朝になった。
トーフが目を覚ますと
部屋には誰もいなかった。

幸いにも昨夜はトーフはベット、メロディがソファで寝たため、
トーフは緊張して眠れない夜…という風にはならなかった。
これで彼氏(勝手に彼氏と解釈)のソングに怒られなくてすみそうだ。

壁に掛けられている時計に目を向ける。
時間は9時を回っていた。


あちゃ…、寝すぎたわ。


久々に布団で寝たため、心地よく寝てしまったみたいだ。
もうメロディは仕事に行ってしまったみたいだ。

この村の住民は歳関係なく職に就かなくてはいけない掟があるらしい。
そのため、まだ10代のメロディも働かなければならないのだ。

柔らかいベットから降り、目を擦りながら乱れた服を整える。


さて、自分も、"仕事"をするか…。


トーフの"仕事"はズバリ
ラフメーカーを探す事。

自分が探さなくてはならないラフメーカーはあと1人。

その他のラフメーカーには全員声をかけてはいるのだが。



テーブルに目を向ける。
そこには膨らんだハンカチとその上に一切れの紙が見えた。
紙と取って、見る。

そこには、字が書かれていた。メモみたいだ。


"トラちゃんへ。

今日の朝食のパンだよ。
本当だったらホカホカ出来立てで美味しいんだけど…
冷えちゃって美味しさが半減しているかも…
ゴメンね。
私は、もう仕事に行くので、
もし興味があったら遊びにおいでよ。

あ、昨日はゴメンね。ソングが色々言ってうるさかったでしょ?
あいつにはちゃんと説教しとくから!本当にゴメンね。

それじゃ、ゆっくりしていってね。

            メロディ"



可愛い子やなぁ…メロディさん…。


メロディの優しさに感動するトーフ。
紙が置かれていた膨らんだハンカチを取ってみる。
すると、ハンカチの下から美味しそうなパン(クロワッサン)が
もう冷えてホカホカではないのだが、あった。


ホンマえぇ子やな〜。


しみじみそう思いながらトーフは目の前のパンを瞬で平らげた。
冷えていても十分美味しかった。











トーフが呑気に食事を済ませているとき
噂のメロディとソングは


「ちょっと!ソング!」

「何だよメロディ!さっきからうるせぇな!」

「切った髪の毛はちゃんと掃けって言ってるでしょ!」

「はあ?何で俺がそんな雑用しねぇよいけねぇんだよ!」

「何よ?私にやらせる気?」

「誰もそんなこと言ってねぇだろが!何でこの店には雑用がいないんだよ」

「そのぐらいの雑用自分でしなさいよ!」

「あのぉ〜…店員さん…もう少し静かに髪の毛切っていただけないでしょうか?」

「「うるさいのはてめ〜の方だ!!黙らないと耳切り落とすぞ!」」


仕事場で仲良く喧嘩をしていた。
しかし、なんていう店員らだ…。
あれなら客も逃げるだろう。


「耳を切り落とされたら大好きなママンの声が聞けなくなって困る…。言うとおり黙ってるよ」


意外に素直だった。

仲のよい二人の喧嘩が見れる、ということで
この二人が働いている店は実は人気があった。


「よし、そしたらこの切った髪の毛、どっちが掃くかジャンケンで決めようじゃねえか」


ソングはそういうと、髪を切っていたハサミを腰につけているポシェットに突っ込み、拳を見せた。


「…いいわよ。ジャンケンね」


メロディも同じく、ハサミをポシェットに入れ、拳を作る。

緊張の一瞬。



「「ジャンケンポン!!」」



メロディ…グー
ソング …チョキ



勝者、メロディ。


「やったね!」

「マジかよ」

「さ〜掃除掃除。ついでだからタオルも洗濯していてね」

「あ〜分かった…じゃねーよ!なに人の仕事増やそうとしてるんだよ!しかも洗濯物多っ!!山積みじゃねーか!」

「頑張れ〜」

「あの…仲がいいのはよろしいと思うんですが…そろそろ髪の毛を切っていただけないでしょうか」

「あ〜はい。ごめんなさいねー。うちのソングがうるさくて」

「いやいや、お前に言われたくない」

「ソングもさっさと自分の仕事終わらせなよ」

「クソ…」


本当に仲のよろしいこと。





時は経って
トーフが二人の店に顔を出しに来た。

昨日泊まった家と美容室は一緒になっているらしい。
表側が美容室。
裏側がメロディの家になっている。

トーフは裏口の玄関から抜け出すと
早々と家の表へと回った。

二人の店に寄る理由、それは
メロディに朝食のお礼を言おうと思ったからだ。
そしたら何故そんなに時間がかかったのかと言うと
ふんわりと膨らんでいる柔らかいベットを見ていたら
ついついベットに体が…。
そして、気がついたら時間が経っていて…。
つまり、これは二度寝っていうやつだね!これぞ時間泥棒!


裏側にもあったサインポールはやはり表側にもあった。
そちらの方は一回り大きく、
華麗に赤と青と白色の模様を回転させる。

早速店の中に入ろうと思ったが、
その前に別なものが目に入ってきた。


山積みになっている大量のタオルを抱えた、一人の男。
ほとんど顔は見えなかったが、チラチラ見える銀色の頭で誰か分かった。

メロディの噂の彼、ソングだ。

しかし、何でそんなにタオルを抱えているのだろうか。
非常に気になったので、トーフは彼に声を掛けた。


「…おい、彼氏」


すると、驚いたのだろうか。
ビクっと体を飛び跳ね、衝動で抱えていたタオルの数枚が飛び散った。

恐る恐る彼はこちらへ顔を向ける。
相手がトーフだと分かると表情を一気に顰めた。


「…お前かよ」


態度の悪いソングにトーフも同じく顔を顰めた。


「何やねん。せっかく声掛けてやったのに」

「余計なお世話だ。俺は忙しいんだよ」

「…タオルでも売りに行くんか…?」

「アホか!こんなタオル誰が買うか!」


冗談のつもりだったのに、本気で突っ込まれた。
笑い声を上げて、トーフは同じ質問を続けた。


「ほな、何するんや?」


一瞬喉を詰まらせて、だけれど、それでもソングは言葉を吐いた。


「洗濯だよ。タオルの」

「それ全部か?ぎょうさんあるやないか」

「…ちょっと賭けに負けてな」

「メロディさんに?」


意地悪く、彼女の名前を出す。
ソングは彼女の名前を聞くと、眉を寄せ、山積みのタオルを勢いよく地面に叩きつけた。
その場にタオルの海が広がった。


「くそ!あいつムカつく」


暴言を吐くソングにトーフは猫耳を下げた。


「何かあったんか?」

「余所者には関係ない。首突っ込んでくるな」


ソングの態度は非常に悪かった。

喧嘩でもしたのだろうか?
ま、昨夜も喧嘩していたけどな。
しかもすぐその後、仲直りの電話をしていたけど。


「ま、確かに余所者やけど…」

「ってか、ずっと気になっていたことが」


地面に広がったタオルを地道にかき集めながらソングはトーフに訊ねた。


「どうやって昨日寝た?」


やはり聞いてくるだろうと思っていた質問にため息をついて、トーフが大丈夫やで。と答える。


「ワイがベットでメロディさんがソファで寝て」

「待て、お前がベットってどういうことだよ」


ソングが鋭く突っ込んだ。


「何でお前のほうがベットなんだよ!しかもベット?!メロディの?」

「ちょっと興奮してまっせ、あんた」

「そっか……メロディの…ベットか…」

「いや、落ち込まんでくれや…。いや、悪いとは思ったんやけどさ…ってか体育座りはやめてくれや。見ていて悲しくなるわ」


へこんだ拍子に体育座りになっているソングを慰めようとするトーフ。
だけど、ソングはへこみっぱなしだ。
ダメだあれは。あのままじゃ地面にのの字を描きそうな勢いだ。


「ほ、ほら。あんた仕事せえへんとあかんとちゃうか?ほら、タオル売れや」

「誰がタオル売るか……洗濯するんだよ、ボケ…!」


突っ込んだら元気が出たのか、ふっと大きく溜息をつくとソングは体育座りをするのをやめ、その場に立ち上がった。
よかった、地面にのの字を描いてくれなくて…と安堵するトーフであったが


「…クソ!余所者は向こう行け。見ていて腹が立つ」


代わりに機嫌が悪くなったらしい。
タオルをかき集めながらトーフを追い払おうとするが
トーフは去ろうとしない。
機嫌の悪いソングをじっと睨んでいた。


「あんた、ちょっと失礼やで。暴言は慎むんやな」


トーフの注意にソングはすぐに反応。


「お前向こう行け」


そして、呟いた。


「…一人にさせてくれ」

「…」


ヤバイ。
思った以上にショックを受けているようだ。
そりゃ自分の彼女が見知らぬ男と同じ部屋にいたなんて思うと…。
彼氏としては……
……ん?
ちょっと待てよ。
この二人、付き合っていないんだよな…?


「こんなこと聞くのも何やけど」

「…んだよ」

「あんたら付き合ってるんじゃないんやろ」


トーフの質問に、
ソングの行動は、止まった。

共に時も止まる。


シンと静まり、場が気まずくなった。

聞かなければよかったと、今更後悔した。


「……悪いか?」


口篭った声であったが、ようやく応答が返ってきた。
だけど、こちらはその応えになんて返せばいいのか分からなかった。


「……あんなの仲えぇのに?」


何とか言葉を見つけ、喉から出す。


「あんたは、メロディさんのこと、どう思ってるんや?」


トーフの質問に、ソングは反応しない。
ただ、舌打ちを鳴らしただけであった。


「せっかく一緒に住んでるんやからそろそろお互いの気持ちを打ち明けた方がえぇんとちゃうか?」

「お前にそんなこと言われる筋合いはねぇんだよ」


次は反応した。
しかし、非常に声は低く、
これは怒っているのだろうな、というのが聞いているだけで分かった。


「お前は向こう行け。俺は仕事中だ」


そうあしらうとソングはかき集めたタオルを水の入ったタライの中に一枚ずつ入れ、
汚れた部分を擦り、丁寧に洗っていった。

お互い無言になる。

トーフも場が悪いと思ったのか
言われたとおり、そこから退散することにした。

メロディがいるだろうと思われる、店の中へ。

しかし、そこでソングに止められた。


「もう閉店したぞ」


予想もしていなかった展開に驚いた。


「え?もうか?」

「今日は予約していた客のために店開いたんだ。本当ならば今日は休日」

「あ、そうなんや?」


そして、メロディのことを聞こうと思ったが
さきほど彼女のことでもめたばかりだ。
彼女の名前は口に出さないことにした。





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