謎の旅猫がこの"エミの村"に訪れ、2日目になった。
今日も先日と同じく、村の中心は騒がしい。


「待て―!食い逃げ猫―!!」

「せやから、料理の値段が高すぎやねんって!」

「10H(ほっさが)しか持っていないのが悪いんだろが―!!」

「…確かに…」

「納得した!?」

「でも、ワイは捕まりたくないから、逃げるで☆」

「…この野郎〜☆待ちやがれ〜☆」


今日もまた猫姿の彼と店のマスターは追いかけっこ。
断然、前者の方が速いのだが…。





前者の名をトーフという。


トーフは先日、この村に訪れてきた旅猫で…

…え?何?
猫じゃないって?
嘘つくな!!どう見ても猫だろ!
え?トラだって?
笑わせんなって。
…あ、ごめんなさい。すみません。私がとっても悪かったです。
お願いだから糸で締め付けないで。痛いから。マジで、冗談抜きで。
え?今度は何?
食べ物を用意しろって?
脅迫じゃン?!!
ごめんなさい。ごめんなさい。
言うとおりにしますからマジで糸締め付けないで。
はい、ここに魚置いておきます。
え?!生は嫌いだって?!……わがままな…(ボソ
本当にすみません!!
口を滑らせました!この口め!!
焼きます。焼き魚にします。程よく焼いてみます。
…あ、ごめん。焼きすぎた。焦げた。
皮の部分が炭になっちゃった☆
あー許してください!すみません!
料理下手ですみません!カレーしか作れません!
…ったく…しょうがない…。
食後のデザートにしようと思っていたこのキナコ餅を…。
あ、喜んでいただけましたか?よかった…
では糸を解いてください。
あ、すんなりと聞いてくれましたね。
解いてくれて有難う御座いました。

………くそ。可愛い顔して乱暴な。絶対友達とかいねぇだろ
このクソ猫!!

すみません。変な捨て台詞吐いてすみません。
怒らないでください。
ちゃんとナレーションしますので許してください。


そんなこんなで、とても優しくて可愛いトラのトーフちゃんです☆
トーフちゃんは糸を武器とし、今まで魔物と戦ってきたらしいです。
とっても頼もしいですね☆
そしてトーフちゃんは見ての通り大食いです。食べ物大好きなんですよ。
めっちゃキューティーですね☆


…え?なんですか?まだ用があるんですか?
あ、普通にナレーションしてくれって?
…だって、何かまた変なことしたら怒るでしょ?糸で締め付けるでしょ?
え?怒らないからとにかく話をすすめてくれって?
本当に普通にナレーションしていいんですか?
…わー有難う御座います!
アタイ、精一杯ナレーションを務めさせてもらいます!
では、次からは普通に話をすすめますね。



旅猫…すみません。早速間違えました。猫じゃなくて虎でした。すみません。




旅虎のトーフは、今回も膨らんだ腹を抱えて凄い速さで村の中心を駆け巡る。
障害物を何とか避け、徐々にスピードをつける。
今日の飲食店のマスターは体力がないらしく、すぐに姿は見えなくなった。
しかし、スピードを緩めず、トーフはさらに離れていく。
念のためだ。

そのまま南へと進んでいった。
こう見ると南方面は中心と違い、緑がとても多いところであった。


一言で言えば、のどか


のどかな南地区は、酪農が盛んらしい。
様々な動物たちが放し飼いされていた。
牛、豚、鶏、馬、羊…と多くの動物たちがのんびりと暮らしている。
それらを見ているうちにトーフの足は緩やかになっていき、そして歩きに変わった。

歩きながら自然と触れ合う。
南風によって自然が優しく揺れる。

歩きながら動物と触れ合う。
鳴き声をあげているが何と言っているのかさすがに分からない。


トーフがいる場所は
村で一番大きいという牧場。
木の"くい"がいくつもの並んで柵を作り
その中に動物たちが草原の草を食べている。

この牧場をさらに進んでいくと風車小屋や動物たちの小屋が建ち並んでいる。

トーフも自然にその風車小屋へと足を運んでいた。

風がまた吹く。
それによって風車小屋の風車も華麗に回る…と思われたが
小屋に近づいてよくよく見ると、異常に気付いた。


何と、風車小屋の風車の4つのハネのうち2つがなくなっていたのだ。

古くなって自然に取れたようでもなく
何か強い力によってへし折られたようだった。


なぜ、こうなっているのか、わからない。
だけど、嫌な予感はした。

あんな高いところにある風車を、人間がどうやって折ることが出来る?
出来るはずがない。
出来るとしたら…
…そう。魔物。
そうに違いなかった。


まさか……魔物が村に出回ってしまったのだろうか?




前々から気付いていたんやけど。


トーフは回想する。


魔物は、何故かワイの後を追ってきとった。
それで一度、とっ捕まえて、聞いたんや。


 どうして、ワイの後をついて来るんや?


すると、こう返ってきたんや。


 ハンカチ落としましたよ。


あの、トーフさん。すみません。それじゃ話進みませんよ?
あ、今はナレーションの出番じゃない?あ、すみません。
でしゃばっちゃいました。すみません。


ま、そんな感じで魔物はワイの問いに応えてくれへんかった。
せやけど、だいたい予想はできた。

魔物は、ラフメ―カーを捜しているワイの後をつけて、チャンスを窺ってたんや。
ラフメーカーを殺すチャンスを…。

だからや。
先日、クモマの前に現れたのも。
それでラフメーカーのクモマを殺そうとした。
ま、クモマは腹刺されても死ななかったんやけれども。


せやけど、これはヤバイ。
…この様子だと、魔物はラフメーカーをここで始末する気や。

魔物の数はわからへん。
もしかしたら多数かもしれへんし、少数かもしれへんし。
もしかすると一匹かもしれへん。
そこのところは分からん。



もう一度、ハネが折れた風車を眺める。
あんなの、人間業ではない…。

魔物が暴れた跡…。


…まさか…っ



息を呑む。


魔物のほうが先にラフメーカーを見つけてしもうて
既に襲ったんやろうか…


冷汗が出る。
もし、そうだとすると、これはヤバイ。
ラフメーカー一人が欠けてしまったら世界が救えない。


捜さなくてはっ!!


足を進める。
風車小屋から離れ、向かいの小さな小屋へと歩み寄る。
如何にも人が住んでいそうなその小屋へ。

窓から覗く。
変人が外から女の入浴姿を見るためにするような、あんな感じで。

中を見る。
すると一気に、顔は青くなり
トーフは言葉を失った。


窓の奥にあるその光景は、
人が住めるような状態ではなかった。

何か爆発があったかのように小屋の半分がなくなっていて、
テーブルや椅子、物置も真っ二つ。
タンスの中身も散乱。

非常に、荒らされていた。


人は、いないようだ。



何てこった!
まさか…もう…?


急いで辺りを見渡す。
誰かいないか、気配はないか。
急ぎ足で人を捜すが、見当たらない。

動物の小屋の中まで覗いてみる。
豚小屋、鶏小屋、馬小屋…次々と見てみるが、それらの動物がいるだけで
人はいない。

歯を食いしばって、表情を噛み殺す。

もし、人がいなかったら…これは非常にヤバイ…。


食いしばった状態で次へと進む。
次は牛小屋だ。
覗いてみると牛が数頭並んでいて、人の気配は…


と、そこで聞いた。

牛の鳴き声と共に微かに聞こえる、人の泣き声を。


人がいるっ。


それが分かるとトーフは小屋の中に入り、慎重に奥へ進んでいった。
奥に進むにつれて泣き声は近くなる。


「何で…何でなの……?」


しゃっくり雑じりの女の声が、耳に入ってきた。





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