トーフも一緒にメロディ捜しに協力しようと思い、走るソングの後をついていく。
ソングは慌てた様子で店のドアノブに手を伸ばす。
勢い良くドアを開けると、その先には
予想もしていなかった人物が立っていた。

メロディだ。

泣きながら走り去っていったため、すぐには戻ってこないと思われていたその彼女が
今、二人の目の前に現れた。

目を丸くした二人のうち先に口を開いたのは、やはりソングだった。


「…戻ってきたのか?」


口を閉じていたトーフも同意見であった。
まさか、彼女がすぐに戻ってくるとは思っていなかったので。

ソングの問いにメロディは答えた。


「うん。ただいま」


非常に良い笑顔だった。
そのメロディの表情に、二人は驚きを隠しきれない。

泣いていたのではなかったのか?


メロディの笑顔に今度はトーフが応えた。


「おかえり。…あっさり帰ってきたんやな。メロディさん」

「ん?何のこと?」


疑問符で返された。
何のことって…。あんた…。

メロディの突然の問いにトーフは眉を寄せる。


「ほら、あんたさっき泣いてここから逃げていったやないか」


それを聞くとメロディは
目を見開いて、短く声を上げると、深々と頭を下げた。


「そうだったね。あのときはゴメンね」


なぜかメロディが謝ってきた。
本当ならばソングが謝らなくてはならないのに。


突然のメロディの変化に、2人は戸惑った。



どないしたんや?メロディさん…。
あんた、まるで

別人みたいやで。




え?




別人………………?



そう頭の中に思い浮かべた瞬間
トーフは一気に冷や汗を掻いた。

まさか…


「いや、さっきは俺の方が悪かった。ゴメン」


トーフが震えている間
メロディの謝罪を無に変えてソングが謝っていた。
背の低いメロディの肩を掴み、
ソングはじっとメロディの瞳を見つめる。


輝いていない、メロディの瞳。

普段なら純粋に輝いているあの瞳が
今日は真っ黒だった。


ソングは気にせず、自分の意見を述べる。


「俺、お前に言いたいことがあるんだ」


下唇を噛み、恥を堪える。
その様子を見て、
きっとソングはメロディに自分の気持ちを打ち明ける気なのだと分かった。

非常に、うれしい。その気持ち。

だけど、今はあかん…っ。



「あんたメロディさんから離れるんや!!」


トーフが良いムードの二人に叫ぶ。
対し、ソングが舌打ちで返した。


「何だよ、お前」

「今はあかんのや!」

「何がだよ!」

「あんたはここから離れて、向こういくんや」


トーフの叫びにソングは態度を悪くする。


「お前、さっき言ってたことと逆じゃねーか!」

「ホンマ悪い。せやけど、あんたは今ここにおったらあかん」


するとトーフは二人の間に割り込んできた。


「あんたははよここから離れて、本物を捜すんや」


そして、ソングを突き放し、メロディから離した。
二人の間に距離ができた。


「な、何しやがるんだ!」


急な出来事にソングはバランスを崩し、その場に転倒。
その間にトーフは


「はよ向こう行くんや!」


メロディに急接近して
裾に逆側の手を突っ込むと、武器の糸を取り出した。


「よぉ見てみぃ!!あんたなら分かるはずや」


そして、瞬でメロディの体に糸を絡ませると


「こいつは、メロディさんじゃあらへんで!!」


ギュッと縛った。

よって、メロディの体が糸に縛られ、固定された。


「な…っ!」


驚くべき発言にソングは反論しようと立ち上がった。

何をいっていやがるんだ。こいつ
どうみたって、それは
メロディじゃねえか…

……っ!!



メロディ……



「違う…」


首を振ってソング。


「それ、誰だ…」


ソングの言葉にトーフは不敵な笑みを浮かべた。


「えかった。あんた鈍男(にぶお)じゃなかったな」

「鈍男って何だよ?!」


知らないうちにつけられていた自分のあだ名にツッコミを入れ、
ソングはギロっと縛られているそれを睨みながら頷いた。


「あれは俺の知っているメロディではない」


二人が会話を交わしている間に
糸によって変形されたメロディは
見る見るうちにメロディではなくなっていった。


「そや。こいつはな」


二人で目線をそれに向ける。
それは知らぬ間にメロディの姿から程遠いものになっていた。
緑色の体をもったそれは大きなツノと牙が特徴的なモノ。


「魔物や」

「…?!」


思ってもいなかった発言にソング言葉を詰まらせた。

完全にメロディではない、そのモノ…魔物は
糸で縛られて苦しいのか、荒々しく呼吸をしながら
自分を睨みつける二人を同じく睨んだ。


『…まさか……こんなに早くバレて…しまうなんて…』


とても苦しそうだ。
醜い姿の魔物にトーフは目つきを鋭くして言った。


「魔物の"殺気"を見極めるのは得意分野でな」

『お前はまだわかる……そこの銀髪のヘタレっぽい奴…お前は…一体何故分かった…?』


魔物の苦し紛れの問いに、ソングは真剣な表情で頷き、応えた。



「俺の知っているメロディはそんなに可愛くない」


『「………」』


そんなあほな…。


『…さすが…ラフメーカー…なだけあるな…』

「あんたもやはりラフメーカー狙いか」

『うむ』


魔物は真っ赤に充血した目で離れたところに立っているソングを見る。
そして、口裂け女並の大きな口を三日月に作って


『他の仲間は…全てラフメーカーに…倒されたみたいだな。だがな、俺は…そんなヘマはしない』


すると魔物は体を張り筋肉を伸ばすと
自分を縛っていた糸を瞬で破った。

捕らえていたものが無くなった糸は虚しく風に靡かれた。


「何やて?!」


破られるはずないと思っていた自分の攻撃がダメになり
ショックを受けるトーフ。
その間に魔物は

まっすぐにソングのほうへ跳びだしていた。


『死ね!ラフメーカー!!!』


魔物は鋭く尖った爪をソングに向けて叫ぶ。


「……」


ソングはそれをじっと睨んで。



「何してるんや!!ソング!!はよ逃げろー!!!」



冷静に立っているソングにトーフが叫ぶ。


ソングはじっとじっと睨んで。










グサリと何かが刺さった音が響いた。







トーフが叫ぶ。
魔物が叫ぶ。



ソングが、睨む。



「ふざけんじゃねーよ」


大きく見開かれているその目は
真っ直ぐに魔物を睨みつけ、魔物の動きを止めていた。

魔物はハサミに串刺しになっていた。


左胸を貫通された魔物は、喀血し、店の中を汚した。


『何しやがる…っ』

「それはこっちの台詞だ。ったく、何しやがるんだ。てめーは」


ソングの目線は魔物の血で汚れた店にずらして


「店が汚れたじゃねーか」

『……っ』


絶句する魔物からハサミを抜き、ソングはハサミの汚れを裾で拭き取る。
その間に血を噴出す魔物はソングに再度攻撃。
と、思ったがやはりソングのほうが動きが速かった。

クルっと回してハサミを自分の身長程の大きさにすると
そのまま魔物目掛けてハサミで斬り込んだ。
斬られた魔物はまた噴水を起こした。

ソングの強さにトーフは呆気にとられていた。


『くそ!!俺としたことが!!』

「弱いな」


間を与えずソングは魔物を斬り刻む。


「強い…っ」


感嘆の声を上げるトーフ。
その言葉を無視してソングは動きを止めない。
対し魔物も攻撃。
しかし全て交わされる。


『そんなバカな!』


恐怖の声を上げる魔物。
しかし、それも無視してソングは
魔物の喉にハサミを刺した。

あまりにもグロテスクなこの現場に
トーフは身震いを覚えた。


魔物の喉にハサミを刺したままソングが口を開いた。


「おい、魔物」


しかし魔物は反応しない。
そりゃ喉を刺されているからね。
喋りたくても喋れないのだろう。

ただ、じっと自分を睨む魔物に
ソングは言葉を続けた。


「メロディをどこにやった?」

『…何のことだ…』


驚いたことに魔物は喉を刺された状態で声を出した。


「メロディの姿を知らないとメロディに化けることができないだろ」


落ち着いた声でソングは続ける。


「本物のメロディはどこだ」


魔物は応答しない。
しかし、含み笑いはしていた。


「俺の知っているメロディはどこだ!!」


ソングの怒鳴り声に
不気味に笑い声をあげて魔物はやっと応答した。
























『殺した』













「………」


絶句するソング。
代わりにトーフが口を開く。


「…ふざけんじゃないで」

『ふざけてなんかいねぇよ』

「…」

「ホンマかいな?」


遠くで声をかけてくるトーフに魔物は笑い声を上げる。
笑うたび喉に刺さっているハサミが大きく揺れる。

ソングは、信じたくないその言葉に、何もいえなかった。


『魔物が会った人間を生かしておくはずなんかない』


魔物の言葉を、信じたくない


『殺して、あの女に成りすました』


言葉を信じたくない


『そしてお前、ラフメーカーに近づいて、隙を狙って殺そうと思ったんだ』


…信じたく…ない


『そういえば、あの女。何か叫んでいたな』


………


『そうだった。「助けて、ソング、ソング〜!」だ。お前に助けを求めていたぜ。あの女は』



……………………


『しぶとい女だったな。ずっと泣き叫ぶから』

「………」

「…メロディさんを…殺した…って…」


トーフも上手く言葉を出せない。
まさか、自分達が捜そうと思っていたメロディが

殺されたなんて。



「あのとき…俺が…追い払わなければ……」


ソングが呟いた。
自分が犯した罪に再び後悔した。

あのとき、メロディを一人にしなければ
メロディは殺されずに済んだかもしれない。


メロディは………




『ぎゃーはっはっはっは。何もいえないようだな。愚かなものだな人間って』

「…」

「あんたは…罪の無い子を…殺して……」

『俺が生きるため、その女が犠牲になっただけだ!』

「…」

『さあ、その女の死のためだ!ラフメーカー。ここで死ぬがいい!!』



叫ぶ魔物に



「お前が死ね。人殺し」



ソングがぶち切れた。

もともと刺さっていた魔物の喉のハサミを再び握ると
そのまま強く手前に押し、喉を深く刺した。

低く悲鳴をあげる魔物。
ソングは無言で刺し続ける。

そして、ついに限界を超えたのだろう。
魔物は小爆発を起こし、その場から消滅した。
ハサミの先には何もなくなり、
店中に飛び散った魔物の血も全てなくなった。


「ソング!!」


恐怖が無くなったこの部屋でトーフが叫ぶ。


「メロディさんを…」

「言われなくても分かってる」


応答するとソングは持っていたハサミを再び回し手のひらサイズに変えると
腰につけていたポシェットの中に仕舞い、
走って店から出て行った。


メロディを捜しに…。













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