今は、夜。
場が暗くなってしまったためラフメーカーたちは車を止めると、
通行の邪魔にならないような場所に車を置き、キャンプをする。
空を見上げると、無数の星が一つ一つ違う輝きを見せて瞬いていて…。


10.星空の下で



今日は疲れたしさ〜もう寝ようよ〜。

チョコにそう言われ、メンバーも賛成した。
いつものパターンで
女性陣のチョコとブチョウは車の中で悠々と寝転がり
男性人は車から追い出されると、適当な場所を見つけてそこを寝床にする。
今回は地面が芝生で気持ちいいので、クモマは大の字になって
サコツはエリザベスを抱いて
トーフは身を丸くして、
ソングは…その場にいなかった。


「………………あぁ、しまったなぁ…」


全員の寝息を聞きながら
大の字になっているクモマは、誰にも聞こえないぐらいの声で呟いていた。


「…眠れないや……」


眠いのに、目を瞑っても眠れない。
クモマは身を起こす。
目を擦り、視界をハッキリさせる。


「……仕方ない…ちょっと散歩でもしていようかな」


返事が無いのを狙って、クモマは独り言を言ってみせる。
やはり応答はない。

寝転がったため余計ボサボサになった頭を掻きながら、暗い夜道を歩いていく。
この辺りは、何もない、平野。
そのため目に映るのは、ほぼない。
あるとすれば仲間の寝ている姿ぐらいだ。

のろのろと芝生の上を歩いていく。
散歩というよりは、寝ぼけて歩いているかのよう。
はっきりとしない視界を眺める。
どうせ眺めても映るのは…


ん?



そこでクモマの目が完全に覚めた。
視界にぼんやりと映ったモノを見るため、目を凝視させる。
暗いけれど目を集中させて
全ては自分の視界に入ったモノを見るため…。
しかし、見えなかった。
何かある。というのは分かるのだが、それが何なのかはわからない。
そのためクモマはそれに恐る恐る近づいてみた。

静寂の中、クモマは動く。
芝生の上を歩いているため、足音は全て草が吸収してしまう。
クモマは無音で歩いていく。


ようやく、モノの姿がはっきりと見える範囲まで近づいてきた。



「…………」


そのモノが何なのか分かったクモマは目を丸くして、ただただ目の前にいる人影を見ていた。


ソングだ。


暗闇でもぼんやりと浮かぶ銀色で分かった。
銀色の髪を持つソング。
彼は遠いところで一人、黙って座り込んでいた。


どうしてこんなところにいるのだろう?


そう思って声をかけようと更に近づいてみる。


「……………っ!」


ソングの背後まで近づいて、ソングのしていることがようやく分かった。

ソングは、


「…はぁ………」



深く溜息をつきながら


「…わからね……」


独り言を吐いて


「………どうして…メロディ……」


写真を眺めていたのだ。
声は震えすぎて消えそうで。



「……………ソング…?」



思わず、声をかけてしまった。
突然の声に、さすがにソングも跳びはね、恐る恐るこちらを振り向く。
そして相手がクモマだと気づくと一気に表情を顰めた。


「………お前かよ」


やはりソングは無愛想な返事をする。
クモマが謝る。


「ご、ゴメンね。何しているのかなって思って…」

「……」

「…邪魔だったかな……?」

「あぁ。邪魔だ」

「…ゴメンね…」

「そんなに謝るな。気が散るだろ」

「ゴメン…」

「…」

「ねえ」


そしてクモマは訊いた。


「眠れないの?」


ソングが応える。


「こんな時間じゃ寝れねえよ」

「え?結構遅い時間だと思うけど…」

「普段なら電話の時間だ」

「………電話?」


思いもよらない単語にクモマは首を傾げる。
対しソングは、しまった。と苦い表情を作っていた。


「ねえ。電話って何のこと?」

「…教えん」

「いつもこんな夜中に電話してるんだ?」

「…だから教えねって」

「誰と?」

「教えねえって」

「教えてくれたっていいじゃないか」

「ダメだ」

「殴るよ?」

「応える」


脅されて、ソングはしぶしぶ口を開いた。
躊躇いながら。


「……いつも夜に…」


持っている写真を見て


「電話してたんだ…」


クモマの熱い視線を浴び
殴られるのが怖かったため
写真をクモマに見せた。


「こいつと」

「……!!」


写真を渡され、無い心臓が飛び出そうになった。
ソングが先ほどから眺めていた写真は、
ソングが彼女とラブラブに映っている、そんな写真。
その彼女はとても可愛らしい娘で。


「…誰?」

「メロディ」


訊きなれない名前に首を傾げる。
どこまで説明すればいいだと一度クモマを睨んで、しかしそれでも応えた。


「俺の許婚だ」


瞬、間があった。


「いいなずけええ?」


そして、クモマが興奮した。


「ど、どういうこと?許婚って?やっぱりその人彼女なの?」

「ち、ちげーよ!」


次はソングが叫ぶ。


「ただの許婚だ!彼女でも何でもねえよ!」

「そしたら何で毎日こんな時間に電話しているの?」

「…………」


クモマの問いにソングは応えてくれなかった。
そのまま、黙り込んでしまった。


「そして、どうしてそんな恋しく写真を眺めているの?」


ソングは俯く。
クモマは容赦ない。


「…離れ離れになって、寂しいんだろう?」


「…………………」



触れてはいけないところに、クモマは足を入れてしまった。
ソングは体育座りに座り直して、そのまま突っ伏した。


「…ゴメン…」


そんなソングを見て、クモマは平謝りをする。


「彼女と離れて寂しいなんて、当たり前のこと訊いたりして…」

「……死んだんだ…」


「え?」


耳を疑った。
しかし、それは幻聴でもなく、現にソングが呟いているもので。


「あいつは…殺されたんだ」


哀しい言葉。


「…俺は……」


ソングの声は、恐ろしく震えている。


「……助けてやれなかったんだ……」


何もいえない。
クモマは事実に驚き、黙ってソングの消えそうな声を聞くだけ。


「助けを求めていたのに、メロディ…。俺は気づいてもやれなかった……」

「…」

「あんなに深く腹を抉られて…そこからありえねえぐらいの流血…」

「ソング…」


これ以上言ってしまうと壊れてしまいそうなソングを止めようとクモマが名を呼ぶ。
しかし、治まらない。


「…辛かっただろうな……俺にもあんなに冷たくあしらわれて、挙句の果てには魔物の餌食か…」


魔物と聞いて、息を呑む。
ソングの彼女は、魔物に殺されたのか…。


「…電話でもいいから、謝りたかった…」


この様子から、ソングは電話でメロディに謝罪をしていたのだろう。
そうすると毎日のように喧嘩でもしていたのか

ソングの泣き言にクモマは黙ってついていく。


「…もう少し…優しくしてやればよかった……」

「…」

「今更後悔したって、意味ねえんだけどな…」

「もういいよ。ソング」


泣きそうな勢いのソングを無理矢理クモマは止めさせる。
ソングの息は荒い。
溜め込んでいた気持ちを今ココで一気に吐いたから。

ソングを目の前に、クモマは言った。


「そんなに自分を追い詰めないでよ」

「…」

「悪いのは魔物の方だろう?キミは悪くないよ」

「何言ってんだ」


大きい目でクモマを睨む。
言葉を吐き捨てた。


「てめえに俺の何が分かるっていうんだ!お前に関係ないことだろ!」

「僕は、慰めようと…」

「余計なお世話だ!第一俺は落ち込んでいねえよ!」


よくも平気でウソを言えるものだ。


「メロディの気持ちを聞いてやらなかった俺が全て悪い!あの時俺がメロディを追い出さなければ…っ」


メロディは死なずに済んだ。
そう続くのだが、ソングは言わなかった。
言えなかった。
言うことが出来なかった。


泪を堪えるので、必死で。


「……ソング…」

「見るな。向こう行け。お前は寝とけ」

「ソングは…?」

「俺は、………メロディでも見とく」

「……」

「早く…向こう行け…」

「…ゴメン。分かった」


俯いているため表情は見えなかったが、声でわかった。
もう堪えるのが限界なのだろう。


クモマは言うとおりにその場から去ることにした。
目はもう完全に覚めていたのだが、寝床へ戻る。


あんなに弱弱しいソングを見たのは、初めてだった。
いや、ゴーストの村でも弱かったし、ギャンブルの村でも弱かったのだが。
精神的に追い詰められているソング、
見ているこちらも辛かった。


一体、彼に何があったのか、分からない。
あの様子から、ソングは彼女のメロディともめて、無理矢理でも自分の元から離したのだろう。
そしたら、彼女は無残な姿に……。



辛かっただろう。
普段の強気な態度は、きっと辛さを隠すため。
本当ならば、辛くて辛くて、泣きたいのだろう。



ソングの触れてはいけない領地に踏み込んでしまい、後悔する。
聞かなければ良かったと、後悔する。

後悔だらけの心をすっきりさせるため、クモマは空を仰ぐ。
真っ黒い空に浮かぶは雲ではなく、星。

本日は、星空。


星空の下で、起きている二人が、同じ事をする。

目線は星。
星の輝きを見て、両者は心を落ち着かせていた。







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