。
応答は速かった。
「しゃあないな。そうするしか方法はあらへんしな」
「ここで止まっていても意味ないしね…」
「それじゃ先に進むわよ」
そして、先頭は切ろうとするブチョウに、トーフは声で動きを止めた。
「待てや。一応人数確認するで!」
「え?別にしなくても大丈夫じゃねえか?」
「うんうん、誰もいなくなってるってワケでもないしさ〜」
「ま、勝手にしなさいよ」
「…皆、冷たいんやな〜。ほな、勝手ながら人数確認するわ!」
トーフはどうしても人数確認をしたいらしい。
微妙に頑固者だぞ!
メンバーの有無も聞かずにトーフはさっさと人数確認の点呼をし始めた。
「…番号〜!!」
「1」
「に〜」
「357」
「ギャラドス」
ここまではスムーズに点呼が行われたが、最後の一人の声が聞こえてこなかった。
「「…………」」
「あれ?」
異変に気づいた。
いつもならソングが最後にツッコミを入れてくるのだが、今回はそれがない。
むしろ先ほどからソングのツッコミはなかったような気が…。
「……ソングは?」
誰もが聞きたい質問をクモマが言う。
応答はない。
「ちょっと、冗談は止めなさいよ。凡」
ブチョウが厳しく注意する。
しかし、無言が返ってくる。
顔色を悪くしてチョコが叫んだ。
「ソング〜?」
大声で消えたソングを呼ぶ。
返事はもちろん、ない。
同じくサコツもクモマも呼びかける。
「お〜い!ソング〜!!」
「どこ行ったの〜?」
「ほら、あんたの好きなキュウリよ」
ブチョウの場合は引き寄せようと罠を仕掛けてみる。
全員が声を張るのだが、ソングの声、ツッコミは返ってこなかった。
やがて、恐る恐るチョコが気分悪そうに口を開いた。
「……まさか、迷子…?」
「マジでかよ?」
サコツが訊ねる。
クモマが首を傾げる。
「あのソングが迷子?信じられないよ」
「でも実際に凡はここにいないじゃないの」
「え。どうしていないのよ?ソング」
「何てこった!ソングが消えたぜ!」
全員の額には冷汗がダラダラだ。
先ほどのブチョウ行方不明事件の場合は、ブチョウが非凡だから無事であろうと予想できたが、今回は凡人の中の凡人のソングだ。
無事であるか、わからない。
そのとき
「すまん、みんな……ワイ、気づくのが遅かったわ…」
トーフが突然謝ってきた。
目を丸くしてトーフを見る。
トーフも非常に汗を掻いて、顔色も悪くなっていた。
クモマが、どうしたの?と問う。
「今さっき気づいたんやけどな。実は…」
トーフは謝罪したワケを話した。
「ここは普通の村じゃないんや」
それに、全員が表情を顰めた。
+ + +
メロディ……?
いや、そんなはずがない。
あいつは、死んだんだ。
俺の目の前であんなにも血を流して、悲しそうに、一人で死んでいた。
死んでいたんだ。
しかし…
今、自分の後ろにいるの一体何だ?
自分の背中にひっついているのは何だ?
これは、何なんだ?
―――― 驚きすぎだよ。ソング
自分の最も知っている人間の声が聞こえる。
しかし、その人間は概に死んでいる者だ。
ありえない。
だけれど、後ろの人間は同じ声でまた言うんだ。
―――― あはは。どうしたのよ?ソングったら〜。固まっちゃったの?
楽しそうに笑う。
対しソングは黙っている。
いや、固まっている、とでもいう。
この口調、声…
自分の知っている人間のもの。
しかし、あいつは死んでいるはずだ。
こんなところにいるはずがない。
お前は一体、なんなんだ?
そう訊こうと思っても、口が動かない。
口は自然に
口元を歪めて、楽しそうな表現をするのだ。
いるはずのない人間が、今、自分の後ろに引っ付いている。
そう考えるだけで、ソングは幸せだった。
「……ウソだろ…?」
やがて、ソングはその口元のまま、訊ねた。
「……お前は…俺の前から消えてしまったはずだぞ…?」
所々が突っ掛かる。
緊張のあまり、体が言うことを利いてくれない。
後ろから応答があった。
―――― 何いってんのよ〜ソング。私は今、ソングの後ろにいるじゃないの。消えてなんかいないよ。ずっとずっと、後ろにいたんだよ
「……」
―――― いつも私はソングと一緒にいたんだよ。
「…冗談はよせ」
―――― 冗談?何いってんの〜?
「………」
―――― あれ以来ずっと一緒にいたよ。だけど、私は見えない存在になってて、ソングに気付かれなかったみたい
後ろの彼女が笑い声を漏らす。
そのため、彼女がひっついているソングにもその衝動がやってくる。
しかし、ソングはそれ以上に震えていた。
「………メロディ……」
彼女の名を呼ぶ。
―――― 何?
彼女は声を返す。
「…離れろ」
震えたまま。
「納得できねえ。意味がわからん。一体何がどうなっているんだ?」
ソングの問いにメロディは笑って見せた。
―――― あはははは。こんなソング初めて見たよ〜。
メロディは楽しそうに。
―――― ねえ。ずっとずっと、ここにいてよ?
メロディの誘いに、ソングは
「……………………」
黙るだけだった。
+ + +
トーフの突然の告白に、まずクモマが口を開いた。
「普通の村じゃないってどういうことなの?」
頷いて同意する他メンバー。
トーフに熱い視線を送り、理由を問う。
トーフは顔色が悪いまま、応えた。
「こん村はな、"ハナ"にやられてこうなったわけじゃあらへん。元々からこういうとこやったんや。むしろ"ハナ"なんかこんなとこに咲いとらん」
メンバーは呆気に取られる。
「ここは村じゃなくて霧の密集地帯なんや」
「それは見れば分かるけど…」
「この霧は一体何なんだ?」
突然割り込んできた声にトーフは素直に反応した。
「幻惑させる力がある霧や」
「は?」
聞きなれない言葉に思わずマヌケな声で返してしまった。
トーフは真っ白い世界を睨む。
「幻惑…つまり幻や。見えちゃいけないものが見える力があるっちゅうことや」
「見えたらいけないものが見える?」
そのまま聞き返すクモマの声にトーフは頷く。
チョコが訊ねた。
「見えたらいけないものが見えるって…幽霊とかそんなもののこと?」
「ちゃうちゃう」
トーフは否定。
「幽霊よりもたちが悪いわ。幻は好きに形を変えることが出来る。ちゅうことは、簡単にワイらを惑わすことができるんやで」
「…」
「ねえ、惑わされた人はどうなってしまうの?」
この霧の正体を知って、見る目を変えたクモマが質問する。
霧を睨んでトーフ。
金色の目を光らせて、不気味に応えた。
「こっちの世界に戻れなくなるわ」
「「…っ!!」」
「それ、どういう意味なのよ?タマ…」
動揺している声が無数に飛び交う。
その中できちんと聞き取れた声はブチョウの質問の声だった。
トーフはそれに応える。
「つまり幻は人間を異界に引き込み、この世から消滅させるんや」
「っ!!」
「幻は強い意思から作られるんや。意思が強ければ強いほど幻が出る確率は高い…」
驚くメンバーに、トーフは更に続けた。
「もしかしたら、ソングが犠牲になっとるかもしれん」
「「!!!」」
「あかんわ!はよ見つけてやらんとソングは消えてしまうで!」
「待てよ。何でそう言いきれるんだ?」
状況が掴めていないサコツは疑問を口にする。
「ソングには幻を引き寄せるほど強い意思を持っているのかよ?」
「持っとるで」
あっさり応えるトーフに更に疑問符を飛ばすサコツ。
「そしたら一体誰のことを思っているんだ?」
それに、全員が、声を出して頷いた。
「「彼女のことだ」」
サコツ以外の全員の応えが一致したことに、
何故みんな知っているの?と言い、驚きあった。
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密かにサコツ以外の全員がメロディの存在を知っていました。
トーフはモチロンのこと、チョコとブチョウはテンセイの村で写真を見つけ
クモマの場合は星空の下でソングに直接聞いています。
つまり、メロディの存在を知らなかったのはサコツだけだったんですね。
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