トーフがこのエミの村に訪れて、5日目になった。
今日も非常に天気がよく、清々しい一日になりそうだ。
公園のベンチから身を起こすと、両手を天に伸ばす。
大きく伸びをし、体をほぐす。

今日は、ついに運命の約束の日。
さて、ラフメーカー5人は、村の門前に来てくれるだろうか。
ちょっと、不安だ。
最初に出会ったクモマやチョコは結構興味津々に話を聞いてくれたのだが
サコツやブチョウは少し嫌そうに見えた。
ソングなんか、彼女の死に立ち直っていない可能性が大だ。

できるだけ、皆には来てほしい。
いや、絶対に来てほしい。
だけど…望みは少ない…。


まだ、朝だ。
真昼間になったら、村の門前に来てみよう。
その間まで、少し一眠り。


そして、トーフはまた身をその場に寝かし
すぐに寝息を立て始めた。






 * * * 


トントンと金具が金具とぶつかる音が響く。
両目尻に赤い丸模様があるクモマはトンカチを片手に謎の物体を作り上げていた。


「…よし、あと少しで完成だ…」

「……何を作っているところなんだ?クモマ…」


棟梁がクモマの手前にあるその謎の物体(箱?)を眺めて訊ねる。
クモマはニコリと微笑み、応えた。


「車だよ。車」

「車かよ!」


驚きの拍子で大声上げる棟梁にクモマが頷く。


「この車、どうしても完成させたくて」

「いや、やめた方がいい。むしろやめてください」

「え?何で?ここまで作ったんだし、どうせなら完成させたいじゃない」

「この物体に完成って文字はあるのか?あぁん?」

「失礼なこというね、おじさん…。僕が不器用だからってちょっとひどく言いすぎだよ」

「こらこら、よそ見するな!ってか、お前自分の手打ってる!手打ってるってば!」

「大丈夫だって。僕は丈夫だから」

「……お前はよくわからん」


そこで、棟梁は話を切り替えた。


「クモマ、腹の怪我大丈夫なのか?」


心配され、大丈夫だよと応えるクモマ。


「ちゃんと昨日で完治したし」

「お前は大した奴だな…」

「照れるよ。おじさん」

「こらこら、また自分の手打ってる!打ってるってば!」


その場に仲良く談話している声が響く。
背景音楽はクモマが奏でるトンカチの音。
その音と共に何かが豪快に割れる音が聞こえてくるが、気にしないでおこう。




 * * *


――― さあ、起きろ!もう朝だ!

「……ん〜…あともうちょっと…」

――― こら、何ほざいてるんじゃ!ボケ!早く起きろ!今日はあの"例の日"じゃなかったのかよ

「…どんなときでも…休養は大切よ〜…」

――― このエロ女

「あぁん?なんか言った?この唐揚げ!」

――― うわ、起きてきた?!こんな時だけ敏感なんだな…って今密かに唐揚げって言ったな?こんちくしょー!

「うん。今日はあんたが唐揚げになる日だもんね」

――― マジでかよ?!聞いてね〜よ!

「あんたの唐揚げをオーナーに持っていってあげるの」

――― 今日はオーナーの退院の日だもんな〜…って唐揚げって……

「そうそう。だから昨日は全く眠れなくて」

――― …さっきまで寝言言ってたクセして

「棍棒ぶちかますよ?あんた」

――― ごめんなさい。やめてください。唐揚げにするのだけは本当勘弁してください。

「謝れば結構です〜。…では私はオーナーの病院に行ってくるよ。あんたは留守番頼むね」

――― よかった唐揚げにされなくて…。じゃ、お土産ヨロシクな

「うん。…あんたも元気でね」

――― 唐揚げにならないよう努力します。

「あはは。…じゃあね。いってきます」

――― 達者でな〜チョコ






 * * *


「サコツサコツー。あの2番テーブルに座っているお姉さん、ナイスボディだよな」


巨大しゃもじに先ほど作り上げた料理を乗せて料亭の店主が、左目の周りに橙色の模様があるサコツに話しかけた。


「ホントだな!店主ナンパしてこいよ」


乗せられた料理を落とさないように巨大しゃもじを持ち上げる。
サコツの言葉に鼻の下を伸ばす店主。


「そうだなー…ってこんなことしている場合じゃないだろ。お客様は神様。皆平等に愛するのが俺のポリスィーだ」

「さすが店主だな!俺も見習いたいぜ☆」

「おう!ところでサコツ。お前今日はどうする気なのだ?」


急に問われサコツは唸る。


「わかんね。一応考えてはいるところなんだけどなぁ」

「こればかりは俺も何も言えないな。サコツの人生だ。サコツが選ぶべきだ」

「あぁ。だけどなぁ」


もう一度唸るサコツ。
対し店主は菜箸を持って料理作りに集中した。
フライパンに入っている具材を菜箸でかき混ぜて料理を作り上げていく。


「ま、俺が言えることは」


店主は大胆にフライパンを振って具材を舞わし
言った。


「人生、エンジョイしろ☆」

「……そうだな」


店主の助言(?)に頷く。


「ところで、この料理って何番テーブルだっけ?」

「あぁ。2番テーブル……はっ!!いいな!お前!ナイスボディのお姉さんのところじゃないか!くっそー!俺より先に告るなよ!」

「残念ながら俺は別に女に興味はないぜ☆店主」

「サコツ、かっこいーな!」

「店主ほど俺はかっこよくねえよ☆でへでへー」

「酷く嬉しそうだぞ」

「すみません〜!料理まだですか〜?」



 * * *



電柱の上にいる、一羽の鳥。
頬に桃色の丸模様がある白ハトは大きな荷物を抱えて、電柱の上から村全体を見渡していた。


「さぁて、これが最後の荷物」


白ハトの姿になっている白ハト宅急便のブチョウは荷物に1度目線を向け、すぐにまた村に目線を戻す。
晴天に恵まれたこの村を見て、大きくため息をついて、呟いた。


「道に迷ったわ」


その場に南からの微風が吹いた。




 * * *


村の中心付近にある、美容室。
そこは本日閉店であった。


店の裏側にある家の玄関から入って2番目に見える右側の部屋に、
左頬に2本の青色の傷模様があるソングは、いた。

全体的にピンクで統一された、女の子の部屋。
そこにポケっと立って
辺りを見渡す。
ぬいぐるみとか可愛いものがたくさんある。
さすが女の子部屋だ。
さすが…メロディの部屋だ。
意外にも綺麗に部屋は整頓されていて。


無言で、ただじっと部屋を眺める。

昨日までメロディがいた部屋。
だけどメロディは、今はもう土の中。


ソファを見る。
そこには、子機電話が不自然に置かれていた。

そういえば…一昨日電話してたっけ。
毎日の日課だったな。メロディに謝罪の電話をするのは。

昨日も電話をしたかった。
だけど昨日はメロディはその部屋にいなかった。
だからできるはずがない。

あんなに無残な姿になっていたメロディは
メロディの両親に見せた後、すぐに土の中に、埋められた。
メロディの好きだったカーネーションの花と一緒に。


目線は電話から離して机へと移す。
ガラス張りの机の上には、可愛い置物やカーネーションが入った花瓶
そして、写真立てがあった。
手にとって、よくよく見てみる。
写真立ての中にある写真の世界。
その中には、元気いっぱいのメロディの姿と、疲れ果てた表情をしているソングの姿が映っていた。

無言でそれを眺める。

そういえば、自分もこの写真持っていたな。
だけど自分の場合は、こんな風に写真立てに入れなくて、どこかに保管されている。


何だよ。こいつ。
何でこんな写真、大切にしてるんだよ…。


眉間にしわを寄せ、静かに写真立てを元の場所に戻した。

昨日、あんなことがあったのに、
ソングは結局一度も泪を流さなかった。


あまりにも唐突過ぎるメロディの死。
頭の中が理解できていないらしい。

メロディが死んだ。と思うと、頭の中がそれを拒否してしまう。

メロディは死んでいない。
そう、勝手に受け入れてしまう。


だけど、実際にいないではないか。


もう、混乱しぱなしだ。




悲しみいっぱいの心を持ったソングは、
静かにメロディの部屋から出て行き、向居の自分の部屋へと戻っていった。



 * * *




トーフは目を覚ますと、太陽は南に傾いていた。
ちょうど真昼間だ。

身を起こし、体をほぐす。
乱れた服もきちんと調えて、頬を軽く叩いて完全に目を覚ます。


さて、そろそろ村の門前へと向かうか。
…せやけど、そん前に腹が減ったわ…。
メシでも食うかな。


そう考えると、トーフはすぐに実行へと移した。
早々と村の中心へとむかい、食い逃げしていった。
被害を受けた店のマスターは怒鳴り声を上げて食い逃げ犯を追いかける。
しかし、やはりトーフはプロだ。
素晴らしい速さで今回も食い逃げに成功させたのだった。

食い逃げの速さでそのまま村の門前へと向かうトーフ。
そこに、誰かいるだろうか。ラフメーカー。

期待と不安を抱きながら徐々に村の端へとむかう。


誰か、いるか?


緊張しながら走っていると、見えてきた。


村の門だ。


大きな二本の木が村の門を表せており、そこには"エミの村"と村の名前が書かれている。
そこへ向かってトーフは速さをやや緩めながら走っていく。


あの門の前が、約束の場所。
さて、誰か…いるだろうか。


誰か…


誰か………












うわ!誰もいねぇ!!!




わー!何やねん!
最悪な結果やないか!
何やねん!誰もおらんのかぃ!
わーどないしよう!


「…遅かったな」


愕然と腰を落としているトーフの耳に、幻聴が聞こえた。
トーフは気にせず、ショックの言葉を吐き捨てる。


「何やねん。みんなの馬鹿!誰もワイの言う事きいてくれてへんやないか!何がラフメーカーやボケ!」

「…おい」

「これじゃ世界救えへんやないか!あぁ、ホンマ困ったわぁ…」

「……おい」

「そっか…ワイ一人なんか…一人ぼっちは嫌やねん…」

「…帰るぞ?おい」

「何やねん!さっきから!ワイは今ショックで立ち直れないところなんや!邪魔するんじゃないわ!」

「立ち直れないのは俺のほうだ、ボケ」


視界の端でいじけて座り込む姿が見えた。
トーフは頭を上げて、そちらを見てみる。
そこには予想もしていなかった人物が体育座りをしてへこんでいた。


「…っ!ソング?!」

「今頃気付いたのか?お前は…。失礼な奴だな」

「あんた、…来てくれたんか?」


思ってもいなかった人物の登場にトーフは驚きを隠しきれない。
ソングは彼女の死できっと寝込んでいるのではないかと思っていたので。


「あのな。言っておくけどな」


ソングは体育座りを崩して、立ち上がってトーフを見下ろす。


「勘違いするなよ。俺はただ、居所をなくしただけだ。だからここに来たんだ」

「…へ?」


変な声で返すトーフにソングは目線を逸らして、言った。


「許婚がいなくなった以上、俺はあの家にいたらいけない存在になってしまったんだ」

「…メロディさんは…」

「埋めた」

「…そか」

「メロディの両親もショックが大きかったようだ。しばらくのあいだ店を開業しないらしい」

「そうなんか…」

「俺もただの居候だし。あんなところいたら居心地悪ぃ」


目線を空へと移す。
トーフもつられて空を見る。


「…けど、旅に出てくれるんやろ?ホンマおおきに」


優しい声でトーフが微笑む。
ソングは黙って頷く。

空を眺めて、少しの間時間を潰す。
残りのラフメーカーは果たして…?


「ご〜め〜ん〜!遅れちゃった〜〜!」


遠くから女の声が聞こえてきた。
二人は驚いてそちらの方を振り向く。
素晴らしい速さで、桜色の髪の女がこちらへやってきた。

目を輝かせて、トーフは叫んだ。


「チョコや〜!」

「ごめんね〜!ちょっとオーナーとの別れで」

「おお〜そういや、オーナーは…」

「大丈夫、怪我も治ってさっき退院したの〜!よかった〜」

「そか、えかったな〜」


ワイワイ騒ぐトーフとチョコをソングは黙ってみていた。
彼女のやけにハイなテンションについていけないらしい。

そんなソングの存在に気付いて、


「あ、はじめまして、私チョコっていうの。あなたは?」

「…へ?俺は…」


急なチョコの自己紹介にソングが慌てて応えようとする。
しかし、その直後。
空から何か大きな物体が降ってきた。
それはチョコとソングの間に凄い速さで落ちてきた。
短く悲鳴を上げる二名。


「あいたこりゃ。しくじったわ!」


青空には白い鳥が飛んでいた。


「あの銀髪狙って落としたのに!!くやすぃー!」


白ハトはとても悔しそうだ。


「俺を狙ってたのかよ?!」

「何?あの鳥?」

「案外普通に登場してきたんやな。ブチョウ」


白ハトはドロンパと小爆発し、
自分が落とした荷物の上に人間姿で現れた。


「普通で悪かったわね。タマ」

「いや、悪くないんやけど。まさかあんたまで来てくれるなんて…」

「微風が私をここまで運んでくれたのよ」

「ちょっと待て!何だよ!こいつ!」


ブチョウの手品並みの登場シーンにソングは驚きを隠しきれない。
1人で慌てている間にチョコが口を出してきた。


「まさか…あなた鳥人?」

「は?鳥…?」

「そうよ。私は鳥人!カッコいいでしょー」


そしてブチョウは偉そうに胸を張った。


「チョコ、あんた鳥人のこと知っとるんか?」

「珍しい人種だから結構有名だよ。鳥人は」

「俺、知らなかったな」


眉を寄せてソングが呻く。
それを無視する形でチョコが、それにしても…と話を変えた。


「この鳥人の人、めっちゃカッコいいじゃん〜☆すっごい好み〜」


頬を少し赤くしてチョコが、にやけた。
そんなチョコを見てトーフが申し訳無さそうに割り込んできた。


「チョコ、こん人は残念な事に女やで」

「マジで?!」

「そうよ。私は恋を夢見る乙女よ」


偉そうに腕を組むブチョウ。
対し、チョコは非常に残念そうだ。

ま、確かにブチョウは外見はバッチリ男だから、仕方ないことだろう。

そんなブチョウから目を逸らしているソングを見てブチョウが怒鳴り声を上げた。


「こら、何他所見てるのよ。私を見なさい。腐ったタコ!」

「何だよ!こいつ!明らかに可笑しいだろ?!って腐ったタコかよ!」

「それがブチョウの笑いやねん…」

「女なんて関係ないわ!姐御!」

「何かほざきやがった!こいつ!」

「腐ったタコとお呼び」

「いや、自分を汚してどうするんだよ」

「……意外にソング、ツッコミ連発やな」

「ねー。ところでさー」


永遠と続きそうなボケツッコミにチョコが話を変えた。


「これで全員?」


それにトーフは首を振った。


「いや、あと二人やねん」

「へーあとどんなタコが来るのよ」

「タコが基準なのか?」

「あとは…赤髪のあんさんと上の空少年やな」

「上の空って…やな感じ〜」

「赤髪か…この辺じゃ見ない髪色だよな」

「え?私は銀髪はじめてみたけど」

「桜色もいないだろ」

「まずこんな猫見たのがはじめてだわ」

「猫じゃあらへん!虎やト・ラ!!」

「あ!」


急にチョコが大声を上げた。
トーフが目を丸くして訊ねる。


「どないした?」

「赤髪!」

「マジで?逆から読むと"でじま"」

「誰かこの女を止めてくれ」


ソングの泣き言を無視して全員はチョコが指差す方に目を向ける。
そこには確かに赤髪の男の姿が。

しかし、何故か別な方向に向かって走っていた。

異変に気付き、ソングが言った。


「あいつ…別な方行っていないか?」

「…気のせいじゃない?」

「きっと金が落ちてたのよ。金」

「食い物やったらワイも一緒に取りに行くんやけどなぁ」


赤髪の男はやはり違う方向を走っていた。


「……道間違えているんじゃねぇか?」

「…気のせいじゃない?」

「きっと金歯が落ちてたのよ。金歯」

「金歯か…綺麗なんやろな」


赤髪の男は、急に立ち止まり、辺りを見渡していた。


「…絶対に道に迷っているだろ。あれは」

「…気のせいじゃない?」

「きっと金歯じゃなかったのよ。銀歯だったのよ」

「金歯がえかったんやな」


赤髪の男はこちらの存在に気付いたようだ。
手を大きく振ってこちらへと向かって走ってくる。


「やっぱり道間違えてたんだ」

「そうみたいだね」

「きっと私の金歯を狙っているのよ、あの男」

「あんた金歯あるんか。凄いなぁ〜」


「ここか〜。何時間もかけてやっとついたぜ〜」


ガハハと笑いながら赤髪のサコツが全員の前に現れた。
何時間もかけてってことは…やはり道を迷っていたらしい。
そのわりには呼吸が乱れていないのは何故なんだ?


「おお〜サコツ〜。あんたも来てくれたんやな〜」

「おうよ〜!俺は友達のためなら人生間違っても構わねぇ!」

「ちょっといいこと言っているように見えるが、密かに酷いこと言ったよな。こいつ」


感動の再会を邪魔する感じでソングが割り込む。
続いてチョコも入ってきた。


「わー!あなたエルフ?エルフなの?すご〜い!」


チョコはサコツの尖った耳に感動したらしい。
大胆に笑ってサコツが応える。


「妖精さんだ!妖精さん」

「ありえねぇ…」

「私は腐ったタコよ」

「何か血迷った事言ったぞ?!こいつ」


異常の世界にソングはツッコミ連発だ。
さすがツッコミの笑いだなと実感するトーフ。
そして


「あとは、1人やな…」


トーフはそう呟くと空を見上げた。
残りは…クモマだ。


「えっと、確か…上の空少年だったよね?」

「そや。あいつが一番最初に来ると思ってたんやけどなぁ…」


トーフの目線はずっと空。ではなく雲。
雲の流れを追っていく。


「そいつが来ないと旅できないんだっけ?」


サコツの問いにトーフは頷く。


「上の空になってて遅れているのかな?」


冗談でチョコが言う。
しかし、その考えも一理ある。


「最後の奴が上の空かよ。一体どんなメンバーなんだよラフメーカーって…」


このメンバーの様子を見て、肩をすくめるソング。
表情を非常に疲れ果てていた。


「ったく、上の空って馬鹿にしすぎよ、あんたら。上の空上の空って…上の空のどこがいいのよ!頭腐ってるんじゃないの!うなぎか!うなぎ!」

「お前が一番馬鹿にしてるだろが!」


あえて、うなぎにツッコミを入れまい。


「ま、気長に待っててくれや皆…。クモマはきっと来るで。きっと…」


暴言の連発をトーフが抑える。
対しサコツが言う。


「もしこれで来なかったらどうするんだ」

「…来ると思うんやけど…」

「本当に?根拠はあるの?」


チョコの質問に、トーフは苦い表情を作った。
トーフはみんなの意見を聞いているうちに徐々に自信がなくなってきていた。


あいつは、上の空少年…

きっと上の空していて約束の日を忘れているんじゃないか…?




静かになる。
皆無言で残りの一人を待つ。


と、そこへ、


ガラゴラガラゴロ……


謎の大きな音が聞こえてきた。
全員でそこに目を向ける。


「な、何〜?」


チョコが叫ぶ。


「何か土煙が激しいぜ?」


サコツが叫ぶ。そして続けた。


「あ、何か"箱"を引きずっているみたいだ」

「箱?」


声をそろえる皆にサコツが頷く。
次はソングが叫んだ。


「って、お前視力いくつだよ。あんな遠くのもの見えねぇだろ!」

「視力5.0!自慢だぜ!」

「じ、自慢だ…」


会話をしている間に、その土煙をたてている"箱"はこちらへと段々向かってくる。
普通の人間の視力にも見える範囲に近づいてきていた。


「ホントだ。何?あれぇ?」

「あれは…」


トーフが叫んだ。


「クモマや!」

「あいつが?!何か変なもの引きずってるぞ?!」


"箱"を引きずっているクモマはこちらの視線に気付くと笑顔で大きく手を振ってきた。
それに何故か足を振って返すブチョウ。
彼女の事はほっといておきましょう。


「やあ〜!トーフ〜!」


クモマが叫ぶ。
しかし、ガラゴロと"箱"の音がうるさい。


「ごめんね。遅れて」


そして、完全にクモマは全員の目の前に現れた。
土煙は治まり、うるさい音も治まった。
その場にはクモマと謎の"箱"


「クモマ、あんたも来てくれたんやな…」


目の前の"箱"を気にせずトーフは感動する。

まさか、全員が来てくれるなんて…。


「当たり前じゃない。僕は旅に憧れているんだよ!いろんな人とふれあい、自然とふれあい、風潮とふれあい…いいよねぇ〜旅って…」


このまま上の空になりそうな目をしているクモマにサコツが訊ねた。


「それにしちゃ、お前来るの遅かっじゃねーか?」

「全くだ。俺なんか一番最初に来たのに」

「あ、ごめんね。ちょっとコレを作るのに手間かかって」


クモマは自分が引きずってきた"箱"を指差した。
その"箱"はあちこちがボコボコにへこんでいて、釘も変な方向に打たれていて
密かに穴も開いている。

全員、無言でそれを見つめる。

何?これ…


この質問を出したのは、チョコだった。



「何?この変なの」


変なの、まで言っちゃうとは…。
しかしクモマは笑顔で答えた。


「車だよ」




……………

突如の沈黙が降り立った。
冷たい風が吹き荒れ、場は南極に変わりつつある。
しかしここで魔法が解かれた。


「車?!これのどこが車って言うんだ?!!」


その場に全員分の声が重なった。
大きな声で注意され、クモマはワケが分からず驚く。


「え?何?何?何かおかしい?」

「いや、お前これ見て何も思わないのか。酷いにも程があるじゃねぇか!」

「あ、キミって、あの床屋の人だね。知ってるよ」

「いや、それはいいんだよ。それは!」


クモマののんびりな発言に気を落とすソング。
代わりにチョコが訊ねた。


「これが車なの?」

「うん」

「…エンジンとかは?」

「…はっ!エンジン忘れてた!!」


何とエンジンをつけるのを忘れていたらしい。


「それじゃーこれ車じゃないじゃん!」


口を尖らせてチョコが呑気に頭を掻くクモマに叫んだ。
続けてソングも叫んだ。


「まず、車体が可笑しいだろ!」

「でも、ほらタイヤもちゃんと4つついているし…」

「これ、お前の手作りか?丸くないぞ!このタイヤ!」

「あ、本当だね。四角い〜」

「だからプレプレハブハブとうるさかったのね。これで納得したわ」

「まて、効果音が可笑しかったぞ?!」


ソングは休むことなくツッコミを入れる。
ご苦労様だ。

酷い形の車を見て、サコツが感想を言った。


「リヤカーみたいだぜ。この車」

「あ、ならリヤカーってことにしといてよ」

「いや、リヤカーでいいのかよ?!」

「リヤカーやったら何かこの箱を引いてくれるものがないとあかんわな」

「んじゃ、そこの銀髪、引きなさい」

「何俺に命令してるんだよ?!失礼な!!」

「ダメよ姐御!こんな非力そうな男が引けるはずないよ〜!」


チョコは早速ブチョウの事を姐御と呼んでいるみたいだ。
それにしてもソング、ひどい言われよう…。


「非力って…ひどいな…」

「ねえ、トーフ」


ここでクモマがトーフに訊ねた。


「何やねん?」

「この車、使えないかな?僕一生懸命作ったんだけど…」


一生懸命の割には…酷い姿なんだけど…。


「まぁ使えるとは思うで。確かにこれからの旅は長旅になると思うさかい」

「ちょっと待ってよ!このボロ箱で旅をしろっていうの?」

「まず全員この箱に乗れるかっていうのが問題だぜ?」

「何言ってるのよ赤髪!私だけが乗れば十分でしょ」

「お前は鳥になってろよ?!」

「銀髪は黙ってな!向こうでアリさんと遊んでなさい」

「ひどい言われ様だな俺…」

「ま、お喋りはこの辺で切り上げてくれや」


パンパンと手を打って、場を沈める。
静かになったメンバーを確認して、トーフは続けた。


「ホンマ、皆には感謝でいっぱいやねん。ワイの意見をちゃんと聞きうけてくれて…ホンマおおきに」


ぴょこっと軽くお辞儀して。


「これから長旅になるわ。何せ世界の命がかかっとるからな。その世界を救えるのが、ワイら、ラフメーカーなんや」


皆、頷く。
それを見て、トーフは笑顔を作る。


「ホンマよろしく頼むわ。ほなぁここで自己紹介や。ワイはトーフ。よろしゅうに」


そして、もう一度お辞儀をした。
対し、次はチョコが慌ててお辞儀をした。


「私はチョコ。これからどうぞよろしくね〜!」


元気良く言うチョコに続いてサコツ。


「俺はサコツ様!チャームポイントは鎖骨!自慢だぜ!」

「微妙なところがチャームポイントなんだな…。あ、俺はソング。…ま、よろしく」


ツッコミのついでに自己紹介を済ませたソングにブチョウが続けた。


「私はプレプレハブハブ。通称プレハブ」

「まてまて!」

「こん人はブチョウやねん」


真面目に自己紹介をしないブチョウの代わりにトーフが応えた。

場は残りのクモマに向けられる。
視線を浴び、笑顔を作ってクモマ。


「僕はクモマ。あの僕…不器用だからちゃんと車作れなくてゴメンね。これからよろしく」


車のことを謝りながら自己紹介をした。

全員が自己紹介を済ませたのを確認して、トーフが声を抑えて、訊いた。


「…ホンマこれから大変なんやけど、覚悟はいいんやな?」


それに、全員が笑顔で頷く。
笑顔を浴びてトーフも笑顔でお礼を述べる。





場は、異常な"笑い"で満ち溢れる。


その"笑い"はさまざま。

 ボケ、ツッコミ、ハイテンション、おかしい、癒やし、天然

種類は全く異なるものだが、それらは1つになると……

最強の"笑い"になる。



「まず!ワイらがすることを言うわ!」

「おう!」

「何なに〜?」

「早速旅か?」

「ちゃうちゃう。この車を作り直すことやねん!!」

「おお〜!賛成〜!」

「ええ?!」



トーフの意見に一名否定したが
その他全員が賛成した。



さあ

これから、彼ら、ラフメーカーの旅が始まる。

だけどまずは
自分たちが乗る"車"作りだ…。









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